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第34話 副大統領謁見 紫白眼魎狐と湯田苦身子、手島鬼未恵、大泉窃子

【某所/死刑囚収容所 別室】


 紫白眼魎狐は別室モニターで農上ら男性死刑囚の様子を見ていた。


「酷い会話ね……」


「うっ、その……はい……」


 SPの金鉄銅銀音が直立不動の態度とは裏腹に、歯に物の挟まりすぎた困惑声で答えた。


「あの北南崎サンを怒らせるのは中々の才能よ?」


「そうなんですか? 確かに、のらりくらりとしている印象でした」


 金鉄銅が被害者時代の時は、北南崎とは余り話さなかった。

 紫白眼のSPになって会話する様になったが、掴み所の無いのが印象で、モニターの姿は想像できない姿ではあった。


「次は女性陣が相手だけど、もう疲労困憊そうね」


「助けに行かれますか?」


「基本的には大統領が面談するのが決まりなの。貴方の様な場合は私が行くけどね」


 強姦被害者に男の北南崎が面談は配慮に欠ける。

 それ以外にも女性が適任と判断された場合は紫白眼他、女性閣僚の誰かが面談を務める事になる。


「北南崎さんがギブアップサインを送ったら行くわ」


「はい」


 例外はギブアップか、女性になら話す場合だ。

 紫白眼と金鉄銅はモニターを注視するのであった。



【某所/死刑囚収容所 湯田苦身子】


「先ほど男性陣から話を聞いて、君たち組織と粗方の目的を把握しました。私の政策援助プラス邪魔者の排除、それに合わせ我が国の更なる地位の向上、と言った所ですか」


 やや頬がこけた感のある北南崎がズバリ聞いた。

 男性陣の話を統合すれば『こうなるハズ』なのだ。


「農上が吐きましたか?」


 湯田が冷たい目で答えた。

 農上らが錯乱しているとしか思えない態度だっただけに、この冷たい目が心地よい。

 少なくとも話は(出だしだが)通じた。


「農上君と言うよりは、男性陣全員の総意を、私なりに解釈してみました」


「男性陣は説明が下手だった様ですね」


 湯田は大きくため息をついた。

 外国人だったら手を左右に広げ、首をすぼめていただろう。


「下手……? 私の解釈では不十分でしたか。ではそこの所を教えて頂けませンか?」


「フッ。嫌です」


 湯田は嘲笑って答えた。


「嫌? 男性陣の態度を見るに、私に目的を知って欲しそうでしたが?」


 北南崎は、導き出した結論にケチをつけられ若干、血管を浮き上がらせた。

 湯田は女版の斎藤とでも言うべきか、相当の曲者の部類であった。


「人それぞれでしょう。私は教えない派です。大統領は今のまま大統領を務めて頂ければ問題ありません」


「その結果、貴方は決闘に駆り出されるのですよ?」


 犯罪者に太鼓判押されても困る。

 湯田には決闘という裁きが待っているのだ。

 覚悟を決めてもらわねば困る


「革命に流血は付き物でしょう?」


 しかし湯田は覚悟が済んでいた。


「革命……。成程。仇討ち法も流血の法案。ある意味革命だと。成程。わかりました。もう行って結構ですよ」


「よろしく」


 湯田は薄ら笑いで部屋を出て行った。



【死刑囚収容所 手島鬼未恵】


「先ほど男性陣と湯田さンから話を聞いて、粗方の目的を把握しました。私の政策援助プラス邪魔者の排除、それに合わせ我が国の更なる地位の向上、と言った所ですか」


 北南崎は、湯田と全く同じ質問を手島ぶつけた。

 湯田の発言の裏取りである。

 それと同時に、湯田に狂わされた己の考えを修正し固めたいのが本音だ。


「そうですよ。当り前じゃないですか」


 手島は『今更何を馬鹿な事を』とでも言いたげに答える。

 そう言う事であれば、北南崎の推測は合っているが、何とも言えない苛立ちが蓄積する。


「……君たちの組織、えーと、天下布武Qでしたっけ。これは何と読むのですか?」


 こう聞くからには『てんかふぶ』では無い。

 Qだけは『キュー』だ。

 しかし『天下布武』は、日本語ではそんな読み方をしない当て字の組織名だ。


信長しんちょう公ですよ」


「あぁ、そうでした」


 大統領は知ってはいたが、話の切っ掛けの為に聞いた。


「日本国初代皇帝織田信長公。そこから連なる50代目大統領北南崎として、いや、これまでの全皇帝と大統領は信長公の理念を考えて政治を行ってきました。ならば、貴方達はその理念を推進したいのでしょう?」


