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第20話 副大統領謁見 紫白眼 魎狐と金鉄銅 銀音①

【大坂都/大統領官邸/地下射撃場】


「いい? 貴女が今まで見た映画やドラマ、漫画での銃の扱いは忘れなさい」


 2人の女が広い射撃場の一角に居る。

 その内の1人が銃を構えた。

 副大統領の紫白眼魎狐ししろがんりょうこである。


「ッ!!」


 金鉄銅銀音かねくろがねどうしろがねは息を飲んだ。

 一分の隙も無い美しさが漂う構え。

 オモチャの銃でさえ触った事の無い金鉄銅でも、この構えが完璧で美しいと思わせる佇まいだった。

 そのまま彫像にしたいレベルで美しかった。


「いい? 貴女が得るハンデは銃。およそ100年前に設計され製造され続けている、この傑作オートマティック拳銃よ」


 紫白眼が、手慣れた操作で弾倉を抜き、銃をスライドさせてチャンバー内の弾を排莢する。


「はい。触ってごらんなさい」


 紫白眼が銃を金鉄銅に渡した。


「い、意外と重い!」


 金鉄銅がおっかなびっくりしつつ銃を受け取る。

 重さは約1Kg。

 これが重いか軽いかは、意見が分かれる所だろう。


 当然だが金鉄銅は実物の銃を触るのは当然、生で見るのも初めてだ。

 こんな小さな拳銃が、轟音を立ててマッハの速度で対象を貫く。

 正真正銘、命を奪う必殺の武器である。

 そんな銃をまじまじと見て、ある事に気が付いた。


「ずいぶん使い込まれた古そうな銃ですね? その古さで勝率をコントロールするのですか?」


 金鉄銅は古臭そうな外見の銃に不安を覚える。

 てっきり新品でも渡されると思っていただけに、肩透かしである。

 こんな古そうな銃では、勝つのに苦労するのは間違いない。

 だが、紫白眼はキッパリ否定した。


「とんでもない! 傑作銃だと言ったでしょう?」


 紫白眼が銃を取り、見せつける様にかざした。


「この銃は製造開始から100年経過している。という事は、信頼性が抜群な証拠なのよ。どんな環境でも確実に発射される強力な銃。構造が複雑な武器は新品新作よりも信頼性よ。覚えておきなさい」


「は、はい!」


 紫白眼のテキパキとした指導が続く。

 今回、北南崎ではなく、女の紫白眼が被害者の金鉄銅に銃のレクチャーをするのは、女性被害者に対する配慮、だけが理由ではない。

 そんな理由で副大統領になった訳でもない。

 政治の力も北南崎同等の眼力を併せ持ち、その上、武芸、武器の取り扱いに長けた達人でもあるからだ。

 こと射撃に関してはSPや閣僚、北南崎よりも上手い。

 つまり、被害者との面談、武器のレクチャー、被害者心情を鑑みて一番の適任が紫白眼副大統領だっただけだ。


「ただし勝率は90%が最低保証。前回の勝負は見た?」


「は、はい……。まさか自分が当事者になるとは思いませんでしたが……。自分が希望しておいて何ですが……」


 そう答え、自分が何故そんな場に行く事になったのか、金鉄銅は事件を思い出し体が震えだす。

 3人の悪魔に、体の自由を奪われ、尊厳を破壊された。

 命があるのは運がよかっただけ。

 偶然通りかかった人が、通報してくれたからだ。


 だが、果たして助かったのは運がよかったのか?

 取り調べでも、裁判でも、繰り返し証言を強いられ、状況再現の確認がある。

 正直言って思い出すのも苦痛なのにだ。


(何で私がこんなに苦しまなければならない?)


 いわゆる『セカンドレイプ』と呼ばれる行為の一種だが、警察も裁判所も、虐めたくてそうしている訳ではなく、聞かなければ、証拠を揃えなければ裁けない。

 その心遣いも理解できるから、余計に辛かった。


(ナンでワタシがこんなにクルしまなければならない?)


 正に魂を殺された経験がある者にしか分からない苦悩に、足元が瓦解するが如く感覚に襲われる。

 その震えを止め、崩れた地面から助ける様に、紫白眼が肩を掴む。


「貴女の苦しみは今までの政治の失敗の果て。政治を担当する者として申し訳なく思います。貴女は殺人と同じ目にあってしまった。しかし、ほっといても死ぬ相手に対し戦う事を選んだ。これは必ずトラウマ払拭に繋がるでしょう。この狂った世を変えるためにも、貴女には勝って欲しいと願っています」


「ありがとうございます……!」


 紫白眼の激励が効いたのか、震えが収まり目に薄くだが闘志が戻った。 


「前回の決闘は多種多様な武器が選択肢にあった。けど今回の武器は銃と決まっているわ。1対3という人数の不利を覆すのは強力な武器しかない。ただし、ルーレットには命中率の悪い銃や、与えられる弾に上下がある。大統領がどうバランスを取るかは分からないけど、最悪を想定して動きなさい」


「最悪……。命中率最悪で最低弾数の場合ですね?」


 金鉄銅は、弾丸が明後日の方向に飛んでいく悪夢の光景を思い浮かべ、身震いする。


「そうよ。私とこの銃なら3発で3人射殺も訳ないけど、貴女は素人。ここからの訓練で、どこまで技術を吸収できるかが勝負。今戦ったら勝率は30%も無いでしょう。何も扱い方を知らないのだから」


「は、はい……」


「さっきも言ったけど、貴女が今までみた映画やドラマ、漫画での銃の扱いは忘れなさい……と言ったけど、決戦の日までに、どこまで銃の扱いが上手くなるかは才能次第。才能が無い場合、下手に教えない方が良いかもしれない。だからまず、適性を見るわ」


 紫白眼は自分の銃を脇のホルスターに収め、別の銃を台座に固定し、バレル下部にレーザーポンター取り付け作動させた。

 赤い光点が的の中心を照らす。


「いい? レーザーポインターの狙いはあそこ。じゃあ、引き金を引くわね」


 銃は台座に固定され、ビクともしない。

 その銃の引き金を引くとポインターが照らした場所のやや左下を弾丸が貫いた。

 距離にして3cmのズレだろうか。


「この銃の性能はかなり良い方ね。ポインターの狙いからは外れたけど、的には命中した。多少狙いがズレても決闘には問題ないでしょう」


 紫白眼は銃を台座から外し、今度は自分の両手で構え、引き金を連続で引き、全弾撃ち尽くした。


「えッ!?」


 その弾丸は、全てド真ん中の円に収まっており、銃のクセを計算して狙った、見事というしか無い射撃能力であった――

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