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第53話 闇の暗部

【陸軍/南蛮武大佐執務室】


 作戦が無事完了し、被害ゼロで犯人含めて負傷者無し。

 完璧な手際で未曽有の核テロを阻止した南蛮武部隊。


「何か飲み物はいるかな? 食べ物は……今すぐ用意できるモノとなると携帯食料だが、少し待ってくれればコンビニで揃えよう」


 南蛮武がそう優しく言った。

 東西岬はまだマシなのは当然だが、子供の整陀流せいだる真城岩ましろがん牢黴蠱るみこ、じゅりは、おっかなびっくりで、状況も理解できずにいる。


 辛うじて、誘拐ではなく保護であるのは理解していた。

 ただ、何で保護されたか分からないし、そもそも、最初から少人数で教団施設を脱出した理由も分からない。


「と、東西岬さん、一体何があったのか教えてください!」


 一番年長の整陀流が意を決して聞いた。


(ふむ。賢いな)


 南蛮武の感想だ。

 理由を南蛮武に尋ねても真の理由ははぐらかされる、と理解し、真意を知っているハズの東西岬に尋ねたのを評価したのだ。


「大佐。全て話します。宜しいですね?」


「うむ。良いだろう。但し、ここで聞いた事は墓まで持っていく……という意味は分かるかな? 誰にも喋ってはいけないよ?」


『喋っても誰も信じてくれないだろうが』


 南蛮武は心の中でそう思いつつ、続きを話した。


「喋れば信長真理教は無くなってしまうからね。君たち善良な信者に罪は無いのだから」


 南蛮武から発せられる脅しではない強烈なプレッシャー。

 この男は必ず実行すると、整陀流は即座に理解し、慎重に尋ねた。


「はい……。でも、罪? じゃあタブレットを見てあちこち移動していたのは、逃げていたのですか?」


 東西岬と高橋の会話から、何となく逃走中だとは察していたが、『罪』と聞けば『逃走』と断定できてしまうが、聞かずにはいられなかった。


「えぇ。正確には、逃げているフリをして、大佐の部隊と合流する事を目論んでいました。少なくとも、弾正忠様は真剣に逃げておられていましたが。……ハッキリ言います。私が教団を裏切ったのです」


「ッ!!」


 この断言には、年長の整陀流せいだるは当然だが、真城岩ましろがん牢黴蠱るみこ、じゅりも意味を理解しショックを受けていた。

 実子の牢黴蠱はともかく、整陀流、真城岩、じゅりも、教団がなければ、とっくに飢え死にしているならまだマシで、悪人につかまれば、今の彼女らでは想像を絶する悪夢が待ち受けていたであろう。


 その立場から救ってくれた教団には、感謝しかないのだ。


「……」


 東西岬は苦渋の表情を浮かべる。

 己も含めて、これから死刑宣告に等しい言葉を言わねばならないのだから。


「……そもそも我々には肉親……保護者がいない。牢黴蠱様は違いますが、教団に居て、入る人に比べ、出ていく人、いわゆる縁組成功や、独り立ちした人が少ないのは感じていましたか?」


「……少ないな、とは思いました。でも、出て行っているから入る人の余裕もあるんじゃないですか!? 私達が知らない所で!」


 出ていく人が少なければ、施設はパンクするハズなのだ。

 それが起きていないと言う事は、誰かが出て行っているのだ。

 知らない間の話に過ぎない。


「そうじゃなければ辻褄があいません!」


 否定の言葉が、願いの言葉の様に聞こえるのは気のせいではないだろう。

 みんな救われてきたのだから。


「大佐。証拠を見せても構いませんか?」


「……良いだろう(正し、見せる証拠は選ぶぞ?)」


「……お願いします(構いませんし、見せられません)」


 中学生以下に見せていい映像が満載の証拠が沢山ある。

 趣味の悪すぎる、グロテスクを極めたモノ、性を侮辱したモノ、命の尊厳を弄ぶ『非道』の言葉では足りない数々の証拠映像だ。

 その全てに、高橋が映り込んでいる決定的な証拠だが見せられない。

 見せて良いものではない。


「まず、前提条件を話します。縁組成功、独立成功して出て行った者。あれらは、教団にとって不要な者の烙印を押され、教団の表の顔としてのアピール材料に使われました」


「ふ、不要? アピール!? じゃあ、残っている我々は必要だと?」


「必要にも2種類あります。今ここにいる我々、私、整陀流さん、真城岩さん、じゅりさんは戦闘力や特殊な能力を買われ教団に残されているのです。牢黴蠱様も同じ。牢黴蠱様は他人の感情と同調して見抜く能力がある。そうですね?」


