ルミエールside
私が知恵の輪で遊んでいると。
「なんか、懐かしいな……」
「どったの急に」
「昔の事を思い出してな……」
「そういえば前にもこんな状況あったね!」
「ホントにお前が無茶苦茶すぎるせいで全然関係なかったけどな……」
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それはリスカルが探偵になって間もない頃のことだった。
「いや〜!まさか捕まるとはね〜!凄いね〜!」
「そんなこと言ってる場合か!」
この日、私はラスカルに着いて行っていた。
何しろなかなか危険な依頼だった。
依頼の内容は『囚われた子供達の救出』。
当時、アルタイルの街では人攫いの目撃情報が多数寄せられていた。
騎士団自体は動かせるが、気付かれてしまえば子供達が殺されかねない。
冒険者を雇っても同じことだ。
そこで探偵の出番というわけだ。
私もリスカルにウッキウキで着いて行ったはいいが、アジトを突き止める直前で不意を突かれて捕まってしまった。
「どうすんだよ……」
「私たち以外に人は着いて来てないし、子供達が殺されることはないでしょ!」
「何でそんなお気楽なんだよ!」
「だって、後は人攫いを捕まえるだけだしね〜!」
そう言って私は立ち上がる。
すると私を縛っていた縄が地面にするりと落ちた。
「まぁ、それはそうだが……」
そう言ってリスカルも立ち上がる。
もちろん縄も地面に落ちる。
「何か不安でも?」
「二つある。まず一つは相手の人数がわからない。俺たちを襲ったのは一人だったしな。それに同じ時間帯で別の場所でも人攫いが起きている以上、二人以上は必ずいる。」
「ふむふむ。それで、二つ目は?」
「お前の実力だ。俺を捕まえたのは実力というよりも作戦勝ちだろ?だから心配なんだよ!お前が俺の足を引っ張らないか!」
ちなみに当時のリスカルは私がミスリルランクの冒険者ということは知らなかった。
「大丈夫だよ!あ、それと殺しちゃダメだからね?」
「わーってるよ。お前がくれた発明品があるんだ。大丈夫だろ、王女様?」
「だからルミって呼んでよ!」
「御託はいいから行くぞ!」
「もう!」
不満を言いながらも私たちは、閉じ込められていた部屋を脱出した。
「何で!!」
「おねんねしてて!」
入り口に立っていた見張りに腹パンし、気絶させる。
「それにしても結構おっきいね!」
「そうだな……」
「どうする?二手に分かれる?」
「そうしよう」
「オッケー。後で合流ね!」
「おう!」
私とリスカルは二手に分かれ、アジトを探索する。
「敵襲〜!!」
そんな掛け声がどこからか聞こえてくる。
どうやら見つかったらしい。
まぁ、隠れるつもりもなかったしね……
「勇敢な王女様だことで?」
そんなことを言って、ナイフを持って私を取り囲むように人攫いたちが現れる。
結構いるな〜……
殺しちゃまずいから《ファンタズムエッジ》は不向きだし、遠距離でもないから《クレシェンテアルク》も不向き……なら!
私は背部の腰から《ラファールランス》の真ん中の部分を取り外し、宙へ投げる。
それが目の前に落ちてくると同時、残りの二つと連結させ、完成させる。
「槍だと!?」
「どこからでもかかって来なさい!」
私は《ラファールランス》の先端を地面に置き、槍先が宙に鉛直になるような状態にし、手で挑発しながら宣言した。
「いけ〜!!」
一人の男の掛け声に、全員が一斉に襲い掛かってくる。
「ふっ!はっ!てやあ!!」
「うぐぅ!」
「かはぁ!」
一人目の肩に槍先を突き刺し、すぐさま抜いて背後からの攻撃を防ぎ、腹に膝蹴りを入れる。
そして、槍先を地面に突き刺し、槍を軸にし、回転する勢いを利用し、囲んできた輩を蹴り飛ばす。
「ふぅ〜!」
「動くな!!」
一息ついているとそんな声が聞こえてくる。
そこには一人の子供を人質に取った人攫いがいた。
「動けばこいつを殺す!!」
距離にして5m。
いけるな。
「武器を捨てろ!早く!」
子供は恐怖で今にも泣きそうだ。
次の指示のタイミングで決める!
