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第12話《姉の異変篇》王女と令嬢

ルミエールside

「───っん、う〜ん……」

私が目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった。

私の部屋……

何でここにいるんだろ……

昨日は確かパーティーに呼ばれて、それでお酒を飲んで……

そうだった……

でも今は……

「頭痛い……」

私は頭を押さえながら起きた。

そして気付いた。

「何で下着!?」

私は急いで布団を捲る。

よかった……誰もいない……

でも……

「足裏真っ黒なんだけど!?」

もしかして私、昨日お風呂に入ってない!?

入らなきゃ!!

私はすぐさま着替え一式を取り出した。

それと同時にドアがノックされ、カーニャが入ってくる。

「ルミ様、おはようございま───」

「お風呂入ってくる!!」

私はカーニャにそう告げ、お風呂にダッシュした。

「元気なことで……」

そんな呟きを聞き逃すほどに。

一刻も早くお風呂に入りたかった。

脱衣所に行くと、すぐさま服を脱ぎ、浴場に入る。

シャワーを浴び、体を洗い、湯船に浸かった。

「ふぅ……」

頭にタオルを乗せ、湯船に肩まで浸かる。

この家のお風呂は一応小さな温泉くらいはある。

さらに温泉の感じを再現しているので床は石畳だ。

洋風建築の中に現れる急な『和』。

意外にいいものだ。

私が一息吐いていると、浴場のドアがガラガラと開かれる。

誰だろう?

湯気で見えない……

カーニャかリファだけど……

この時間ならカーニャは朝ごはん作ってるだろうから……

「リファ?」

「ひゃい!?」

人影はビクリとし、尻餅をついた。

「大丈夫!?」

私は湯から上がって人影に近づいて、手を伸ばす。

「あ、ありがとうございます……」

少し頬を赤らめながら、私の手を取ったのはリファだった。

どうやら正解だったみたいだ。

「リファって朝風呂するタイプだったんだ!」

「いや、それは……」

リファは視線を逸らす。

私が不思議がっていると、意を決したような表情で言ってくる。

「ルミ様に会うなら、清潔にしておきたいので……」

モジモジしながら言ってきた。

何だこの可愛い生物は!?

