「よし!無事に戻ってこれたね〜!」
クリムに旧王宮の建て直しを頼んだ後、私は一旦王宮に戻っていた。
お母様にも、お父様にもバレなかったし!
「じゃあ今のうちに行こっか!」
その時、背後から声がする。
「どこへ行くのかしら?」
その声に体が強張った。
うっそ〜ん……
お母様に見つかってしまった。
「じゃあルミエール?お話しましょうね〜!」
あまりに怖い笑顔を浮かべたお母様に、私は首根っこを掴まれ、連れて行かれた。
「カーニャ〜!助けて〜!」
カーニャは引き摺られていく私をみて、手を前に突き出し。
───思い切り、サムズアップをした。
「ふざけんなぁ〜!!」
「そんな言葉遣いを教えた覚えはありません!」
「ご、ごめんなさ〜い!!」
カーニャめ、許すまじ!
今はそれより……
この状況を何とかしなければ……!!
目の前には腕を組み、鬼のような形相を浮かべるお母様。
当の私は靴を脱いで、床に正座し、萎縮していた。
「で?何か弁明はあるかしら?」
「えっと……私は旧王宮を建て直すためにクリムのところに行ってただけだから私は別に怒られる道理は無いかな〜って思います……」
私は今にも消え入りそうな声で言う。
「何で王宮のみんなに頼らなかったのかしら?」
「……みんな忙しいかな〜……って……思って……」
「もし誘拐されたらどうするつもりだったのかしら?」
「えっと……それは……」
私は必死に弁明しようとするが、足が痺れ始め、限界が来ていた。
「それに何で靴下を履かないの!」
「それは……靴下が嫌いで……裸足の方が……開放的で……!!」
あ、もう無理。
私は前方へと倒れ込んだ。
「あ、足がぁ……!」
「全く……お仕置きが必要なようですね?」
「お、お仕置き……?」
「えぇ!」
そう言ってお母様は倒れ込んだ私の脚の上に乗る。
「ちょっ……ま、まさか……!!」
「想像通りよ!」
お母様の手が私の足裏に伸びる。
そして───
「ひゃあぁぁぁ!!」
「いい反応ね〜!」
痺れている足を突かれ、くすぐったい。
「ま、待って……!あ、謝りますから……!それ以上は……!」
「ダ〜メ!」
オワタ \(^o^)/
そこから散々、突かれた。
「いひひひひひ!!」
靴下の上からならまだしも、裸足だ。
やばい。
非常にくすぐったい。
昔からくすぐりには弱い。
だが、悪くない。
やるかやられるかで言うとやられる方が好きだ。
だから個人的にはお仕置きにはなってない。
まぁ、この時の私は舐めていた。
これから私の発明するものが自分の首を絞めるとは思わなかった。
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「は、はは……ははは……」
私が許されたのはそれから三十分後だった。
個人的には凄く良かった……/////////
「まぁ、この辺で許してあげましょう!」
「す、すいませんでした……」
「頼んだ以上、断るのも忍びないのでお金は払っておくわね!」
「あ、ありがとうございます……」
お母様はそれだけ言って部屋から出ていった。
「だから言ったじゃないですか」
「カーニャ!!」
私はカーニャに詰め寄る。
「何でさっきは助けてくれなかったの!」
「サラン様に逆らうのは得策ではないと思いましたので」
「主人よりも自分優先か!」
「はい」
「即答か!」
そしてカーニャは私の耳元で。
「でも責められてる時、私は悦んでいるように見えましたが?」
「なっ……!!」
図星を突かれ、思わず顔が赤くなる。
何で!?見られてたの!?
そんな会話をしていると。
「カーニャ、ルミに意地悪しすぎてはいけませんよ?」
「カルマ姉様!」
振り返るとそこには第二王女のカルマ姉様がいた。
「相変わらず仲が良いですね!」
「そうですか?」
「まぁ、専属メイドですし!」
因みに専属メイドが居るのは私だけだ。
「それにしてもなかなか自由なことをしましたねぇ?」
「まぁ、こっちにも色々あるんですよ……」
「わかりますよ?私もルミみたいに自由になりたいです……」
カルマ姉様は少し羨ましそうに呟いた。
「カルマ姉様……」
「気にしないでください。そうだ、食事に呼びに来たんでした!」
本来の目的、忘れないで〜……
そんなことを思いつつも私は食卓に座る。
「やっと来た!何してたのよ!」
少し強めの言葉を掛けてくるのは第三王女のマロン姉様。
「目的を忘れてお話ししてたんですよ〜!」
ははは〜とカルマ姉様は笑う。
「本当にあなたは忘れっぽいですね……」
少し呆れ顔で言うのは第一王女のテイル姉様。
「それにしてもルミもルミよね!」
「わ、私ですか!?」
意外な事に魔法が使えない私のことを嫌うどころか、むしろ好かれている。
「まさかお母様を恐れず街に行くとはね〜!」
「流石、最も自由な王女ね!」
「えへへ〜!」
「全く……」
お母様は若干呆れていた。
まぁ、気にしないでおく。
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翌日、クリムが来た。
もちろん、大工をたくさん率いて。
「さぁ、みんな!今日は大仕事だ!この旧王宮をルミエール王女殿下のアトリエに建て替えるんだ!生半可な仕事をした奴はぶっ殺す!いいな!」
「「「はい!!」」」
なんか物騒な単語が聞こえてきたけど聞こえなかった事にしておこう。
そして全員が仕事に取り掛かる。
私はみんなの仕事ぶりを見て絶句した。
化け物じみた速さで移動し、化け物じみた力で重いものを持ち、化け物じみた技術で精巧なアトリエを作っている。
「流石ですね。」
「うん……ヤバいね……」
語彙力が喪失した。
「あっ、カーニャ、みんなにお昼ご飯用意してあげて!」
「わかりました。」
私のオーダーを受け、カーニャは一旦下がる。
何であんなに凄い速さで動けるんだろ……
もしかして、身体強化魔法?
