【大坂都/陸軍敷地内 駐車場】
「あーあーマイクテスト、マイクテスト。うむ。感度良好ですね」
今回の決闘場は陸軍の所有する駐車場となった。
駐車場と言っても、マイカー駐車場ではなく、軍用車の駐車場だが、その軍用車をどかして今回の決闘場を作り上げた。
相変わらずの、防弾ガラス――ではなく、耐熱防弾ガラスなのは、もちろん火炎放射器対策だが、出場者も立会人も、観戦する国民も関係ない。
ただただ、無機質に透明な箱型の決闘場に出入口が付いた、いつもの簡素な決闘場だ。
「前々回は放火され瓦礫となった山下家、前回は竹林。今回はこの陸軍敷地内アスファルトの駐車場となります。当然遮蔽物も無く、身を隠す戦術は、仲間を盾にする以外にありませン」
被害者の木下梅夜が東に、加害者の農上他蚊尋、沓名夜酢拾、佐野唇耳、杉浦賭藻丈、湯田苦身子、手島鬼未恵、大泉窃子が西にスタンバイしているが、いつもの通り加害者側は拘束され動けない。
今回の会場も殺意の渦が巻き起こる――かと思えば違った。
明らかに梅夜は動揺している。
後から助太刀人が来るとは言え、何の罪悪感も無く人間を焼き殺す猛獣同然の檻に老婆1人と若者7人だ。
年齢も年齢であるし、動揺するなと言う方が無理だろう。
一方、カルト集団の面々は最後の使命を果たそうと、達観している。
もうこうなった以上、自分達の使命は終わった。
世界の浄化は叶わない。
ならば、最後の1人だけでも浄化して、
(コレカラ殺シ合イガ始マルノカ! コレハ蛮行ナノカ? 正義ナノカ? 正体ヲ現シ止メルベキナノカ!? ……分カラナイ! シカシ必要ナノハ分カル!)
大統領の背後に控えているSPの1人は、ハデス大統領が化けた姿だ。
一応、日本の行いを非難している立場なので、ここに居てはいけない。
それを誤魔化す為に金髪を黒く染め、SP達同様にサングラスで目を隠し、イヤホンを耳につけている。
イヤホンの伸ばした先には何もついていない。
SPっぽく見える飾りだ。
「ではそれぞれの武器を搬入してください」
「えっ……武器?」
天下布武Qの佐野が違和感に気が付いた。
「だ、大統領? 武器はルーレットで決めるのでは?」
「別に、武器はルーレットで決める決まりはありませン。たまたま前の2試合がそうなっただけ。あくまで勝率をコントロールするのに前までは武器の選択が適切だっただけ。今回は武器以外を選択してもらいます」
大統領の言葉が終わると同時に、機動隊が決闘場に入り、1人は車いすを押して梅夜の前に持ってきた。
魔改造された火炎放射車いすを。
一方、死刑囚達には、籠一杯に入った様々な武器が目の前に置かれた。
バット、ナイフ、スラッパー、刀、槍、根、薙刀、メリケンサック、警棒、木刀、竹刀、スタンガン、スリングショット他、死刑囚7人以上の数の武器が揃えられている。
しかも各1種類ずつでは無い。
最低各3個の武器が揃えられている。
「見ての通り大量の武器です。君たちの経歴を見て得意武器を揃えました。その武器の山はそこに置いておくので、二刀流でも構いませンし、壊れたら交換しても構いませン。自由に使いなさい」
これは大盤振る舞いなのか?
死刑囚達は武器の種類に喜んでいるか?
