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第61話 大統領&副大統領謁見 北南崎桜太郎&紫白眼魎狐と今井被賂鬼

【那古野県/人地市 今井家】


「大統領の北南崎です」


「副大統領の紫白眼です」


 仏壇に手を合わせた2人が、振り返って今井に改めて挨拶をした。


「この度は法治が至らず申し訳ありませン。しかも今回は仇討ち法経験者による殺人。本来この法によって国民の犯罪抑止、仇討ち関係者には許された権利とは言え、殺人の経験を胸に清く正しく生きて欲しいと願って作った法でしたが、この様な最悪な形となった事、誠に申し訳ありませン」


 北南崎と紫白眼は同時に頭を下げた。


「……では、この法はもう廃案ですね?」


 今井の冥い声が響く。


「えっ?」


 謝罪の後、世間話を交えつつ、今後の予定を伝えるつもりが、今井の鋭すぎる言葉が突き刺さった。

 まったくの予想外の言葉に、北南崎も紫白眼も虚を突かれた。

 これが試合なら確実に一本取られていたであろう。


「だって、この法案は失敗しているじゃないですか。かつての仇討ち者が、今度は仇討ちされる。こんな事はあってはいけないのでしょう? 裁判長も申していたではありませんか『「人を殺せばこうなる」それを証明した被告が、さらに証明しては意味がない』と」


 今井の冥い眼光が更に暗黒に染まる。


「今井さンは大統領選では私に投票しなかった不支持者ですか?」


「? そうですが何か?」


 別に投票先は自由だ。

 文句を言われる筋合いはない。


「興味本位です。支持者であっても私に異議を問う資格はあります。ですが、私は国民と前大統領に選ばれた大統領。批判は承知。この仇討ち法を引っ込める場合があるとすれば、失敗を認めた時のみ。その時は潔く国民に謝罪し、大統領を辞任いたします。……しかし」


「しかし?」


「今井さンは法案反対でも、仇討ち法は利用するのですか?」


「してはいけない理由が必要ですか?」


 今井は矛盾を承知で開き直っている。

 不支持者で、法案反対だが、でもシステムは利用する。

 だが、別に施行された法を利用していけない理由もない。

 これは嫌だろうが何だろうが、国民の権利でもある。


「これは手強い。……さっきの質問に答えていませンでしたね。『かつての仇討ち者が、今度は仇討ちされる』ですが、別に構いませンよ。ダメな理由もありませン」


「ッ!!」


 北南崎は言い切った。


「そう言う事もありましょう。我々はコンピュータではありませン。バグ満載の人間です。不完全な生き物なのですからそう言う事もありましょう。そういう意味では今井さンも同じです。主義主張はともかく当事者としては許せない。そうなのでしょう?」


「……フフフ。図星ですね。北南崎大統領がこの法案を成立させた時は、『日本は終わりだ』と嘆いたモノですが、今の立場となっては感謝しかない。今でも『日本は終わりだ』との思いは変わらないのに!」


 今井の握る拳に、さらなる力が籠められる。

 骨や肉の悲鳴が聞こえてきそうな、迫力ある握り拳だった。


 そんな中、ちょっとマズそうな雰囲気を和らげる為、女の紫白眼が間に入った。


「北南崎大統領も私も、この法案が世紀の悪法と断罪され、後世に汚名を残そうとも、断固としてこの法と心中するつもりです。今の時代、戦時中と同じ位に命が軽いのです」


 紫白眼が言った。


「命が軽い?」


「事故は別としても、今の時代、犯罪、悪意によって死んだり危害に遭遇する人が多すぎるのです。ちょっと大げさですが、全国の犯罪を一か所に集約すれば、毎日1発、繁華街で爆弾テロが発生しているのと同様なのが日本です」


「爆弾……!?」


「例えですよ!?」


 今井が爆弾テロを想像していると思っていると紫白眼は思い念を押したが、もちろん今井も理解している。

 ただ、犯罪の統計として、そんな例え言葉が出てくるとは思っていなかった。


「……犯罪が多い多いとニュースで聞きますが、これが日常で慣れてしまってましてな。それ程でしたか」


「はい」


 その爆弾が、核爆弾だった事もある時の当事者2人としては、口にはしないが、ニュースにされていない犯罪もある事も把握している。

 乱蛇琉胡蝶陸軍大将が秘密裏に処分している悪党も多い。

 だから、毎日1発の爆弾テロと形容したが、毎日1発空爆を受けいていると言った方が本当の数は近い。


「私の政策を理解しろとは言いませン。批判、大いに結構。意見は千差万別であるべきです。ただ、その意見を通すのに暴力や違法行為があってはいけない。今はその違法行為戦国時代。もう国民には見せしめするしかないと思い至った分けです」


