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第5話《弟子と始まり篇》この力、どう思う?

リファリアside

ある日、私、リファリア=リヴェルベロはラルジュ王国の王都、アルタイルに戻るために森の中を通っていた。

そんな時だった。

馬車が大きく揺れた。

「どうしたのですか!?」

「奥様、妹様、お逃げください!!ハイオークキングです!!」

「なんですって!?」

お母様もまた驚きの声をあげる。

執事も驚愕の表情のまま固まっている。

本で読んだことがある。

ハイオークキングは高ランクの冒険者でさえ、一人では苦戦するほどのモンスターだ。

「なんでそんなのがこんなところに!?」

「わかりません……ですが近衛兵が足止めしている間に……うわぁぁ!!」

報告していた近衛兵もハイオークキングに殺される。

「グルオォォ!!」

「リファ!あなたは逃げなさい!!」

「ですがお母様!!」

「早く!!」

私は馬車から降り、逃げる。

後ろの様子を見ると馬車は潰され、私に狙いを定めた。

逃げなきゃ!逃げなきゃ!

私の逃走方向には剣が転がっていた。

それを念の為に拾い上げ、どんどん走る。

だが、あまり走ったことがないせいで、疲れるのが早い。

遂には行き止まりに間で追い詰められた。

背後には木があり、もう逃げようがなかった。

ハイオークキングに対して剣を向ける。

私……ここで死ぬの……?

嫌だ……!!

こんな……こんなところで……!

誰か……誰か助けて……!

ハイオークキングは大きく振りかぶり、私を殺そうとした時。

「せいやぁぁ!!」

その掛け声と共にハイオークキングは真っ二つになり、ドサリと倒れた。

「───え?」

あのハイオークキングが一撃で?

誰が斬ったの……?

私が討伐者を見た瞬間、

「好き……」

「え!?」

二つの意味で驚きの声が出た。

一つは『好き』と直球に告白されたこと。

そしてもう一つは、

「ねえ!君、私の弟子にならない?」

───ラルジュ王国第四王女、ルミエール様が目の前にいたこと。


─────────────────────


ルミエールside

やべ、思わず好きって言っちゃったし、下心だけで弟子にならないとか言っちゃった!

そのせいかわかんないけど固まっちゃってるし!

私は《ファンタズムエッジ》を収納しながらそんなことを思う。

「えっと……」

気がつけば女の子は気絶していた。

緊張の糸が切れたのだろう。

どうしよう……

そうだ!とりあえず近衛兵たちに生き残りがいないか確認しないと!

私が左手のブレスレットをタップすると上空で待機していた《シエル》が飛来する。

私は《シエル》に跨り、様子を見にいく。

「この人もダメか……」

近衛兵は全滅だった。

さすがに正面からハイオークキングにメンチ切ったなら生きてる可能性はほぼゼロだよね……

あと見てないのは……

「馬車……」

私は馬車の方に行くと、かすかに息の音がする。

見ると執事と女性が一人いた。

二人とも馬車の破片がギリギリ守ってくれたようで、なんとか生きながらえていた。

私はすぐさま馬車だったものを除け、楽な体勢に変える。

こんな時に役に立つのは……

私は自作の薬を取り出す。

名付けて《即効完全薬》だ。

私はそれを二人に飲ませる。

すると鼓動、脈拍ともに安定し、呼吸も落ち着いた。

「よかった……」

でも、この女性の顔、どっかで見たことある気がするんだけどなぁ……

とりあえず冒険者のみんなを呼んでおくか。

私は一旦冒険者ギルドに戻り、救援を頼んだ。

「───ということなんだ!」

私はあの女の子と女性と執事の事を冒険者のみんなに話すと快く引き受けてくれた。

その中の一人が、出て行く時に一言。

「あとは俺らに任せて、ルミエール様は戻っていいですよ!研究もあるんでしょうしね?」

「ありがとう!じゃあ、後よろしくね!」

なんていい人たちなんだ!

この日、私はルンルン気分でアトリエへと戻った。


─────────────────────


リファリアside

「───っん、う〜ん……」

気がつくと私は家のベッドにいた。

「よかった……目が覚めて……」

お父様は涙ながらに言ってくる。

「お父様……」

だんだんと思考がはっきりしてくる。

「お母様たちは!!」

そう言って私は勢いよく起き上がる。

「ルミネイトは無事だ。執事のバトラーも。だが、近衛兵は全滅していたようだ。」

「近衛兵はダメでしたか……」

だが、お母様とバトラーは助かった。

その事実だけで十分に安心できた。

「それにしても、誰が私たちを?」

「冒険者の皆さんだ」

「そうでしたか……ルミエール様はいらっしゃいましたか?」

「ルミエール様ってあの第四王女の?」

「はい」

「いるはずがない。彼女は第四王女なのだから!」

「そうですか……」

じゃああの時見たルミエール様は夢……?

それにしては妙に現実感があったような……

確かめてみないことには始まらない!