「凄いなぁ……魔法……」
そんな言葉が聞こえていたのか、クリムは少しバツが悪そうな表情を浮かべる。
第四王女の私が魔法を使えないのは有名な事だ。
「お待たせしました。」
その声と共に、料理とお茶を持ってカーニャが戻ってきた。
「みなさん!ご飯ですよ〜!」
「「「ありがとうございます!!」」」
大工たちは一旦作業を中断して食事を取る。
作業開始から三時間。
アトリエの四割が出来上がった。
日が暮れるまで後六時間。
一時間あたり約1.3割進む。
なら残り六時間もあればちょうど終わるだろう。
───そう思っていた時期が私にもありました。
「出来たぞ!」
食事を取ってから三時間後。
まさかの完成を迎えた。
確かに今回のリフォームの範囲はそこまで広くない。
だが、午前中よりペースアップするのは聞いていない。
「クリム、いくら何でも早くない?」
「まぁ、飯まで貰ったんだ!午後なんかより気合が入るに決まってんだろ?じゃあ中を案内するぜ!」
「わ、わかった!」
因みに、崩れて邪魔だった旧王宮の一部は撤去されている。
中に入るとなかなかに素晴らしい快適空間が広がっていた。
6LDKほどのサイズ感。
「パーフェクトだよ〜!」
一階は吹き抜けになっており、リビング、ダイニングキッチン、トイレ、お風呂がある。
二階には部屋が六室ちゃんとある。
私とカーニャの部屋は吹き抜けを挟んで向かい合う位置にある。
さらに部屋のドアにはルミエールとカーニャの文字が刻まれた札が掛かっている。
そして地下に私のアトリエがある。
アトリエの壁には色々な耐性を付与してあるらしい。
さらには備え付けの倉庫まで。
開発した発明品を置いておける。
「クリム、最高の仕事だよ!」
「そりゃ手なんて抜けるわけがないからな!」
こうして私のアトリエ兼住宅が完成した。
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アトリエが完成し、想像以上の物を提供してくれたのでお母様には少し金額を水増しして請求しておこう。
早速私とカーニャは荷物をアトリエに搬入した。
「はぁ〜!ゆっくりできるとこ来た〜!」
私は自室に行き、靴を脱いでベッドにダイブする。
おふ!ふっかふっか〜!
あ〜……寝ちゃいそ〜……
ウトウトし始めた時。
「ひゃぁぁぁ!!」
足裏を触られた。
「いい感度してますね」
「カーニャ!!」
私が振り返るとそこにはカーニャがいた。
「何で触るの!」
「触られるのが嬉しいのかと思いまして」
「う、嬉しくなんかない……」
どんどん声が尻すぼみになっていく。
「へぇ、そうなんですね」
カーニャはすごい興味なさそうに言う。
「あ、食事の準備が出来ましたよ」
「食事はついで感覚!?」
「ルミ様を揶揄うのは私の趣味ですから」
うん、いい性格してるよ、ホント
私はベッドから降りる。
そして靴を履かず、裸足のまま下へ降りる。
「ルミ様、裸足のままではなく、せめてスリッパを履いてください」
「えぇ〜!ダメ〜?」
「はい、履かなければわからせます」
とんでもないことを平然と言ってのけたカーニャ。
わ、わからせられる……?
主人が従者にわからせられる、そんな状況を想像しただけで少し、胸が高鳴ってしまう。
「それも悪くないかも、そう思っていますよね?」
「なっ……!」
図星を突かれ、私の顔は熱を発する。
そしてカーニャはゆっくり近づいてきて、耳元で揶揄うように、そして色っぽく囁く。
「変態♡……」
「カ、カーニャ!!」
「どうしますか?」
「は、履きます……」
私はカーニャに素直に従う。
逆らえないなぁ……
主人なのになぁ〜……
もう少し大きくなったら仕返ししないと!!
