信長真理教――
初代皇帝織田信長を神として祀り、善良な宗教団体として活動している。
仏教等の他の宗教とは違い、極楽や地獄の概念は特になく、とにかく信長の理想を追求研究する、むしろ信長学会の一面が強い。
「『必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ!』良いですか皆さん! これは信長公の言葉です。しかし必死に生きるとは我武者羅に勉強に仕事にトレーニングに打ち込む事ではありません! 遊びでさえ真剣にやってこそ人生です! ぼんやりしても良いんです! その代わり真剣にぼんやりして疲れを取りリラックスするのです! それが次の行動に活きるのですから!」
教祖の高橋
一見まともな事を言っている様で、やっぱりまともで大事なことを言っている。
元々が信長の言葉なのだから、至言なのは間違いないのだ。
それを現代に合わせて解釈し、例えば『遊びさえも真剣に遊ぶのが重要』と説いている。
これは別に、『鬼ごっこで遊ぶのを鬼気迫る勢いでやれ』と言うわけではなく『楽しむ時は楽しめ』『心に迷いを抱えて遊ぶな』と説いている。
犯罪大国日本にては、日々のストレスが尋常ではない。
『他人を見たら泥棒と思え』
昔からのことわざであるが、今は違う。
『他人を見たら、もう駄目だと思え』
これが現在に適応したことわざだ。
だがこれも、ちょっと昔は『他人を見たら、殺人鬼だと思え』だったが、それも通過して諦めの境地を表すことわざが作られた。
だが、高橋は『それでも!』と対抗する。
高橋の言葉は信長の言葉でもあるが、『必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ!』は『例え運悪く短い人生だとしても、『生きたのだ』と胸を張って逝け』と言う場合もある。
上記にことわざに対応した生き方だ。
その言葉を掛ける人によって変わる。
だが、適切なアドバイスとして、子供や大人には『遊びも真剣に』、生い先短い老人や病人には『胸を張って逝け』と発破をかける。
そして高橋弾正忠は言う。
「下を向くな! そんなんで光り輝けるか!?」
もっとも過ぎて反論できない言葉だ。
高橋にはまるで信長が乗り移ったかの様に、テキパキと悩みを解決し導き、親身になって考えてくれる。
活動の癖も強いが、別に悪い事を言っているのでもなく、むしろ高橋のキャラクターが受けて、TVでは引っ張りだこだ。
また国民も、高橋の派手なパフォーマンスの裏で、奉仕活動に積極的なのも周知の事実として知れ渡っている。
この時代、孤児は溢れかえっており、未国籍児などあたりまえ、マンホールチルドレンならまだマシ。
児童ギャングなんてモノまで存在する。
その対策の一環として、信長が孤児の保護に積極的だった事に倣い、信長教でも身寄りの無い孤児を引き取り、面倒を見る活動を行っている。
「皆さんの生い立ちは不幸だった。良いですか? 『不幸
こうして一定期間の教育を経て、養子縁組を希望する親を募集し、厳正な面談と共に、子と義理の親の双方が納得すれば、晴れて親子として成立し卒業していく。
また運悪く、義理の親に恵まれなかったとしても、学校にはきちんと通えるし、就職も手厚いサポートがある。
独り立ちサポートも充実だ。
カルト宗教っぽいのに全くカルト臭がしない、不思議な団体。
それが信長真理教。
――というのは宗教団体上の表の顔。
やっぱり叩けばカルトの臭いを纏った埃が舞い上がる。
信長真理教裏の顔は『日本に今一度織田信長の思想を叩き込む』つまり『再度の天下布武』だ。
とは言っても信長本人不在で真の思想など、自分達が都合よく考え捻じ曲げた思想に過ぎない。
今の大統領も信長の系譜を受け継いでいるが、それを否定し、自分たちの考える信長の系譜を作り出す。
孤児の面倒も、戦力を集める名目に過ぎない。
そこで不合格の烙印を押された者は、養子縁組に出され、信長教の表の顔として役立ってもらう。
