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第38話 仇討ち法施行第三号 試合前②

【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】


「では、まず梅夜さンからルーレットを回してください」


 そう言われて梅夜はルーレットを回し、『助太刀人B:北南崎、紫白眼、乱蛇琉らんだる、3倍』で止まった。

 戦力としては最高だが、背負うハンデも最悪の3倍だ。


「では、紫白眼君、乱蛇琉君、そして私が助太刀として参加します。機動隊の皆さン。重りと体重計をお願いしますね」


 そう言って、3人と機動隊が体重計と謎の箱が乗った台車を持ってきた。


「では杉浦君。箱の中身の粒を手ですくってみてください。大丈夫ですよ。有害物質ではありませン」


「は、はぁ……お、重ッ!?」


 杉浦は片手で救える分量の粒を掬って、思わず驚きの声をあげた。


「これはタングステン。とても重い物質でしてね。1辺3.8㎤で1kgにもなる重い物質です。軽い物質だと準備も大変で着膨れしてしまいますからね。皆も触って不正が無いか確かめてください」


 杉浦以外の人間が、恐る恐るタングステンの粒を掬っては、その重さに驚いた。


「では杉浦君、体重計に乗って下さい」 


「は、はい」


 数値は75kgと出ている。


「どうです? 自分の体重と合っていますか?」


「た、逮捕から時間が経っているんで正確な数値は分かりませんが、5kg落ちていたんで、妥当な数値だと思います……」


「宜しい。では私が乗ります。……101kgですか。服装と朝食の分ですかね? では機動隊の皆さン。タクティカルベストにタングステンを202kg詰めてください」


 北南崎に指示され、ベストについている大量のポケットに、どんどんタングステンの粒を放り込む機動隊員。

 体重計がみるみると数値を上げていく。


「これで……202kg!! ぬぅ! 重い!」


 体重計から降りた北南崎の足取りは、怪獣でも歩くかのような、血管を浮き上がらせて踏ん張る歩き方だった。

 同じように、紫白眼と乱蛇琉も重量ベストを着こむ。

 各人の体重とハンデは以下になる。


 北南崎101kg=303kg

 紫白眼45kg=135kg

 乱蛇琉56Kg=168kg


「さ、3倍は、キツイわね!」


「し、紫白眼さん? その程度で弱音ですか……?!」


「ふん! 屁でもありません!」


 紫白眼が額に血管を浮き上がらせて否定した。

 2人は子弟であり戦友だ。

 乱蛇琉の教え子が紫白眼である。

 こうして、梅夜側の準備は整った。


 とても大統領と死刑囚、副大統領と防衛大臣の会話とは思えぬ、のどかな光景がそこにはあった。


「さて、次は死刑囚の皆さン、ルーレットを回してください。全員一回ずつどうぞ。みれば分かりますが、機動力か、防御力です」


 天下布武Qの面々がルーレットを回す。


 農上:SAT防護服 機動性A 防御性A 耐火性B

 沓名:対爆スーツ 機動性C 防御性A 耐火性S

 佐野:戦国時代甲冑 機動性B 防御性B 耐火性D

 杉浦:ジャージ 機動性S、防御性D 耐火性D

 湯田:衝撃吸収スーツ、機動性S 防御性S 耐火性S

 手島:天下布武QオリジナルTシャツ&ワイドパンツ 機動性S 防御性D 耐火性D

 大泉:剣道防具一式 機動性B 防御性B 耐火性D


 以上の結果になった。

 綺麗に分かれたのは運ではなく、なにか一つ当たれば、その項目は消去され隣の項目が半分ずつ増え、面積が加算される。

 安い品もあるが、軍用装備や最新科学スーツ、戦国時代甲冑などは値が張る。

 とても死刑囚の為に万が一を想定し10着ずつ用意するのは現実的ではない。

 それ故の処置である。


「それでは着替えてきてください」


 特に戦国時代の甲冑など一人で着替えられるモノでもない。

 他にも軍用装備は、精通していなければ、ちゃんと着替えられない。

 何より、死刑囚とは言え女子もいるのだから、全国中継の前で着替えろとは言えない。


「着替え終わりましたね? では再入場してください」


 着替え終わった死刑囚が、ゾロゾロとおっかなびっくりの足取りで決闘場に再入場した。

 まるで、何かのコスプレ集団に見えて、思わず笑いそうになるが、これから殺し合いが始まると思えば、頬は緩んでも笑い声までは出なかった。


「では好きな武器を選ンでください。それと同時にルールを説明します」


 天下布武Qのメンバーは籠の武器を手にとっては降ったりして、馴染むかどうか試すが、顔は大統領の方に向いていた。


「基本的に、木下梅夜さン対天下布武Qの皆さンの戦いです。我々は梅夜さンを守る為に行動しますが、天下布武Qの皆さンが、我々を仕留めたとしても勝負は続きます。逆に、助太刀人の我々が皆さンを全員殺す様な場合があれば決闘は終了です。決着はあくまで梅夜さンか天下布武Q皆さンの死で決着であり、我々の生死は関係ありませン」


「でも別に、あんた達を全員殺して、そのババァを殺しても良いんだな?」


 農上が挑発的な声で言った。

 SAT防護服という大当たりの部類の服を手に入れたが故の強気な発言であろう。

 逆にジャージの杉浦、天下布武QオリジナルTシャツの手島は不安で仕方がない。


「もちろン! 我々はお邪魔虫。邪魔なら排除すればよろしい。しかし我々は強いですよ? 一応、万万が一を考え遺書は残してありますが、五体満足で生還するつもりですので、覚悟してくださいね?」


 梅夜の前に陣取る3人は、強烈な重りを背負っているのに、全く不安を感じていない。


 勝って帰る。

 勝って執務に戻る。

 勝って強さを見せつける。

 勝って覚悟を示す。


 そんな覚悟が生む、闘気と殺気が突如決闘場に渦巻く。

 3人の閣僚が放つ、意思の力だ。


(当タラナクテ残念ナノカ、良カッタノカ……。Mr.北南崎ノオ手並ミ拝見トイキマショウカ)


 SPに化けたハデス大統領が、残念なのか安心したのか、複雑な表情で決闘場を見つめる。


「では、そろそろ良いでしょう」


 北南崎が目冥木に目配せした。

 戦わなくて安心している目冥木が元気よく応じ、号令を発した。


「では木下梅夜+助太刀3人対天下布武Q7名の決闘……始めぃッ!」

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