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第11話《姉の異変篇》ギルドからの呼び出し

ルミエールside

リスカルから変装の技術を教わった後、私はアトリエに戻り、発明するべく引き篭もっていた。

何を発明するかって?

変装を教えて貰ったは良いが、変声は出来なかった。

リスカル曰く、変声には魔力を使うとのこと。

私には魔力が無い。

なのでどこぞの小さくなった名探偵と同じく、変声機を使うしかない。

これも魔石を使う。

魔力の使用量で周波数を変え、声を変化させる。

構造は思いついた。

じゃあどんな形にするかが問題になってくる。

変装した時に違和感が出てもダメだ。

なら出来るだけ、ナチュラルに。

なら、あの博士のお知恵をお借りしよう!

ということで開発したのは《チョーカー型変声機・改》だ。

魔石を薄く加工し、チョーカー型にした。

声を変える仕組みとしては感圧式出力調整システムを導入している。

チョーカーをなぞると出力が変わる。

右に行けば行くほど出力は落ち、逆に左に行けば行くほど出力が上がる。

出力が小さいほど声は高くなり、出力が大きいほど声は低くなる。

大まかに言えばこんな感じだ。

さらに目立たない様に肌の色と遜色ない色に仕上げた。

「よし!ちょっと試してみよう!」

私は変声機を首につけ、鏡で見てみる。

うん、いい感じだ。

次は性能だけど……

カーニャの声を出してみようかな!

変声機を調整してカーニャの声にする。

「んんっ!」

一旦咳払いする。

「ルミ様、起きてください。」

おぉ!ちゃんとカーニャの声になってる!!

じゃあ次はメディの声にしよ!!

「ルミ!なんで言わなかったの!」

すごいすごい!

ちゃんと変わってる!

じゃあ次は……

そうして私は変声機で二時間ほど遊び続けた。

そうだ!ついでにリスカルにあげた《魔石発信機》を作っとこ!

《魔石発信機》は魔石に特定の魔力を充填しておき、その魔力に反応するレーダーを作ることで発信機の様な機能を得られる。

今回は私の魔力を込める。

前回はリスカルの魔力を込めた。

魔力を充填すると言っても、薄型の直径2cmほどの円形ものに入れるので微量だ。

《魔力探知》というこの道具の不特定多数バージョンがあるのだが、それにさえ引っ掛からない微量なものだ。

だが、欠点もある。

同じ魔力を込めたものの同時使用が出来ない。

理由は単純明快。

レーダーといっても、コンパスの様なもので、一方向しか指せない。

そのため二方向になれば壊れる。

この《魔石発信機》は小さいので一日ほどしか保たない。

そのため回収する必要はない。

「出来た!」

完成したものを《多重次元収納ポーチ》にぶち込んでいると、ドアがノックされた。

「どうぞ〜!」

「失礼します、ルミ様」

カーニャだった。

どうしたのだろう。

「何か用?」

「はい、速達で冒険者ギルドから手紙来ました。」

「速達で?」

私はカーニャから手紙を受け取る。

ドラゴンの買い取りかな?

そう思い、手紙を開くと。

『ルミ様、緊急事態発生だ。至急、冒険者ギルドに来てくれ。カインズ』

と、簡潔な文が書かれていた。

とりあえず行くか!

「カーニャ、ちょっと出かけてくる!」

「わかりました。お気をつけて」

「うん!」

私は一通り装備を整えて、外へ出る。

もう夜だった。

とりあえず、《シエル》に跨り、冒険者ギルドへ向かう。

それにしても気になる。

こんな時間に呼び出すとは余程の事だろう。

早く行かなきゃ!!

私は《シエル》の速度を上げて、急行する。


─────────────────────


「何があったの!!」

私が勢いよくギルドのドアを開けると、パンパンとクラッカーが開いた。

この世界にクラッカーを持ち込んだのは私だ。

それでギルドのみんなに『これはお祝いする時に使う道具だよ〜!』と渡していたものだ。

家族の誕生日とかに使って欲しくて渡したんだけど……

なんで使ってるの!?

