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第37話 仇討ち法施行第三号 試合前①

【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】


「あーあーマイクテスト、マイクテスト。うむ。感度良好ですね」


 今回の決闘場は陸軍の所有する駐車場となった。

 駐車場と言っても、マイカー駐車場ではなく、軍用車の駐車場だが、その軍用車をどかして今回の決闘場を作り上げた。

 相変わらずの、防弾ガラス――ではなく、耐熱防弾ガラスなのは、もちろん火炎放射器対策だが、出場者も立会人も、観戦する国民も関係ない。

 ただただ、無機質に透明な箱型の決闘場に出入口が付いた、いつもの簡素な決闘場だ。


「前々回は放火され瓦礫となった山下家、前回は竹林。今回はこの陸軍敷地内アスファルトの駐車場となります。当然遮蔽物も無く、身を隠す戦術は、仲間を盾にする以外にありませン」


 被害者の木下梅夜が東に、加害者の農上他蚊尋、沓名夜酢拾、佐野唇耳、杉浦賭藻丈、湯田苦身子、手島鬼未恵、大泉窃子が西にスタンバイしているが、いつもの通り加害者側は拘束され動けない。


 今回の会場も殺意の渦が巻き起こる――かと思えば違った。

 明らかに梅夜は動揺している。

 後から助太刀人が来るとは言え、何の罪悪感も無く人間を焼き殺す猛獣同然の檻に老婆1人と若者7人だ。

 年齢も年齢であるし、動揺するなと言う方が無理だろう。


 一方、カルト集団の面々は最後の使命を果たそうと、達観している。

 もうこうなった以上、自分達の使命は終わった。

 世界の浄化は叶わない。

 ならば、最後の1人だけでも浄化して、天下布武しんちょうこうQに尽くすのだ。


(コレカラ殺シ合イガ始マルノカ! コレハ蛮行ナノカ? 正義ナノカ? 正体ヲ現シ止メルベキナノカ!? ……分カラナイ! シカシ必要ナノハ分カル!)


 大統領の背後に控えているSPの1人は、ハデス大統領が化けた姿だ。

 一応、日本の行いを非難している立場なので、ここに居てはいけない。

 それを誤魔化す為に金髪を黒く染め、SP達同様にサングラスで目を隠し、イヤホンを耳につけている。

 イヤホンの伸ばした先には何もついていない。

 SPっぽく見える飾りだ。


「ではそれぞれの武器を搬入してください」


「えっ……武器?」


 天下布武Qの佐野が違和感に気が付いた。


「だ、大統領? 武器はルーレットで決めるのでは?」


「別に、武器はルーレットで決める決まりはありませン。たまたま前の2試合がそうなっただけ。あくまで勝率をコントロールするのに前までは武器の選択が適切だっただけ。今回は武器以外を選択してもらいます」


 大統領の言葉が終わると同時に、機動隊が決闘場に入り、1人は車いすを押して梅夜の前に持ってきた。

 魔改造された火炎放射車いすを。


 一方、死刑囚達には、籠一杯に入った様々な武器が目の前に置かれた。


 バット、ナイフ、スラッパー、刀、槍、根、薙刀、メリケンサック、警棒、木刀、竹刀、スタンガン、スリングショット他、死刑囚7人以上の数の武器が揃えられている。


 しかも各1種類ずつでは無い。

 最低各3個の武器が揃えられている。


「見ての通り大量の武器です。君たちの経歴を見て得意武器を揃えました。その武器の山はそこに置いておくので、二刀流でも構いませンし、壊れたら交換しても構いませン。自由に使いなさい」


 これは大盤振る舞いなのか?

 死刑囚達は武器の種類に喜んでいるか?

 否。

 誰も喜んでいない。 

 絶対に何か裏があると読んでいるからだ。


「さて被害者側の武器ですが、梅夜さン。ペダルを少し踏ンで貰えますか?」


「……はい」


 梅夜は死刑囚達を一瞥し、殺気の籠った眼でペダルを踏んだ。

 その瞬間、轟音共に、炎が噴き出した。


「か、火炎放射器!?」


 2mの射程なので死刑囚達には届かないが、その炎は山下家、林家、アパートを全焼させた火災よりも遥かに悪意と破壊力を感じる炎だった。


「そうです。ナパーム由来の火炎放射ですから、引火したら簡単には消えませン。消すには専用の消火器が必要で、例え水を掛けても消えませン。その消火剤は1人1本、1回分の分量だけ持たせます。ただし、全身が焼けたら分量が足りませンので注意してくださいね? あと梅夜さンの杖も武器として認めます」


