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第43話 北南崎桜太郎vs沓名夜酢拾

【前書き】


 北南崎桜太郎の戦果

 農上他蚊尋:気絶(死亡:内臓破裂)

 湯田苦身子:気絶(生存:失神&拘束) 


 紫白眼魎狐の戦果

 佐野唇耳:意識不明重体(生存:手首骨折、頚部破壊)

 手島鬼未恵:気絶(死亡:頭部損壊)


 乱蛇琉胡蝶の戦果

 杉浦賭藻丈:意識不明重体(生存:手首骨折、頚部破壊)

 大泉窃子:気絶(死亡:心臓破裂)


 生存者

 沓名夜酢拾:戦闘中


 名前:見た目(実際の状態)と考えて貰えれば幸いです。



【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】


 木下梅夜の前に、冷凍マグロの様に並べられた6人。

 見た目には生死不明だが、彼らは、とりあえず止めを刺される状態だけとなった。


「さて、あとは1人だけ。……沓名君!!」


「ヒッ!? は、はい!」


 遠くで沓名がスリングショットを構えるも、急な呼びかけに驚いて、パチンコ玉は明後日の方向に飛んで行った。


「ルール上、我々が3人まとめて襲い掛かっても良いのですが、それではあまりに無慈悲。だから慈悲を与えましょう。我らから1人選びなさい。一対一で戦ってあげます。一応、言っておきますが木下さンを選ンだら、我ら助太刀人総出で守るのでそのつもりで」


 北南崎は、己か紫白眼か乱蛇琉を選べと言っているのだ。

 そのタイマン勝負が慈悲であり、ちょっと『やり過ぎ』な戦果を誤魔化す為でもある。


 紫白眼も乱蛇琉も北南崎の正拳中段突きに対し、心中で罵倒しておきながら、結局2人とも1人ずつ殺している。

 重量物を背負ってもこの有様で、何なら重量物を利用して柔軟な戦い方を発揮している。

 今後の反省すべき課題である。


「君が木下さンと戦うには、我ら3人を倒すしか無いのです。ではどうぞ」


「だ、大統領!」


「お? 私と戦いますか!」


「ち、違います! この対爆スーツを脱がせて下さい! 狙撃ならともかく、格闘となったら不利過ぎます!」


「成程。それは最も。しかし防御力は抜群です。それを捨てるのですね?」


「勝つにはソレしかありません!」


「理解して希望するなら叶えましょう。一旦中断として、機動隊の皆さン、脱がすのを手伝ってあげて下さい」


 こうして異例の、決闘中断となり、沓名はジャージにTシャツ姿になった。

 RPG的な防御力を数値で表すなら『255→3』位の差はあるだろう。

 ただし、素早さは『2→125』ぐらいにはなっただろう。


「……よし!」


 身軽になった沓名は日本刀と槍を選んで前に出た。

 刀を3振り帯で縛り腰に佩き、ついでに、ナイフを帯に入るだけ差し込んだ。

 その上で、槍を両手に構えた。


「!」


 北南崎達は一様に驚いた。


(堂に入っている!)


 一目で『使い手』と判断できる構えだ。


「成程。君はその手の武器が専門だったのですね。ルーレット運が悪すぎた、と言う事ですか」


「そうです。我ながら酷い運だった。これが天罰かと思いましたよ」


「ン? 罪の意識があるのですか?」


「……気の迷いです」


 天罰と感じるからには、放火を悪と捉えているはずであるが、沓名は否定した。


「まぁ良いでしょう。それで、誰を相手に選びますか?」


「……大統領でお願いします」


「ほう? 何か勝機を見出しましたか? まぁ良いでしょう。勿論断りませンよぉ?」


(紫白眼は合気道、乱蛇琉は中国拳法! アレらは流麗にして凶悪! だが北南崎の空手は凶悪だが雑! 破壊力で弱点全てを補っているに過ぎない!)


 紫白眼に槍が通じないのは目撃したし、乱蛇琉は手刀で折った。

 槍を失った場合、近接戦になるが、そうなった場合一番勝つ可能性のある相手は北南崎だけなのだ。

 その北南崎を殺った後が重要で、驚く紫白眼と乱蛇琉を始末する。

 かなり都合の良い話なのは自分でも理解しているが、この豪傑達を相手にするには、コレしかない。

 閣僚らにとっても北南崎をこの場に出すからには、絶対の強さと信頼を得ているはず。

 その北南崎を倒す事が、残りの2人を倒す勝機なのだ。


「天下布武の為に! いくぞ!」


「来なさい! (天下布武ねぇ……あ!?)