完全に脳がフリーズした。

「ルミ様?大丈夫ですか?」

「ルミエール様が固まったぞ!?」

「こりゃ珍しい!!」

「しっかりしろ!!」

カインズが私を揺らして、フリーズが解ける。

「はっ!状況が呑み込めなくてフリーズしちゃった!」

「じゃあ改めて……」

「「「ドラゴン討伐おめでとうございます!!」」」

一回目に発射しなかった人が持っていたクラッカーが発射される。

「緊急依頼じゃなくて?」

「はい!今回、ルミ様をお呼びたてしたのはこの『ルミエール様、ドラゴン討伐おめでとうパーティー』のためです!!」

「パーティー?」

私は周囲を見回して言う。

周囲にあるのは酒、酒、酒。

祝いの料理ではなく、酒。

私のパーティーとか言ってる割に、自分が飲みたいだけなんじゃないだろうか。

そんなことまで思ってしまう。

おそらく当たっている奴が大半なので、彼らのためにも黙っておく。

「これ、パーティーじゃなくて酒飲みの集いの間違いじゃない?」

「ま、まぁ!料理だってあるんだ!見ろ!」

そう言って提示された料理は唐揚げに焼き鳥、煮魚。

「酒の肴じゃねえか!!」

私の盛大なツッコミがギルド内に響き渡った。

「ルミ様はお酒を飲んだ事はありますか?」

私は未成年だ!

そう言おうと思ったが、この世界に未成年飲酒禁止法は存在しない。

なので飲むには飲める。

一つ、懸念点があるとすれば、アルコール度数だ。

ビールやワインなどの比較的度数の低いものならいいのだが、テキーラやウォッカ、ラムなどの高いものは危なさそうだ。

しかも、この世界の酒はワインか否か。

それだけで区別されている。

冒険者の中では、酔いやすいやつ酔いやすくないやつ、そんな甘い認識なのだ。

正直言ってすごい帰りたい。

でも、みんなの好意を蔑ろにするわけにはいかないので酒は飲もうと思っている。

「飲んだことないから初挑戦してみようかな!」

「「「うおぉぉ!!」」」

「がんばれ!ルミエールちゃん!」

「酒にハマるなよ〜?」

出来上がった連中が、砕けた口調で言ってくる。

正直酒臭いが嬉しい。

こうやって砕けた口調で話してくれるのはメディとリスカルくらいだ。

カーニャは仕方ないとして、リファがまだ少し距離を取っている気がする。

彼女に取って人と関わるのは自分の能力の低さを示すことになる。

だから、慕ってはいるが完全に心を開いているかと言われると悩むところだ。

ドラゴン討伐に行く時に、私に対する本音は聞けた。

でも、それはリファが背負っているものではない。

彼女はそれを話してはくれない。

私も無理に聞くつもりはない。

彼女が話したいと思った時に話して貰おうと思っている。

まぁ、それは今は置いておいて……

「目一杯楽しむぞ〜!!」

「「「おぉ〜!!」」」

私はこの世界に来て、初めてお酒を手にした。

匂いはビールに近い感じがする。

アルコール度数はそこまで高くなさそう。

これならいけそう!

