【最高裁判所】
「主文 被告人 加藤
裁判長の
白州御は大統領から、高山
しかもしかもだ。
加藤は仇討ち法適用第一号の被害者の父親にして、当事者にして、命を懸けて戦い勝利を勝ち取った者。
それが、今度は加害者としてこの場に立っている。
その瞬間と言うより、入廷以降焦点の合っていない曇った目で加藤はその判決を聞いた。
聞いたが、何の反応も示さない。
「被告の事情は汲むべきではあるが、だからと言って妻の瀬津羅さんを年間に渡るDVの上、殺して良い理由にはなりません。もう一つ、瀬津羅さんには新しい命も宿っていた。つまり2人殺した事になります」
加藤の子供は一人っ子だった為、全てをやり直すべく、新しい命を設けていた。
「更に被告は、仇討ち法適用者第一号にして勝者。殺人の是非を誰よりも身に染みて知っている身。『人を殺せばこうなる』それを証明した被告が、さらに証明しては意味がない。法を侮辱し、国民を震撼させた罪は重い。事情を考慮しても、死刑のラインを軽々と越えてしまっています」
そう白州御は宣告しながら、あの決闘のあの場で、山下
『クックック! 俺のこの……姿は未来の貴様だ……。ようこそ殺人者ッ! ようこそ底辺へ……ッ!』
(『予言の自己成就』と言う奴だろうか?)
予言の自己成就――
全く根拠のない不吉な予言。
それを防ごうと色々気を付けるのに、何故か導かれる様に予言に引きずり込まれる。
やる事なす事、何故か不吉な予言に近づいていってしまい、惨劇に自ら近寄ってしまう。
回避するつもりが、吸い寄せられる謎の現象、『予言の自己成就』。
(山下の怨念のなせる業なのだろうか?)
仇討ち第一号の加害者である山下。
加藤はその予言通りに限りなく近くなり、殺人者という最底辺に堕ちた。
加藤の妻殺害に至る経緯はこうだ。
息子の仇を討ったは良いが、その遠因は自分の息子にあった事。
己の息子は、友達を底辺国民と蔑み始めていたのだ。
その憎しみが、偶然生まれた殺害チャンスに、ついつい手が出てしまい、山下の子を殺した。
これらの行動は当然問題であるが、さらなる問題があった。
己の子が、殺人を偽装したのだ。
バレたとしても、被害を最小限にする為に、虐められていた事にする。
ただ、殺人をしてしまった精神状態では、偽装日記の正確性までは気が回らず、杜撰な日記となった訳だが、決闘当日、偶然にもその日記を見つけてしまった。
問題はその日記だ。
瀬津羅は、わざと見つかりやすい様に日記を置いた。
置いたと言うよりは、本棚から少しはみ出す程度の、いかにも『見つけてくれ』と言わんばかりの状態だったから、思惑通り見つかった訳だ。
実は瀬津羅は子が殺された裁判なのに、証人喚問以外の出席はしていない。
傍聴席にも行かなかった。
加藤は、妻のその行動を『裁判による追及で、息子が殺される残酷な証言に耐えられない』と慮った。
だが本当は違った。
もう既に、息子の嘘を見抜いていたのだ。
むしろ、山下に謝罪しなければならないのは、こちら側と知っていたのだ。
だが、その勇気もでなかった。
今更、裁判で『真実は違う』と異議を申し立てる勇気が出なかった。
故に、夫には日記を見つけさせ『この日記、知っていたか?』と導かせたかった。
その時、日記の矛盾を伝え、この裁判は根本が違うと訴えようとしたが、夫は怒り心頭で家を飛び出してしまい、加藤瀬津羅の計画は脆くも崩れ去った。
あとはあの決闘と、その後の大統領による調査と、病室での真実の露呈だ。
加藤が狂ったのは子供の歪な感情が発端だが、目に見えて狂ったのはこの日記の真実を妻が知っていた事だった。
夫の加藤は人が変わってしまった。
殺人をクリアした身でもある。
そこから地獄のDVが始まり、半ば無理やり次の子供も作らされた。
夫婦間レイプと言われる問題である。
その後、加藤は精神が壊れたのか、怪しいスピリチュアルに傾倒し、どんどん財産をつぎ込み、ついには預言者と噂の『信長教』にまで遠い山梨県まで時間をかけて行く始末。
瀬津羅も己の罪の自覚はある。
だが、夫が変なモノにハマっていくのは見ていて、見ていられなかった。
夫が、山梨県から帰宅した時、瀬津羅は文字通り命を懸けて訴えた。
『貴方! 私はどんなに暴力を受けても耐えて見せるわ! それ程の罪を犯した! でもこれから生まれてくる子供の為の財産を失ってまで、怪しい占いに頼るのは辞めて!!』
『ッ!?』
一方、大統領との面会まで取り付けてきた加藤にとっては、寝耳に水所ではない話。
歪んだ夫婦関係も自覚しており、DVを繰り返しては反省し、改善しなければと、あの手この手で取っ掛かりを探し、ついに信長教までたどり着いたのだ。
それを全否定されたと感じた加藤は、無意識で渾身の拳を瀬津羅に叩きつけた。
殺人をクリアした者の、殺意が乗った完璧なパンチだった。
一撃で瀬津羅の意識を刈り取り、後頭部が台所の角に激突した。
即死だった。
瀬津羅は命懸けの説得をして満足したのか、その顔は血だらけなのに笑顔だった。
加藤は自分の行いに、やっと目を覚まし、自首し、今に至り死刑判決を受けた。
(後は、この後の判断によるのか……)
白州御裁判長は、遺族代表の今井に尋ねた。
「以上の様に、裁判として死刑を決定しましたが、異論はありますか?」
「あります」
瀬津羅の父である今井
怒りはあるが、娘の行動にも問題はあったと一定の理解はした。
夫婦間トラブルに気が付けなかった負い目もある。
だが――
それを補って余りある、娘婿に対する憎しみ。
落ち度はあったかもしれないが、一人で全て抱えDVを受けて殺される理由にはならない。
「刑素毛君。正直言って君の気持も多少は理解しているつもりだ。だが人間そう簡単に割り切れん。私にとって娘は掛け替えのない存在だったのだ。だから戦い勝つ。あの世で謝罪しろ!」
(やはりか。私だけで4例目を担当するとは、信長真理教に関わった定めか?)
白州御はそうなる予感をしていたが、やはり的中した。
ある意味、予言の自己成就だ。
「分かりました。遺族により異論が出ましたので死刑を棄却し、新法『被害者ニヨル加害者ヲ裁ク権利』の適用を認めます!」
白州御はそう宣言し、裁判は終結した。
あとは北南崎大統領の仕事だ。
(被害者が仇討ち法で勝ち、今度は仇討ち法で負ける。いや、まだ結果は決まった分けでは無いが、10%の勝率しか無い勝負に引っ張り出される。両方の立場を経験する加藤の言葉を聞いてみたいモノだ)
だが、加藤は仇討ち法の宣言を聞いても、感情揺らぐ事無く、一礼して法廷を後にした――