「ルミエール!!大丈夫かルミエール!!」
「誕生日になんてこと……!!」
「早く医者を!!」
私はルミエール=ラウエル。
ラルジュ王国の第四王女。
そして転生者。
思い出してしまった。
それにしても転生か……
前世は何やってたっけ……
まぁ、そんなことどうでもいいか……
今はこの人生を楽しむか〜!
周囲の使用人やら両親やらが慌てふためく中、私は空を見ていた。
綺麗な空……
やっぱ魔法があるなら飛びたいよね〜!
あ、やば、意識なくなりそう……
「ルミエール!ルミエール!しっかりして〜!!」
お母様のその言葉を最後に私の意識は飛んだ。
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「───っん、う〜ん……」
「目が覚めましたか?」
「うん」
私に話しかけてくれるのは専属メイドのカーニャだ。
年は私より十歳ほど歳上なのだが、あまりに大人びている。
何だろうこの違い……
そんなことは置いておき、気がつけば私の頭には包帯が巻かれていた。
そりゃそうか!
ベランダから落ちたんだもんね〜……
私はむくりと起きる。
「ルミ様?」
カーニャにはルミエールじゃ長いのでルミと呼ぶように言っている。
「ちょっとお父様のところに行ってくる!」
「は、はぁ……」
ベッドから出て、スリッパを履く。
そして国王、もといお父様であるレザンの元に行く。
目的は一つ。
「お父様、失礼します。」
私はお父様の部屋のドアをノックし、部屋に入る。
「おぉ!ルミエール、目が覚めたか!」
「はい!どれほど眠っていましたか?」
「二日だな!」
結構寝てたな……
「わざわざ報告に来てくれたのか?」
「それもありますが言っておきたいことがありまして!」
「───?」
「恐らく私が王になることはないと思いますけど、念のため王位継承権を破棄します!」
「はぁぁ!?」
「それと男性と結婚する気もありません!」
「はぁぁ!?」
「私はどちらかというと女性の方が好きです!」
私は俗にいう、レズビアンだ。
だから男性には一切興味ないし、結婚するなら女性派だ。
「なので同性婚の法令を作ってください!」
「はぁぁ!?」
「お父様!さっきから『はぁぁ!?』しか言わないのやめてください!私は真剣に話しているんです!」
私はお父様の机をバンと叩く。
「こっちだって真面目に反応しとるわ!」
お父様はそう言って、私の頭にゲンコツが落ちた。
「いたぁ!ひどいです!お父様!」
私は殴られた部分を抑え、その場にしゃがみ込む。
「騒がしいわね!ってルミエール!起きたの!?」
そう言って部屋に入ってくるのはお母様のサランだ。
「はいぃ……心配をおかけしましたぁ……」
私は殴られた部分を抑え、涙目になりながらお母様に言う。
「どうしたの?まだ痛いの!?」
そう言ってお母様はしゃがんで私の頭を撫でる。
「いえ……先程、お父様に殴られました」
「おい!」
「あ〜な〜た〜?」
お母様は怒気の籠った声でお父様を呼びながら、ゆらりと立ち上がる。
「は、はい!」
あまりの迫力にお父様は思わず敬語になる。
「回復したばかりのルミエールを殴ったですって?それは本当かしら?」
「は、はい……」
「そう……あなたが怪我している娘に手を出すクソ野郎だったとは思いませんでしたわ?」
「それには少し誤解が……」
「聞いてあげますわよ?私があなたをボコった後でね?」
「ル、ルミエール!サランに説明しなさい!」
お父様は私に状況を打開させようとする。
「はい!お父様!」
私の返事に安堵の表情を浮かべるお父様。
しかし、次の瞬間、一気に顔が青ざめる。
「私が真面目な話をしたら殴られたのです!」
「お、おい!!」
「なんですって!?あなた、それは許されないわよ?」
「いや!違う!誤解なんだ!」
「何が誤解なのかしら?」
「えっと……」
お父様は言葉に詰まる。
事実を言っている以上、どうしようもない。
「言い残したことはないかしら?」
「待ってくれぇ!!」
お父様の悲痛な叫びは部屋に響き渡った。
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「ずびばぜんでじだ」
ボコボコにされたお父様から濁点付きの謝罪を受けた。
「で?何で私の大事な娘のルミエールを殴ったのかしら?」
お母様は私やお姉様達を誰よりも大事にしてくれている。
「王位継承権を破棄する上に結婚するなら女性がいいと言うのでな」
「いいじゃない!」
「は?」
おっと、うちのお母様はまさかの肯定派でしたか!
