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第41話 紫白眼魎狐vs佐野唇耳&手島鬼未恵

【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】


「ブツクサうるせえ! どけ! アンタは最後に――」


 ドギャァッ――


「ごひゅッ……!」


「あっ」


 農上がブッ飛ばされ、北南崎が『しまった』と一目で分かる顔をした。

 それを横目で確認した紫白眼は、衝撃の光景過ぎて相手から目を逸らしてしまった。


(北南崎さん!? 何してるんですか!?)


 自分達が戦えば必ず勝つ。

 その可能性を10%下げる為の重りなのに、それを背負って一撃必殺では、何の為のハンデなのか分からない。


『生半可な重量では不正を疑われてしまいますからね』


 ハンデを調整する時、北南崎が言った。

 しかし、現実の光景は不正にしか見えない。


(何か必死な演技をしている……)


 北南崎がロックアップで農上を無理やり立たせ、何か演技している。


(農上は即死よね……。私は上手くやらなきゃ!)


 紫白眼は改めて敵の顔を見た。

 佐野と手島は隣の光景に呆気に取られ足が止まっていた。


「君たち。気持ちは分かるけど、今は決闘よ?」


 紫白眼が、自分も目線を切ってしまった身なのに注意する。


「如何に体重3倍でも、今の私は135kg。大統領よりは動けるわよ? 例えば、今の間に2回殺せたわ」


「ッ!!」


 甲冑姿の佐野は面頬で表情が読みにくいが、それでも驚いた表情から、ハッとした表情が良く分かる態度だった。

 それは手島も同じだった。

 天下布武Q公式グッズだけなので素顔は丸出しだ。

 表所も読み取りやすい。


「と言う訳で仕切り直しと行きましょうか!」


 紫白眼が声を掛けた。

 だが、掛けたは良いが、少々困っていた。


(厄介だわ!)


 佐野の甲冑姿はこの時代ではギャグだが、西洋のプレートメイルと違って日本の甲冑は機動性に長けている。

 しかも武器の選択が、刀に薙刀。

 町中に居たらもう完全にタイムスリッパーだが、素手で刀と薙刀の相手はキツイ。 


 一方、手島は天下布武公式グッズの衣装。

 織田家の『織田木瓜紋』や『天下布武印』が所々プリントされている以外は、いたって普通の格好だ。

 機動性も抜群で、嫌らしい事に、槍とナイフと言う対処の難しい組み合わせで武器を持っている。

 木下梅夜陣営は基本的に素手で、接近戦を強いられる上に、一番危険なのはナイフだ。


(外すか、折るしか無いわね!)


「手島! 行くぞ! 全ては『あのお方』の為に!」


「えぇ……プッ……! いくわよ!」


 2人は呼吸を合わせ(一瞬合わなかったが)攻撃を繰り出す。

 薙刀と槍の長所を生かした連携攻撃。

 どちらの武器も斬撃と突きが可能な武器だが、薙刀は斬撃に優れ、槍は突くに優れる。


 厄介な事に2人とも使い手だ。

 空気を切り裂く薙刀に、空気を突き崩す槍。 

 抜群のコンビネーションで遅い書かかる。


(こういう攻撃は、武器同士が衝突して隙が出来るモノだけど……手ごわい!)


 お互いの攻撃を邪魔する事無く、息つく暇なく連続攻撃で刃物が襲い掛かる。

 しかも紫白眼は体重が3倍に設定されたタクティカルベストを着ている。

 通常の体重ならどうとでもなる攻撃が、必殺性を帯びているのは恐怖だ。


 その攻撃の内の一発が、紫白眼の脛に命中した。

 刃物の部分では無く、柄の部分だが、遠心力の乗った一撃は膝を突かせるのに十分だった。


「その首貰った!」


 完全に戦国武将になり切った佐野が薙刀を横薙ぎに振るう。


「顔面を貫いてあげるわ!」


 手島の槍が真っすぐ口を狙って突き出される。

 一方、紫白眼は痛みの衝撃で動けないのか、微動だにしない。


(……今っ!)


 薙刀と槍が紫白眼を捉える瞬間、痛みの無い足一本で135kgの体を前に動かし、右手で薙刀の、左手で槍の柄の部分を軽く叩く。

 薙刀は頭上に逸れ、槍は顔の左横を通過した。

 どんな攻撃であろうとも、真横90°からの対処には弱い。

 勢いが付いていればいる程、簡単に弾いてしまえる。


 だが、紫白眼の攻撃はこれで終わりでは無かった。

 2人の長物を弾いてから柄を脇に抱えると――


「ハッ!」


 気合一閃、薙刀と槍を逆に操作し、2人を投げ飛ばした。

 合気道の呼吸と、柄から伝わる2人の力の流れを逆用反射し、投げたのである。


「ゲッ!?」


「ギャッ!?」


 お互いの体を頭から衝突させ、地面に昏倒させた。

 特に、天下布武Qグッズの手島は兜に激突され、落ち所も悪く、意識もうろうとしていた。


「い、今のは、織田……」


「おっと。それ以上はダメよ」


 佐野が起き上がる前――接近を済ませた紫白眼――刀を抜かせる前――佐野の手を取り――佐野の体が一回転――背中から叩きつけ――止めに――極められていた手首を折った。


「ガハッ! ギャァァァッ!? ゲフッ……」


 単なる合気道の小手返し。

 されど必殺の小手返し。

 紫白眼は靴で佐野の喉を踏み潰し戦闘不能にした。


「さっ。手島さん? もう大丈夫でしょう? 掛かっていらっしゃい?」


「グッ!」


 ヨロヨロと立ち上がる手島。

 その手島に素早く接近した紫白眼は手島に耳打ちをした。


「……(人間50年天下の意思をくらぶれば夢も現実の如くなり)」


「……なぜそれをガッ!?」


 話の途中で、ローキックと見紛う紫白眼の足払いが、手島の両足を刈り、つんのめった体を掌底アッパーで突き上げ、そのまま行動部を地面に叩きつけた。

 手島は天地が逆になった間隔に追い付く間もなく、アスファルトに叩きつけられた。


「なぜそれを知っているんでしょうねぇ? (湯田が『ルミコ』と言ったのを聞けたからね。それでこの反応。間違いないわね)」


 手島はせっかくの接近戦ナイフを活かす間もなく、頭蓋骨が割られ、完全に戦闘不能になった。

 良くて植物人間、悪くて、死亡までのタイムリミットが猛烈な勢いでカウントダウンしているだろう。


「ボケっとしている沓名君? 行くわよ?」


 薙刀、槍、刀、ナイフを回収すると、スリングショットで援護している沓名に向かって次々と投げつけた。

 まだ戦っている乱蛇琉の援護の為だ。

 対爆スーツは爆風にも耐える特別スーツなので、武器を投げつけた所でダメージゼロだが、怯ませるには十分な剛速球ならぬ、剛投擲だ。

 その証拠に、投げた武器は、全部防弾ガラスに突き刺さった。


「乱蛇琉さん、手伝いましょうか?」


「ふん! 貴様らの戦いを見物して手を抜いていただけだ! もう私だけならすぐ終わらせる!」


「不覚を取らないで下さいね~」


 紫白眼は佐野と手島の足を持つと、ずるずる引きずって、木下梅夜の下に戻るのであった。

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