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第3話《弟子と始まり篇》この女、王女で冒険者!

武器を作ったはいいが、私が何故金属の加工技術を持っているのかを気になる人もいるだろう。

その理由は私に、ルミエール=ラウエルに由来する。

私には『完全記憶能力』が備わっている。

『完全記憶能力』とは自らの目で見た光景を全て記憶することのできる能力のことだ。

おかげで三歳の時にお父様と一緒に見学しに行った鍛冶場の工程を覚えていた。

一見するとすごい能力に感じる。

だが、この能力にはデメリットが存在する。

それはなんでもかんでも記憶してしまう。

このせいですぐに記憶できる限界が来る。

今のところ、そんなことは起きていない。

しかし、起きてしまえばバグってしまう可能性がある。

それを考えるとどうにかして古い記憶を消していきたい。

なので記憶を消す薬は開発済みだ。

古い記憶を消すと言っても、かなり難しかった。

おそらくだが技術や常識は刷り込まれているので消えないだろう。

消す力が強すぎてしまえば記憶喪失状態になる。

まぁ、前世のことを断片的にしか思い出せない時点で半分記憶喪失みたいなものだけれど。

一度、完全に記憶喪失になったことはあるけど。

「行ってきます!!」

武器を一式装備し、いつも通り素足履きして、カーニャに挨拶をし、あるもの片手にアトリエを出る。

今日、私が向かうのは冒険者ギルド。

個人的にすごく楽しみだったりする。

玄関を出た私はあるものに跨る。

魔法使いと言えば?

そう、箒だ!

この箒もまた魔石を利用している。

感圧型のシステムを使用しており、私が乗ったと同時に空へと飛べるようになってる。

この感圧型のシステムにはさらなる利点がある。

左右の体重移動で方角を変えられる。

さらには速度まで。

だが、何の加工もない箒に跨り続けると股に柄が当たり、擦れて気持ち……じゃなくて痛い。

なのでクッションになるように柄に魔石から魔力を流している。

魔力、マジ便利。

一応名前も付けている。

《シエル》。

『空』を飛べる私だけの魔法という由来だ。

サイズも変更できるようになっていて普段はキーホルダーほどのサイズ感で武器たちと一緒に腰につけている。

ちなみに左腕にはブレスレットがあり、それをタップすることで箒が飛んでくる。

何らかの原因で箒が手元にない場合のためだ。

「準備よし!行くぞ〜!!」

すると《シエル》は空に向かって飛ぶ。

機動実験はいくらかしているので問題はない。

数えきれないほど落ちたけど……

風が気持ちいいな〜!

そんなことを思いながら、冒険者ギルドへと向かった。


─────────────────────


冒険者ギルド前に到着した私は降りて、箒をキーホルダーほどのサイズにし、腰につける。

そして一息置いて、冒険者ギルドの扉を開ける。

一応バレないようにフード付きローブを着用してきた。

扉を開け、中に入る。

するとこそこそ話す声が聞こえる。

「誰だあれ?」

「わかんねえよ」

「新人だろ?」

「男と女どっちだと思う?」

「どうせむさ苦しい男だろ?見ろよ、あの胸。ぺったんこだぜ?」

おい、喧嘩売ってのんか。

そんな言葉が出た掛けたが飲み込んでおく。

ま、まあ、確かに胸は小さいけど?

び、Bカップくらいあるし?

ぜ、全然気にしてないし?

ちなみにアトリエに帰って測ったらAAカップだった。

死にたい……

今はそんなことは置いていて!

私は冒険者ギルドに敷かれた大きなレッドカーペットの先にある、受付目指して歩いていく。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

