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第23話《獣人の国篇》蔓延る闇

ルミエールside

私は夜空を見上げながら語り始める。

「私、これまで色んな発明をして来たんです。武器だったり、便利アイテムだったり。でもそれって私だけの力じゃないんですよ」

何だってそうだ。

一人で全てを出来ることもあれば、他人の力を借りないといけない時だってある。

別に一人でやることが悪いことではない。

だが、他人と協力することで自分では気付かない欠点なんかに気付く。

だからより良いものが作れる。

『魔石』も最初は失敗だらけだった。

魔力を込めれば爆発したり、魔力の放出が不完全だったり。

全然ダメだった。

そんな時はカーニャに、魔法を使うイメージを教えてもらった。

魔力の放出は魔法を放つイメージを似ている。

何度も何度も修正してようやく完成した。

他にも私には薬学に関する知識はない。

だからメディに《超強化薬》や《即効完全薬》なんかも開発してもらった。

それに私は細かいことを調べる手段に乏しい。

調べる手段といえば王宮の図書館か、冒険者仲間くらいだ。

だから色んな人脈を持っているリスカルに頼んでいる。

それに家事なんかも出来ないことが多い。

料理は黒焦げにするし、洗濯だって泡だらけにする。

だからカーニャにやってもらっている。

「人間って他人と助け合っていく生き物なんですよ」

「私は獣人だがな」

「そんなこと関係ないですよ。対話が出来て、人を思いやる心を持っている。それだけで十分だと思います。見た目なんて関係ない」

「ルミエール殿……」

「だから、冒険者ギルドに依頼を出してみては?騎士団はすぐに動けなくても、冒険者なら動けるかもしれませんからね」

「それもそうだな!すぐに依頼を発注するように手筈を整えよう」

「多分、相当危険なものになるのでミスリルランクの募集にした方がいいかと」

「ああ!」

どうやらうまく事が運びそうだ。

これで明日、リファの冒険者登録ついでに依頼を受けて……!

よし、パーフェクトだ!

「ルミ様、お話は終わりましたか?」

リファが声を掛けてくる。

「うん。終わったよ」

「では私と代わってください。ちょっと貴族の相手に疲れまして」

「いつもパーティーには来ないもんね」

私は苦笑しながら中へと戻り、貴族の相手を始める。


─────────────────────


リファリアside

ルミ様とリーゼルテ王の話が終わるのを確認し、私は貴族の相手をルミ様と交代した。

私はグラス片手にベランダにあった椅子に座って空を見上げた。

「リファリア殿?」

「リーゼルテ王、あなたはルミ様のことをどう思っていますか?」

私は聞きたかった。

彼女は自分を少し過小評価している節がある。

でも彼女自身、それを自覚していない。

無意識のうちに、自分は他人に比べて劣っていると思っている。

彼女をそうさせる原因は一つ。

『魔法』だ。

普通の人にとって魔法は『上手い下手』の話だ。

だが彼女は違う。

彼女にとって魔法は『使えるか使えないか』、この二択になる。

国内でも彼女を否定する貴族は存在する。

彼女が表舞台に滅多に出ないのは魔法を使えない『異端者』が表舞台に出て、王宮に飛び火するのを避けたいのだろう。

ルミ様は誰よりも家族を愛し、大切にする方だ。

だから聞きたかった。

他の国の王から見て、ルミ様をどう思っているのか。

「言ってもいいのか?」

「ええ。これは私が個人的に聞きたい事です。彼女に言われたからではありませんし、言うつもりもありません」

「本音を言ってしまえば、少し怖い。誰しもが当たり前のように扱える『魔法』を彼女は使えない。どんな種族であっても、自分たちと異なる性質を持つものを恐れるのは当然だ。生き抜くためには自衛が必要だからな」

「そうですか……」

「でも、それはさっきまでの話だ」

「と言いますと?」

「知能を持つ生物にはもう一つ特徴がある。それは異質であったとしても、相手を知れば、自然と距離が近くなるということだ。だが、大抵の者はこれはこの程度だと決めつけ、相手を深く知ろうとしない。だからよくない貴族なんかが溢れ買ってしまうのだ。でも、今日この場にいる人間はしっかりルミエール殿を知る努力をしている。だからこそ、ああして仲良く話し、喋る事ができる」

