【A国N州/国際連合本部】
今年も総会の季節がやってきた。
「さてと! いきますかねぇ! 毎年、何の進展も見られない、不毛で眠たい会議の時間が」
北南崎が大あくびをしながら気合を入れた。
「だ、大統領。もはや止めはしませんが、これは半分宣戦布告の様なモノですよ!?」
一方、特命全権大使・常駐代表の
「ハッハッハ! その程度で戦争になるなら、今頃は第4次世界大戦にでもなっていますよ。これは針の筵にいる馬琉麒君へのご褒美でもあるんですよ? 安心しなさい」
北南崎は馬琉麒の背中を叩いた。
「それは本当に感謝しておりますよ! でも本当は労災申請したいですよ!? しませんが! 良いですか? 共にあの地獄を潜り抜けた仲です。大統領の考えに異論はありませんが、世間世界とのズレは相当なモノです。いまや日本は、死刑執行国の中でも最悪の国として認知されていますからね!?」
現在死刑制度があるのは世界で54カ国。
法律または事実上廃止している国は144カ国。
被害者が加害者を殺す、殺人の権利を認める国が1カ国。
勿論、この1カ国は日本だ。
山下対加藤の、フライ返し対日本刀。
金鉄銅対丹羽、林、斎藤の銃対ナイフ、スタンガン、催涙スプレー。
この放送は日本でしか放映されていないが、 日本に大使館を置く国、日本で働く外国人には見る事ができる。
当然、絶大な衝撃を世界に与える結果になった。
「もう、総会で袋叩きになるのは目に見えていますよ!?」
「ハッハッハ! こんな欠陥議会に何言われようが、痛くも痒くもありませんよ」
欠陥議会――
この国連総会は第二次世界大戦を経て、もう二度と世界規模の戦争を起こさせない為に、問題を各国で話し合って解決に導く有史以来の強力な機関となる事を期待された。
だが、国連の成り立ちに際し、致命的な間違いを内包したまま組織が作られたお陰で、自縄自縛に陥り機能不全を起こしていた。
例えば会議があるとする。
全会一致で賛成の場合は良い。
賛成多数の場合も基本的には良い。
ただし、賛成多数であろうとも国際連合安全保障理事会常任理事国(A合衆国・UK国・F国・R連邦・C共和国・
これが世界大戦に勝った国の権利だと、当初は弱小国や敗戦国は文句を言えず、なし崩し的にこのシステムとなった。
だが、この弊害は即座に現れはじめ、第三次世界大戦の兆しが何度も発生している。
第二次世界大戦に勝った直後は良かったが、当然といえば当然の成り行きで、今度は戦勝国の中でも覇権争いがあり、冷戦と呼ばれる時代が来た。
他にも挙げればキリがない。
第三次世界大戦を防ごうと設立された機関が出来たはずなのに、第三次世界大戦勃発寸前に至る際どい政治情勢が多々発生している。
Bの壁に対する対応
C半島戦争
B戦争
A国の目と鼻の先に核ミサイル配備を巡ったK国危機。
I国核開発
C半島対立
R国による、C半島占拠
R国によるU国侵略
PのG地区とI国の紛争
軽く列挙しただけでキリが無い。
この地球の危機に対し、国際連合の力は極めて無力。
戦勝国のA合衆国・UK国・F国・R連邦・C共和国・日本が対立すれば、どんなに優れた案も否決される。
だから、どれだけ民間人が犠牲になり、飢えて、誘拐され、人身販売されても6か国の意思が纏まらねば意味がない。
6か国のどの国にも利益が関係ないなら全会一致もあり得るが、今や、そんな奇跡は滅多にない。
だから、北南崎大統領が様々な国からバッシングを受けても馬耳東風だ。
「被害者と死刑囚を戦わせるなど言語道断である!」
「死刑ですら世の流れに逆らっているのに、戦わせるとは何事か!」
そんな抗議の電話は、日本内外から掛かってくるが、意見や立場を聞いたら、電話を切るように伝達してある。
意見や立場は聞くが、苦情は受け付けない。
この『仇討ち法』に関しては国という立場でありながら、超高圧的立場で対応している。
「さ、行きますよ~!!」
まるで遊園地で順番が回ってきたかの様に、北南崎ははしゃいでいる。
「……こんなに足が重いのは初めてですよ」
「何か?」
「何も」
こうして北南崎一行は総会ホールに向かうのであった。
【A国N州/国際連合総会ホール】
総会は極めてつまらない挨拶や答弁が続いた。
何年も前からR国に対するU国侵略に対する即時停戦案も、拒否権を持つR国が拒否して否決された。
I国とG地区の争いも、A国が嫌うH組織とI国が戦うので、A国の拒否県で紛争停止に見通しは立っていない。
世界の安全を考える場で、民間人の犠牲は何も議論されていない、事も無いのだが、そういう体裁となっているだけで大国のプライドに振り回される場と化している。
「次の議題ですが、死刑制度についてです。単なる死刑でも世論は抵抗感が強いです。それなのに、被害者と加害者を積極的に戦わせる国があります。日本の北南崎大統領。どう思われますか?」
議長の完全に日本を狙い撃ちした詰問だ。
死刑反対国や死刑制度廃止国から詰める様に言われているのだろう。
「どうも。新参の日本代表に発言の機会を頂き誠にありがとうございます。死刑制度反対者の意見は理解できます。人権や執行人の精神配慮を考えている国もある様ですが、根本的には宗教的観念ですよね?」
「……様々な概念があります。一概にコレとは言えませんが、北南崎大統領の言い分も含まれるでしょう」
議長は冷静に対応した。
「実はこれ、日本古来の文化の復活なのです。日本では戦国時代まで騒乱の時代故に、犯罪が蔓延り仇討ち法が成立されました。そして今、自国の恥を晒す様で恐縮ですが、日本は未曽有の犯罪大国となりました。先進国でも最悪ペース。生活格差も続き、どうにも立ち行かなくなり、私が『仇討ち法』を復活させたのです。今の日本は犯罪戦国時代。しかし必ずこの『仇討ち法』で、世界最案全国を作り出す所存であります」
所信表明演説の如く、北南崎は言い切った。
「しかし、それにしたって日本の死刑執行率は異常です。仇討ち法にならなかった件数をみても世界最多の死刑執行率です!」
「そうです。きちんと裁いて死すべき者には死んでもらいます」
議長の講義に、北南崎は肯定し、同時に死をも肯定した。
「ですから……」
「議長! それに世界各国の代表者に皆様にお聞きしたい!」
突如、北南崎の臓物まで響く声がホールに響いた。
北南崎の声はマイクを通していない。
立ち上がって、マイクの位置からずれているのにこの声量。
各国代表が驚いて心の隙を作るのは当然であった――