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第29話 大統領定例報告会

【大坂都/大統領官邸】


 数日後――

 決闘の全貌を纏めた資料を作った大統領が、マスコミの取材に応じる為、会見場に現れた。

 フラッシュが一斉に炊かれるが、前回よりは明らかに数が少なかった。


(前回より少ないですねぇ)


(一応、各社揃っては居る様ですが、カメラマン、音声、記者の最低限ですね)


 北南崎も紫白眼も現金なマスコミの取材根性にあきれつつ、でもここに居るだけまだマシだろうか。


「皆さン、お待たせしましたね。決闘に関しての報告会は2回目となりますが、前回は意地の悪い事をしてしまいましたからね。今回はもうちょっとサービスしましょうか。とは言えっても『見たまま聞いたまま』は変わりませン」


 北南崎が笑顔で雄大な態度を崩さず言った。

 普通なら腹立たしい態度だが、それが様になっているから、だれも不快に思わない。


「決闘の内容に関しては、本当にそれ以上の事を報告しようにも何もありませンからね。では質問ありましたらどうぞ。――はい、そちらの方」


「読買新聞の井沢です」


 前回の質問で一番手で質問し『見たまま聞いたまま』と目冥木官房長官に一刀両断された井沢さんだ。

 今回も一番手で挙手するどころか、この場に現れただけでも大した根性だと察せられる。


「今回の決闘の話については聞きません」


「フフフ。前回の意趣返しですか。楽しくなってきましたねぇ」


 大統領は井沢の事を覚えていた。

 別に憎い相手でもない。

 ただ、同じレベルで話したいだけで、あの対応になっただけなのだ。


「えぇ。学びました。役立たずのマスゴミと言われるのは心外ですのでね。失礼、私の事はどうでも良い話。今回は勝負方法についてです。被害者には法で90%の勝率を保証されていた訳で、今回も勝率通りに勝った様に見えて、圧勝でした。怪我すら負っていません。そこで聞きたい事は、あのルーレットの銃はそんなに勝率に影響していたのでしょうか? どの銃が当たったとしても100%勝ったのでは無いのですか?」


 確かに事情を知らない者にとっては銃の差別が分からない。

 弾数以外のハンデバランスが、イマイチ分からなかったのだ。


「よい質問ですね。説明しましょう。もうある程度察していると思いますが、あのルーレットは性能の良い銃ほど、与えられる弾丸が少ないです。その中で被害者の方は弾数最高の銃を引いた。それはつまり最悪の銃だった訳です。ではどこか最悪だったのか? 紫白眼君」


 北南崎が紫白眼に振った。


「はい。あの銃は10丁ある中で最悪の銃です。普通の銃がこちら、今回の銃がこちらです」


 紫白眼がフリップを出して説明する。

 そこには普通の銃と、今回の銃の断面図が記載されていた。


「銃に詳しい専門家なら即座に分かると思いますが、今回被害者の使った銃はライフリングがありません。途中、被害者が銃口を覗いたのを覚えていますか? あれは発砲して異変を察知したのです」


 確かに、金鉄銅は、最初に3発撃った後、銃口を除いて驚いていた。


「詳しくない方に説明すると、ライフリングの無い銃は、どこに飛んでいくか分かりません。だから被害者の方は接近戦で戦ったのです」


 大統領と副大統領の説明に、マスコミは唖然としていた。

 どうやら銃の知識を頭に叩き込んできた様で、皆一様に驚いていた。


「で、では、被害者の方は臨機応変に戦ったと?」


「その通り。あと付け加えるなら、一般の会社員の方をあのレベルまで戦える様にして、ギリギリ90%と見積もりました。見た目は圧勝でも、結果程に差は無かったのですよ。加害者の作戦も決して悪くなかったです。斎藤死刑囚の心理戦は見事としか言い様がありません。勝率は勝負の最中で常に変化する物ですが、最大30%は勝つ可能性はあったと思います。その差を被害者は跳ね返したのです。これでよろしいですか?」


「は、はい、ありがとうございます」


 井沢は納得したのか、礼を言って引っ込んだ。

 その代わり真っ先に手を挙げた者が居た。


「帝国新聞の青木です!」


 この青木さんも前回一刀両断された記者の一人だが、今回も参加した当たり、マスゴミと揶揄されるのには耐えられなかったのだろう。

 大した根性の持ち主である。


「加害者側についてお聞きします。10%の勝率は、あの武器で本当に保証されていたのでしょうか? 前回の刀とフライ返しは加害者の見事な戦略で10%以上の勝率があった様に見えましたが、今回は5%も無いように見えました。先ほど30%と仰いましたが、本当に10%の勝率……いや、副大統領の言う通り30%まで勝率は上がったのでしょうか?」


 青木は勝率に疑問を抱いていた様だ。

 銃相手に、性能が悪い銃とは言え、いざ対決するとなったら5%でも勝率があれば御の字だ。


「間違いなく10%はあります。途中、30%まで上昇したのも私の感覚ですが事実」


「その根拠はあるのでしょうか?」


 青木が嫌らしい質問をする。

 元々数値化するのが難しいのが戦いだ。

 厳密な数値などでないのが当然だ。


 だが、今度は北南崎大統領が後を引き継いだ。


「今回の判断は、私、紫白眼副大統領と、指導教官が試行錯誤して決めた武器性能であり、判断でもあります。被害者の方との模擬戦で、1対3で何ども戦い私たちは何度も戦い何度も勝ちました」


「えっ。大統領たちが直々に!?」


「えぇ。そうです。負けた時もあります。命を扱う法を決めた張本人ですからね。話を戻しますが、今回の実戦で加害者側は3人に分かれて的を散らしました。良い作戦だと思います。しかし、結果は各個撃破された。あれは運も悪かったのもありますが、決して馬鹿な作戦ではありませン。むしろ被害者の方が作戦を読み切った故の失敗であります。繰り返しますが、加害者の作戦は悪い作戦ではありませン。誰か1人でも攻撃を加えれば、決着の付く武器は与えられていたのですから」


 催涙スプレー、ナイフ、スタンガン。

 接近出来れば必殺には違いない。

 ただ、金鉄銅が接近させなかっただけなのだ。


「他にも、3人1列で突っ込ンでいけば、もっと勝率は上がったでしょうね」


「えっ。そ、それは、1人目は絶対に死ぬのでは?」


「死ぬでしょうね。勘違いしてはいけませン。1対3なのです。加害者側は最後に1人生き残れば良いのです。それも作戦ですよ」


「そ、そうですか……」


「あまり納得できないようですね。しかしこれは試合ではありませン。決闘です。勝つなら何しても良いのです。仲間を盾にするのも立派な戦略です。実践では卑怯な戦法ほど効果的で良い攻撃なのですよ」


「あ、ありがとうございます」


 青木は納得したような、はぐらかされた様な、複雑な顔で引っ込んだ。


「もうよろしいですかね? さて、明後日より私は国連会議に出席する為不在となります。何が話し合われるかは予想が付きますが、皆さンお楽しみに」


 そう言って北南崎と紫白眼が奥に消えた。


「国連会議……。この『仇討ち法』について糾弾されるんでしょうね」


「そうだろうな。大統領のお手並み拝見、になるのかな?」


 各社報道陣は、予想される日本へのバッシングをどう記事にするか、今から悩むのであった――


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