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第23話 仇討ち法施行第二号 試合前

【大坂都/南蛮武家敷地竹林】


「あーあーマイクテスト、マイクテスト。うむ。感度良好ですね。さて、本当に長らくお待たせしました。ハンデバランスを整えるのに苦労しまして、場所はここに決めました。南蛮武先生、ご協力感謝します」


「いえ。大統領のお役に立てたのなら幸いです。この竹林が役に立つなら望外の喜びです」


 車椅子の南蛮武葬兵が礼儀正しく言った。

 南蛮武の方が遥か年上で、しかも大統領経験者であるが、現大統領には敬意を払う。

 非公式の場では多少フランクでも、公式の場では弁える。

 それを当然の義務だと南蛮武一族は徹底的に教えて来たのに、一族の中から斎藤詐利という異物が生まれた事に心底恥じ、決闘場所の提供に応じたのだ。


 詐利が幼い頃には一緒に竹の子掘りに通った場所が、詐利と悪ガキ達の死に場所となる。

 南蛮武としても楽しかった思い出を粉砕するに、不足の無い場所であった。


「見ての通り周囲を防弾ガラスで仕切らせてもらいました。30平方メートルの闘技場ですが、傾斜があったり竹林で見通しが悪かったりと、他にも勝負の分かれ目となる要素がいい具合に勝率に影響するでしょう」


「……」


 被害者の金鉄銅は南東の傾斜の最下部にスタンバイしている。

 視線で殺人が出来そうな憎悪をまき散らしている。


「……」


 一方の加害者側の林 世死飽、斎藤 詐利は表情を曇らせ俯いている。

 唯一、丹羽 斗刺嫌だけが、加害者側にありながら怒りを隠しもしない。

 ただ、その怒りは相手より、己、よりも人生、あるいは運命を恨んでいるかの様であった


 今回の決闘は閣僚は自由参加。

 大統領と、副大統領、最高裁判官、地主にして45第大統領の南蛮武、金鉄銅を指導した朱瀞夢軍曹他と機動隊の面々に中継カメラだけだ。

 前回の闘技場が、焼け落ちた山下家と寂れた閑静な住宅街であったが、今回は別の意味で閑静な場所である。


 その他に違う点があるとすれば、殺気の総量か。

 生きている被害者である金鉄銅の殺気は、屈辱の事件の日を糧に過酷な訓練をやり遂げたのだから、殺気が蜃気楼の様に立ち上る。

 たった1人で、前回の決闘者である加藤と山下の殺気を上回る勢いだ。

 流石は被害の当事者と言うべきなのか。


 一方、加害者側は2人は意気消沈し、1人は怒るも、それは別件での怒りで、3人共これから殺人の権利を行使するに相応しくない精神状態だが、今日、戦う事を知らされたのも原因であり、勝率コントロールの範囲内の計算だ。


