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第6話《弟子と始まり篇》弟子の思惑

リファリアside

「リファリア!ルミエール様から返事が来たぞ!」

「どうでしたか!?」

お父様は私に手紙を渡してくる。

開くと、

『クリファ=リヴェルベロ殿。手紙拝見致しました。面会の件ですが、お受け致します。日程に関してですが、私はいつでも構いません。お好きな日程でお願い致します。』

と書かれていた。

「許可していただけました!」

「そうか!!」

お父様は嬉しそうな表情を浮かべる。

すると、ドアがノックされる。

「旦那様、失礼します」

そう言って入ってきたのは使用人だ。

「どうした?」

「奥様と執事長様がお目覚めになりました」

「「本当ですか!?」」

私とお父様はすぐさま、お母様とバトラーのいる部屋に向かった。

「「お母様ルミネイト!バトラー!」」

「二人とも騒がしいわよ?」

「落ち着いてくださいませ、妹様、旦那様」

二人とも上半身を起こし、元気そうにしていた。

「よかったです……」

「傷は殆どないと医者に言われたのよ?」

「奇跡とまで言われてしまいましたね。私たちの記憶ではかなり出血していたはずなのですが……」

バトラーは苦笑しながら言った。

「そうでしたか……」

私はホッと胸を撫で下ろした。

「そういえばあの子は?」

「見ていないな……」

あの子というのは私の姉、リスター=リヴェルベロのことだ。

お姉様は最近、執事と共によくどこかに出掛けている。

お父様たちがどこに出掛けているのかを聞いても『お父様達には関係ない』の一言で終わらされる。

お姉様の行方も気になるが今は目の前のことだ。

「お母様、バトラー。私とお父様と一緒にルミエール様と面会して頂きたいのです!」

「ルミエール様に?」

「何故ですか?」

「少し気になることがありまして」

もしハイオークキングを倒したのがルミエール様ならお礼を言わないといけないし、二人を助けてくれたのもルミエール様の可能性がある。

ならば確実に恩人だ。

それに告白とあの最後の発言。

『好き……』

『ねえ!君、私の弟子にならない?』

この二言が頭の中をグルグルと駆け巡る。

この二つの発言は私をリヴェルベロ家の人間と知っていての発言なのか。

それならば何故、優秀な姉よりも価値のない私が選ばれたのか。

それとも適当にリヴェルベロ家を勢力に取り込みたいのだろうか。

一番有力なのは勢力に取り込むっていうのだけど……

それなら結構納得がいく。

他の王女様ではなく、第四王女のルミエール様が私を選んだのも、優秀な姉を取り込んでしまうとリヴェルベロ家の後継ぎがいなくなる可能性があったからで、それに加えて価値の無い私が行くに相応しいのはテイル様やカルマ様、マロン様よりもルミエール様の方がということなのだろう。