 沓名が突っ込み、槍を担ぎそのまま投げた。


「死ね! 木下!」


 ルール違反ではない。

 いったん中断が入っても、それは北南崎の勝手な裁量。

 この決闘場に入った時点で、全員が関係者。

 無関係な者は居ないのだ。

 木下陣営が勝つ為に、北南崎達が木下を庇っているだけで、狙って駄目な理由はない。


「!?」


 沓名の言葉に全員驚くと同時に、紫白眼と乱蛇琉は梅夜の前に立ち塞がり、北南崎も投げられた槍を右手で掴んだ。


(掴んだな!)


 沓名の狙いは最初からこれだった。

 わざわざ『木下!』 と叫んだのも、この槍を掴ませるため。

 右手を封じる一瞬を作り出す為。


「……ふッ」


 槍を投げたと同時に作った一瞬の脱力――左腰にある刀の一本を掴み――腰を切っての抜刀――居合切り――北南崎の腰――両断――


「あっ!?」


 立会人含め全員が、北南崎の体が両断されるビジョンを見た。

 薬物を使っていないのに集団幻覚を見せる沓名の技量と殺気と、北南崎の行動が原因だった。


「い、今のは驚きましたよ! 素晴らしい!」


 北南崎は生きていた。

 集団幻覚なのだから当然だ。


 結果から言えば、北南崎は真剣白刃取りを成功させたのだ。

 ただし、両手を使っての白刃取りではない。

 右手を封じられているので、肘と膝を使った、真剣白刃取り。

 普通は相手の手足による攻撃を肘と膝で潰す超高等テクニックだが、北南崎は真剣相手に成功させた。

 両手で成功させるのさえ難しい白刃取りを、肘と膝で。


「ば、バカな!?」


「わ、私も驚きましたよ! こンな事をやったのは初めてですからね。いや、正確には突き蹴りに対する防御技として使った事はありますが……!」


 北南崎は本気で褒めていた。

 冷や汗ビッショリなのが何よりの証拠。


 北南崎の空手は決して雑では無かった。

 真剣白刃取りは空手の技、と言うより、無手の人共通の技だが、そんな超技術を肘と膝で成功させる、しかも居合抜きの剣速を完璧に捉えて見せた。


(人間離れしすぎていて、雑に見えていたのか……!!)


 沓名は作戦が崩壊した事を悟った。


「むっ?」


 北南崎が、沓名の豹変に気が付いた。

 沓名は晴々とした表情だった。

 神技を見た感動に打ち震えていたのだ。

 沓名は右手に刀、左手にコンバットナイフの二刀流で構えた。


「天下布武Qバンザイ! 沓名夜酢拾、参る!!」


 沓名の嵐の如き二刀流の剣技を、北南崎はかわし、いなし、刀を白羽取りで捉えた瞬間ひねって投げた。


「ガハッ! お見事! さぁ止めを刺してください。強い者に倒されるは武人の本望」


 沓名が地面から北南崎を見上げながら言った。


「そうですか。貴方もお見事でしたよ。本当に。犯罪歴さえ無ければSPに迎えたい位です」


 北南崎が沓名を見下ろしながら言って拳を握った。

 次の瞬間、北南崎の拳が振り下ろされた――今――ナイフ白刃取り――ビシャァッ――

 沓名は諦めていなかった。


 腰のナイフを両手で掴み北南崎の拳を迎撃しようと、真剣白刃取りならぬ、ナイフ拳止めを敢行し、北南崎は異変を察知し、パンチの軌道をそらし、アスファルトに拳を打ち込んだ。

 その結果、雷鳴の様な突きがアスファルトを広範囲に破壊し、クレーターを作った。


「最後まで勝機を諦めない姿勢は素晴らしい。沓名君、君の名前は覚えておきましょう」


「……畜生! くそッ! 理想の天下が目の前なのに! 前右府さきのうふ様万歳!!」


 北南崎は沓名の両手を掴み握力で手首の骨を折った。

 ナイフが零れ落ちると共に、北南崎が沓名を宙にブン投げ、反時計回りに回転する沓名の頭部を右ローキックでぶち抜いた。

 カウンターでの頭部ローキック。

 数ある蹴り技の中で、破壊力抜群のローキックを頭部に叩き込まれた沓名は、当然気絶(脳挫傷で死亡)した。


「理想の天下? 馬鹿な事を。貴方達の様な輩が跋扈する天下が理想なわけが無いでしょう。しかし沓名君。全く賛同はできませんが、理解はできますよ? ただ、私は貴方達とは考え方が違うのです」


 勝負は終わった。

 結果だけ見れば圧勝だが、一つ間違えば国家が狂ったかもしれない勝負であったのは間違いなかった――

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