【南蛮武家敷地竹林/決闘場 金鉄銅銀音】
完全決着であった――
と判断するのは、普通の試合の場合。
試合は試合、試し合い。
本番の決着は命を奪う事。
これが戦国時代までの常識にして、この時代に復活した常識。
それが、この法律の意味であり、殺人の権利だ。
金鉄銅は、前回の『山下対加藤』の映像を確認している。
だから、もう勝負の結果は覆らないが、勝負が終わっていないのを理解している。
「フフフ! アハハハハ!! 斎藤君! 最初の言葉覚えてる?」
「こと……ば……?」
「さて? お楽しみタイムに入っても宜しいですね? 大統領?」
「えぇ。決着まで何も介入しませンよ。言った通りです」
(あっ!)
斎藤は自分の言葉を思い出した。
勝負はまだ終わっていない。
言い換えれば、勝負が終わらない限り自由時間だ。
『戦いが始まったら、決着まで誰も介入しないんだよな? なら、この場でアイツを犯しても問題無い訳だ』
『……君。法律の穴を突きますねぇ。その通り。何があろうと決着まで手出ししませン。約束します』
試合前、その辺りのグレー部分を、当の大統領と加害者の斎藤が明確にした。
だが、それは加害者の権利ではなく、被害者含めた決闘者の権利。
金鉄銅はまず丹羽の所まで行くと、無慈悲に左膝、両腕の肘を撃ち抜いて、完全な行動不能にした。
「ギャァァァッ!」
「アッハハハ!」
怒りの丹羽が、初めて涙を流して絶叫するが、金鉄銅にとっては極上の音楽だ。
そんな丹羽を放置して、林の所まで歩み寄った。
「さて林君? 何故私を強姦した? 君は比較的良識がありそうだけど?」
「あっ……ぐ……」
「言われた事に答えなさい?」
金鉄銅は林の左て小指を持ち上げて、その付け根に銃をあてがい撃ち抜いた。
「ギィッ!?」
「フフフ! 言わなければ、何本でもエンコ詰めさせるわよ? 知ってる? エンコ詰め」
「……」
「林君? 寝ちゃった? フフフ! じゃあ起こさなきゃねぇ!」
金鉄銅は拾ったスタンガンを林に押し当て、スイッチを入れた。
「ギャッ!?」
スタンガンの高電圧が林の体を駆け巡る。
林は余りの激痛に気絶してしまったが、即座に目を覚ました。
「質問に答えなさい?」
「質問? あっ!? と、友達が……いや……興味が……ギャァァァァッ!」
今度は薬指を撃ち飛ばした。
「素直でよろしい。君は人生で何も自分で決めて来なかった。自分で決められない事も確かにある。でも善悪は自分で決められるでしょう?」
「ひっ」
「君のお母さんは敏腕刑事役で容赦なく犯罪者を取り締まっていたのにね。息子がこんなザマでは一家心中も無理もない。じゃ、被害者の私の苦しみを知りなさい。フフフ……!」
金鉄銅は林の股間を撃ち抜いた。
この為に辛い訓練を乗り越えられたと言っても過言ではない。
「アガッ……!」
もうほっといても死ぬが、簡単には殺さない。
まずは去勢だ。
「アハハハハッ!」
金鉄銅の高笑いが、防弾ガラスで乱反射する。
恐怖と悪意のこもった木霊だ。
金鉄銅は丹羽に歩み寄った。
「どう? 今の気分は?」
「惚れたよアンタに! 格好いいよ! 最高だ! 俺はアンタみたいになりたかったよ……!」
撃たれた膝なのに膝立ちで両腕を広げる丹羽。
この言葉は本気の言葉に聞こえた。
「強姦されたかったの?」
「ち、違うよ!」
金鉄銅は本心と知って皮肉で返した。
「そう。私もされたくなかったわ」
「そ、それは謝るよ! そうじゃなくて、恵まれた力で悪を倒す側になれば良かったよ!!」
「そう。そんなに今の私の姿が羨ましく恰好良いのね?」
「あぁ!」
今の金鉄銅は血まみれだ。
それが異様に美しく恰好良かった――ガァン!!
