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第18話《異変の正体篇》哀しき悪意

ルミエールside

少し待っているとオニキスの分裂体が隠し部屋の扉を開けた。

「さあ、行くよ!」

「ああ!」

私達は部屋を脱出し、とある場所で待ち伏せた。

するとラウールとリスターが現れ、その後ろにはクリファさんとルミネイトさんがいた。

「行って参ります」

「ああ、気をつけてな?」

「はい」

リスターは普通に親と会話をしている。

だが、その目は全く親を見ていない。

俗にいうレイプ目状態だ。

「では参りましょうか、お嬢様?」

「ラウール、頼みましたよ?」

「お任せください、奥様」

そう言ってラウールは怪しく微笑んだ。

「どこに行くつもりだ?」

二人の行手を阻むように、私とリスカルが立ち塞がる。

「君は!!」

「何故、あなた方がここに?」

ラウールは冷や汗を浮かべ、少し焦ったような声色で私たちに問う。

「あなたを逃さないためだよ?」

「ほお?私が何をしたと?」

「リスター嬢がつけているネックレス。それは《呪宝具 カースパペット》だろ?」

「呪宝具?何ですかそれは?」

「まだ惚けるの?ライアス」

私のその言葉にライアスが動揺する。

「ライアス?この執事の名はラウールだぞ?」

「それは偽名ですよ。クリファさん」

「最強のキメラを作る、だったか?」

「そのコアにリスターを選んだんだったよね!リファの代わりに」

「どういうことかしら?」

「奥様、旦那様、このような輩の言うことなど信じるに値しません」

ここまで言われてもなお言い逃れしようとする。

「じゃあお前の部屋の隠し部屋、開けてみるか?」

「隠し部屋だと!?」

「確かめてみますか?私たちを閉じ込めた、あの場所を」

「どういうことだ!!」

「バトラー、確認してきなさい。」

「はい」

「本棚をずらすと出てきますよ!」

それから少しした時。

「ありました!」

バトラーのそんな声が聞こえてくる。

「ふふふて……ふははははははは!!なんだ!!何なんだお前らは!!」

怒りに満ちた表情で迫ってくるライアスに私たちは変装を解き。

「俺はリスカル、探偵さ」

「ルミエール=ラウエル、リファの師匠だよ」

「ルミエール様!?」

「クソがクソがクソがぁ!!またお前たちなのか!!お前たちはいつまで俺の邪魔をすれば気が済む!!」

「私は気晴らしなんかでやってないよ。私はリファを、弟子を救いたいだけだから」

私は装備を整えながら言った。

「諦めろ、ライアス!!」

「こんなところで諦めてたまるか!!」

そう言ってライアスはリスターを連れて行こうとする。

「逃さないよ!」

私は投げナイフでリスターの《呪宝具 カースパペット》の紐部分を切る。

「何!?」

「はぁ!!」

ライアスがそれに気を取られた隙に、リスカルがリスターを保護する。

リスターは気を失っているようだ。

リスカルはカースパペットを手に取り、握りつぶした。

「クソがぁぁ!!」

ライアスは髪をかきむしりながら絶叫する。

「お前の悪事もここまでだ!!お前の後ろには誰がいる!!吐け!!」

「うるさいうるさいうるさい!!お前らに俺の苦しみの何がわかる!!何も分からないくせに俺を語るなぁ!!」

「そうだよ。何もわからない!!だから止める。あなたにどんな事があったのかはい知らない。でもそれが人を傷つけていい理由にはならない!!」

「黙れ黙れ黙れぇぇ!!」

ライアスは窓を突き破り、逃走を図る。

「逃さない!!」

私は走りながら《シエル》の準備をし、窓から出ると同時に飛び乗る。

早い……!!

流石ドラゴンから逃げ切れるだけはある。

絶対に逃さない!!

これ以上、誰も悲しませないために……!!