「あなた、法令に同性婚を認めましょう!」
「お前、本気で言ってるのか!?」
「ええ!多様性、大事だと思うわ!」
「はぁ……わかった。何とかしよう。時間がかかるかもしれないがな」
「ありがとうございます!お父様!それと……」
「まだ何かあるのか?」
「旧王宮を私にください!」
「あのオンボロをか?」
「はい!」
「いいんじゃない?王位継承権も破棄したんだし、自由でいいんじゃないかしら!」
「はぁ……お前がそう言うなら大丈夫なのだろう……」
お父様は全てを諦めたようなトーンでそういった。
「ありがとうございます!」
私はウキウキ気分で部屋を出た。
旧王宮が手に入ったのはラッキー!
私のアトリエに改造してやろう!
クックックック……!!
私はスキップしながら部屋に向かった。
「いて!」
途中で転んだけど。
「ルミ様、何をしてるんですか?」
「スキップしたら転んじゃった!」
「アホですね」
「めっちゃ辛辣!」
まぁ、確かにスリッパでスキップはミスったけど!
私とカーニャは廊下を歩きながら会話する。
「そうだ!カーニャ、荷物をまとめて!」
「何故ですか?」
「旧王宮にお引っ越しだから!」
「まさか勘当……?」
「違うよ!」
「では何故?」
「私の目標のために、かな〜!」
「では頑張ってください」
「え!?一緒に来てくれないの!?」
「冗談です」
「もう!カーニャは意地悪だよ!」
「いじめたくなるのは仕方ないことです。それに……」
カーニャは私に近づいて来て……
「意地悪されるの、満更でもないクセに」
そう呟いた。
「う、うるさい!!」
私は頬を赤らめ、抗議する。
「ルミ様は可愛いですね」
「やめろぉ!」
前世の記憶が戻ったとはいえ、性格に変化はほぼ無い。
ただ、それまで存在していたルミエール=ラウエルに、前世の記憶が加わっただけだ。
前世の記憶が戻る前の記憶もある。
お陰でカーニャに意地悪されていることも覚えている。
意地悪とは言ってもイジメとかそういった深刻なものではなく、ちょっとした揶揄いだ。
しかも、嫌な気持ちになるタイプではなく、軽い辱めだ。
すごい悔しい。
Mっ気があるのを見透かされているみたいで。
まぁ、Mなんですけどね。
でも痛みとかそういうのは専門外。
ホントに悔しい……
うん、悔しい……
ホントだよ?
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部屋に戻った私達は早速荷物を纏め、旧王宮に向かう。
旧王宮とは言っても今の王宮に比べるとかなり小さい。
比べると小さいだけでかなりデカい。
だが、オンボロのせいで六割ほどぶっ壊れ、使えない。
直してもいいが、そんな大きなサイズは必要としてない。
私のアトリエ、私とカーニャの寝室。
それと他の人が来ても大丈夫なように空き部屋を何室か、用意する。
「ルミ様、どうするつもりですか?」
「とりあえず建て直す!」
「あなた、五歳ですよ?どうやって建て直すつもりですか?」
「ちょっと着いてきて!」
「はぁ……」
カーニャは少し面倒臭そうに付いてくる。
目的地は街だ。
一応第四王女なので変装しておく。
服装としてはドレスではなく、軽い感じのワンピース。
靴は靴下は昔から嫌いだったので素足履きしている。
ホントはサンダルがいいけどこの世界には無いし、作ってもいいけど、王女がなんて格好してるんだと言われそうなのでやめておいた。
抜け出したのバレたら怒られそうだけどいいでしょ!