「あ、あの……体洗いたいんですが……」

「私が洗ってあげるよ!」

「そんな!恐れ多い!!」

「気にしない気にしない!弟子なんだから!」

「弟子なら尚更!」

「いいのいいの!」

そうして私はリファの背中を流し、二人でゆっくり湯船に浸かる。

「気持ちいいね〜!」

「はい、とても」

ふと隣を見ると、胸の膨らみを見つける。

私は自分の胸とリファの胸を交互に見る。

「どうかされました?」

「リファって私と同い年だよね?」

「はい、そうですけど?」

なんて事だ……

私、何でこんなに胸が……

「ルミ様は細くていい体をしてますよね?特に胸周りなんかスッキリしていて動きやすそうです!」

無邪気な雰囲気で私の心を抉りにきた。

「私、中途半端に胸があるのでちょっと邪魔なんですよね……」

「喧嘩売ってんの?」

「違います!!そんなつもりで言ったんじゃありません!」

「わかってるよ〜だ!」

まあ、一旦胸の話は置いておいて。

「なんか距離近くなった?」

そんな気がした。

前よりも感情が増えてきたように見える。

「そう、ですね……近くなったと思います。」

「なんか距離を縮めるきっかけでもあったの?」

「まぁ、一応ありますね」

なんだろう……

するとリファの雰囲気が真面目なものに変わる。

「ルミ様、聞いてもらえませんか?」

「何を?」

「私の事を。」

リファが自分のことについて口に出した。

「いいよ。ゆっくりで構わないから、聞かせて?」

「はい」

そしてリファはゆっくりと口を開いた。


─────────────────────


リファリアside

私の生まれたリヴェルベロ家は伯爵という高い爵位を持つ、優秀な血筋だった。

でも、そこに生まれた私は、姉のリスターに何もかも劣り、勝る部分が一つもなかった。

魔法も、剣術も、体術も、学業も、何もかも。

しかしそんな私にも家族は優しく接してくれた。

劣っていても決して私を責めず、頑張れば褒め、間違いがあれば叱ってくれる。

そんな普通の家族だった。

でも、他の貴族は優秀な血筋に不出来な私がいることが気に食わなかったようで。

『姉の劣化』『失敗作』『存在価値のない令嬢』

そんな罵詈雑言が並べられた。

貴族にとって子供は一つの道具だ、そう考える人たちは多い。

子供の優秀さを見せつけ、爵位の上昇や王族との婚約を狙う。

そういう貴族にとって私は使い道のない道具という訳だ。

だが、私の両親は違った。

子供を道具ではなく、一人の人間として認識している。

だから私の事を罵る事も、こうだったらという願望も口にしない。

でも、異変は起きた。

私は13歳の頃、姉が急に冷たくなり、私に対し、つれない態度を取り始めた。

何度話しかけてみても結果は同じ。

最終的に投げられた花瓶で怪我までしてしまった。

その日から私たちの関係は変わった。

家族なのにどこか余所余所しく、他人のような振る舞い。

姉が好きだった私にとってこの上なく辛い出来事だった。

でも、それでも頑張れば振り向いてくれると信じて三年間頑張り続けた。

しかし、その頑張りで姉が再び振り向いてくれる事はなかった。

その代わり、私に手を伸ばしてくれたのがルミ様だった。

ルミ様の弟子になったのも打算的な理由も少しある。

弟子となり、何かの功績をあげればもう一度、姉に振り向いてもらえるんじゃないかという。

「これが私の全てです。」

私の手は震えていた。

全てを話して、打算的な理由で弟子になった私から手を離してしまうんじゃないか、そんな不安があった。

でも、それは杞憂に終わった。

ルミ様は私の手を取って言った。

「話してくれてありがとう!」

それはもう嬉しそうな表情で。


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ルミエールside

「話してくれてありがとう!」

リファから心中を全て聞き、なんか距離が縮んだなと思った。

でも一つ気になることがあった。

リファと姉のリスターは仲が良かった。

でもリファが13歳の時、リスターが豹変した。

今は16歳。

リスターが変わったのは三年前ということになる。

この三年前というのは怪事件が起き始め、リヴェルベロ家に新たな使用人が入った頃だ。

きな臭い匂いがしてきたな……

後でリスカルに報告しておこう。

「難しい顔してどうかしました?」

「いや、何でもない!ちょっと貴族連中ぶっ潰そうかなって思っただけだよ!」

「何でもなくないじゃないですか!?」

「まあ、冗談だよ!」

「良かったです……ルミ様ならやりかねませんから……」

「私そんなに危ない人!?」

「はい」

「即答!?」

ちょっと辛い。

「だからルミ様は弟子の私が見張っておかないとダメなんです!」

そう言ってリファは私の頬に唇を落とした。

「にゃ!?」

私の顔はみるみる赤くなっていく。

そして、ブクブクブクという音を立てて湯船に沈んでいった。

「ルミ様!?え、ちょっ!?カ、カーニャ!早く来てくださ〜い!ルミ様が溺れてます〜!!」

迅速な対応で助かった。

「───はっ!!」

「気が付きましたか?」

私が目を覚ますとそこは見知った天井、私の部屋だった。

「リファ……私確か……」

「はい、お風呂に沈んでいきました」

「ごめんね迷惑かけて!」

「いいんですよ!それにしても照れちゃったんですか?頬にキスされて」

「なっ……!!」

リファのその言葉に頬を赤らめる。

「顔赤くしちゃって〜!可愛いですね〜!」

「うっさい!ちょっと一人にして!」

「わかりましたよ〜!」

若干ふざけた口調でリファは私の部屋を出た。

私はそれを確認してベッドで悶え始める。

な、なんなの!?

何で急に距離縮めてんの!?

嬉しい!嬉しいけど困惑!!

しかも何であんなイケメンなの!?

対応がかっこよすぎでしょ!?

顔良すぎる……!!

それから30分ほど悶え続けた。


─────────────────────


リファリアside

せ、攻めすぎた……?