─────────────────────


ライアスside

十五年前、俺は自分の無力さを実感した。

ミスリルランクの冒険者だった俺には勝てない相手なんていないと驕り高ぶっていた。

でも、それは間違いだった。

ある日のことだった。

その日も俺は例に漏れず、依頼をこなしていた。

この日受けたのは『ブレイジングブラッドベアー』の討伐だ。

この『ブレイジングブラッドベアー』は体が燃えているのが特徴で他にそれと言って強い要素はないが、純粋なパワー勝負や危険度からミスリルランクのよくある依頼だった。

「「「グオガアアアアア!!」」」

「雑魚が何匹群れようが意味はないんだよ!!《アースエッジ》!!」

俺は地面に手を置いた。

すると地面から土の槍がブレイジングブラッドベアーを貫いた。

「他愛もない……」

だがこの日はそれでは終わらなかった。

「キシャァァァ!!」

『ブルーヴァイパー』が現れたのだ。

ヴァイパーにも種類がある。

弱いものから順に、グリーン、レッド、ブルー、ホワイトだ。

ブルーヴァイパーは本来、プラチナランクの獲物なのだが、襲ってきたなら仕方がない。

「キシャァァァ!!」

「《ハイドロボム》!!」

俺はブルーヴァイパーの攻撃を後ろに跳んで避けつつ、手を翳し、魔法の宣言をする。

すると水の爆弾がブルーヴァイパーにクリーンヒットし、爆発と共に大きく仰反る。

「キシャァァァ!!」

ブルーヴァイパーはそのまま大きな口を開ける。

「待ってたぜ!!《バーニングボール》!」

そのタイミングでブルーヴァイパーの口の真上に飛び上がり、火魔法を口の中に叩き込む。

するとブルーヴァイパーは白目を剥いて倒れた。

「こんなものか……」

手応えがない。

弱すぎる。

いや、俺は強すぎるのか?

もしかして俺最強なのか!?

この時の俺は本当に自惚れていた。

このブルーヴァイパー戦が運命を分けるとも知らずに。


─────────────────────


報告をしにギルドに来ていた。

「はい!依頼は達成です!こちら報酬の金貨5枚になります!」

「ありがとう」

「そういえば最近、この辺りで強盗が出ているらしいので気をつけてくださいね?」

「そんなのが来たら俺がぶっ倒してやるよ!」

「それは頼もしいですね!」

受付嬢とのそんな会話を終えて、俺は家に帰った。

「ただいま〜……」

俺は妻子持ちだ。

いつも俺が帰ってくると5歳になる娘が駆け寄ってくる。

しかし、この日は駆け寄ってくることはなかった。

「寝てるのか……?」

俺はそんなことを思いながらリビングよりも先に自室に行き、服を着替える。

お腹空いたな……

今日の晩御飯なんだろうな……

そんなことを思いながらリビングに向かった。

そしてそこに広がっていたのは。

─────愛しの妻子が血まみれで倒れており、家中が散らかっていた。

「おい!!しっかりしろ!!」

俺はすぐさま駆け寄り、妻を抱き起こす。

「おい!!目を開けろ!!なあ!!」

俺は妻を揺さぶるが一向に起きる気配がない。

「二人とも……起きてくれよ……!!」

俺は二人を抱きかかえながら泣き叫んだ。

ああ……俺は弱いんだ……

ブレイジングブラッドベアーが倒せようが、ブルーヴァイパーを倒せようがそんなのは関係ないんだ。

俺は目の前の大切な人たちすら守れない、弱い人間なんだ。

俺に向けられるあの優しさはもうない。

娘の笑顔も無い。

家族三人で笑い合える日も、もう来ない。

俺は守れなかった。

強盗をぶっ倒す?

どの口が言ってるんだよ!!

俺は何のために強くなってきたんだ……?

富?名声?地位?

そんなもの忘れた……

どうすればよかった?

ブルーヴァイパーの相手なんかしなければ間に合ったのか……?

そう思い触れる。

体はそこまで固くなっていなかった。

あぁ……俺が無駄にブルーヴァイパーの相手なんかしたから二人は死んだんだ……

俺があの時、ブルーヴァイパーを無視して帰っていれば強盗をぶちのめせたかも知れないのに……

「ああああああああああ!!!!」

俺は何度も何度も何度も拳を床に叩きつけた。

血が滲むほど、何度も。

そんな時だった。

ヤツが来たのは。

「やあ、ライアス君?」

「誰だ……?」

衰弱しきった弱々しい声でそう問う。

「僕はケイオス。君を救いに来た者だ」

「俺を救う……?」

「君は実にいい才能を持っている。こんなところで燻らせるのは勿体無いほどのね?」

「黙れ……」

『今はそんな気分じゃ無い。』

『俺に話しかけるな。』

『目の前から消えてくれ。』

そんないろんな言葉を浴びせた。

それに対してケイオスは。

「君は憎く無いのか?お前の大事な家族を奪った犯罪者が」

「憎いに決まっているだろ!!!」

「なら僕と一緒に来るといい。もっと強くなれる。仇を見つける手伝いだってしてやろう!君が望むのならどんな手伝いでもしてやろう!殺しでも略奪でも何でも」

コイツの言葉は妙に信頼できた。

コイツと行けば、俺の家族の仇が見つかる。

そしてソイツを殺せる。

そう確信した。

そして俺はコイツの誘いに乗った。

「いいだろう……乗ってやるよ。お前に」

「そうか!!嬉しいぞ!!」

「で、どうすればいい?」

「自分の強さに限界があるなら自分に従順な最強のモンスターを作ればいい」

「最強のモンスター……?」

「ドラゴンよりも超越する力を持つモンスター、キメラをね」

「キメラ……?聞いた事がないな……」

「キメラは色んな生物が合体したモンスターだ。だから簡単にドラゴンを超えられる。作ればいいんだよ!君の好きなモンスターで構成されたキメラを」

「俺が作る……?」

「そう!全てを破壊するモンスターをね!」

「そうか……そうだな…そうすればよかったんだな……ふふふ……ふははははははははははは!!」

俺は笑い続けた。

この時、俺の心は壊れ、枯れ果てた。

そして俺は研究し続けた。

最強のキメラを生み出すために。

でも、そう簡単には行かなかった。

12年かけてようやくキメラ生成装置を完成させた。

そして更に3年かけて材料を集めた。

だというのに!!

