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第15話《異変の正体篇》能力と薬

メディスンside

ルミと一緒にお風呂に入った後、私は王宮に戻り、薬の調合に勤しんでいた。

内心焦りながらも作業はしっかり丁寧に。

焦って失敗してしまえば時間は愚か、ルミにまで悪いことが起きる可能性がある。

だから調合だけは何があってもミスをしてはいけない。

としてもこの緊張感。

懐かしい。

それは私が王宮に来て間もない時だった。

「メディ!お願いがあるの!」

「お願い?何かしら?」

「記憶を消す薬を作って!」

「はぁぁ!?」

当時からルミはずっとお転婆だった。

主語が足りないわ、傷の手当てもしないわで、カーニャに首根っこ掴まれて私のところに来るのがお決まりだった。

もちろん、仕事よりも恩人の事を優先する節はあった。

それに気づいたルミから『お仕事は私と同じくらい大切にしてほしい』との要望があったので何でもかんでもルミを優先するのはやめた。

「何で!?なんか嫌なことでもあったの!?」

「ううん!そういう訳じゃないんだけど……」

「じゃあ何で?」

「私ね、『完全記憶能力』っていうのがあるの。」

『完全記憶能力』。

この王宮に来てから医療関係の本を読み漁り、その中で見つけたものだ。

見たものを全て記憶する能力のこと。

「余分な記憶を消したいのね?」

私の問いにルミは頷く。

『完全記憶能力』は凄い力だとは思う。

だけど、それは自分を滅ぼす力でもある。

一度見たことを覚えることが出来る。

それは他の者からすれば畏怖の対象になる。

それに加えて、脳にも限度がある。

限界を超えた記憶は脳を、記憶を失わせる可能性がある。

そのことを知っていてルミは私の元にきたのだろう。

「わかったわ。ちょっと試してみるわね。」

そう言ってその依頼を受けた。

この時の私はまだまだ未熟で、焦っていた。

早く仕上げないと私のことを、家族のことを、自分のことを忘れてしまうんじゃないかと。

そして急いで完成させた試作品1号で事件が起きた。

「これ、飲んでみて?」

「うん!」

ルミは私の渡した薬を飲んだ。

すると激しい眠気に襲われたようで、眠ってしまった。

それから薬の調合などをしているとルミが目を覚ました。

「─────んっ、う〜ん……」

「気分はどう?」

私がそう聞くとむくりと起き上がり、周囲をみて。

「────あなた……誰?それにここどこ?」


─────────────────────


衝撃の一言に尽きた。

私が調合した薬のせいで、ルミは記憶を失ってしまった。

その時の私は焦りから調合を間違え、非常に強力な記憶喪失薬を作り上げてしまっていた。

「ルミ様……?」

カーニャも動揺を隠しきれていない。

「ルミ?それが私の名前?」

あどけない表情でそんなことを聞いてくる。

その瞬間、確信した。

私は死罪になるのだと。

「失礼します。お花を変えに……」

そのタイミングでテイルが来た。

その手には花瓶があった。

テイルは目覚めたルミを見つけると。

「どうです?成功しました?」

そう言ってルミに聞くテイル。

「誰……?」

ルミのその一言に、テイルの手から花瓶が床に落ち、パリーンという音共に割れた。

「メディ……?これは……どういうことですか……?」

テイルは困惑や怒り、悲しみが混ざったような声色で私に言ってくる。

「……っ!申し訳……っ……ございません……」

謝っても許されることではない。

テイルからしてみれば、他所からきた薬剤師が大事な妹の記憶を奪ったのだ。

そして花瓶が割れた音でカルマとマロンも来た。

「どうしました?」

「大丈夫か!?」

「カルマ……マロン……」

テイルは消え入りそうな声で二人の名を呼んだ。

「どうしたんだよ!」

「教えてください!」

二人もただ事じゃないと察したらしく、慌ててテイルに駆け寄る。

そしてその問いにカーニャが震える声で。

「ルミ様が……記憶を失われました……」

カーニャからその報告を聞いた瞬間、マロンが私に掴み掛かってきた。