私が中を見ると貴族達と楽しそうに会話するルミ様がいた。

「だから総括していうのなら、『純粋ないい子』だな」

「ふふっ、そうですか……」

その答えが聞けて満足だった。

この人はいい王だ。

民をよく見ている。

おそらく、リーゼルテ王のいう『知る努力』をしない貴族とそうでない貴族を見極めてこのパーティーに呼んだんだ。

そうすれば、ルミ様も嫌な気持ちにならない。

むしろいい気持ちだろう。

まあ、あの人にとっては困惑しかないよね。

「満足です」

そう言って私は席を立つ。

「そうか。もし満足しなければどうするつもりだったのかな?」

「そんなの一つに決まってるじゃないですか」

そう言って私はリーゼルテ王に向かって満面の笑みって言い放った。

「この世から消していたところですよ」

私のその言葉に、リーゼルテ王は震え上がっていた。


─────────────────────


ルミエールside

パーティーが終わり、夜が更け、日が昇り始めた頃、私はすでに起きていた。

それは勿論、計画のために変装の準備をしていたから。

「これでよし!」

するとドアがノックされる。

「はい」

誰だろうこんな朝早くに。

そう思い振り返ると、それはリファだった。

「リファ?どうかしたの?」

「その作戦、私も参加します」

「え?」

「ですから私も参加すると言っているのです」

「なんで?」

「やはり、ルミ様一人では心配なので」

「どういう意味かな?」

「ルミ様なら雰囲気に流されて、本当に変な奴に買い取られる可能性があるので」

「そんなことしないよ!」

「どうでしょうね?結構雰囲気に流されているイメージがありますけど」

「うっ……」

あながち間違ってはいない……

「ですので私に色々と教えてください」

「全く……わかったよ」

私は観念して予備の変声機を渡し、変装の技術を教えた。

その頃には日は昇りきっていた。

「さて!じゃあ冒険者ギルドに行きますか!」

「はい」

「今日の目的は二つ!」

「二つ、ですか?」

「一つ目は依頼を受ける事。二つ目はリファの冒険者登録!」

「私のですか?」

「そう!これからラルジュ王国に戻るために旅をするんだよ?冒険者カードがあれば通行税はない!」

「なるほど……」

「それに依頼をこなしてお金を稼げる!」

「おぉ〜!」

「だから冒険者登録をします!」

「わかりました。準備して来ますね」

そう言って部屋を出て2分後。

「準備完了しました」

「いや、はやっ!」

「待たせるのも惜しいので」

「お、おう……」

熱意ある声色に若干気圧されながらも私たちは冒険者ギルドに出発した。


─────────────────────


私達が冒険者ギルドのドアを開けると視線が集まる。

それもそのはず、この国は最も東にある国で、ラルジュ王国は最も西にある。

それに基本的な住民は獣人のため、人間が珍しいのだろう。

兎にも角にもそんなことを気にしている暇はないのでまっすぐ、受付嬢の元に進む。

「今日はどのような用件でしょうか?」

「この子の冒険者登録をしてあげたいんだけど」

「わかりました。ではこの紙に記入をお願いします」

そう言って受付嬢はリファに懐かしの紙を渡す。

「それと、ミスリルランク限定の依頼を見せてくれない?」

「では冒険者カードの提示をお願い致します。」

言われて、懐からカードを取り出してみせる。

「ルミエール=ラウエルさん、ミスリルランクの冒険者ですね!わかり……まし……た……」

受付嬢は段々と声が小さくなり、絶句した。

「どうかした?」

「ル、ルル、ルミエールさん……いや、ルミエール様はラルジュ王国の第四王女なのですか!?」

「そうだけど?」

受付嬢は完全に硬直した。

そんな時だった。

「へっ、どうせ権力でミスリルランクにのしあがったんだろ?」

冒険者の一人が私に対して挑発的な態度を取る。

それを聞いたリファが《アムールエスパーダ》に手を掛ける。

私はそれを制止し、一言。

「こんなやつに剣を抜く必要はないよ」

「ですが……」

