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第24話 金鉄銅銀音vs丹羽斗刺嫌、林世死飽、斎藤詐利①

【大坂都/南蛮武家敷地竹林 金鉄銅銀音】


 北南崎の号令と共に金鉄銅が素早く動いた。

 タクティカルベストからマガジンを取り出し、銃のグリップ下部に差し込み、スライドを鷲掴みに引いて初弾を装填し安全装置を解除。

 その間、傾斜上の敵3人を、ずっと視界に収めていた。

 目隠し楽器演奏者の様な余裕まで感じる所作であった。


 だが、それだけでは無かった。


「美しい……見事じゃ!」


 車椅子の南蛮武が感嘆の声を洩らした。

 余りにも完璧な構えで目標物に向けて構える。

 見ているだけで伝わる、無駄な力を感じさせない完璧な構え。

 それでも紫白眼の足元には及ばないが、美術のモデルにはなれる位の美しさを感じる構えであった。


(5m程の目標物……!)


 金鉄銅は傾斜を見上げて、素早く手頃な目標物を設定し、立て続けに3発発射した。


「伏せろ!!」


 丹羽が狙われたと思って叫ぶが、そうでは無かった。

 金鉄銅は5m程先の竹を狙ったのだ。

 つまり着弾確認で、銃の精度を確認する為の試射である。


「ッ!! (この銃は!!)」


 金鉄銅は紫白眼と朱瀞夢の指導を思い出した。



【過去/訓練場】


 訓練場で紫白眼による銃の講座が行われていた。

 撃つのも訓練だが、座学も叩き込んでこその戦略と勝率なのだ。


『いい? この銃の射程距離は飛ばそうと思えば100mでも飛ぶ。だけど、完璧な命中精度の銃で狙っても有効射程距離は約7m以下よ』


『えっ!? たったソレだけなんですか!? でもさっき10mの的で……!』


 ついさっき試し打ちで、10mの的に対して射撃を行った。

 確かに10mでは当たらず、己の下手さ加減に絶望を感じたが、紫白眼は『7m』を有効射程と言った。


『えぇ。もちろん動かない的で、こちらもしっかり余裕をもって構えて撃つなら、もっと射程は長いけど、実戦は自分も相手も動くのよ。こっちも相手も走り回って射撃で命中させられる距離が約7m。だけどその7mはプロの距離よ。プロならその範囲内に敵が入るのを嫌がるわ』


『そうだ! だが貴様の場合はもっと短い距離で、しかも銃の性能は本番まで分からん! 5m以下と考えておけ! 近づけば近づく程、命中率と危険度が上がる! 自分の間合いが大切なのだ!』


『はい! ……ちなみに、お2人の射程距離はどれぐらいですか?』


『いいわ。ペイント弾で実戦テストしてみましょう』


 テストの結果、朱瀞夢は12mの距離で金鉄銅を仕留め、紫白眼に至っては20mで仕留めてきた。

 金鉄銅に至っては5mの距離でも当てられない。


(プロが7m!? ならこの2人は何!? 化け物!?)


『今日は初日だ。落ち込むことは無い! これからミッチリ鍛えてやるさ!』


 朱瀞夢がガハハと笑い、金鉄銅の背中をバシバシ叩いた――



【南蛮武家敷地竹林/金鉄銅銀音】


 そんな訓練記憶が思い出されて撃った弾丸であるが、5m先の竹に当たらなかった。

 プロレスラーの腕の様に太い竹。

 金鉄銅は命中精度の良い銃なら5mの距離なら外さない。

 そこまで鍛えられたのだ。

 しかし撃った弾は、竹の30cm右側地面に一発、竹右側防弾ガラスに一発、竹左側50cmに一発と、まるで適当に乱射したかの様な乱れ具合だ。


 丹羽、林、斎藤は一気に3人狙われたと思って伏せたのだが勘違いだ。


(これは命中精度極悪の銃ね!?)


 外れるなら外れるで、全部同じ所に外れるなら軌道計算ができる。

 だがこの銃はアッチコッチに飛んでいく。

 狙って撃てないポンコツ銃だ。


(生き残ったら軍曹に怒られそうだけど仕方ない!!)


 金鉄銅は禁を破って銃口を覗いた。

 禁とは、チャンバーに弾が入っている状態での、銃口覗き込み行為だ。

 暴発したらそれで死ぬ。

 だが、確認せずにはいられなかったし、禁を破った甲斐はあった。


(ライフリングが……無い!?)


 ライフリングとはバレル内側の斜めに刻まれる溝で、弾はこの溝に従って回転しながら発射される。

 この回転がミソで、回転するからこそ、空気を切り裂き安定して真っすぐ飛ぶのだ。

 だが、金鉄銅の銃にはライフリングが無かった。

 つまりこの銃は、言うなれば、プロ野球の投手が投げるナックルボールだ。

 投げた本人ですらどこに飛んでいくか分からないし、コントロールもできない魔球中の魔球。

 だが、投げるには色々と恵まれていなければならない部分が多く、使い手も少ない故に、その投手の存在は実に厄介だ。


 しかし、それは野球でバッターの空振りを誘うのに有効であって、こと今回の決闘では空振りを狙う為の銃ではない。

 当たらなければ意味がない決闘なのだ。

 ナックルの様に計算が出来ないでは困る。


(これは特注品ね……! 意地の悪い!) 


 10丁用意された中でも、最悪の特注品である、ライフリング未処理の銃。

 金鉄銅は90%の確率を外し、最悪の銃を当てたのだった。


 金鉄銅は射撃訓練だけでは無く、銃の整備から、組み立てはおろか、製造工程まで完璧に叩きこまれている。

 銃は構造を把握してこその武器なのだ。

 だからライフリングの無い異常性を理解できる。


(大統領!! 意地が悪いにも程がある!! ……だからマガジン5本なのね! 3発で気が付いたのは運が良かったのかしら!? もう! ライフリングを切りたい!!)


 大当たりの銃はマガジン1本の7発。

 そこで3発の試し打ちをしたら残り4発で3人を倒さなくてはならない。

 無論、マガジン1本の銃を当てたなら試し撃ちは1発だけで済ましただろう。


 残り32発。

 金鉄銅は素早く戦略を考えるのであった。



【南蛮武家敷地竹林/丹羽 斗刺嫌、林 世死飽、斎藤 詐利】


 金鉄銅の射撃が止むと斎藤が叫んだ。


「おい! この竹の密集地に集まれ!!」


 何かを閃いた様子であった――

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