否。
誰も喜んでいない。
絶対に何か裏があると読んでいるからだ。
「さて被害者側の武器ですが、梅夜さン。ペダルを少し踏ンで貰えますか?」
「……はい」
梅夜は死刑囚達を一瞥し、殺気の籠った眼でペダルを踏んだ。
その瞬間、轟音共に、炎が噴き出した。
「か、火炎放射器!?」
2mの射程なので死刑囚達には届かないが、その炎は山下家、林家、アパートを全焼させた火災よりも遥かに悪意と破壊力を感じる炎だった。
「そうです。ナパーム由来の火炎放射ですから、引火したら簡単には消えませン。消すには専用の消火器が必要で、例え水を掛けても消えませン。その消火剤は1人1本、1回分の分量だけ持たせます。ただし、全身が焼けたら分量が足りませンので注意してくださいね? あと梅夜さンの杖も武器として認めます」
大統領の説明が終わると、アスファルトで燃え続ける炎を機動隊員が特殊消火剤で消した。
「さて、では勝率をコントロールするルーレットに参りましょう。布を取ってください」
大統領の命令で、両者の横に控えていた機動隊が、決闘場に唯一持ち込んだ物に掛けられた布を取った。
被害者の木下梅夜のルーレットには、以下の表記がされていた。
『助太刀人A:
『助太刀人B:北南崎、紫白眼、
『助太刀人C:北南崎、
『助太刀人D:北南崎、目冥木、乱蛇琉、
『助太刀人E:北南崎、目冥木、乱蛇琉、南蛮武、2倍』
『助太刀人F:紫白眼、朱瀞夢、南蛮武、2倍』
『助太刀人G:紫白眼、目冥木、乱蛇琉、菅愚漣、2.5倍』
『助太刀人H:紫白眼、乱蛇琉、目冥木、
『助太刀人I:紫白眼、乱蛇琉、南蛮武、1.5倍』
『助太刀人J:乱蛇琉、朱瀞夢、金鉄銅、0倍』
一方、加害者側のルーレットには、以下の表記がされていた。
『SAT防護服』
『防火服』
『耐熱服』
『対爆スーツ』
『衝撃吸収スーツ』
『ジャージ』
『天下布武QオリジナルTシャツ&ワイドパンツ』
『格闘訓練プロテクター』
『剣道防具一式』
『戦国時代甲冑』
以上、10種類が同じ様に並んでいる。
「ご覧の通りですが、意味する所は理解できますね?」
「できるかッ!」
死刑囚の農上が突っ込んだ。
だが、全国のお茶の間の人間も理解ができず突っ込んだ。
「仕方ないですね。梅夜さン側の名前は助太刀参加者と、ハンデ重量です」
「ハンデ?」
農上が怪訝な顔で聞き返す。
「2.5倍とか1.5倍とかありますね? あれはそれぞれ体重の倍数だけ、重りを背負ってもらいます。私は100kgありますのでBを引いたら体重の3倍総計300kgの負荷で戦います」
200kgを持ち上げる人はいても、それを身に着けて戦うなど聞いた事がない。
余程の自身なのか、勘違いしているかは、国民には分からなかった。
「人数や強さで倍率を決めており、倍率が高い程、そのグループは強いです。その強さを平均にする為のハンデです。ハンデが無ければ、私1人でも全員行動不能にするのは可能です。しかしそれでは君たちに10%勝率を保証できない。ちなみに全員素手です。言わば慈悲の心ですよ」
「なっ、なっ……舐めやがってッ!」
農上は激高しやすい性格なのだろう。
勝たなければいけない勝負で、ハンデをつけられた事を屈辱に感じているようだった。
「さて、一応、紹介もさせて頂きましょうかね。知らない人も居るでしょうからね。大統領の北南崎桜太郎です」
「私は副大統領の紫白眼魎狐です」
大統領と副大統領はいつもの調子であいさつした。
「官房長官の目冥木霊重です……」
目冥木は『絶対に当たるなよ!』と祈りながら挨拶した。
「防衛大臣の乱蛇琉胡蝶です」
乱蛇琉胡蝶は防衛大臣にして陸軍の大将の地位にある。
30過ぎだが、美しさもさる事ながら、拳の骨を鳴らす音は、戦意を隠しきれていない。
ちなみに徒手空拳に限り朱瀞夢には負けたが、総合力は北南崎に次いで2位である。
「45第大統領、現大統領顧問、南蛮武葬兵じゃ」
南蛮武は大統領顧問として地位を与えられている。
もっとも、目的はこんな日本にしてしまった罪に悩み、戦って戦ってその末に死ぬ事を望んでいる。
「ここまでが政府関係者。陸軍からは朱瀞夢銃理軍曹、あとはSPの菅愚漣君、金鉄銅君、覇出洲君です」
菅愚漣熊亥は、いつものSP。
金鉄銅銀音は、前回の戦いの勝者にしてSPに就職した。
覇出洲は、ルシファー・F・ハデスで、A合衆国大統領。
これは紫白眼すら知らない、北南崎とハデスの密約。
『1ヵ所るーれっとニ私ノ名前ヲ入レテクレンカネ?』
『……!! 死ンだら国際問題ですよ? いや、バレてもか! お強いのは知っていますが……賭けですね?』
『訓練ハ欠カシテ無イヨ』
ハデスが、腕を振る。
左ジャブ2発に、右ストレート1発。
目視不可能の速さで、風切り音しか聞こえなかった。
ハデスもストリートギャングの身から大統領に上り詰めた猛者だ。
この制度を確かめる為に、参加を希望した。
当たるかは時の運だが、死んだら世界大戦級の事故となるが、2人は法案の将来を思うのであった――