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第36話 見学 北南崎桜太郎&ルシファー・F・ハデス

【大坂都/大統領官邸 決闘5日前 執務室】


「Mr.北南崎。今度ハ、アノ老婆ガ戦ウノカネ?」


 信じられない面持ちで外国人が眉をひそめた。

 大統領の執務室にいるのだから、相応の立場の外国人であるのには違いない。


「そうです。今は日課のランニングの最中。言いたい事は分かります。頼りない足取りは否定しませンが、例えあの状態でも相手を殺すべく最後の最後まで足掻くのです」


 北南崎は『その姿こそが重要なのだ』と暗に言った。


「……ソウカ。立場上、日本ノ行イハ非難セネバナランノダガネ。正直我ガ国デモ導入シタイノガ本音ダヨ」


 大統領執務室で窓にもたれ掛かって見学しているのは、日本の北南崎大統領と、A合衆国の大統領、ルシファー・F・ハデスその人だ。


「止めた方が良いでしょう。特に貴国では、白人対他人種の組み合わせが最悪です。白人が負ければ白人が、他人種が負ければ他人種が必ずデモを起こすでしょう」


「ソウナノダヨ。困ッタ事ニナ。ドンナニ公平ヲ期シテモ、ソウナル姿ガ容易ニ想像デキテシマウ」


 A合衆国のデモは一種の戦争とも言える頭痛の種。

 軍と市民が衝突するのは当然、その混乱に乗じた略奪が後を絶たない。

 日本の『〇〇が通った後にはぺんぺん草も生えない』との言葉は、A合衆国の為にある言葉だと錯覚しそうになる。


「コノ法デ、日本ガ目ニ見エテ良クナッテクレレバ、世界ハ変ワルカモ知レナイナ……」


 一生懸命ランニングする梅夜を心で応援するハデス大統領であった。



【大統領官邸府内/庭】


 一方、副大統領の紫白眼と45代大統領の南蛮武が庭で梅夜に指導を行っていた。

 その指導が一区切りつき、紫白眼が決闘に使う武器について話し始めた。


「梅夜さんの武器は以前からの希望を叶える目途が立ち、今日完成しました。菅愚漣君持ってきてちょうだい」


「はッ」


 菅愚漣が倉庫に向かって走り、台車の様な何かを押して戻ってきた。


「これは……? 私の車いす?」


 梅夜には自分の車いすに見覚えがあったが、座席部分には強烈な異物が鎮座していた。


「ご希望の火炎放射器です。ですが総重量20kgの燃料タンクと放射器を梅夜さんが担いで戦うのは、どう考えても不可能です。その為の車いす。座席にタンク右側持ち手の上部に放射器を取り付けました。これなら移動も苦にはなりません。決戦場はアスファルトの平坦な場所ですからね」


「触っても?」


「どうぞ。」


 そう言って紫白眼達は車いすの背後に回った。


「使い方を説明します。車いすの移動は、通常の車いす同様にグリップを持って移動します。違うのは足元です。足にあるペダルを踏むと火炎が発射されます。踏んでみてください」


 梅夜は言われた通り、ペダルを踏むと放射器から火炎が噴出した。


「ひぅ! おぉ……!」


 まるで庭木に水を与えるが如く、勢いよく火炎が飛び出した。


「放射器の後部には握り手があり、正面から左右45°に動きます。上下も同様45°。そこから外れた標的には車いすを動かす必要があります。気を付けてください。同様に注意点として、射程は2mです」


「これは意図的に短くしておる。今回助太刀申請をしておるからの。誤って助太刀人を燃やしてしまう恐れもある。この火炎放射器は止めの一撃と心得なされ。メイン武器はその杖じゃ。車いすの背部に差し掛けられているじゃろう?」


 南蛮武が追加して説明した。

 火炎放射器は強力ではあるがメインウェポンではない。

 火炎放射器は、焼き殺された被害者や娘と孫と同じ目に合わす為。

 真の武器は杖である。


 ただし、一撃必殺の威力を誇る改造杖だ。

 梅夜が使う杖は改造杖だが、普通の杖も達人が使えば凶悪な武器に変貌する。

 杖に関してもこんな言い伝えがある。


『突けば槍、払えば薙刀、打てば太刀、杖はかくにも外れざりけり』


 杖一本あれば、全て事足りる。(達人に限る)