ルミエール様は表舞台に立つことは中々無い。

一応、リヴェルベロ家は伯爵家だ。

取り込んでおいて損はないのだろう。

元々私に選択肢など無いのだ。

だが、引っかかるのはあの方の告白だ。

政略的なものがあるとすればあの発言は一体なんだったのか。

それが今のところ唯一の謎だ。

だが、これもご本人に会えば解決するだろう。

そう思い、面会の日程を設定させて頂いた。


─────────────────────


面会当日がやってきた。

私は目の前に国王様を見据えていた。

緊張が凄い。

空気が少し張り詰めているような感じだ。

そんな時、ドアがノックされる。

『失礼します、お父様』

そしてガチャリとドアが開き、ルミエール様が入ってくる。

「ルミエール、こっちだ」

「はい」

お淑やかに返事をし、国王様の隣に座る。

ルミエール様の後ろにはあの時、テイル様の誕生祭で見た従者がいた。

それにルミエール様の雰囲気がこれまでと異なっていた。

誕生祭で見た時より、落ち着きが増している。

今のルミエール様を見ているとあの時見たルミエール様と違う気がした。

「本日は娘の願いを聞いて頂き、誠にありがとうございます。」

「リファリア=リヴェルベロです。」

「父のクリファです。」

「母のルミネイトです。」

「執事長のバトラーです。」

私たちは頭を下げる。

「頭を上げよ。」

国王様に言われ、頭を上げる。

そして、

「それで用件は……」

私が面会を望んだ用件を話そうとすると。

「ああっ!!」

そう言ってルミエール様は元気いっぱい私を指差した。

ビ、ビックリした……

「この前の女の子じゃん!!それにあの時の女性と執事さんも!!なんか見たことあると思ったらリヴェルベロ家の人だったんですか!!」

その発言ですぐにわかった。

あの時、ハイオークキングを斬ったのは確実にルミエール様だと。

でも、私の予想は外れていた。

ルミエール様が私を選んだのに政略的な意図は全く無かった。

むしろルミエール様は私がリヴェルベロ家の人間であることを忘れていた。

「お前!!忘れていたのか!?」

「はい!カルマ姉様に言われるまで完全に記憶から消えていました!」

満面の笑みで堂々と宣言する。

そこまで来て、ようやく私の知っているルミエール様が垣間見えた。

その直後だった。

国王様はルミエール様の頭に拳を振り下ろした。

「いった〜……!!酷いですよ!お父様!娘に向かって暴力なんて!」

ルミエール様は頭を抑えながら涙目になって国王様に抗議する。

「貴様がクリファたちを忘れていたからだろうが!!せっかく毎年毎年お前の誕生祭に来てくれる数少ない貴族なのだぞ!!忘れる奴があるか!!」

国王様もルミエール様の耳を掴み上げ、耳元で言う。

「ご、ごめんなさい!だから耳元で叫ぶのはやめてぇ!!」

「落ち着いてください」

ルミエール様の従者の一言で国王様は冷静さを取り戻す。

「あ、あぁ……悪いな、取り乱してしまった」

当のルミエール様は数秒の間、倒れ込んでいたが、復活する。

「それでは改めて用件を聞こう」

「はい。」

確証を得るんだ。

ルミエール様は政略的な意味で私にあの提案をしたという、確証を。

そうすれば、きっと──────

「単刀直入に聞きます」

私の言葉に、ルミエール様はビクリとする。

そんなに怖かっただろうか。

「は、はい!」

「ハイオークキングを倒したのは貴方様ですか?」

「ハ、ハイオークキングだと!?」

「この前、森に出たというアレか!?」

国王様とお父様は驚きの表情でルミエール様を見る。

そんなのお構いなしに私は淡々と告げる。

「はい。私が気を失う前、ルミエール様がそこにいらっしゃった気がしたんです」

「ルミエール、どうなんだ?」

国王様はルミエール様に詰め寄る。

「はい、倒しましたけど?」

ルミエール様はさも当然かのように答えた。


─────────────────────


「それにしても《ファンタズムエッジ》の切れ味が良すぎて一撃で倒しちゃいましたけど!」

「い、一撃ぃ〜!?」

国王様は卒倒そうになっていった。

そんなことよりも私には《ファンタズムエッジ》という聞き慣れない単語が引っ掛かった。

なんだろう……

一旦流しておこう。

それともう一つ気になることも聞いておかないと。

「そういえば、お母様とバトラーはどうして助かったのでしょうか?」

「それも私だね!」

ルミエール様は意気揚々と答えた。

どうやって助けたのだろうか。

「それはどういうことでしょうか?」

ルミエール様には魔法は使えなかったはず……

「ハイオークキングを倒した後、生存者の確認のために確認しに行きました。その時、馬車の下敷きになっていたお二人を発見して、引きずりだした後、《即効完全薬》を飲ませて、冒険者ギルドに救援と報告を。」