「立場上そう思われても仕方ないよ。でも、私はそんなのは別にどうでもいい。あんな奴が何を言おうとも、リファ達が私にことを知ってくれているでしょ?」

私の言葉にリファは頷く。

「さっきから聞いてりゃ舐めた口聞きやがって!!」

そう言って挑発して来た冒険者は殴りかかってくる。

私はそれをヒラリと躱し、右腕を掴んで背負い投げをした。

「かはぁ!!」

「レディにバイオレンスは良くないよ?」

「つ、強え……」

「他に私と手合わせしたい人いる?」

私がそう聞くと。

「「「はい!!」」」

その場にいた全員が手を挙げた。

「なんで?」

「ミスリルランクの冒険者とスパーリングなんて滅多にあることじゃねえ!」

「そんなにやらない選択肢なんてないだろ!」

「よっしゃ!お前ら、まとめて相手したる!!」

私は冒険者達を引き連れて、ギルドの中庭に置かれている訓練場に降り立った。

「さあ、かかっておいで!魔法も体術もなんでもあり!でも、重傷を負わせるには無しだからね?破ったら死罪だよ!」

「「「おう!」」」

「私に一撃でも入れられたら、私のお金で好きなだけ飲んでいいよ!!」

「「「うおおお!!」」」

「さぁ、いくよ!」

私は体術で掛かってくる冒険者達を蹴散らしていく。

「さあ、どうしたどうした?そんなものか〜?」

「「「まだまだ!!」」」

何度も立ち上がって立ち向かってくるが誰一人として私に一撃を入れられない。

そして、戦闘開始から三十分。

「「「も、もうダメ……」」」

全員が力尽き、私の勝利となった。

私が建物の中に戻ると、試験を終えたリファがいた。

「試験終わりました」

「どうだった?」

「1分で終わりました」

「強すぎ」

そんな会話をしていると受付嬢がリファの元に行き。

「こちら、冒険者カードになります。実力からゴールドランクとさせていただきました。詳しい説明はルミエール様からお聞きください。それとルミエール様、準備が整いましたのでご覧ください」

そう言って受付嬢はミスリルランク限定の依頼を見せてくれる。

私はもちろん、何の迷いもなく。

「これでお願いします」

「わかりました。依頼、頑張ってくださいね」

「勿論!」

そう元気よく返事して私たちはギルドを後にした。


─────────────────────


「さて……」

その後、服屋の更衣室に入り、変装を済ませて服屋を出る。

勿論、攫われて身ぐるみ剥がされてもいいように、装備はオニキスに持たせている。

話を聞く限り、攫われたのは人通りの少ない裏路地や通りだ。

だからその辺を考慮して人通りの少ないところを歩くことにした。

見た目は双子という感じなのでお揃いにしている。

二人セットの方が攫われる確率が高い。

何せ、獣人の可愛い可愛い女の子が二人も手に入るのだ。

襲わない理由がない。

けど気になるのは、攫っている最中に誰も助けに来なかったことだ。

どの事例も一瞬で攫われている。

獣人のフィジカルはそこらの人間よりも遥かに高い。

ということは獣人のフィジカルを凌駕する者がいるということだ。

例えば、ケイオスなんかがそうだ。

そんなことを思っていると、気配を感じた。

どうやらお出ましのようだ。

一瞬、リファに視線を向ける。

それにリファの表情が凛々しいものに変わる。

その直後、私たちは周囲を囲まれる。

私とリファは身を寄せる。

「た、助けて……!!」

私は演技で助けを呼ぶが誰も来ない。

周囲を観察してみると、魔法を使っている者がいた。

なるほど、《シャットサウンド》ということか……

「助けを求めても無駄だ!」

「お前らは俺たちに目を付けられた時点で運命は決まってるんだよ」

そう言って全員が一斉に襲いかかって来た。

勿論、攫われるのが目的なので最低限の抵抗はする。

「や、やめて!」

「お姉ちゃん!」

設定上、私が姉でリファが妹だ。

そして少し抵抗した後に、私たちの意識は刈り取られた。

「よし、連れて行け。身ぐるみは剥がしておけよ」

「「「はい」」」

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