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第20話《獣人の国篇》飛ばされた場所

ルミエールside

ワームホールに吸い込まれた私は先にリファを見つけた。

「リファ!!」

私はリファの元に行き、手を掴む。

どうやら気を失っているらしい。

「しっかりして!リファ!」

私がリファを揺らすと。

「─────っん、う〜ん……」

「よかった……目が覚めて……」

「そうだ私……すいませんでした!私が未熟なばかりに……」

「気にしない!気にしない!それにほら!向こうに光が見えるでしょ?」

私はリファの後ろを指差す。

そして断断光が近づいてきて……

「出るよ!!」

私達は光に包まれた。

光が収まるとそこは。

「「空中!?」」

まさかの空の上だった。

「「うわあああああ!!」」

私はシエルを取り出そうとするが間に合わない。

だったら!!

私はリファを抱き寄せ、地面に激突するのが自分の背中になるようにする。

「ルミ様!!」

「大丈夫だから!!」

そして地面に私の影が映ったタイミングで。

「オニキス!!」

『大っきくなるね〜!』

そう言って私の影から出てきたオニキスは巨大化し、私達を受け止め、そのまま影に戻った。

「ありがと、オニキス!」

『えへへ〜!!』

オニキスは嬉しいそうな声をあげる。

「なんであんな無茶するんですか!」

無事に着地した後、リファはすぐさまお説教モードに入った。

そんなお説教を右から左に流しながら、ここはどこだろうかと考えていた。

リファの後ろには噴水があり、道も整備され、建物もある。

ということは村ではなさそう。

そんな考えを巡らせていると。

「何者だ!!」

そう言って周囲を獣人が取り囲んでいた。

あ、ここってもしかして……

「入国審査をしていないだろ!何故急に現れた!!」

「それは……!!」

「詳しい話は署で聞こう!!」

リファガ弁明しようとするのを遮り、そのまま私たちを連行しようと近づいてくる。

「ちょっ!は、離してください!!」

「リファ、今はダメ。」

「何故ですか!」

「ここは、獣人のビーストリアンだからだよ」

「ラルジュ王国じゃない……?」

「『郷に入っては郷に従え』だから」

「ルミ様が言うなら……」

私とリファは大人しく連行された。


─────────────────────


リスカルside

俺は急いでアトリエに来ていた。

「カーニャ!!はぁはぁ……」

俺はドアを勢いよく開け、カーニャの元にいく。

「どうかしましたか?」

「大変なことになった!!」

「ルミ様に何かあったんですか!?」

カーニャが冷や汗を浮かべ言ってくる。

戦乙女パンドラとリファがワームホールに飲み込まれちまった……」

「なっ……!!」

カーニャは顔を真っ青にしてすぐさま地下の収納庫に向かう。

「ど、どうした!?」

「よかった……無事なようですね……」

カーニャはホッと一息を吐く。

「なんだそれ?」

「ルミ様が自分に何かあった時のために自分の魔力を検知するアイテムを作っていまして……」

「どこにいるかわからないのか!?」

「そこまでは……」

そうか……

「事の顛末を聞かせて頂けますか?」

「ああ」

俺は何があったのかを説明した。

「ケイオス……私が国王様に伝えてきます。」

「あ、ああ……」

そう言ってカーニャはアトリエを出て王宮に向かった。

気のせいかもしれないが、少し早足で。


─────────────────────


カーニャside

ルミ様とリファ様がワームホールに吸い込まれた。

生きていることは確認できた。

魔力の反応も弱くない。

だから元気なのだろう。

でも、心配だ。

あの人は私がいないと結構ヤバい。

あんななりしてかなりズボラだ。

寝衣は脱ぎっぱなしだし、すぐ煤だらけになる。

それに部屋も結構散らかってる。

そんなあの人のフォローをするのが私の楽しみだ。

最近はそんな役割もリファ様に奪われそうになっている。

でも、たった一つ、リファ様でも奪えないものがある。

それは『専属メイド』という立場だ。

私にとって最も誇りに思っているのはルミ様の専属メイドになれたことだ。