「は、はい……」


「では私の話が……少なくとも私は私が真実だと思っている事を話しているのは理解できますね?」


「はい。嘘の感情はありません」


 東西岬、整陀流、真城岩は若くして天才的武道の才能を見込まれている。

 それぞれ、空手、中国拳法、合気道の神髄を若くして極めた。

 一方、じゅりは嗅覚が、牢黴蠱は感情に敏感だ。

 この2人に追及、追跡されて逃げ切れる者はいない。


 教団に残って居る者は、この様な使い道のある者と、縁組も独立もできない不合格者だけだ。

 その不合格者が定期的に出荷されているから、施設はパンクしないのだ。


「――と、コレが教団の暗部の真実です。私がソレを知ったのは仲間の拷問を命じられた時」


「拷問!?」


「我々は親もおらずコンプレックスの塊。でも精一杯生きている。しかしそれが受け入れられない者もいる。ましてや反抗期の中学生なら当然のこと。私のこの左手。まだ骨折も治っていませんし、爪も生えそろっていませんが、これは自分で剥がし、折った。拷問で傷つけない苦肉の策。『今からこうするぞ』と脅して屈服させたのです」


 全員が牢黴蠱を見たが、牢黴蠱は頷いた。

 じゅりも追随する。


「嘘の匂いがしないよ」


「今日、何故逃げていたのか? あの大きなキャリーケースは何だったのか? 教えましょう。アレには核爆弾が4つ入っていました」


「かくばくだん?」


 年少の真城岩、じゅり、牢黴蠱が言葉の意味を理解できず困惑する。

 辛うじて爆弾が危険物であるのは察したが、肝心の『核』が何なのかわからない。


「今、世界各国では核の保有が当たり前。だが、その過程で事故がいくつか起きている。C国、A国、R国、F国、そして日本。戦争で使われる事は無かったが、実験や製造過程で事故が起きて大惨事になった事がある。皆、核の破壊力と後遺症、汚染を舐めていた。日本では1回だけだが、他の国では隠蔽された事故もあるだろう。あるいはコッソリとどこかの国の内戦に乗じて使ったかもしれぬ」


 南蛮武の顔は苦渋に満ちている。

 軍人として知らなければならない教訓故に知っているが、知ってしまったのを後悔していると言っても過言ではない苦痛を隠しもしない。


「……今からその事故現場の映像や写真を見せる。正直、子供に見せるのは気が引ける。だから見る権利はまず中学生の整陀流君だ。君が見たいなら見せるが覚悟して見なさい。見た場合、これを次の子に見せるべきか考えきめなさい。見せるか否かを」


「教団の暗部を見せらせないのに、核の事故は見せられるのですか?」


 整陀流が当然の質問をした。


「教団の暗部の方がヒドイとだけはいっておこう。トラウマになるレベルは同程度だが、核はあくまで事故映像と写真。教団の暗部は悪意の塊だ。これはまだ見せられんし、もう機密情報となってしまった。ただ、核は今日運んでいた物であり、それがもたらす結果を君らは見る権利がある、と私は思っておる」


 南蛮武はそういった。

 何となく見る様に促しているが、見せてはいけないとの葛藤とも戦っているのは、じゅりや牢黴蠱でなくても伝わった。


「……見ます」


 整陀流が意を決し、核の事故映像と写真を見た。

 そして胃液を吐き出した――

 そうなる事を見越していた菅愚漣が洗面器で胃液をキャッチした。



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