「ギッ! グゥゥゥゥゥッ!?」
金鉄銅は丹羽の去勢を執行した。
「フフフ! ……正しい事をしたいのには同意するけど、いくら正しくても、私はこんな事をしたくは無かったわ!」
それだけ言って丹羽の元を去る金鉄銅。
斎藤への最後の尋問と去勢を執行する為に、マガジンを入れ替えながら向かう。
ちゃんと7発撃ち切ったのを数えていた。
斬弾管理が徹底されているのも紫白眼や朱瀞夢による教育の賜物だ。
「ウフフ。斎藤君、元気かしら?」
「そう……見える……なら……眼科……いけ……」
口の半分が破壊されて喋りにくいのだろう。
舌が無事な分まだ憎まれ口は叩ける様だが力は尽きた様だ。
伸ばした左手がパタリと地に落ちた。
「死んだ?」
「……」
斎藤は無反応だった。
「死ンジャ駄目ジャナイ! 勝手ニ死ヌ事ハ許サナイワッ!!」
狂乱の金鉄銅が、怒り狂って催涙スプレーを執拗に噴射する。
「グッ! ゲホォ! ゴホッ!」
斎藤の生存を確認して、元の(?)決闘者金鉄銅に戻った。
「コレ凄い威力ね。今後は持ち歩く事にするわ。で? 死んだフリしたって事は、まだ諦めてなかった?」
「げほッ! グ……クソ……!」
図星だったのだろう。
顔を砕かれ、右肩と肩甲骨を砕かれても、まだ勝つ機会を伺っていたのだ。
「大統領から聞いたわ。主犯格は君だと。本当?」
「……あ…ぁ」
斎藤は血と涙と鼻水で、顔面はグチャグチャだ。
「童貞が恥ずかしくて、私が好みだったと。本当?」
「……」
金鉄銅は容赦なく両膝を撃ち抜いた。
「グゥゥゥッ!!」
斎藤は呻きながら頷いた。
「あっ。ごめんなさいね。喋りにくいのね。で? 本心は?」
「あっ……う……」
斎藤は何か喋ろうと頑張っているが、もう声が出ない様子だった。
ゾンビの如く顔面が破壊されている。
喋れないのも仕方ない話しだ。
「仕方ないわねぇ」
金鉄銅は膝を突いて耳を寄せる銃は右胸に押し付けた。
妙な真似をさせない為だ。
「……め」
「えっ?」
「バカめ……ッ!」
斎藤は左手でグリップを握り、スライドを押し込んだ。
「この期に及んで!!」
金鉄銅は引き金を引き、止めを刺す――が、弾は出なかった。
オートマティック銃は、スライドを押し込むと引き金を引いても弾は出なくなる。
よく映画や漫画で、銃を相手の背中や頭に押し付けている場面があるが、あれは、相手に知識があれば逆転を許しかねない危険な行為だ。
「こう……すると……発射……でき……!」
斎藤は知識として知っていた。
この期に及んで『作戦C』を作り出す、驚異の執念だ。
斎藤は渾身の力を込めて左手と負傷した右腕を総動員し、銃を奪いに掛かる。
「クッ……! この!!」
こんな100%勝ち確定で逆転されるわけにいかない。
金鉄銅は慌てる――フリをした。
「何てね~☆ アッハッハ☆」
「!?」
もう斎藤は声を出す気力をも両手に回しているので、驚きの声すら出ない。
「ウフフフフ! 君は本当に分かりやすいわね!」
金鉄銅は、無情にも銃を引っ張り上げる。
スライドは当然元に戻る――と同時に1発撃って右胸を撃ち抜いた。
「ガッ!!」
「スライドを押し込まれれば銃は撃てない? そんな事、訓練されてない訳ないでしょう?」
良く考えれば当たり前だが、斎藤はそんな事に気が付かない程、消耗していた。
通常の握力ならともかく、撃たれ疲弊した握力では、逆転は不可能だった。
「君からは、碌な言葉も聞けそうもないし良いわ。私の受けた苦しみの1%でも知りなさい!」
金鉄銅は斎藤の足元に回ると、マガジンに残った4発の弾丸を全部股間に撃ち込んだ。
股間どころでは無く、内臓さえも損傷する地獄の痛みだが、この国の法では、魂の殺人は本当の殺人と同様と認定されている為、ほっといても死ぬ斎藤であっても、まだ罪に対する裁きは終わっていない。
金鉄銅は再度マガジンを交換すると、頭に向かって2発撃ちこんだ。
斎藤の体が反り返り、今度こそ本当に動きを止めた。
心臓は動いているかもしれないが、脳が露出している以上、もう生き返る余地は無い。
続いて林の元にも行き、頭部に2発撃ちこんだ。
「さようなら林君。来世では自分で考えて動く事ね」
林も斎藤と同様に痙攣して沈黙した。
なお、最低でも2発ずつ撃つのはそう訓練されているからだ。
1発だけなら、根性で動く奴もいるが、2発は耐えられない。
2発とも致命傷でなくとも、動きを止められるとの教えを忠実に実戦しているだけだ。
「丹羽君、お・待・た・せ!」
口調とは裏腹に、人間、ここまで邪悪に
怒気が、憎悪が、憤怒が、苦痛がこんなに美しいのか――
丹羽は驚いたが最後に思った。
(こんな綺麗な人に殺されるのも悪くな――)
そこまで思って丹羽の意識は消え去った。
両目を撃ち抜かれ死んだ。
その顔は安息感に満ちていた。
「穢れた目で私を見ないでくれる?」
その射撃を見届けて、北南崎が声を発した。
「よろしいでしょう。勝負あり!」