そう思い、一口飲んだ。

そして気づいた。

私、酒めっちゃ弱い……

一口飲んだだけで体は熱くなり、頭がフワフワしてきた。

「熱い……」

そして私はまず、靴を脱いで裸足になる。

次に装備を外し、服に手を掛けて脱ぎ捨て、下着姿になった。

「ルミ様!?」

「あはは〜!楽しいね〜!」

この時の私は完全に酔っていた。

「盛り上がれよ〜!」

「「「うおぉぉぉ!!」」」

私は下着姿でギルド内を動き回っていた。


─────────────────────


リファリアside

ルミ様に《アムールエスパーダ》を頂いてからずっと考えていた。

私はこの剣に相応しいのだろうか。

私はルミ様の隣に立てるのだろうか。

あの方の笑顔は本当に眩しい。

それを曇らせる者は全て死ぬべきだと思っている。

でも、私の能力が低いせいでルミ様の笑顔を曇らせてしまうかもしれない。

そう思うと中々距離を詰められない。

詰めていいのか戸惑う。

ベッドの上に寝転がり、そんなことを考えているとドアがノックされた。

「どうぞ」

「失礼します。」

「カーニャ?どうしたんですか?」

「ルミ様が冒険者ギルドに向かいました。」

「戦いに行ったんですか?」

「いえ、パーティーに出席なさいました。」

「パーティー?」

「はい。ルミ様がドラゴンを討伐したことを記念したサプライズパーティーです。」

「そうですか。でも何故知っているんですか?」

「別の手紙が来ていたので」

そう言ってカーニャは一通の手紙を取り出す。

「ですが少し嫌な予感がします。」

「嫌な予感?」

「相手は冒険者です。何をするかわかりません。」

「それは偏見じゃないですか?」

「そうかもしれませんね。でも冒険者のパーティーが普通の貴族の様なものだと思いますか?」

「……いいえ」

「ですのでルミ様は調子に乗ると思います。」

カーニャの言うことは容易に想像がつく。

「ですが、自分でなんとか出来るのではないでしょうか?」

私のその言葉にカーニャは横に首を振る。

「冒険者の飲み物はお酒です。ルミ様はお酒に弱いのです。」

「ルミ様はお酒を飲んだことがあるのですか?」

「いいえ、ありません。」

「では何故……?」

「消毒をした際に皮膚が赤くなっていましたから。」

「消毒とお酒は何か関係が?」

「ルミ様曰く、二つの物の中の成分が一緒とのことで、皮膚が赤くなればお酒に弱いとのことです。」

「それを本人は覚えているのですか?」

「“本来なら”覚えているはずですが、実際のところはわかりません。」

『本来なら』というところに引っ掛かりを覚えたが一旦流しておこう。

「で、私に何かして欲しいことがあるのですね?」

「はい。リファ様にルミ様を迎えに行って欲しいのです。」

「何故私が?」

「おそらく、色々あると思うので。」

カーニャの考えていることは読めない。

でも、カーニャは正しいことが多い。

「わかりました。迎えに行ってきます。」

「行ってらっしゃいませ。」

私はルミ様を迎えに冒険者ギルドに向かった。

念のため、武装もしておいて。


─────────────────────


「ルミ様!!」

私が冒険者ギルド内に入り、そう叫ぶと注目が私に向く。

「あ!リファだぁ〜!」

そんな声と共にルミ様は私に抱きついてくる。

「なんで下着姿なんですか!?」

「えっとね〜?熱かったから〜!」

顔の赤いルミ様がいつもよりもフワフワとした雰囲気を漂わせ、言ってくる。

足元を見れば、足裏は土踏まずと足指の根本を除いて真っ黒になっていた。

「全く……あなたという人はいつもいつも……」

そんなことを言おうとした時、私の頬にチュッという音がする。

「え……?」

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」

何故かそれに大盛り上がりの冒険者達。

「私はリファと仲良くなりたいのぉ!でもぉ、リファ、なんか私と距離がある感じがするぅ!リファが何を背負ってるのかわからないけどぉ!話して欲しいぃ!無理にとは言わないけどぉ!」

ルミ様、そんなことを思っていたんだ……

確かにルミ様を私は『信頼』している。

でも、それは口先だけと分かってしまった。

口先だけならいくらでも言える。

心から信頼していなかった。

心のどこかで、私のことを話せば、ルミ様も他の人と同じく私から離れていくんじゃないか、そう思っていたのだろう。

私はそのことに自覚がなかった。

だから自分の事を話さなかったんだ。

一通り思考を巡らせた後、ふと見るとルミ様は眠っていた。

「おやすみなさい、ルミ様。」

そう言って私はルミ様の頭を撫でた。

「どなたか、ルミ様の服を持ってきて頂けませんか?」

「はい!」

受付嬢が反応し、私の元に持ってきてくれる。

「ありがとうございます。では失礼します。」

私はルミ様をお姫様抱っこし、服で体を隠して、ギルドを出た。

外で待ってくれていた馬車に乗り込む。

「お待たせしました。出てください。」

そして馬車は王宮に向けて走り出した。

私は向かいにルミ様を寝かせ、ルミ様の寝顔を見ていた。

この人の私に対する本音を聞いてしまった。

でも、その本音は私がルミ様に『本当の信頼』を寄せることが出来る重要なパーツになった。

そして私は心に決めた。

この人に、ルミエール=ラウエル様に、私のことを聞いて貰おう、もっと知って貰おうと。

「明日、お話ししますね。私の全てを。」

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