私は一旦指示に従い、武器を地面に置く。
「じゃあ次は服を脱げ!お前は俺たちを敵に回した罪で俺たちの奴隷にしてやる!!」
私はニッと口角をあげ。
「残念ながら、勝つのは私だよ?」
「はぁ?何言って……」
好機!!
私は人攫いの返答のタイミングで太もものホルダーからナイフを抜き、人攫いの太ももに投げる。
そして人攫いはそれに反応が遅れ、太ももにナイフが刺さる。
「うあああ!!」
私は人攫いが痛みに悶えている隙に距離を詰め、胴回し回転蹴りを入れ、気絶させた。
「こんなもんかな!」
「お前、強えな……」
子供達を救出したリスカルがそんなことを言ってくる。
それに対して、胸を張って言った。
「まぁ、ミスリルクラスの冒険者ですから!」
「は!?」
「知らない?《戦乙女(パンドラ)》って呼ばれてる冒険者」
「……聞いたことはある」
「それ、私なんだよね〜!」
リスカルの目は見開き、開いた口が塞がっていなかった。
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「懐かしいな〜!あれも二年前か〜!」
私とリスカルが会ったのは二年前、そのちょっと後にメディと出会った。
「そうだな……ん?二年前……?」
「どうかした?」
怪訝な表情を浮かべるリスカルに声をかける。
「あの時の人攫いは組織だったんだよな?」
「体系はそれに近かったよ?」
人攫いたちを捕まえた後、事情聴取をした。
その時に、全員が口を揃えて『ボス』がいると言っていた。
それで、人攫いは組織だと断定された。
でも、今思い出せば『全員』が口を揃えて言っていた。
「もしかして……」
点と点が繋がりを見せ始めた。
要は当時私たちが捕まえた人攫いたちの中にボスはいなかった。
そしてそのボスが今回の一連の騒動の黒幕であろうラウールことライアス。
「だが、もしそうだとしてライアスの目的は一体何なんだ……?」
「そうだよね……」
今の所、一切合切分からない。
どうしようかと思った時、生活音だけだった盗聴器に面白いことが聞こえて来た。
『俺の計画は邪魔させない。最強のキメラを作り出す計画はな……』
「リスカル」
「ああ。わかってる。」
独り言か、誰かに言ったのかは分からないがライアスの目的がわかった。
ライアスは『最強のキメラ』を誕生させることが目的らしい。
『そうか。抜かるなよ?』
『それくらいわかっている』
『それにしても面白いことを考えるな、ライアス?』
『ここではラウールだ』
『それは失礼。まさかリヴェルベロ家のご令嬢を精神支配して隠れ蓑に使うとは……』
『隠れ蓑だけじゃないさ。もうすぐ不要になる。だからコイツをキメラのコアにする』
『手段を選ばないね、君は』
『当たり前だ。失敗するわけにはいかないんだ。三年間俺が集めてきた素材なんだ。そう易々と失敗してたまるか』
私はその会話を聞いて、拳を地面に叩きつけた。
「落ち着け」
「わかってるよそれくらい。だから地面を一発殴ったんだ」許せない。
人をただの道具にしか見ていないクソ野郎が。
「コイツは絶対に許しちゃいけねえ野郎だ」
リスカルの声色は冷静そのものだったが顔は怒りに満ちていた。
『他に懸念はないのか?』
『あるわけがないだろ?俺のことを嗅ぎ回っていた雑魚どもは閉じ込めておいたしな。あの部屋は内側からは開かない』
『入念だね……あの王女はどうなんだ?』
『ルミエール=ラウエルのことか?アイツは俺にとって因縁の相手だ。向こうは覚えていないだろうがな。最強のキメラを作ったら最初は王宮をぶっ壊してやろうと思ってな。それでその後、ぶっ殺す』
『人攫い共を壊滅させられたくらいで物騒だな?』
『俺にとってあれはキメラのコアを探すためのものだ。それを邪魔したアイツの罪は重い。それにあのクソ探偵もな……』
話を聞く限り、どうやら狙いは私達らしい。
「ちょうどいいじゃねえか。ぶっ潰してやるよ」
「ダメだよ」
「何でだ?」
「多分、リスカルよりも強い。」
「それには賛同しかねるな。本当に強えならキメラなんて生み出そうなんて思わないだろ」
「そうかもしれないけど。何か引っ掛かる」
ライアスの声色は怒りが全面に出ている。
でも所々何か暗い影のようなものを感じる。