「……間違ってはいませんが。じゃあ一つ訪ねましょう『Q』って何の意味だと思います?」


「Qの意味? すみませン。すぐには出ませンね」


 英単語ならともかく、アルファベットの意味となると、即座に出すのは難しい。


「でしょうね。難しいですし、答えも一つではありません。答えは決闘上で聞かせて下さいな。では」


 手島はそう言って勝手に部屋を去っていった。



【死刑囚収容所 大泉窃子】


「先ほど男性陣と湯田さン、手島さンと話を聞いて、粗方の目的を把握しました。私の政策援助プラス邪魔者の排除、それに合わせ我が国の更なる地位の向上、と言った所ですか」


 北南崎は、湯田、手島と全く同じ質問を大泉ぶつけた。

 湯田と手島の発言の裏取りである。

 Qの謎も解いておきたい。


 だが、大泉はまったく期待外れの反応だった。


「ううっ……申し訳ありません! うわぁぁぁッ!」


「えっ」


 大泉は泣きながら謝罪した。

 男性陣と湯田、手島までは、悪事を悪事と思っておらぬ態度だったのに、大泉は謝罪した。


「何で放火なんて……! しかも被害者が出たなんて! 私は何て事を!!」


「ッ!?」


 北南崎は『どうせ、私の後押しを出来ず申し訳ない』との意味での謝罪だと思っていたので、面食らってしまった。

 完全に予想外だった。

 いや、これが普通の謝罪なのだ。

 他の奴等がおかしいのであって、大泉は普通の感性の持ち主だった。


「お、大泉君は、実行犯なのでしょう? 嫌だったンですか?」


「……嫌だった、と気が付いたのは死刑宣告を受けた時です」


「しかし、斎藤家でのセキュリティカメラには嬉々として灯油を撒く貴女が映っていました。自分の行いに陶酔していたのでは無いのですか?」


 斎藤家の監視カメラには全員の顔がバッチリ高画質で写っており、全員邪悪な笑顔で放火準備作業をしていた。


「……していたんだと思います」


「成程。催眠商法と同じ手口ですか」


「催眠商法?」


「例えば、100人集まって、あなた以外が、全員商品を買い求めていたら、貴女も買いたくなりませンか?」


「ッ!」


天下布武信長公Qは、それのもっと悪質な事をやっているのでしょう。恐らくカルト宗教クラスの洗脳を。貴女は比較的良識があった。手遅れではありましたが、こうして過ちに気が付く事ができた」


「じ、じゃあ!?」


 大泉は期待を込めて聞いた。

 死刑が大統領権限で覆る事を。


「残念ですが、8人焼き殺し、3人殺人未遂(斎藤家)では、酌量の余地があっても死刑です」


 大統領は無情にもハッキリ死刑を宣言した。


「うわぁぁぁあッ!! お母さん!!」


 大泉は泣き崩れてしまった。

 もう話しどころではない。


「紫白眼君、聞こえていますか?」


『はい。出番ですか?』


「頼みます」


 この娘からは北南崎では何も有効な答えは得られない。

 同性の紫白眼なら可能性はある。

 泣かせて泣かせて、泣き止んだ時が勝負だ。


「お待たせしました」


「聞けるだけ聞き出してください」


 2人は扉ですれ違う時に耳打ちした。



【某所/死刑囚収容所 別室】


「金鉄銅君、『Q』と聞いて何を思い浮かべます」


 北南崎は、手島に問われた事を、そっくりそのまま金鉄銅に聞いてみた。


「……一般的には『疑問』じゃないでしょうか」


 北南崎の問いに金鉄銅は答えた。


「ただ天下布武を信長公と読ませる連中です。まともな意味があるとは思えません。ナチスのシンボル等の意味ぐらいしか無いかもしれません」


「う~む。私を惑わせたいのなら、その線もありでしょうが……後で辞書を調べてみますか」


 一方、別室での紫白眼と大泉は、話が弾んでいるのか、色々と聞き出していた。

 やはり、威圧感のある北南崎では、洗脳が溶けている大泉に対しては紫白眼が対応するのが有効であった。

 そのやり取りを聞きながら、『Qとは何か』考え続ける北南崎であった――

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