俺の計画を邪魔するものがいる!!

俺のことを何も知らないくせにわかったような口を聞く、クソガキが。

誰にも邪魔させない!!

俺の目的を達成するまでは……絶対に!!


─────────────────────


ルミエールside

私は《シエル》に乗り、ライアスを追い詰めた。

「これ以上は逃げられないよ!!」

「舐めるなぁ!!《アースエッジ》!!」

地面から土の槍が伸びてくる。

私は左腰につけている《ファンタズムエッジ》を取り外し、剣先を展開する。

そして、《シエル》から飛び降り、その勢いを利用して土の槍を真っ二つに斬る。

「何!?」

「ふっ!」

ライアスガ《ファンタズムエッジ》に驚愕している隙に、ナイフを投げ、太ももと肩にヒットさせる。

「ぐあっ!!」

ライアスは片膝を着く。

「観念して捕まりなさい!!」

「断る!!お前如きに邪魔されていいはずがない!!!」

そういうライアスの目はキマっていた。

「私はあなたを殺したくない!!死罪になるかも知れないけど捕まえる!!」

「俺はお前を殺す!!」

お互い一歩も譲らない。

肉弾戦で気絶させるしかないか……!!

私はライアスとの距離を縮め、《ファンタズムエッジ》で斬りかかるふりをする。

するとライアスは回避姿勢に変わる。

それを見て私は横腹に蹴りを叩き込んだ。

「かはぁ!!」

私に蹴られたライアスは軽く吹き飛ぶ。

「《バーニングボール》!!」

ライアスは炎の球を放ってくる。

私はそれを《ファンタズムエッジ》で真っ二つする。

それは背後に着弾し、炎が燃え盛る。

「お前は何なんだ!!」

「ただの王女だよ?」

そう言いながら私はライアスとの距離を詰め、腹に膝蹴りを入れる。

「かはぁ!!」

「まだまだ行くよ!!」

膝蹴りした後、ライアスを蹴り飛ばす。

「くっ!!」

ライアスは地面を転がる。

「クソが……!!」

ライアスはそう言ってゆっくり立ち上がる。

「うおぉぉぉ!!」

そう威勢よく私に殴りかかってくる。

私はそれを組み伏せる。

その時、私の頭に誰かの指が当たった。

「……っ!!」

「振り返るな。殺すから」

「何が目的なの?」

「俺は俺のしたいことをしてるだけだ。面白いものを見せてやろう」

その瞬間、私に頭の中にある記憶が流れ込んでくる。

これは……!!

「楽しむがいい」

そう言って声の主は居なくなった。

「強盗殺人……」

「サウスター、お前……見せたのか……!!」

「面白いことになりそうだったからな?」

声の主は木の上に枝に座っていた。

「離せ!!」

ライアスは暴れ、私から逃げられる。

「記憶を見たならわかるだろ!!俺の目的が!!」

「わかるよ……大事な人を奪われるのは辛いし、苦しいし、悔しい」

「なら……!!」

「でも!それでも!あなたの奥さんと子供さんがこんなことを望んでいるとは思えない!!」

「お前に何がわかる!!」

「私にはあなたの奥さんや子供さんについて何も知らない。でも、一つわかる事がある。あなたの奥さんと子供さんは優しい人だったんだって。」

「何……?」

「もうやめようよ……」

私がそう呼びかけるとライアスは膝から崩れ落ちた。

「俺は……」

「それは気に入らないな」

木の上のサウスターがスタッと地面に降り、ライアスの頭を掴み何かの球を口の中に放り込んだ。

「これはお前の実験の成果だ。」

「なん……だと……!?」

「お前が俺たちを裏切る時のためにお前の研究結果は俺の手元にもあるんだ。」

「うあああああ!!」

ライアスは雄叫びを上げながら、姿が変わる。

それは色々な生物が混ざった、キメラに変わった。

尻尾はホワイトヴァイパー、胴はドラゴン、足と顔はデッドリーレオ、ワイバーンの翼という見た目をしていた。

「最後までせいぜい俺たちの役に立てよ?」

「グルガアアアア!!」

そしてサウスターは消えた。

「これ以上悲劇は起こさせない。あなたを止めて、この悲しみの連鎖を断ち切る!!」

私は《ファンタズムエッジ》を構え、そう宣言した。

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