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第39話 木下梅夜&政府関係者vs天下布武Q①

【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】


 目冥木の掛け声で始まった仇討ち法第三試合。

 西側に、木下&政府陣営。

 東側に、天下布武しんちょうこうQ陣営。


「俺達は勝っても負けてもコレまでだ! だからこそ! この戦いには意味がある! 全ては天下布武Qと日本の為に! そして特に北南崎大統領の為に死ぬ!」


 農上が気合込めて叫んだ。

 もうこうなっては木下を殺すのが最後の任務確定だ。

 ならば日本と北南崎の為に戦って死ぬのも任務だ。


(余計な事を!! 色々


 北南崎が農上の言葉に苦い顔をする。

 この決闘は国民も見ているのに、死刑囚側が『北南崎の為に』などと言っては意味が分からない。

 何なら不正を疑われる危険性ある。


「では、皆さン! 行きますよ!」


 一斉に両陣営が動き出す、が、やはり己の体重の3倍の重量物を背負う北南崎、紫白眼、乱蛇琉は怪獣の動作の如く、一歩一歩踏みしめながら梅夜に近づき陣形を作る。


 中央先頭(東)に北南崎。

 左翼(北)に紫白眼。

 右翼(南)に乱蛇琉。

 中央後衛(西)に木下梅夜。


 つまり菱形に梅夜を守る陣形だ。


 一方、天下布武Qの7人は何をしていたか?

 我先に、バーゲンセール、福袋に群がる群衆の様に、武器を手に取り、しっくりこない武器を捨てては違う武器を選んでいた。


 彼らには、統率、規律と言った概念が無いのか、この決闘場だから性格が出たのか武器の奪い合いだ。


(う~む、みっともない。天下布武Qの総帥が泡吹いて倒れてなければいいですがねぇ)


(生に執着する、日本人らしい姿かもしれませんよ?)


(災害が起きれば他人を蹴落としてでも逃げるのが日本人ですからねぇ)