「可能性の話だけど、ライアス自体は強い。でも何かの原因で自分よりも強いものを生み出そうと思ったんじゃない?」
「そんなこと知るか!敵に変わりはねえ!向こうの事情なんか……」
「それ以上は言わないで」
私の冷徹な制止にリスカルは驚いた表情をする。
「『向こうの事情なんか知らない』それは犯罪者と一緒だよ」
「……っっ!!」
「リスカルはもう犯罪者じゃない。たとえ誰であっても簡単に奪っていい命なんてこの世に一つもないよ。そのことを頭に置いて行動して」
「
リスカルは私を数秒見た後。
「わかったよ。確かにお前の言うことは正しいな……」
「それにしても誰と会話してるんだろ……」
声色的にクリファでもルミネイトでもリスターでもない。
「どうやらライアスの後ろにはまだ何かありそうだな……」
「組織の可能性があるってこと?」
「ああ。」
組織……厄介なことにならなきゃいいけど……
『さて……俺はそろそろ最終フェーズに入る。』
『そうか。邪魔したね』
『構わないさ』
そんな会話の後、二人が立ち上がる音が聞こえる。
『それでは検討を祈るよ?』
『ああ。』
それと同時にドアの音もせず、もう一人の声は全く聞こえなくなった。
転移魔法か……
『おい、行くぞ。お前をキメラにしてやろう。可愛い妹庇ったんだからな……?』
妹を庇った……?
もしかしてリスターも私達みたいに気づいた……?
ということは最初の目的はリファだったんだ……
やっぱりリファはリスターから愛されてたんだ。
愛していたからこそ、守るために自分を……
絶対、絶対に助けなきゃ。
「オニキス、分裂した子を呼んで、開けさせて。」
『わかったよ〜!』
「リスカル。私がライアスの相手をする。だから……」
「リスターを助けろ、だな?」
「そう!さすがリスカル!」
「行くぞ。決戦だ!」
私はリスカルの言葉に頷いた。
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リファリアside
遅い。
あまりに遅い。
「カーニャ!」
こんな時はカーニャに聞くのが一番!
「どうかしましたか?」
「ルミ様は?」
「さあ?どうなんでしょうね」
カーニャはとぼけたような声色で言ってくる。
ふと、手元を見ると、料理は二人前しか出されていない。
それどころか作られてすらいない。
「何か知ってるんですね?」
「何故そう思ったんですか?」
「ルミ様とオニキスの分の料理を作っていないじゃないですか」
「帰ってから作ればいいんじゃないですか?」
「いえ、そんなはずはありません」
「何を根拠に?」
「あなたの性格です。」
「私の?」
「はい。あなたはルミ様を非常に敬愛している。ならばルミ様が帰ってくるタイミングで最高の状態の料理を出し、ルミ様がそれを頬張る姿を見て満足するのが日課でしょう?そんなあなたが日課をおろそかにするとは思えません。ですので今日は帰って来ないんじゃないですか?」
カーニャは私の推理を表情をひとつ変えずに聞く。
「リファ様も流石ですね。」
「では、ルミ様がどこに何をしに行ったのか教えてください。」
「リスター様を救いにリヴェルベロ家に行きました」
「お姉様を……?」
「はい。三年前、新たな執事が入ったでしょう?その執事がリスター様に何かしたのではとルミ様は考えておられます」
三年前……?
ラウールのことだろうか。
彼は非常に優秀な執事だ。
そんなことをするのだろうか。
「でも何故、ルミ様が……?」
「相手はホワイトヴァイパーやドラゴンをこのアルタイルの周辺まで近づけさせた黒幕だからです。」
「え……?」
「ルミ様はその方を倒しに向かわれました。無茶な作戦を使って」
「無茶な作戦……?」
私はカーニャからルミ様の作戦の全容を聞いた。
「何故止めなかったんですか!?」
思わず声を荒げる。
「ルミ様なら心配ないと思いまして」
私はその言葉に疑問を覚える。
いつものカーニャなら意地でも止めるはずだ。
「何故止めなかったんですか?」
「さあ?何ででしょうね?」
少し含みのあるような声色で言った。
「もういいです。私は行きます」
そう言って私はアトリエを出て向かった。
「流石、ルミ様ですね……」
私はカーニャのその言葉を聞き逃していた。