しかし優れたものは合格として、組織の戦力となる。
合格不合格のラインは定期的な身体検査や、運動測定、学業の成績で決められており、また特殊な能力を持つ者等も観察対象となる。
孤児はまさか鑑定されている等とは夢にも思わず、感謝して養子縁組を受ける。
もちろん、不合格者だという事は知らずに。
故に、信長教は入る孤児に対し、出ていく孤児は少ない――
【信長真理教/弾正忠室】
「
ヒステリックな高橋の声が弾正忠室に響き渡る。
「はッ! 政府の犬に嗅ぎつけられた様です! やはり『核』はやり過ぎだったのでしょう」
「だまれ!!」
現在の世界情勢は、本当にマジで洒落にならないくらいに核戦争一歩手前だが、実は政治関係の『核』の扱いはまだ(比較的)安心だ。
本当にヤバイのは、破滅志向、終末思想、テロ団体、そしてカルト宗教が『核』を持った場合。
政治で『核』を利用し政治交渉の材料に使うのが『国』。
だが、思想で『核』を利用する者は、爆発させるのが目的の者達、すなわち『カルト』。
核を爆発させるぐらいなら、脅された方がまだマシだ。
そんな核だが、信長真理教が入手したのを政府に察知された。
まだ、入手して2日も経過していない。
とんでもない速さである。
「クソッ!! 何重にもルートを偽装して搬入した途端のトラブル! 偶然ではあるまい!」
ただし、政府に見つかったと判断した信長真理教も、凄い速さの判断である。
これのカラクリは、山梨県織田市は信長真理教本拠地として栄え、監視カメラとAIが機能しており、旅行者でも警戒対象になり、信長真理教本部に近づく者はすべて監視網にかかるシステムになっている。
特に山間部ほど厳重で、監視網が途切れてAIのアラート警告が出た。
これが通常営業だったら故障か何かと判断するが、核の組み立て完成と搬入が終わった途端の2日目で故障は、勘違いと判断してはならない。
敵意を持つ者が侵入したと判断すべきだ。
「東西岬は私と共に脱出し、核のアタッシュケースを運べ!」
「はい!」
アタッシュケースは4つある。
つまり核爆弾は4つ。
小型故に被害範囲は狭いが、大統領官邸ほか、政府重要組織を潰せれば、後はどうとでもなる――と言う浅はかの極致な計画だが、それだけでは日本の征服など不可能だと、高橋は気が付いていない程には愚かだった。
例え信長真理教の戦力をもってしても、日本各地に散った軍が鎮圧するに決まっている。
「
「わかりました!」
その世話係として
東西岬(20歳)、整陀流(15歳)、真城岩(8歳)。
それぞれ格闘技に頭脳も優れた、信長真理教の最精鋭。
徒手空拳では恐らく世界一の超天才達。
武器を持てば職務質問で捕まるが、徒手空拳ならば護衛としては最適解だ。
一見すれば、旅行者に見える。
そんな東西岬はアタッシュケースを、さらに大型の旅行用のキャリーケースに詰め偽装して運ぶ――フリをしながら何か操作した。
そのリズムは『トントントン ツーツーツー トントントン』だった。
【山梨県/某所 作戦指令室】
「ッ!! 来た! いくぞ! 白洲御中佐! あとは任せた! 外に逃げた信者は全員捕らえろ!」
南蛮武が指令を出す。
「お任せを」
白洲御が頼りになる冷徹な返事で答える。
「菅愚漣! 狙撃準備は出来ているな!?」
《はい。情報通りなら距離500m。手でビールを掴める距離ですよ》
菅愚漣がジョークを言う――のではなく、本当にそんな感覚で長距離狙撃を次々と成功させてきたのが菅愚漣だ。
「じゅりちゃん、だったね? 再度信者に化けて追跡できるね?」
南蛮武大佐が念押し確認をする。
「はい。匂いを辿れば直ぐです」
じゅりは教団からの脱走者。
嗅覚の異常発達が原因で、将来の信長真理教の戦力であったが、今回の作戦の為に、ある人物に信長真理教から脱出させられた。
こうして、南蛮武大佐による、未曽有のテロ防止作戦が実施された――