 大統領の説明が終わると、アスファルトで燃え続ける炎を機動隊員が特殊消火剤で消した。


「さて、では勝率をコントロールするルーレットに参りましょう。布を取ってください」


 大統領の命令で、両者の横に控えていた機動隊が、決闘場に唯一持ち込んだ物に掛けられた布を取った。


 被害者の木下梅夜のルーレットには、以下の表記がされていた。


『助太刀人A:北南崎きたみなみざき紫白眼ししろがん南蛮武なんばんぶ、2倍』

『助太刀人B:北南崎、紫白眼、乱蛇琉らんだる、3倍』

『助太刀人C:北南崎、目冥木めぐらぎ朱瀞夢しゅとろむ、2倍』

『助太刀人D:北南崎、目冥木、乱蛇琉、菅愚漣かんぐれん金鉄銅かねくろがねどう、2倍』

『助太刀人E:北南崎、目冥木、乱蛇琉、南蛮武、2倍』

『助太刀人F:紫白眼、朱瀞夢、南蛮武、2倍』

『助太刀人G:紫白眼、目冥木、乱蛇琉、菅愚漣、2.5倍』

『助太刀人H:紫白眼、乱蛇琉、目冥木、覇出洲ハデス、1.5倍』

『助太刀人I:紫白眼、乱蛇琉、南蛮武、1.5倍』

『助太刀人J:乱蛇琉、朱瀞夢、金鉄銅、0倍』


 一方、加害者側のルーレットには、以下の表記がされていた。


『SAT防護服』

『防火服』

『耐熱服』

『対爆スーツ』

『衝撃吸収スーツ』

『ジャージ』

『天下布武QオリジナルTシャツ&ワイドパンツ』

『格闘訓練プロテクター』

『剣道防具一式』

『戦国時代甲冑』


 以上、10種類が同じ様に並んでいる。


「ご覧の通りですが、意味する所は理解できますね?」


「できるかッ!」


 死刑囚の農上が突っ込んだ。

 だが、全国のお茶の間の人間も理解ができず突っ込んだ。


「仕方ないですね。梅夜さン側の名前は助太刀参加者と、ハンデ重量です」


「ハンデ?」


 農上が怪訝な顔で聞き返す。


「2.5倍とか1.5倍とかありますね? あれはそれぞれ体重の倍数だけ、重りを背負ってもらいます。私は100kgありますのでBを引いたら体重の3倍総計300kgの負荷で戦います」


 200kgを持ち上げる人はいても、それを身に着けて戦うなど聞いた事がない。

 余程の自身なのか、勘違いしているかは、国民には分からなかった。


「人数や強さで倍率を決めており、倍率が高い程、そのグループは強いです。その強さを平均にする為のハンデです。ハンデが無ければ、私1人でも全員行動不能にするのは可能です。しかしそれでは君たちに10%勝率を保証できない。ちなみに全員素手です。言わば慈悲の心ですよ」


「なっ、なっ……舐めやがってッ!」


 農上は激高しやすい性格なのだろう。

 勝たなければいけない勝負で、ハンデをつけられた事を屈辱に感じているようだった。


「さて、一応、紹介もさせて頂きましょうかね。知らない人も居るでしょうからね。大統領の北南崎桜太郎です」


「私は副大統領の紫白眼魎狐です」


 大統領と副大統領はいつもの調子であいさつした。


「官房長官の目冥木霊重です……」


 目冥木は『絶対に当たるなよ!』と祈りながら挨拶した。


「防衛大臣の乱蛇琉胡蝶です」


 乱蛇琉胡蝶は防衛大臣にして陸軍の大将の地位にある。

 30過ぎだが、美しさもさる事ながら、拳の骨を鳴らす音は、戦意を隠しきれていない。

 ちなみに徒手空拳に限り朱瀞夢には負けたが、総合力は北南崎に次いで2位である。


「45第大統領、現大統領顧問、南蛮武葬兵じゃ」


 南蛮武は大統領顧問として地位を与えられている。

 もっとも、目的はこんな日本にしてしまった罪に悩み、戦って戦ってその末に死ぬ事を望んでいる。 


「ここまでが政府関係者。陸軍からは朱瀞夢銃理軍曹、あとはSPの菅愚漣君、金鉄銅君、覇出洲君です」


 菅愚漣熊亥は、いつものSP。

 金鉄銅銀音は、前回の戦いの勝者にしてSPに就職した。

 覇出洲は、ルシファー・F・ハデスで、A合衆国大統領。

 これは紫白眼すら知らない、北南崎とハデスの密約。


『1ヵ所るーれっとニ私ノ名前ヲ入レテクレンカネ?』


『……!! 死ンだら国際問題ですよ? いや、バレてもか! お強いのは知っていますが……賭けですね?』


『訓練ハ欠カシテ無イヨ』


 ハデスが、腕を振る。

 左ジャブ2発に、右ストレート1発。

 目視不可能の速さで、風切り音しか聞こえなかった。


 ハデスもストリートギャングの身から大統領に上り詰めた猛者だ。

 この制度を確かめる為に、参加を希望した。

 当たるかは時の運だが、死んだら世界大戦級の事故となるが、2人は法案の将来を思うのであった――

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