ルミ様の部屋から出た私は自室の壁にもたれかかってそんな事を思っていた。

普段ならあんなこと確実にしないのに……

私の全てを聞いて、それでも尚受け入れてくれたルミ様には感謝してもしきれない。

でも、人との距離の詰め方がいまいちわかっていない。

理由は想像できている。

家族以外の他人と深く関わったことがないからだ。

たまに社交会なんかに行ったりはするが、嫌煙されて同年代の貴族の友達もできなかった。

まともに他人と関わったにはルミ様とカーニャが始めてだ。

カーニャに関しては従者という立場があるため、距離の詰め方はわかっていた。

でも同年代の友達であり師匠のルミ様とは距離の詰め方がわからなかった。

だからとりあえず親愛の意味のキスをしたのだけれど、それは攻めすぎだったのだろうか?

でも、ルミ様に怒った様子は見受けられなかったからセーフかな……

照れてるか聞いたら顔を真っ赤にしていたし、それは図星だろう。

でもどこか嬉しそうだったしいいか!

自分の中でとりあえず整理をつけた。

「「「いただきます!」」」

そう声を合わせたのは食卓。

ルミ様の従者はカーニャ一人だけ。

そんな彼女とルミ様は一緒に食事をとるようにしている。

それを見て、ふと疑問に思った。何で従者と一緒に食事をするのだろうか。

別にルミ様を非難しているわけではない。

一般的な貴族は、従者と一緒に食事はしない。

ただ料理を運ばせ、近くに侍らせるだけだ。

でもルミ様はそんなことはしない。

出来た料理は机の上に並べるし、洗い物だって手伝う。

何故この人はそんな事をするのだろう。

そう思った時、無性に聞きたくなった。

「それにしても珍しいですよね?」

「珍しい?」

「はい。従者と一緒に食事をするのは」

「結構今更だね」

「すいません」

「でも、話したことなかったっけ?私がカーニャと一緒に食べる理由」

ルミ様の問いに私は頷く。

「そっか〜!じゃあ話すけど、私とカーニャが一緒に食べる理由はね、『家族』だからだよ」

「『家族』、ですか?」

「そう!私ね、従者も家族の一人だと思ってるの。だからたくさん従者を連れるんじゃなくて、私が『この人がいい!』って決めた人じゃないと従者にしないの。それに私、王位継承権を破棄してるから従者そんなに必要ないから!自分の身の回りのことは自分でするし!従者には私の苦手な事をして欲しいの。それって『家族』じゃない?」

そう言って笑った。

この人は本当にすごい。

従者を『家族』だと思っている。

それなら納得がいく。

家族なら当然助け合う。

「そうかもしれませんね。」

「あ、言い忘れてたけど!リファも私の『家族』だから!!何があっても絶対守るからね!!」

その言葉は本当に頼りになる。

「そんなにカッコいいのにキス一つで恥ずかしがるんですものね?」

「う、うっさい!」

ルミ様は頬を赤らめて抗議してくる。

でも、その声色は何処か優しく、そして柔らかいものだった。

それを見ていたカーニャもニヤニヤと笑みを浮かべている。

そうだ。

これが『家族』だ……

お姉様が変わってしまってからというもの、家族で揃って食事をする事は無くなった。

食事の時も無言だし、食事の時間は苦痛だった。

でも今は違う。

ルミ様とカーニャと、仲良く談笑しながら摂る食事。

この暖かさが『家族』だと思い出した。

私の中で止まっていた時間が再び動き出していた。

でも、リヴェルベロ家の時間は止まったまま、全く進んでいない。

私にもっと力があれば……!!

もっと訓練頑張らないと!!

そう心の中で誓った。


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リスカルside

マズいことになったな……

「お前の目的は何だ?」

俺は今、絶賛大ピンチだ。

油断しちまった……

後ろ手に拘束され、暗い部屋に閉じ込められている。

俺の目の前にはある執事がいた。

三年前、このリヴェルベロ家に入った執事、ラウールが。

「目的などありませんよ?」

あくまで執事というキャラを突き通すべく、丁寧な口調で問いに答える。

一応、変装はバレていない。

「そんなことは聞いていない!!」

そう言ってラウールは俺を蹴りつける。

「くっ……!!」

かなりマズい。

ダメージ自体は大したことはないのだが、戦乙女パンドラに情報を伝えられないのがマズい。

俺が捕まる前に見た情報がある以上、おそらくコイツは──────

だから何としてでも伝えなかればならない。

でも、この部屋には窓も無い。

入り口は正面のドアのみ。

さぁ、どうする、俺!!

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