またまた聞きなれない単語が出てきた。

流石に流すわけにはいかず、聞き返す。

「《即効完全薬》、ですか?」

「はい。カーニャ」

従者の名を呼ぶとカーニャと呼ばれた従者は瓶を取り出す。

「こちらに。」

そう言うと机にコトンと置いた。

一見すればそれはただの薬となんら変わらない。

「鑑定してもよろしいでしょうか?」

「はい。」

お父様の質問にルミエール様が答える。

それを聞いた後、お父様はそれを手に取り、バトラーに渡す。

この中で《鑑定》の魔法を使えるのはバトラーだけだ。

「《鑑定》。」

それを見たバトラーは額に汗を浮かべる。

「これは……!!」

「どうしたの?バトラー?」

お母様がバトラーに聞く。

「奥様、こちらの品、白金貨30枚は下らない一品です……!!」

「「「はぁ!?」」」

国王様と両親の反応が一致した。

「本当にお前という奴は……」

「大丈夫です!漏洩してないので!」

そういう問題じゃないと思うんだけど……

「全く……」

国王様は呆れた様に言った。

「では改めて、ルミエール様、私とリファリアとバトラーを助けて頂きありがとうございました。」

お母様はルミエール様にお礼を言って頭を下げる。

「いえいえ!ギルドから要請を受けたから行っただけです!」

ルミエール様って……

「ギルドから要請……?あなたは一体……」

「私はミスリルクラスの冒険者です!」

ルミエール様は懐からカードを出して言った。

「本当ですか!?ルミエール様が冒険者だというのは!」

お母様は驚愕していた。

「あぁ、本当だ……だが本人も真面目にやっているし、許可している。まさか、ミスリルまでいくとは思わなかったがな……」

「そうですか……」

『はぁ〜』と国王様はため息を吐く。

ここが勝負。

ここが踏ん張り所。

ここでルミエール様の意図がわかれば……

「それともう一つ」

「まだ何かあるのか?」

国王様の問いに答える。

「はい。助けて貰った際、好きだと告白して頂き、その上、弟子にならないかと誘われました」

私の発言に国王様は憤怒の表情を浮かべ、ルミエール様に食いかかる。

「ルミエール!!貴様、リヴェルベロ家のことを覚えていないと言ったな!!」

「は、はい!」

「まさか、リヴェルベロ家の人間と知らずにそんな声を掛けたのか!?」

「は、はい……」

「馬鹿者!!」

再び国王様はルミエール様に拳を振るう。

「痛いですぅ!!お父様ぁ!!」

「お待ちください!国王様!」

私の言葉に手を止める。

これで確証が持てた。

ルミエール様は政略的な意味や同情、憐れみなんかで私に声を掛けたんじゃない。

この方は、ルミエール=ラウエルは私の、リファリア=リヴェルベロの能力ではなく人間性を見て声を掛けたのだと。

「告白については置いておいて、弟子の件についてはお受けしたいと思います」

「待ってましたぁ!!」

ルミエール様は勢いよく立ち上がった。


─────────────────────


ルミエールside

「ほ、本当にいいのか!?よく考えたのか!?」

お父様は若干焦りながら答える。

「はい。十分に考えました。」

「本当か!?この馬鹿娘の弟子だぞ!?何されるかわからんのだぞ!?」

「あ!お父様酷い!!そんなこと言わないでくださいよ〜!」

「馬鹿者!本当のことだろうが!」

そう言ってまたゲンコツが飛んできた。

「いったぁ〜!また殴った〜!」

頭を抑えながら抗議する。

「誘われた時からずっと考えていました。ずっと、ずっと……」

その時、一瞬リファリア嬢の表情が曇った気がした。

何か抱えてるのか……

「リファ、それはあなた自身の望みなのね?」

「はい、お母様。」

「そう、ならあなたの思うままにやってみなさい」

「はい!」

「じゃあ、よろしくね!リファリア、いや……リファ!」

私はリファの手を取り、微笑んだ。

「はい!」

この日が私とリファの関係の始まりだった。

この出会いがこの世界を救い、お互いの溶けるはずのなかった氷を解かすことになる。

「じゃあ引っ越しの準備をしないと!」

「引っ越し、ですか……?」

「そう!弟子になるってことは私と一緒に暮らすってことでしょ?だから忙しくなるよ!」

私はリファの手を取り、応接間を出る。

「さぁ行こうか!愛弟子よ!」

「ちょ、ルミエール様ぁ!!」

意気揚々と出発した。


─────────────────────


その日中に引っ越しは終わり、部屋は私の隣だ。

よほど疲れていたのだろう。

お風呂や食事を終えるとすぐに眠ってしまった。

「君は一体、何を抱えているの?」

私は眠るリファの頬を触りながら、そう呟いた。

「話せる時が来たら、話してね?」

それだけ言って私は部屋を出た。

よし!じゃあ続きをしよう!

何の続きかって?

それは……

カーニャへの仕返しを込めた悪戯グッズだ。

今作っているのは靴型のくすぐりマシンだ。

何故くすぐりを選んだか、その理由は単純だ。

カーニャの笑った顔が見たい。

だから狙うは朝。

寝起きは警戒なんてしてないだろうし!

いつもやられている分のお返しするくらいなら別に問題ないよね!

寝起きのカーニャくらい余裕だろう、そう高を括っていた。

この後、あんなことになるなんて思わなかった。

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