救ってもらったあの日から、尊敬、敬愛の念は忘れたことがない。

だからこそ、他の従者とは一線を画す距離感にいる。

ルミ様は本当に聡明だ。

今回のことだって、作戦を知ったリファ様が必ず追いかけてくるという読みでメディ様から受け取ったパンドラを使われたのだ。

これはリファ様のことを完全に信頼し、リファ様なら必ず追いかけてくるという確信がないと出来ないことだ。

私はあのクソ主人に仕えている時は、感情が無く毎日同じ事の繰り返し。

私の目に映るのは色の消えた灰色の景色。

でもルミ様と会って、私は感情を取り戻し、世界に色が戻った。

そして初めて、尊敬の念を覚えた。

この人は信頼できる、一生仕えることが出来る、そう確信した。

私がそう言い出す前に、ルミ様が国王様に進言したのだ。

「お父様!この人を私の専属メイドにしてください!」

「専属ぅ!?」

「はい!他に従者はいりません!この人……えっと……」

「カーニャです」

「そう!カーニャ!私、カーニャを気に入りました!だからお願いします!」

ルミ様は国王様に頭を下げた。

「私は構わんが……」

そう言って視線を私に向けてくる。

「光栄です。私も自分の意思でこの方、ルミエール=ラウエルに仕えたいと思っていました。」

「ほんと!?」

「はい。これからよろしくお願いしますね。ルミエール様?」

「ルミ!」

「はい?」

「ルミって呼んで!」

「承りました。ルミ様」

「うん!よろしくね!」

そう言ってルミ様は手を出してくれる。

「これは……」

「握手!よろしくの挨拶だよ!」

「しかし、主人の手を易々と握るなど……」

「私は固い関係を望んでなんかいないよ?」

「え?」

「妹みたいに扱ってほしいな!」

「妹、ですか……?」

「そう!だって、カーニャは私の新しい家族だから!」

そう言ってルミ様ははにかんだ。

その言葉を聞いて、私はルミ様と握手をする。

この日、私は新しい居場所かぞくを手に入れた。

とは言っても初めてだった。

家族の温もりを感じたのは。

私はルミ様と一緒に食事をすることを許された。

国王様たちも驚いてはいたがすぐに受け入れてくれた。

私があのクソ主人に仕えるようになったのは売り飛ばされたからだ。

父親は金遣いが荒く、母親が愛想を尽かして出ていった。

それでも父の金遣いの荒さは治ることはなかった。

そして金に困った父親が私をあのクソ主人に売り払ったのだ。

その中で私は処女やらなんやらを散らしてしまったが、そのおかげでルミ様と会うことが出来た。

それから数年が経ったある日の事だった。

─────父親が私の前に現れたのは。


─────────────────────


ルミ様が12歳になった頃だった。

私とルミ様が街に出掛けていた時、私達の前に一人の男が現れた。

「久しぶりだな?カーニャ」

その男は紛れもなく私の父親だった。「知り合い?」

「はい。父親です。」

「そうなんだ」

ルミ様の声色が一つ低くなった気がした。

「また会えて嬉しいよ……!あの時は悪かった……俺と一緒にやり直さないか?」

そう言って父親は私に手を伸ばしてくる。

その手首を掴んだのはルミ様だ。

「“私の”家族に触らないで」

「なんだお前?これは俺とカーニャの問題だ」

「今のカーニャの家族は私だよ」

勿論、ルミ様も私の過去を知っている。

だからか、いつもと違い一段階低い声色で父親にそういう。

「ガキが!!大人に口答えするんじゃねえ!!」

そう言ってルミ様に殴りかかる。

それをルミ様はヒラリと躱し、組み伏せる。

「これ以上、私の家族に近づくなら容赦はしない」

「わ、わかった……!もう近づかないから……!」

「その言葉に嘘はないな?」

「は、はい……!!」

「次に近づけば裁判だ」

「は、はい……!!」

「とっとと失せろ」

「す、すいませんでした!!」

父親は走り去っていった。

それを見ていた街の人たちからは称賛の拍手が贈られた。

「ルミ様、申し訳ございませんでした。本来は私が対処すべき問題を……」

「気にしない気にしない!家族は持ちつ持たれつの関係だから!」

「持ちつ持たれつ、ですか……」