受付嬢はニッコリを笑い、私に問いかけてくる。

それに対して私は出来るだけ顔が見えないようにフードを深く被り、その質問に答える。

「新規登録したいんですけど」

「はい!わかりました!では、こちらの用紙に必要な情報を記入してください!」

そう言って受付嬢はバインダーに挟まれた一枚の紙と筆記用具を渡してくる。

そこには名前、年齢、生年月日、冒険者以外の職業を記入する欄があった。

勿論、注意事項の所に『虚偽の情報を記入し、提出した場合、厳罰に処する』と書かれていた。

流石に王女が捕まるわけにもいかないので、事実を書いていく。

「これでいいですか?」

記入し終わった用紙を受付嬢に提出する。

「はい!」

すると、めんどくさいのが絡んできた。

「よおよお!新人か?やめとけ!死んじまうぞ?」

「記入内容は大丈夫ですか?」

「えっと、名前はルミエール=ラウエル様……」

少し不思議そうな表情を浮かべる受付嬢。

まぁ、無理もない。

「似た名前なだけですよね……?」

受付嬢と絡んできた輩は額に冷や汗を浮かべ、少し引き攣った顔する。

私は敢えて無視する。

「えっと……年齢は13歳で、生年月日は6月14日……」

ここでいう6月14日というのは地球上での暦のことでこの世界の暦では少し違う。

「冒険者以外の職業は……だ、第四王女!?」

受付嬢は目を大きく見開いて、そして大きな声でそう言った。

「「「はああぁぁぁぁ!?」」」

その時、ギルド内にいた全員が驚愕の声を上げる。

「し、新人!嘘はいけないなぁ?」

どうやら絡んできた輩は信じたくないようだ。

仕方ない……

「合ってますよ!」

そう言うと同時に、フードを脱ぐ。

すると絡んできた輩は固まった。

「お〜い、大丈夫ですか〜?」

私は輩の目の前で手を振る。

「す、すす───」

「す?」

「すいませんでしたああああ!!」

絡んできた輩は私が王女だとわかった途端、土下座した。

それはそれは見事な土下座だった。

「頭上げてください!」

「え?怒っていないんですか?」

「何を怒ることがあるんです?あなたは冒険者の危険性を新人を教えただけじゃないですか!」

「ルミエール様……」

「おいおい!何の騒ぎ……ってルミエール様!?」

冒険者ギルドの二階からダンディーなおじさまが降りてきた。

「どちら様ですか?」

「い、一応、このギルドのギルドマスターをしているカインズです。」

「改めまして、ルミエール=ラウエルです!」

私は服の裾を持ち上げ、挨拶する。

「今日はどのような御用で?」

「ギルドマスター、それが……」

受付嬢は私の提出した用紙をカインズさんに見せる。

「ルミエール様、あなたが何故?」

「ダメでしたか?」

「いえ、そういうわけではないんですが……」

「まぁ、理由としては将来の為、でしょうか?」

実際そうだし、そう答えておこう。

「そうですか……」

「で、私は冒険者になれたんですか?」

「いえ、まだですね。とりあえず私に着いてきてくれますか?」

「はい!」


─────────────────────


私はカインズさんに着いていく。

カインズさんは階段を登り、二階の一番奥の部屋、『ギルドマスター室』のドアを開く。

「どうぞ、狭い所ですがお入りください」

「失礼します」

『ギルドマスター室』は14帖ほどの大きさだった。

片側の壁には本棚が中には沢山の資料が入っていた。

もう一方の壁には絵画が飾られており、部屋の中心には低めの机とそれを挟むようにソファーが配置されている。

そしてその奥にはカインズさんの仕事机と椅子が置かれている。

私とカインズさんは向かい合うように座る。

「で、本気なのですか?ルミエール様」

「その前に一つ」

「な、なんでしょうか!」

カインズさんは体を強張らせる。

「私に敬語は不要です。それとルミエールではルミと呼んでください!」

「ですが!!」

「私がいいと言っているのです!」

「わ、わかった……ルミ様」

「よろしい!」

「それと俺も敬語は不要だ。それと呼び捨てでいい!」

「わかった、改めてよろしく、カインズ!」

「あぁ!」

私とカインズは握手する。

「それで、話の続きだ」

「私は真剣です。」

私の目を見て、真剣さが伝わったらしくカインズさんは。

「わかった。だが、ちゃんと試験は受けてもらうぞ?」

「勿論!で、試験って?」

「模擬戦だ」

話を聞くと、試験官との模擬戦に勝利する必要があるらしい。

ちょうどいい。

「で、試験官は誰?」

「俺だ」

「え?」

「ルミ様を他の訳のわからんやつに任せられるか!」

「一応部下でしょうに……」

結構酷いこと言うカインズさんにツッコミを入れる。

「あ、手は抜かないで下さいね?」

「え?あ、あぁ!」

「魔法とかもじゃんじゃん使ってくださいね!」

「だが……」

「その代わり、私の魔法も使っていいですか?」

「ルミ様の?」

「そう!」

「それは一体……?」

「それはやる時のお楽しみだよ〜!」

私は悪戯っ子のように微笑んだ。


─────────────────────


ギルドの裏側にある試験場。

そこで私はカインズと対峙していた。

この試験場には観戦できるような小部屋がある。

何故かその部屋は満員だった。

そんなに気になるかな?