 南蛮武は、杖術の達人だが、梅夜は違う。

 突いても押し負けるし、払っても跳ね返されるし、打ってもそれなりに痛いだけだ。

 到底殺せない。

 だから特定の攻撃に限り、必殺級の威力を持たせた改造杖としたのである。


「梅夜さんは、この火炎放射器と杖が確定武器として与えられます。今回ルーレットで90%の勝ちを決められるのは、助太刀人の数です。あと助太刀人は我々です」


「えっ!?」


 梅夜は、軍人の誰かが選ばれると思っていた。

 ところが紫白眼は、サラッと自分達だと言った。


「北南崎大統領、私、目冥木官房長官ら、戦闘に長けた閣僚と南蛮武先生。他にはSPの菅愚漣、金鉄銅らの内、だれか最低3人が選ばれるでしょう。多ければ5人で内訳は90%に収まる配分です」


「最低3人の場合、私を入れて4人ですか? 相手は7人なのに!?」


「大丈夫ですよ。我々は強いですから。倒すだけなら私一人でも十分です」


 紫白眼は自身たっぷりに言った。


「ワシも出来るぞ!?」


 南蛮武も負けずと言った。


「そ、そうでした。ともかく我々は強いです。強すぎるので、当日はハンデを背負わねばなりません。それでようやく90%となるでしょう。また、我々が最初に助太刀として参加する事、つまり命を懸けて戦う事で、国民に覚悟を示すのです」


「そ、そうですか……」


(そうなんですか?)


 金鉄銅が先輩SPの菅愚漣に聞いた。

 紫白眼には銃の扱いを教わり、一回投げ飛ばされたので、弱くないのは理解できる。

 だが、閣僚に相当数、戦闘に精通しているのは信じがたい。 

 しかも、あの弱気な目冥木の名前まで出た。

 正直信じられない。


(気持ちは理解できる。が、たまに『SPの存在って何だろう?』と思う事があるな……)


(そ、そうなんですか……)


「さて、今後はこの火炎放射器を押しながらランニングをしてください。武器に慣れる事が勝利への最短距離です!」


「はい!」


 梅夜はおぼつかない足取りで走り出した。

 当初は杖を突きながらじゃなければ動けなかった事を思えば、超絶進化だが、これでも一般人相手に勝つのは難しいだろう。


「聞いての通り、助太刀は我々全員が関わる可能性があります。いつか助太刀に関わる事がある時が、この『仇討ち法』に対する我々の本気度を国民に見せるよい機会なのです」


 助太刀は誰でも良いが、都合が良い(?)事に梅夜は被害に合い親族を失った。

 仮に生き残っても、娘と孫娘なので、助太刀には向かない。

 だから、そんな人達の為に、政府が支援する。

 その支援は大統領も含まれる。

 大統領も命を懸けているのだと知らしめる為に。


「各自、梅夜さんをサポートしつつ、訓練を怠らないように。特に金鉄銅さん、決闘では銃を使えないので、格闘術を磨いておいてくださいよ?」


「は、はい!」


 金鉄銅は、あの決闘に勝って以降、と言うより、戦う前から異常な銃の才能を発揮しだしたが、格闘に関しては、酷すぎる成績だ。

 SP仲間の間では『銃の才能に格闘の才能を全部取られた』と冗談めかして言われているが、あながち嘘でもない気がしてきたのがSP隊員の共通認識だ。


「さて、皆さん、重りを背負って梅夜さんの後を追いますよ」


「ハッ!」


 皆、ズシリと重いタクティカルベストに袖を通り、紫白眼達も走り出すのであった。



【大坂都/大統領官邸 執務室】


「君モ戦ウ可能性ガアルノカネ!?」


 庭での紫白眼達の声は、全て拾われ、執務室のスピーカーに通されていた。

 ハデス大統領は、ここで初めて北南崎も戦う可能性を知った。


「えぇ。日本は古来戦国時代から、大将が先陣を切る事もあります。だから兵も付いてくるのです。それと同じ理論ですよ。ハハハ」


(Fuckin Crazy brave……!!)


 ハデス大統領は北南崎の心掛けに感動しつつ、庭の特訓の様子を見守るのであった――

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