「そう!お互いに支え合っていくのが家族!少なくとも私はそうありたいと思ってるよ!」

やはり、この人は尊敬に値する。

そう感じた瞬間だった。

この父親の一件を経て、ルミ様は単独で母親についても調べ、ここ数年で生活が困難になり始めていることを突き止め、国王様に支援をお願いしたりした。

あの人はどこまでも心遣いの出来るお方だ。

彼女自身唯一魔法が使えない。

だからこそ、持たない者の痛みや悩み、苦しみを理解できる。

そんな彼女だから心遣いは最高なのだろう。

そのおかげでメディ様やリスカル様、そしてリファ様を救うことが出来た。

誰よりも聡く、誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも誠実なあの人が必ず戻ると言ったのだからそれを信じる以外の選択肢なんてない。

でも、国王様達の耳に入れておかなければ!!

私は国王様の部屋に急いだ。


─────────────────────


「「「はああああ!?」」」

国王様達が声を揃えて、驚愕の声をあげる。

「まあ、そういう反応になりますよね」

「ワームホールに吸い込まれたって……!!」

「無事なのよね?」

「はい。ルミ様の発明品で確認済みです。」

「あの子は本当に無茶するわね……」

「まあ、最初に吸い込まれたのが惚れた相手なら尚更でしょうね」

「それもそうだな……」

ルミ様の行動原理をしっかりと理解していた。

「問題はどこに飛ばされたかだ……」

「多分、そのケイオスの発言からしてラルジュ王国内では無いと思うわ」

「私も同感です」

「多分だけどどっか遠いとこに飛ばされたんじゃねえの?」

「遠いところ……ここから最も遠いのは獣人のビーストリアンでしょうか……」

「まあ、予測のつかない場所にいる以上迎えになんか行けるわけねえもんな……」

「心配ですね……」

「ですが今は信じるしかありません」

「カーニャの言う通りね……あの子なら必ず帰ってきますよ!」

「だな!」

「アイツは王位継承権を放棄しているからな、業務に支障は出るまい。」

「では、とりあえずいつも通り生活しましょう!多分、旅行みたいな雰囲気で楽しんでいそうだしね……」

「「「わかる(ります)」」」

「内心、『リファとのデートだ〜!やた〜!』とか思ってそうですよね……」

「『新婚旅行みた〜い!』とかも思っていそうですね……」

「ヤバい。めっちゃ心配になってきた。あいつ帰って来るよな!?」

「なんかそのまま世界一周でもしてきそうですよね」

「それな」

「だ、だがお金が……」

「あの子、冒険者ですよ?」

そう言って口を挟んでくるのはメディ様だ。

「メディ様!?」

「なんで私は呼ばれないのかしら」

「申し訳ありません。忘れてました」

「扱い雑じゃない?」

「気のせいです」

「そう考えたらアイツがそのまま世界一周して来る可能性が高いぞ……!!」

「ホントに何の心配してるんですか」

「ルミエールが帰ってこないと色々マズいんだ!」

「マズい?」

「ああ!ルミの発明品が壊れた時、直せる人が誰一人としていません!!」

「そこ!?本人がいないことに対する問題ではなくて!?」

「「「あ、問題ないです」」」

「薄情者すぎるだろ」

「だって、私達の部屋にはルミの等身大抱き枕がありますから」

「マジで言ってるの?」

「ああ!ちなみにカバーは二種類あるぜ!」

「寝衣姿といつもの服装のものと下着姿と全裸のものです!」

「揃いも揃って変態しか居ねえのかよ」

メディ様が必死にツッコんでいらっしゃる……

でも、ボケが多すぎる!!

渋滞しているじゃないですか!!

ルミ様、早く帰ってきて、テイル様達の欲求を満たしてください!!

でないとメディ様がツッコミでパンクしてしまいます!!

「この変態姉妹がああああ!!」

「「「誰が変態だ!」」」

「アンタらだよ!!」

「まあまあ、落ち着いてくださいな?」

「すいません、つい盛り上がってしまいました……」

「まあ、コイツらが変態なのは十分身に染みて感じておるわ……」

「そうですか……」

ホントにヤバそうです。

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