「悪い!待たせたか?」

木剣を携えたカインズが試験場に来た。

「全然待ってないよ!」

よくある定型文で返答する。

「さぁ、やろうか?」

そう言ってカインズは右手に木剣を持つ。

なるほど、魔法は左手で使うつもりなんだな〜?

私はまず、《ラファールランス》の真ん中を取り出し、空へ投げる。

そして残り二つの部分を取り出し、真ん中が目の前に落ちてきたタイミングで三つを連結させる。

「なんだそれ!?」

「私の魔法その1だよ!」

「殺す気か!」

「大丈夫だよ!ちゃんと寸止めはするから!」

すると、観客席から。

「ボコボコにしてやってください!ルミエール様!」

「ルミエール様、がんばってください!」

「やっちまってください!」

冒険者の冗談が聞こえてくる。

「お前ら!今度報酬減らすぞ!」

「じゃあ私が勝ったら今日はお酒飲み放題にしてあげて?」

「しょうがねえな……」

私の要求をカインズが飲んだことで、観客席は大いに盛り上がる。

「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」

「マジで頑張ってください!ルミエール様!!」

思った以上に盛り上がったな……

「さぁ、始めるか!」

「えぇ!!」

私はランファールランスを振り回して構える。

「行くよ!」

私は攻撃圏内まで距離を詰め、槍を振り回す。

それをカインズは軽々と避ける。

「ふっ!!」

私が足元を狙うと、カインズはジャンプする。

「それを待ってました!」

私はランファールランスを地面に突き立てる。

そしてそれを支えにして、カインズに蹴りを入れる。

「くっ!!《エアロブラスト》ッ!」

カインズは風魔法を使ってくる。

私はすぐさま、太ももの投げナイフを投げる。

しかし、魔法に吹き飛ばされる。

ダメか!

私は槍を投げ、カインズが避けると同時に距離を取る。

そして右腰から《クレシェンテアルク》を取り外し、弓形状に変える。

「はぁ!?」

「すごいでしょ?驚くのはまだ早いよ!」

私は《シエル》を腰から取り外し、サイズを拡大する。

「箒!?なんで!?」

「こうするためだよ!」

私は箒に立ち乗りする。

それと同時にボタンを押し、弦と矢を生成する。

「行くよ!」

私は箒で移動しながら、弦を引く。

まず一発放つ。

こういう時のために、私は動きながら的を射抜く練習、すなわち流鏑馬もどきをこの世界でやった。

おかげでほぼ狙い通りに射抜けるようになった。

今回狙ったのはカインズの頬。

狙い通りに掠め、カインズの頬には血が滲む。

「マジかよ……!」

カインズが驚いている間にもう一発放つ。

「くっ!!」

カインズは木剣で受け切ろうとするがそれも不可能で、木剣は折れる。

そこに一瞬の隙を見出し、私は左手に弓を持ち、箒から飛び降る。

カインズとの距離を詰めながら、左腰から右手で《ファンタズムエッジ》を取り外す。

そしてボタンを押し、カインズの首元ギリギリまで近づける。

「降参だ」

そう言ってカインズは両手を上げる。

「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」

観客席も大いに盛り上がっていた。

「ふぅ……」

私は一息吐き、全武器を収納する。

「なんだよあれ!魔法使えないんじゃなかったのか!?」

「私は使えないままだよ?」

「弓と剣なんてあれ、明らかに魔法を使ってただろ!」

「そうだね〜!」

「なんなんだあれは!」

「あれは私の発・明・品!」

「発明品?」

私はカインズに『魔石』について話した。

「マジかよ……なんてものを開発してんだ……」

「これは企業秘密、ね?」

「あぁ、軽い戦争になりかねんからな……」

「で、試験は?」

「勿論、合格だ!」

「やった〜!」

「俺の部屋で待っていてくれ」

「わかった!」

私は言われた通り、部屋へと戻ったのだった。

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