「では布を取ってください」


 大統領の命令で、両者の横に控えていた機動隊が、決闘場に唯一持ち込んだ物に掛けられた布を取った。

 現れたのは、予想通りのルーレットだった。


 被害者の金鉄銅のルーレットには、以下の表記がされていた。


『銃A:マガジン2本』

『銃B:マガジン2本』

『銃C:マガジン1本』

『銃D:マガジン3本』

『銃E:マガジン5本』

『銃F:マガジン4本』

『銃G:マガジン3本』

『銃H:マガジン4本』

『銃I:マガジン1本』

『銃J:マガジン5本』


 10種類の銃は命中率の差である。

 最高の銃は紫白眼が手入れした最高品質の銃。

 その銃は『C』であるが、その代わりマガジンは1本。

 つまり7発で全員殺さなければならない。

 なお命中率最悪の銃は『E』で、マガジンは5本なので35発の弾があるが、狙いは当てにならない。


 一方で加害者側の丹羽 斗刺嫌、林 世死飽、斎藤 詐利のルーレットには以下の表記がされていた。


『催涙スプレー』

『スタンガン』

『睡眠薬:液状』

『手錠』

『ナイフ』

『ロープ』

『ガムテープ』

『布袋』

『カメラ』

『タオル』


 これらは、彼らが強姦の時に準備した犯行道具。

 全てが実際に使われた訳では無いが、その全てを今回の戦いの道具とした。

 一撃必殺はナイフ、決まればほぼ勝ち確定がスタンガン、手錠などは金鉄銅と竹を繋げれば良い勝負になるだろう。

 他の道具も工夫次第だ。


「それぞれの背後のルーレット。その意味する所は理解できま――」


「ちょっと待てぇッ!!」


 大統領を遮って叫んだのは斎藤だった。


「何ですか? 斎藤君」


「この道具で、どうやって10%の勝利が掴めるんだよ!! あっちは銃だぞ!?」


 斎藤は想像力が足りないのか、武器の差に異議を唱えた。

 なお斎藤は観客の南蛮武がガックリと失望したのに気が付いていない。

 犯罪の良し悪しはともかく、南蛮武の一族たるもの、この程度のハンデを跳ね返さずしてどうするのか。

 内心でそう嘆いていた。


「掴めますよ? これは模擬戦を重ねて試した結果です。私と紫白眼副大統領、朱瀞夢軍曹が金鉄銅君と戦い、私達は何度も勝ちました。私が勝てるなら、君たちも勝てますよ。安心してください」


 北南崎が言う通り、金鉄銅達は実戦でハンデレベルを検証した。

 金鉄銅はペイント弾、北南崎達は全員今回の犯罪の為に用意された武器相当の模造獲物。

 この模擬戦の金鉄銅の相手が、全員超人的猛者だから銃に勝った、と言う訳では無い。

 斎藤たちの身体能力に合わせ、強烈なハンデ(自分の体重と同等の重り)を付けての勝負だった。

 ちなみに大統領は100kgの体重なので100kgの重りを背負ってのハンデ戦で勝った。


「しかも1対3なのです。頭を使えばどうとでもなります。ならないなら死ぬだけです。それではルーレットを回して下さい」


 金鉄銅がルーレットを回すと、何の運命の悪戯か『E』で止まった。

 命中率最悪のだが、弾数は豊富なEの銃。


 一方犯罪者側の丹羽は『ナイフ』、林は『スタンガン』、斎藤は『催涙スプレー』で止まった。

 銃に比べて圧倒的に不利な品々だが、3人はその中から大当たりの部類を引いた。

 どれも決まれば決着に繋がる武器だ。

 ナイフは言うに及ばず、スタンガンは、文字通りスタンさせ、催涙スプレーは視界を奪う。

 銃弾の雨を搔い潜って一撃入れば決まる。

 それが10%の勝率だ。


 あとは何の為に、この竹林なのか考えれば勝ちは見えるはず。


「さて、最後に言い残す事はありますか? 金鉄銅君は如何です?」


「はッ! ありません!」


 食いしばった口から見える犬歯が、獣の牙と錯覚させる稀薄だった。

 憎くて憎くて、憎さが裏返って恋焦がれたまで感情が揺さぶられた相手が目の前にいるのだ。

 狂気と憎悪と殺意が、金鉄銅の体を包み込む。


「よろしい。(軍人モードですねぇ。これは90%以上の勝率になるかもですねぇ)」


「そちらの3人は? 最後の言葉ですよ?」


「ねぇよ!!」


 丹羽は怒鳴った。


「無いです……」


 林の声はマイクでやっと拾えた声だった。


「一つ聞きたいんだけど」


 斎藤は冷徹な声で聞いた。


「なンです?」


「戦いが始まったら、決着まで誰も介入しないんだよな?」


「えぇ。それが何か?」


 その答えを聞いて、斎藤の顔が邪悪に歪む。


「なら、この場でアイツを犯しても問題無い訳だ」


「ッ!!」


 金鉄銅が明らかに怯んだ。

 悪夢を思い起こし体が震える。

 体を包み込んだ、狂気、憎悪、殺意が揺らぐ。


「……君。法律の穴を突きますねぇ。その通り。何があろうと決着まで手出ししませン。約束します」


「へへへ。最後の機会だ! 楽しませてもらうぜ!」


 斎藤は世間の視聴者からヘイトを稼ぎに稼いだが、勝ったとしても、国が身を守ってくれる。

 なら何も問題無いのだ。


(精神を揺さぶる作戦なら見事ですが、本心っぽいですねぇ。勝率も20%位はありそうですねぇ)


「もう宜しいですか? ならば、加害者3人の拘束を外して下さい」


 その命令に従い機動隊員が加害者の拘束具を外す。

 ガシャンと地面に落ちる拘束具。

 性獣達の拘束具が解き放たれた。

 斎藤は当然、他の2人もだ。

 どうせ最後なら、悪人らしく散るつもりなのだろう。


「では両者に武器を渡して、機動隊員はルーレットを持って場外へ。……それでは金鉄銅対丹羽、林、斎藤の銃対ナイフ、スタンガン、催涙スプレーで決闘を行います。……始めぃッ!」


 こうして『仇討ち法』適用第二号者による戦いが始まるのであった――

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