そう堅く誓った。
それから十年後、それが間違いだったと気付く事になる。
だが、それはまだ少し先の話。
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「出来た!これで私の武器は全部完成だ〜!」
私はルミエール=ラウエル、13歳。
記憶を取り戻してから8年が経った。
この8年間、私は発明し続けた。
色々と。
武器は沢山開発して、沢山壊した。
何故武器を開発していたのか。
その理由は冒険者になるためだ。
王位継承権を破棄した今、いつ王宮を追い出されても問題ないように自立した生活をしたいと思っている。
そのためには自分で稼ぐルートが必要だ。
発明で食っていくルートもあるが、万が一、発明が売れなかった場合に備えて、冒険者になっておいて損はない。
だから武器を揃える必要があった。
しかし、一種類の武器では色んな状況に対応できない。
例えば、剣だけだと遠距離戦が正解の敵や、破損した場合に対応できない。
え?じゃあパーティーを組めばいいじゃないかって?
一応、私は第四王女だ。
冒険者ギルドで登録する時、偽名がバレれば資格剥奪。
そんなことにならないように本名で登録する。
そしたら起きるのは二パターン。
パターン1。私とパーティーを組むなんて恐れ多いと逃げる。
パターン2。お金目的で近づいてくる。
この二つの可能性がある以上、一人で戦った方がいい。
カーニャを連れて行ってもいいが、できるだけ危ない目には遭わせたくない。
なら、私が沢山の武器を持つことによって様々な状況に対応できるようにすればいい。
そう言う結論に至り、沢山の武器を開発した。
簡単な牽制などの様々なことに使える投げナイフ。
これはシンプルな投げナイフで、使い捨てだから特に名前をつけてはいない。
ナイフを収納出来るよう太ももにつけるホルスターも開発済み。
ホルスターには六本のナイフを装填しておける。
中距離戦のために開発したのは槍だ。
これは使い捨てにはしないのでちゃんと名前をつけてある。
《ラファールランス》だ。
これは槍術の突きの練習している時、起きた風が『突風』のように感じたことからつけた。
持ち運びに適さない槍だが、私はその問題点を解消した。
槍を三分割し、背面の腰に装備している。
一度組み立てればそう簡単には外せない。
連結の機構を簡単に説明するとすれば、金属同士の噛み合いだ。
木材を釘なしで強固に連結する『相欠き継ぎ』。
それを応用しただけだ。
外す時は少し捻り、連結部を押すと簡単に外れる。
少し捻らないといけない以上、戦闘中に外れることは稀だ。
これは実際に槍術の練習に使ってわかった。
むしろ、わざと外す戦法も取れる。
そして遠距離の為に開発したのが弓だ。
もちろん名前もつけている。
《クレシェンテアルク》だ。
弓のシルエットが『三日月形』に見えることからつけた。
弓もまた、移動の際邪魔になることが多い。
そんなことを改善する為に折り畳めるようにしている。
リムの中心、リムの根元、レスト、ハンドルの部分で折り畳めるようになっている。
じゃあ矢はどうするのか。
持ち運ぶには嵩張る。
ということで開発したのが『魔力保存機構』。
見た目が石っぽいので私は『魔石』と呼んでいる。
魔石本体、もしくは魔石から出る魔力に触れることで魔力を吸収する。
この魔石は一度魔力を充填すれば一ヶ月は持つ。
そして何よりこの機構の素晴らしいものは自然の摂理をシステムに組み込んでいる。
前にも言ったと思うが、この世界の人は絶対に魔法が使える。
それは動物やモンスターにも言える。
また、魔法を使う為には魔力が必要だ。
これもまた動物やモンスターに言える。
冒険者という仕事はモンスターを倒すことが多い。
この性質を利用して本体に埋め込んでいる。
クリッカーに近い部分にボタンがあり、それを押すことで魔力で出来た弦と矢が生成される。
矢は放つと数秒のラグの後、再生成される。
放出量を調整するのが難しく、時間が掛かった。
外出する時は右腰に着けている。
最後に開発したのが今、目の前にある近接戦用の剣だ。
これにも名前があり、《ファンタズムエッジ》という。
ネーミングにも理由がある。
シンプルな片手剣というテーマにしたのだが、剣先や鞘が引っかかりやすいのは探索なんかには向いていない。
それを考え、剣先は短剣のようなほどな長さにした。
それじゃ意味なくない?
そう思ったあなた、正解です!
このままでは純粋な剣として使用が出来ない。
だからエネルギーで剣先を形成する仕組みにすれば短い状態でも関係ない。
『幻想の剣先』を持つ剣、だからあのネーミングだ。
内部からが無理なら外部からの何かで剣先を形成すればいい。
そう、『魔石』だ。
先述の性質を利用し、魔石を短剣部分に使用した。
こうすることでモンスターを斬った時、魔力を吸収できる。
じゃあどうやってエネルギーの剣先を展開するのか。
これまた仕組みは単純。
剣先の根元の近くにあるボタンを押すと剣先が展開される。
放出量を調整するのが難しく、これもまた時間が掛かった。
外出するは左腰に付けている。
「さて!次は……」
冒険者ギルドだ!