「おい!!お前の調合した薬はどうなってんだ!!」

「申し訳……っ……ございません……」

私にはただ謝る事しかできなかった。

「あなたの身柄を拘束します。」

カルマは冷徹な、でもどこか悲しい声で私にそう言う。

「……はい」

頷く以外の選択肢が見つからなかった。

私は命を助けてもらった恩人に信頼されていたのに、恩人の大切な記憶を奪ってしまった。

その事実が私の罪悪感を膨らませた。

私は牢屋の中で死のうかとすら思った。

でも、それは逃げだ。

私は逃げずに向き合うと決めた。

だから踏み止まった。

そして判決の日。

目の前には国王様、王妃様、ルミ以外の王女がいた。「メディスン。其方を死罪に……」

国王から判決が言い渡されようとしたその時。

「異議あり!!」

それは聞き慣れた恩人の声だった。

振り返ると真っ直ぐ右手を挙げたルミが立っていた。

「ルミ……?」

「メディは無罪です!お父様!」

メディ。

そう呼ばれた瞬間、涙が溢れてきた。

「ルミ……記憶が……」

「ごめん。心配かけて。」

「「ルミエール!!」」

国王様と王妃様はすぐさまルミに駆け寄り、抱き締めた。

それを追うように姉妹もルミを抱きしめた。

「何で記憶が……?」

「蝶々を追っていたら地面に頭をぶつけまして!」

何ともルミらしい理由だった。

「ルミエールよ、この者を許すのか?」

「許すも何も私が頼んだことだし!誰にだって失敗はあるよ!それにメディならきっと、次は失敗しないよね!」

「ええ!!」


─────────────────────


簡単に纏めるとそんな感じの事件があった。

だから私はそれ以降、どれほど時間がなくて焦っていても、慎重に調合するようになった。

もう二度と、ラウエル家の笑顔を奪わないために。

それにしても、あのクソ探偵が捕まるとは……

栄養、大丈夫かしら……?

生きてる、わよね……?

そんなことを考えながら窓の外を見てると。

「リスカルのこと考えてるでしょ?」

「ふぁ!?」

ルミがいた。

「そ、そそ、そんなわけないじゃない!!」

「え〜?ホントに〜?」

ルミはニヤニヤしながら言ってくる。

「もしかしてリスカルのこと好きなんじゃないの〜?」

ふざけた声色で煽るように言ってくる。

「べ、べべ、別に好きじゃないし!!」

「ツンデレめ〜!」

流石に我慢の限界が来たので、ルミを縛り上げる。

「ちょっ!離してよ!」

「反省するまで許しません。」

私はルミのスリッパを脱がし、裸足にさせ、足裏に液体を塗る。

「くひひひ……ひゃはは……」

足指の間も入念にと!

「な、何塗ったの!?」

「さ〜ね〜?」

私は惚けたように返し、耳栓をして、調合に集中する。

ルミの足裏に塗ったのは痒み薬だ。

縛られてるから自分では掻けないし、反省してくれるだろう。

それから30分ほどで調合は終了した。

ホントに疲れた……

色々試しては失敗を繰り返してきたからね……

さて……

私が耳栓を外すと切実な声が聞こえてきた。

「は、反省しましたぁ……痒いぃ……」

「オニキスはどうしたの?」

「リファと遊んでるぅ……そ、そんなことよりぃ……痒いよぉ……掻いてぇ……」

「人に物を頼む時はどうするんだったけ?」

「か、掻いてくださいぃ……」

「はぁ……仕方ないわね……」

私は自分に付着しないように手袋を着ける。

そして、ルミの足裏をこれでもかと掻く、というより擽る。

「あひゃはははひゃっやはひゃはひゃはっやひゃははひゃははやひゃはは〜くしゅぐったいいいひひひひいいひひひっひひひい〜あひゃはははひゃはっっはやはひゃはやははやはは〜」

これは30分ほどやってやった。

「はぁはぁ……」

「反省した?」

「ご、ごめんにゃさい……」

そう言ってルミは力尽きた。

煽る方が悪い。

でも……

私、リスカルのこと、好きなのかも……

恋心の自覚だった。

でも向こうは私のこと嫌いかもしれないし……

そうだ!既成事実を作れば!!

じゃあ媚薬を盛る?

それとも私が襲う?

まあどっちでもいいか!