「お父様、ルミエール様に面会の申請をしてください。」

「別に構わないが……どうしたんだ?」

「確かめたいことがあるので」

「わかった。」

「日程に関してはお母様とバトラーが目覚めたらお願いします。」

「任せておけ!」

そう言うとお父様はゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋を出ていった。

もしあの時ルミエール様が助けてくれたのなら、もしあの弟子にならないかという宣言が本当なら……

私は──────

私、リファリアはリヴェルベロ伯爵家の次女として生まれた。

姉とは昔は仲が良かった。

だが、最近は嫌われているようで、口も利いてくれない。

おそらく、全てにおいて姉の劣化版だからだと思う。

姉は出来るのに私には出来ない。

そんな私にイライラが募り、口も利かなくなったのだろうと思っている。

そのせいで私は周囲からの評判が悪い。

『姉の劣化』『失敗作』『存在価値のない令嬢』……

そんな心無い言葉で私は傷ついた。

でも、それでもお父様とお母様は優しくしてくれた。

同情からだろうか、たとえそれが憐れみから来ているものだとしても構わない。

私に優しくしてくれるだけで十分だ。

私が十歳の時、ルミエール様に出会った。

それはテイル王女殿下の誕生祭でのことだった。

他の祭り事にも行けたはずだがやはりお父様達は私を連れて行きたがらない。

これも同情や憐れみだろう。

私が傷つかないようにという。

だが、一度は行ってみたかった私は意を決して行ってみた。

そこで見たのがルミエール様だ。

あの方は誰よりも自由で誰よりもやんちゃだ。

そんな彼女は魔法が使えない。

使えて当たり前の物が使えない。

それを見て貴族達は『欠陥品』『理から外れた王女』などと嘲笑した。

それでも尚、彼女は笑っていた。

従者と楽しそうに。

その笑顔は無理をしているわけではない、心からの笑顔だった。

それがわかった時、『かっこいい』と感じていた。

私は全然笑えなかったのに。

あの方は『強い自分』を持っているのだと思った。

それがあの方の、ルミエール=ラウエルの第一印象だ。


─────────────────────


ルミエールside

私がアトリエで作業をしていると、設置した呼び鈴、現代では言う、インターホンがなった。

「誰だろ……」

私が玄関を開けるとそこには、

「カルマ姉様?」

「はい!カルマ姉様です!」

「今日は何の用でしょうか?何か開発して欲しい物が?」

「いえ、そういうわけではないんですよ?」

「ルミ様、立ち話もなんですので中へ」

「あっ、そうだね!カルマ姉様、中へどうぞ!」

「そう?ではお邪魔しますね?」

私とカルマ姉様はリビングで相対するように座った。

「発明じゃないならなんでここに?」

「これを。」

そう言って差し出してきたのは私宛ての手紙。

差出し人は……

「クリファ=リヴェルベロ……?」

この人……

「誰?」

「覚えてないんですか?」

「全然知らない……」

「伯爵家の人ですよ!よく誕生祭で見る!」

むむむ、と思考を巡らせる。

この世界の誕生祭は来るか否かは参加者側に委ねられる。

だから貴族の中には誕生祭で人望を測る輩もいるらしい。

私はそういうのは嫌いだ。

な〜んか聞いたことあるんだよな〜……

『完全記憶能力』を持ってはいるのだが、記憶がパンクしない様にある人にある薬を処方して貰い、古い記憶を消している。

だが聞いたことがある以上、なんとなく思い出せる。

「あ!あのダンディーなイケおじ!」

「イケおじ……?」

疑問を覚えているカルマ姉様は放っておく。

思い出した。

私自身、魔法が使えないということで、結構な人数来てくれないのだが、このリヴェルベロ伯爵家の方々は必ず来てくれる。

「あの人か〜!でもあの人が何の用だろ?」

そう思い、私は手紙を開ける。

そこには、

『ルミエール=ラウエル様。急なお手紙失礼致します。この度、我がリヴェルベロ家の次女、リファリア=リヴェルベロが貴方様と面会したいと申しております。面会を許可していただけますでしょうか。』

と言う文面だった。

「私と面会、ねぇ……」

最初は婚姻の話かと思ったが、次女と書かれている時点でその線は消えた。

ならなんでご令嬢が私に会いたいのだろうか。

まさか、『魔石』のことがバレて、言わない代わりに体を要求してくるの……?

いやいや、会ったこともないご令嬢が私に体を要求するなんてことは考えにくい。

なんだ!なんなんだ!?私は必死に頭を回転させるが、納得できる結論が出ない。

「とりあえず、会ってみるか……」

私は早速、返事を書いた。

『クリファ=リヴェルベロ殿。手紙拝見致しました。面会の件ですが、お受け致します。日程に関してですが、私はいつでも構いません。お好きな日程でお願い致します。』

これでいいかな!