 北南崎達が天下布武Qら連中を哀れに思うとともに、この礼節を失った日本人の習慣を根本から治す荒治療がこの仇討ち法。

 北南崎は、少しでも画面に映る醜態を無くすべく、声を掛けた。


「皆さン。武器の選択の時間ぐらいは待ってあげますよ。貴方の命運を握る武器なのです。しっかり時間をかけて選びなさい」


「……油断を誘う言葉じゃねぇのか?」


 農上が油断ならない声で反応した。

 北南崎の為に死ぬつもりではいるが、絶対条件として木下の殺害が最優先だ。

 確かに、北南崎が勧めたとて、その言葉を信じて良い理由にはならない。

 農上の警戒は正しい、が少々間違っている。


「そちらまで25m程。3倍の重量を背負う我らが、特に300kgの私が奇襲を掛けるには無理がありますね。遠慮せずしっかり選びなさい」


「……フン!」


 農上は納得したのか、改めて武器を選ぶ。


 30㎡の決闘場。

 重量無しなら、即接近して薙ぎ倒せるだろうが、3倍の重量では――余裕で薙ぎ倒せる。

 ソレをしないのは、したら絶対に国民に不正を疑われるからだ。

 いつか、仇討ち法に己の命を懸ける姿を国民に見せねばならぬ機会を伺い続け、ついにその機会を得た。


 それなのに、300kgの体重で、高速戦闘を披露しては不正を疑われてしまい、政治不信に繋がってしまう。


『政治家の勝率は100%か!』


 そんな事を言われたら、証明が面倒極まりなくなる。

 どんなに言葉を尽くして、真実を証明しても、疑う人間は『トリック』だの『プラズマ』だの『ワクチンの副作用』だ、などと言うに決まっている。


 故に北南崎達は別の意味で、非常に難しい戦いを強いられている。


 負けてはいけない。

 しかし、余裕で勝ってもいけない。

 傷を負っても良いが、致命傷は当然、一生影響する重傷を負ってもいけない。


 これこそが90%の勝率の真のコントロール。

 重りなど本当は関係ない。

 適度に苦戦しつつ、全員倒さなくてはならない 


 北南崎達が、相手の武器を見て戦闘プランを立てる。


 農上(♂)が、SAT防護服に、金属バットとコンバットナイフ。

 沓名(♂)が、対爆スーツに、スリングショットとその球(パチンコ玉50発)。

 佐野(♂)が、戦国時代甲冑に、刀と薙刀。

 杉浦(♂)が、ジャージに、スラッパーとスタンガンと木刀。

 湯田(♀)が、衝撃吸収スーツに、薙刀。

 手島(♀)が、天下布武QTシャツ&パンツに、ナイフと槍。

 大泉(♀)が、剣道防具一式に、刀と薙刀


(皆さン、防御装備に適した得物を知らずとも手に取ったようですねぇ)


 ただ単に攻撃力を追求するのではなく、姿形に合わせた合理的な選択だ。

 それだけでも、常人の集団でない事が見て取れる。


「準備が整ったようですね? では掛かって来なさい!」


「よし、オレと湯田が北南崎! 佐野と手島が紫白眼! 杉浦と大泉が乱蛇琉! 沓名はババァを狙いつつ苦戦している奴を援護しろ! 天下布武Qの天下統一前哨戦だ! 行くぞ!」


 農上が素早く戦術と役割を分けた。

 身に着けている防具と、相手の戦力予想を立てた、実に順当で妥当な戦略だ。


 北南崎にはSAT防護服の農上と衝撃吸収スーツの湯田。

 両者の防具は基本的に防御特化。

 湯田のスーツに至っては、ロボットアニメのパイロットスーツの様なデザインで、5mの高さから玉子を落としても割れない最先端スーツ。

 一番攻撃力の高いであろう北南崎に合わせたのだ。


 紫白眼には戦国時代甲冑の佐野と、天下布武Qのオリジナルグッズの手島。

 この時代に甲冑はもはやギャグだが、防御力は天下布武Qグッズよりは、遥かにマシだ。

 天下布武Qグッズの手島は、防御の期待はできないが、SAT装備、衝撃吸収スーツ、甲冑に比べ、普段着なので格段に機動性がある。

 防御が紙なだけで、普段と同じ服装と考えれば、動きにくさを考慮しなくても良いだけ有利である。


 乱蛇琉にはジャージの杉浦と、剣道防具の大泉が。

 女だが上半身の防御特化甲冑の大泉が壁になり、ジャージで機動性の高い杉浦が攻撃を担当すれば、乱蛇琉といえど苦戦は免れないだろう。


 対爆スーツの沓名は、少々特殊で、爆発物処理班が身に着ける装備で、丈夫だが重く不格好で素早い動きができない。

 その代わりのスリングショットだ。

 スリングショットとは、所謂ゴムを伸ばして弾を飛ばす子供の遊び道具の一種だが、戦闘用に特化した強烈な一撃を放つ戦闘専用のスリングショットもある。 

 沓名が持っているのは、まさに戦闘用のスリングショット。

 当たれば痛い、では済まない。

 皮膚の弱い梅夜が直撃すれば、パチンコ玉といえど体にめり込み出血を促すだろう。


 農上の策は、一瞬で考えたとは思えない、実に理に叶った配置だった。


「ほう。頭が痛くなる思想の持主の割には中々理にかなった戦術。皆さン! 敵の突撃を捌きつつ梅夜さンを守ってくださいね!」


「はい!」


「ハッ! お任せを!」


「梅夜さンは、常に私か車椅子の影に! 特に、あの対爆スーツの男に体を晒さないで下さい! 死ななくとも強烈に痛い一撃をもらう可能性があります! それから――」


「ブツクサうるせえ! どけ! アンタは最後に――」


 農上が背後にいる梅夜に視線を切って話す――北南崎の特大の隙を見逃さず襲い掛かる――北南崎が後ろを向いたまま――左手でバットを受け止め――正拳中段突きで吹き飛ばす――


「梅夜さンは、出番が来るまでは防御に徹してください!」


「ヒッ……はいぃぃッ!」


 北南崎の格闘技術に驚きつつ梅夜は車いすの後ろに隠れ、戦況を見守るのであった――

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