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第9話 滋賀県今龍中央小学校訪問

【滋賀県/今龍いまたつ市 今龍中央小学校校長室 北南崎桜太郎大統領】


「どうも、大統領の北南崎桜太郎です。こちらは……」


「副大統領の紫白眼魎狐ししろがんりょうこです」


「は、はし、始めまして! 今龍中央小学校校長の氏家縛判うじいえばくばんです……!」


「教頭のあ、安藤柴蝋あんどうしばろうです……」


「滋賀県教育い、委員長の稲葉魂剛いなばこんごうです……」


「た、担任の不破紙魚彦ふわしみひこです……」


 ここは滋賀県今龍市の今龍中央小学校校長室。

 だが、その部屋の主、No.2、部下、彼らの監督者共に緊張の面持ちで、まるで他人の家に上がる緊張感を纏っていた。

 それも仕方ない話で、大統領一行が入出する前に、危険物から盗聴器の類まで、徹底的に検査された後。

 何より、大統領、副大統領とそのSPから感じる覇気、オーラ他、何と言っていいのか分からない、得体のしれない圧力に、もう逃げたい気分を押し殺すしかなかった。


「さっそく本題に行きたい所ですが、今日の決闘はご覧になられましかた?」


「……はい。我々全員、この部屋で観戦しました」


 校長の氏家が震える声で答えた。


「担任の稲葉先生もですね? ならば、児童は自習でしたか?」


「はい。あ、自習と言っても副担任が居りましたので動揺は最低限かと。も、勿論、児童は観戦していません!」


 一応、この『仇討ち法』は小学生以下は視聴禁止である。

 政府専用TVチャンネルにて管理され、小学校は当然、小学生の居る家庭や図書館、公共施設から家電製品店まで、子供の眼に触れない配慮がなされている。

 当然、録画して小学生以下の子供にに見せる行為は超厳罰対象である。

 なお、この国の大人の定義は中学生からであり、戦国時代からのシステムである『元服』を参考にしている。(少年犯罪が悪化のが原因の一つでもある。但し大人基準は犯罪と選挙だけであり、その他の酒、タバコ、結婚は20歳からとなっている)

 従って、本来この今龍中央小学校には中継が届かないはずであるが、当事者の学校と言う事で、校長室に限り特別に中継を繋げたのである。


「それは何より。それで、あの観戦を見て何か感じましたか? 本題にも関わりますが、我々は山下泰痔君の死の真実を調査しに参りました。加藤さンが言った虐めは本当にあったのか? 本当なら、何故拷問で吐かなかったのか? 或いは、泰痔君の遺言の意味が違ったのか、聞き間違いか? 様々な角度から調べる訳ですが、言える情報があるなら仰ってください」


「は、はい……。しかし加藤さんの顔にはモザイクが掛かっていたので、音声だけでの判断となりますが……」


 加藤の顔にモザイク――

 当然と言えば当然だが、被害者に配慮し、顔にはモザイクが掛かっていた。

 生放送でのそんな技術は、加藤の衣服に多数のセンサーが付けられており、そこから顔の位置を常にリンクし、仮に決闘で幾つかのセンサーが破壊されようと、必ずモザイクが掛かる様に配慮がされていた。

 VTuber関連の技術が発達した故の法律である事は、大統領と副大統領しか知らないのは内緒の話だ。

 欠点は正に言葉通りで、表情から情報が得られずTV観戦者として複雑だが、プライバシー保護の為に一般観戦は家族、関係者でも禁止である。


「校長、ここは私が」


 担任の稲葉が申し出た。


「あ、あぁ。頼むよ……」


 校長にはショッキングな映像だったのだろう。

 精魂尽き果てたかの様な表情であった。


「両者のあの告白には担任としても衝撃でした……。もし本当に虐められていたのでしたら、私共としても寝耳に水というのが正直な所です。これは隠蔽ではなく、我々が知る限り、本当に気が付かなかったのです。恐らく大半の児童も知らなかったと証言すると思います……」


「ほう?」


 それが本当なら、虐めの事実が揺らいでくる。


「も、勿論、前もって口裏合わせなどしておりませんし、口裏合わせなどしようがありません……」


 教頭の安藤が補足をする。

 ついさっき真実らしき事実を知ったが、すでにSPが校長室に同席している中での観戦であった。

 根回しなど出来ないし、そんな事実がバレたら、それこそ厳しい処罰の対象となってしまう。


「山下泰痔君が事故死したのは我々の落ち度として、校内の危険物の撤去や、児童への危険教育はしっかりと行ってまいりました。しかし、突き飛ばされての衝突となると……それを我らの落ち度とされては、もう校内には一切の物が配置できません!」


 滋賀県教育委員長の不破も同調する。


「例えば監視カメラと言う手もありますが、仮に証拠は残っても、突き飛ばし行為を事前に阻止する事は叶いませんでしょう。児童のプライバシーもありますし、我らとしてもこれ以上の対策は不可能です!」


 不破も教育委員長として必死に対処してきたのだろうが、本人が言う様に、これ以上の対処を教育現場に求めるなら、大幅な法改正が必要である。


「皆様。気持ちは理解できますが、聞きたいのはそう言う事ではありません。我々は学校の落ち度を糾弾しに来た訳ではありません。事件の事実が知りたいだけです。稲葉先生。大半の児童が知らないと言う事は、知っている児童も居るのですか?」


 紫白眼魎狐副大統領が、女性らしく優しく諭した。

 恐らく彼らは、緊張の余り自分でも何を喋っているのか理解していない節が感じられたからだ。


「恐らく……。私が把握している限りですが……。少なくとも両者と親しかった児童が何名か居ります。ここに呼びましょうか?」


「いえ。今は授業中ですね? 勉強を邪魔する訳には参りませン。児童へは、本日の授業が終わった後でHRにお邪魔させてもらいます。もちろン無関係な児童には帰宅してもらいますが、まず児童の反応を見させてもらいます」


「し、承知しました。ただ、HRまでにはまだ時間がありますが何か準備して置く事はありますか?」


「そうですねぇ。別のクラスに両者と仲の良かった児童も居るのでしたら、HRに参加する様に児童に伝えてください。その間、事故現場……殺害現場かもしれませンが、そこを改めて私と副大統領で調査します。あと、HRまで皆様方にはSPを付けさせてもらいます」


「口裏を合わせない為ですか……?」


「そうですよ。この様な場合、だれも信用しないのが鉄則ですからねぇ。勘違いしないで下さいね? 全員信用しませンが、疑いもしませン。フラットに見る為です」


「わ、わかりました……」


「改めて申しておきますが、我々は先生方を罰しにきたのではありません。仮に新事実が発覚しても、罰するべき加藤誹露貴君、または山下泰痔君は既にこの世に居ません。あくまで決闘前に発覚した事実の確認です。普通に過ごして頂ければ大丈夫ですよ」


 紫白眼が諭す様に言った。


「では、現場にいきますか。それではHRでまた会いましょう」


 北南崎がそう言って退出した。

 残された小学校関係者は、緊張の糸が切れたのか、一斉にソファーに座り込んで大きく息を吐くのであった――

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