私は早速、封をして、カーニャに渡す。

「これをリヴェルベロ伯爵家にお願い。」

「承りました」

カーニャはアトリエを出ていった。

「それにしても、ルミっていつもふざけている割に、ちゃんとする時はちゃんとしますよね〜?」

「メリハリは大事ですから!それを言うならカーニャだってそうだと思いますよ?」

「それもそうですね!そうだ!夕食まで時間もありますし、アトリエを見せてくださいよ!」

「いいですよ!行きましょうか!カルマ姉様!」

「はい!」


─────────────────────


面会の日、私は応接間のドアの前に立ち、三回ノックする。

「失礼します、お父様」

私は応接間に入る。

応接間ではお父様とリヴェルベロ家の方々が向かい合って座っていた。

「ルミエール、こっちだ」

「はい」

私はお父様に手招きされ、横に座る。

「本日は娘の願いを聞いて頂き、誠にありがとうございます。」

「リファリア=リヴェルベロです。」

「父のクリファです。」

「母のルミネイトです。」

「執事長のバトラーです。」

そう言って一家は頭を下げる。

「頭を上げよ。」

「それで用件は……」

「ああっ!!」

イケおじしか見てなかったから気付かなかったけど……

「この前の女の子じゃん!!それにあの時の女性と執事さんも!!なんか見たことあると思ったらリヴェルベロ家の人だったんですか!!」

「お前!!忘れていたのか!?」

「はい!カルマ姉様に言われるまで完全に記憶から消えていました!」

私がそう言うと、ゴツンという音ともに頭が痛くなる。

「いった〜……!!酷いですよ!お父様!娘に向かって暴力なんて!」

「貴様がクリファたちを忘れていたからだろうが!!せっかく毎年毎年お前の誕生祭に来てくれる数少ない貴族なのだぞ!!忘れる奴があるか!!」

「ご、ごめんなさい!だから耳元で叫ぶのはやめてぇ!!」

「落ち着いてください」

「あ、あぁ……悪いな、取り乱してしまった」

カーニャに言われ、なんとかお父様は落ち着いてくれた。

「それで改めて用件を聞こう」

「はい。」

そう返事をしたのはあの時助けた女の子、リファリア嬢だ。

それにしても可愛いな……

やっぱお嫁さんに欲しいな……

「単刀直入に聞きます」

そんなことに気を取られた私はビクッとなった。

「は、はい!」

「ハイオークキングを倒したのは貴方様ですか?」

「ハ、ハイオークキングだと!?」

「この前、森に出たというアレか!?」

「はい。私が気を失う前、ルミエール様がそこにいらっしゃった気がしたんです」

「ルミエール、どうなんだ?」

「はい、倒しましたけど?」

私の言葉にリファリア嬢以外のメンツが開いた口が塞がらないいった表情で私を見る。

「それにしても《ファンタズムエッジ》の切れ味が良すぎて一撃で倒しちゃいましたけど!」

「い、一撃ぃ〜!?」

お父様は卒倒しそうになっていた。

「そういえば、お母様とバトラーはどうして助かったのでしょうか?」

「それも私だね!」

「それはどういうことでしょうか?」

「ハイオークキングを倒した後、生存者の確認のために確認しに行きました。その時、馬車の下敷きになっていたお二人を発見して、引きずりだした後、《即効完全薬》を飲ませて、冒険者ギルドに救援と報告を。」

「《即効完全薬》、ですか?」

「はい。カーニャ」

「こちらに。」

私は机の上に瓶を置く。

「鑑定してもよろしいですか?」

クリファさんが言う。

「はい。」

私がそれを許可するとクリファさんはそれを手に取り、バトラーさんに渡す。

「《鑑定》。」

おぉ〜!

バトラーさんも《鑑定》使えるんだ〜!

私の発明、特に効果がわからないシリーズはある人に《鑑定》を使って貰って中身を把握している。

「これは……!!」

「どうしたの?バトラー?」

「奥様、こちらの品、白金貨30枚は下らない一品です……!!」

「「「はぁ!?」」」

お父様とリファリア嬢の両親のリアクションが一致した。

「本当にお前という奴は……」

「大丈夫です!漏洩してないので!」

「全く……」

「では改めて、ルミエール様、私とリファリアとバトラーを助けて頂きありがとうございました。」

そういって頭を下げてくれるのはリファリア嬢のお母さん。

「いえいえ!ギルドから要請を受けたから行っただけです!」

「ギルドから要請……?あなたは一体……」

「私はミスリルクラスの冒険者です!」

懐からカードを出して言った。

「本当ですか!?ルミエール様が冒険者だというのは!」

「あぁ、本当だ……だが本人も真面目にやっているし、許可している。まさか、ミスリルまでいくとは思わなかったがな……」

「そうですか……」

『はぁ〜』とお父様はため息を吐く。

「それともう一つ」

「まだ何かあるのか?」

「はい。助けて貰った際、好きだと告白して頂き、その上、弟子にならないかと誘われました」

「ルミエール!!貴様、リヴェルベロ家のことを覚えていないと言ったな!!」

「は、はい!」

「まさか、リヴェルベロ家の人間と知らずにそんな声を掛けたのか!?」

「は、はい……」

「馬鹿者!!」

再びお父様のゲンコツを受ける。

「痛いですぅ!!お父様ぁ!!」

「お待ちください!国王様!」

リファリア嬢の言葉に手を止める。

「告白については置いておいて、弟子の件についてはお受けしたいと思います」

「待ってましたぁ!!」

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