「なるほど。理解はしました。それでもその法に賛同はできませんが、システムは利用させて頂きます」


「人間らしくて良いと思いますよ。頭で理解しても心が理解できない。今井さンは至って普通の人間だとおもいます」


「ははは……」


 冥い顔をしていた今井が、初めて笑った。

 その笑い声をきっかけに北南崎は気になっていた事を尋ねた。


「所で、今の佇まいや所作を見る限り、何らかの武術を修めていますか?」


 正座から視線、背筋から気配、全てにおいて、素人では無い事がヒシヒシと伝わる。


「力強い握りこぶしですが、空手家の鍛え方とは違う」


「そうですね。でも柔道や合気道など何かを掴む武道かと思いましたが、耳が普通です」


 北南崎と紫白眼が違和感を述べた。


 柔道、合気道、あと相撲など地面を転がりまわる格闘技や、ラグビー等の競技従事者には、いわゆる『耳がわく』『餃子耳』などと言われる特殊な耳をしている人が多い。

 これは耳の内出血が固まった状態で、耳が擦れたりぶつかったりする競技者に多い。

 だが今井の耳は普通だ。

 だが、今井の雰囲気から違う様な感じを覚えた。


 もちろん、熟練の競技者でも耳は普通の人はいる。

 例えば紫白眼は合気道の達人だが、耳は普通だ。


「よくそこまで推理なされましたな。さすが前回の戦いの助太刀人。法案はともかく2人の武術には驚いたモノです。故にこのてのひらをみれば正解したでしょうな。剣術を修めております」


 分厚い掌には、豆が破れ更なる豆を作り続け、異形の掌と化していた。

 拳を握っていたのでわからなかったが、佇まいだけである程度の修練者である事を見抜いた北南崎達も凄いが、今井も負けてはいなかった。


 ふと、今井は床に置いた刀を抜刀する所作を行った。

 もちろん『フリ』だ。

 だが、その『フリ』は明確に北南崎と紫白眼を上下に両断した。

 明確な殺気がそのビジョンを見せたのだ。

 今井は北南崎達に匹敵する達人だった。


「成程。そう言う事でしたか。納得です!」


「そうですね! 剣術師範として軍に迎えたい程です!」


 この国でも剣道とは違う、剣術が道場として門戸を開いている。

 刀の安全な修行の為に開発された竹刀が剣道として発展し、剣術とは別の道を歩いているのが現在だ。

 剣道と剣術はもはや完全に別の競技である。


「ならば、決戦当日、今井さンの武器は刀としましょう。木刀から愛用の刀、他に長巻も用意しましょう。最低でも今から1か月後です」


「私は今すぐでも構いませぬぞ?」


 今井は闘気を隠しもせず言った。

 法案反対者とは思えぬ、凄まじい殺気だった。


「常在戦場の心がけは素晴らしいですが、会場の選定や、相手の武器も考えねばなりませンので、申し訳ありませン。我慢をお願いします」


「わかりました。人生最初で最後の人斬りをさせてもらいます。私は奥義を尽くして戦いますので、刑素毛君の勝率は50%以上でも構いませぬぞ?」


「……考慮しましょう」


 こうして北南崎達は今井家を去った。



【大統領専用特別チャーター便】


 大統領官邸への帰還路での事である。


「本当に50%以上にするおつもりですか?」


 紫白眼が興味本位に聞いた。


「どうしましょうねぇ? 互角の武器、互角の条件、そして互角の修練だったとしたら、加藤君が必ず勝つと思います。それ程までに殺人の経験というのは得難い経験です」


「加藤さんは、運動不足気味だった第一回の時にくらべ随分と痩せていましたね。全国の占いや相談所に通い歩き、今の肉体になったのでしょうか。前回よりも動けるとは思います。メンタル面は無視しての意見ですが」


 運動不足だった前回、決戦の為にだいぶ絞ったが、それでも肥満体形は隠せなかった。

 それが今や、別人のようにやせ細っている。

 メンタルによる絶食なのか、全国各地の占い所を歩き回った結果なのかはわからない。


「一度、加藤さンの身体能力を確認しますか。最悪の場合、加藤さンには射程20mの火炎放射器を持たせても、今井さンに勝つ確率を保証出来ないかもしれません」


 今までは被害者側の心配と配慮をしてきた大統領達だが、今井の達人ブリに、初めて被害者側への指導の必要性を感じてしまっていた――

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