そう思い、私は街に行く。
「ルミ様、戻った方がいいですよ?」
「大丈夫大丈夫!」
私は目的のお店を探す。
旧王宮建て直すことに決めた後、自分の部屋で街の地図を広げて、建て直してくれそうな店に検討をつけていた。
「ここだ!」
「なるほど、外部発注というわけですか」
「そう!王宮のみんなは忙しいだろうし!」
私が訪れたのは『クリム建築』。
「た〜のも〜!」
私はドアを開く。
カランカランという音がすると同時に屈強な男性が目に入る。
「子供が何のようだ?」
「ちょっと依頼があって来たんです!」
「舐めてんのか?ここは子供も来るところじゃねえんだよ!」
「ルミ様、戻りましょう。やはり直接……」
私はカーニャの提案に首を横に振る。
「これは私のワガママ、私の目標。だから、出来るだけ自分で何とかするって決めてるの」
「ルミ様……」
そして私は再び屈強な男性に向き直る。
「クリムさん、私の依頼を受けてほしいんですけど」
「子供が金を払える訳がないだろ!!」
至極最もな意見だ。
技術者にとって最も必要な物。
それはどんな相手であれ、報酬を受け取ること。
それが子供だろうが、高齢者だろうが関係ない。
一度でも報酬を貰わなければ、二度三度と重なり、最終的に商売が破綻する。
だからこそ、報酬を一番心配するのは至極当然のことだ。
「問題ないです!お母様からもぎ取ります!」
「信頼できんな……」
はぁ……あまり好きじゃないけど仕方ないか……
私は変装をやめる。
「私でもダメですか?」
「ア、アンタは……いや、貴方様は!!」
「改めましてルミエール=ラウエルです!依頼、ダメでしょうか?」
「滅相もない!」
「じゃあお話をしましょう!」
「ははっ!」
やっぱり権力を使うの好きじゃないなぁ……
私はクリムさんに導かれ、奥に入り、机に向かい合うように座る。
「私に敬語は不要です!」
「ですが……」
「年下なんですから!」
「わかった。」
「呼び方はルミでいいですよ!」
「わかった。知ってると思うがクリムだ!俺にも敬語は要らないぜ、ルミ様?」
「わかった!よろしくね、クリム!」
「私はルミ様専属メイドのカーニャです。以後、お見知り置きを」
「じゃあ早速依頼なんだけどね!」
「おう!何でも来い!」
「旧王宮の一部を建て直して欲しいの!」
「あのオンボロをか!?」
「そう!私の目標のために!」
「いいだろう!その依頼、受けた!」
私とクリムは堅い握手をした。
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「で、旧王宮をどんな風にリフォームしたいんだ?」
「要望としてはまず、私の工房、アトリエみたいなところが必要ね。」
「ふむふむ、アトリエ……」
「それから私とカーニャの寝室、それからリビングダイニングキッチン、ゲストルームも四部屋くらい欲しいかな!」
「なるほど……」
クリムは私の要望を紙に書き出す。
「よし!少し待ってろ!」
「わかった!」
そういった後、クリムは更に奥へと入っていった。
おそらく、設計図でも描いてくれるのだろう。
「楽しみだな〜!」
私は足をパタパタして待つ。
「ルミ様、はしたないですよ」
「気にしない気にしない!」
私はクリムを待つ間にも色々と考えてみる。
思えば落ち着いて考える時間なんてなかったなぁ……
改めてこの世界は異世界なのだと実感する。
この世界の技術レベルは中世ほどだ。
車や電車、ロボットといったハイテクマシンは無い。
開発してもいいが、流石に風情がない。
では何を動力にしているのか。
それは勿論、ファンタジー世界によくある魔法だ。
この世界の人々は絶対に魔法が使える。
───ただ一人、私を除いて。
残念な事に私には何故か魔法は使えない。
転生者だから、そんな理由ではないはずだ。
私自身、転生したとはいっても実感がない。
前世の記憶を思い出した、とはいってもただ知識だけだ。
何故か、人間として生きた記憶には砂嵐みたいなものがかかって思い出せない。
しかし、日本で生きたこと、嗜好は覚えている。
それに加えて、見たことのある知識ならスラスラ出てくる。
何故、断片的にしか思い出せないのか分からない。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
私は魔法が使いたい。
本来なら直接的に使いたいが、私には使えない。
なら間接的に使うしかないのが現状だ。
その現状を打開するためにアトリエが必要なのだ。
この世界にはハイテクマシンの代わりに魔法で動く魔導具がある。
だから魔導具で魔法を使いたい。
そのためのアトリエだ。
「悪い!待たせたな!」
三十分ほど経って、クリムが部屋から出てきた。
それにしても早い!!
圧倒的な仕事の早さ!!
「とりあえず見てみてくれ!」
私は設計図を受け取る。
パッと見ると凄い良い。
私の思い描いていた物そのものだった。
「完璧だよ!クリム!」
「そうか!」
「じゃあ旧王宮の建て直し、よろしくね!」
「おう!任せとけ!」
旧王宮の建て直しが決まったのだった。