襲うのも襲われるのも悪くなさそうだし!

それならまずは自分磨きしなくちゃ!

そんなことを考えながら、将来に思いを馳せるのだった。


─────────────────────


ルミエールside

「────っん、う〜ん……」

煽ったら痒み薬で責められ、擽り倒された。

お陰でパンツぐしょぐしょなんだけど……

私が目を覚ますと勿論、メディの部屋のベッドの上だった。

「目、覚めた?くすぐられて感じちゃう変態さん?」

「うるさい、ババア」

「何か言った?」

痒み薬を手にニッコニッコで迫って来た。

「何でもないですすいません」

あの感じは良かったけど!

流石に連続はキツい。

腰もガクガクだし。

「そうだ!出来たわよ薬。」

そう言って見せてくるのは血のように赤い錠剤が入った瓶。

「おぉ〜!これで揃った!それで?この薬の名前は?」

「《パンドラ》」

「え?」

「だから《パンドラ》!」

「何でその名前?」

「ルミは色んな人に色んなものを贈ってきたでしょ?幸も不幸も全部!」

「なるほど……だから」

パンドラは『全ての贈り物』を意味するからね……

「《パンドラ》か……いいじゃん!気に入った!」

私はその錠剤をギュッと握りしめた。

「この薬は副作用がどんなものでも絶対に渡さないから」

「何でよ!」

「メディの気持ちが今まで以上に籠ってる気がするから」

「そう、でも副作用は教えてよね?命に関わるものだと改善しないといけないから!」

「それくらいわかってるって!」

「わかってなかったから言ってるんでしょうが!!」

「す、すいません……」

「それと!」

「何?」

「どう?記憶の調子は」

「いい感じに調整できてる!薄い記憶から順々に消えていってる感じがする」

「そう……よかった……」

「『失敗は成功のもと』、だね!」

「何それ?」

「意味知らないの?」

私の問いに頷く。

慣用句とかそういう類いのもの知らないんだ……

「失敗してもその原因を追究したり、欠点を反省して改善していくことで、かえって成功に近づくことができるっていう意味だよ!」

「それをそんな短い文で……凄いわね……今度、リスカルを助けて一段落したら教えてくれないかしら?」

「いいよ勿論!これ、本にしたら売れるかな?」

「売れるんじゃない?いい教養として!」

じゃあ今度出版社と掛け合ってみよ!

お金はあっても困らないしね〜

「ルミ。」

「は、はい!」

急に真面目な声で話しかけて来たメディに体が強張る。

「な、なに?」

「必ず、必ず助けて来て。そしてあなたもリスカルも必ず生きて帰って来て」

「勿論。こんなところで死ぬつもりなんて毛頭ないよ!」

その言葉にメディは安堵の表情を浮かべる。

「それにしてもあなたも無茶苦茶な作戦を考えるのね?」

「当たり前だよ!助けなきゃいけない人がたくさんいるから。リスカルだって命懸けでやってるんだから私だって命くらい懸けないと!」

「本当に逞しいわね……」

「そんなに褒めても何も出ないって!」

全ては明日。

明日中にケリを着ける。

そのために事前にリヴェルベロ家からメイドとして内定をもらっている。

さあ、勝負だ……!!


─────────────────────


リスカルside

俺、このまま死ぬのか……?

そんなの嫌だな……

せめて一回くらい誰かとヤりたかったな……

誰が一番いいだろう……

カーニャは……論外だな……

リファも……違うな……

戦乙女パンドラか、メディか……

あれ?何でメディが選択肢に残ってるんだ……?

普通なら戦乙女パンドラ一択だろうに……

もしかして……俺、メディにも惚れてたのか……?

何でこのタイミングで気付くんだよ……

最悪だ……

いつも喧嘩ばっかしてたから心底嫌ってるんだと思ったんだがな……

戦乙女パンドラに関しては……リファ一直線だから振り向いてくれないだろうし、無理にヤれば、リファとカーニャに半殺しだろうな……

はぁ……生きて帰れたらメディにアタックしてみるか……?

遅くなきゃいいが……

ホントに何でこのタイミングで恋心に気づくかな……

でも、生きなきゃいけないな!!

俺は生力を取り戻した。

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