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第6話 加藤誹露史vs山下頌痔 試合開始

【旧山下家敷地内/焼け跡闘技場】


 大統領の号令と共に、両者は即座に動き始めた。

 この期に及んで怖気づく両者ではなかった。


 ただ、その動きは対照的だった。



【加藤誹露史】


 日本刀を握った加藤は、改めて重さと扱い方を確かめる様に、眼前の焼け残った何か、恐らく建築材の一部、手近な補強材の棒らしき物を切った。

 一度事前にアドバンテージとして触って振った事があるとは言え、上段から袈裟斬りに糸を引く様に残像を残した刃は、補強材を時間差で切り飛ばした。


 銃器にしろ刀剣類にしろ、一通りは扱える様になっており、2ヵ月の猶予期間の間に、日本刀の訓練では青竹に巻いた巻き藁の一刀両断には成功していた。

 この巻き藁斬りは、成功すれば、人間の腕や足を骨ごと両断できるとされている。


 それを今一度思い出す様に斬ったのだ。


(よし! いける!)


 刃が通り抜けてから、明らかな間を空けて補強材が倒れる様は、才能の成せる業なのか、この一戦に賭ける思いがそうさせるのか?

 まるで時代劇の役者の様に堂に入っていた。



【山下頌痔】


(急げッ!)


 一方、山下は調理用フライ返しを確認すると、即座にブロック塀にもたれ掛り、後ろ手にガリガリと壁を擦った。

 視線は加藤に向けたままだ。

 未届け人達はその行動の意図を図りかねていたが、北南崎大統領だけは即座に理解した。


「……ほう。勝率が10%には戻りましたかね?」


 山下が何をしているのか?

 簡潔に言うなら『研ぎ』である。

 鉄製のフライ返しだが、あくまでもフライ返しであり刃物ではない。

 そこで山下はコンクリートブロックにフライ返しの先端を擦り付けることで、少しでも殺傷能力を上げようとしているのである。


 先程、己の子供が加藤の子に殺されたと主張し、しかし、己の子が加藤の子を虐めていた受け入れ難い事実が判明し、明らかに怒りと殺気が失せかけていた山下だったが、この冷静な行動から、己の子の無実と正義を信じた様子である。


(子供の証言なんてあてになるか! ウチの子が虐めだと!? この格差社会で上級国民を虐めるなんてあり得るのか!? 仮に何かあったとしても加藤のガキの勘違いだ! オレの拷問に何も口を割らなかった! あれは子供が耐えられる拷問じゃ無いはずだ!)


 山下が加藤の子を誘拐したのは、己の子の死の真実を知りたかっただけだ。

 仮に本当に虐められていたなら、そう言えば良いのに、死ぬまで何一つ喋らなかった。

 余りにも何もしゃべらないので、ついに山下も激高し、取り返しのつかない拷問行為に手を出した。

 爪を全て剝がしても、指を全て叩き潰しても、傷口を釘で打ち貫いても、泣き喚くだけで聞きたい事に何一つ答えない。

 山下自身もグロテスクな形となった子供の手足に、吐き気を催しながら必死に拷問をした。


(子供がこんなに我慢強いのか!? まさか本当に何も知らないのか!?)


 もし自分が拷問を受けるなら、爪一枚剝がされる前に喋るだろう。

 相手が聞きたい望み通りの事を喋る自信がある。

 助かる為には、生きて帰る為には何でも喋る。


 それなのに、結局、加藤の子は何も喋らず息絶えた。

 根性や精神力でどうにかなる拷問では無かったはずなのに、子供が到底耐えられるはずのない痛みに耐えきって死んだ。


 もはや山下は後に引けなくなっていた。


 とどめの一撃となってしまった原因は、子供の目だった。

 手足を潰されても、涙で泣き腫らした眼でも、子供とは思えぬ侮蔑の眼光が、山下に思わず金槌を脳天に振り下ろさせたのだ。

 殺すつもりは無かった一撃が致命傷となった。


『ついカッとなって』


 とは、こう言う事を言うのだろう。

 加藤の子は金槌の一撃で、頭蓋骨が破壊され脳が飛び散り、両目が眼窩から飛び出して、椅子に縛られたまま床に倒れた。

 何の偶然がそうさせたのか、侮蔑の眼のまま眼球が飛び出し、山下を光なき眼で捉える。

 どこに移動しても、視線がついて回るのは、果たして気のせいだったのか、狂気に冒された精神が山下にその光景を見せているのか?


 その惨状に自分で手を下したのに驚愕した山下は、慣れない手つきで加藤の子を吐きながら解体し、調理して加藤家に送った。

 怒りよりも、恐怖による錯乱行動だが、これは裁判では言わなかった。

 言っても信じてもらえないし、どうせ心象最悪なのだから死刑は確定だ。

 最後まで秘密にする事が、殺した子に対する嫌がらせなのだ。


 それなのに、今になって虐めの真実が見つかるなんて、都合が良いにも程がある。

 虐められていたなら、そう言えばいいのに。

 出鱈目であったとしても、助かる為に何か喋っても良いはずなのに。


 だから山下は結論付けた。


(コレは加藤の作戦だ! 俺を怯ませる為に、出鱈目を言っているんだ!!)


 ならば、絶対に生き残らなければならない。

 大統領が真相の調査を約束してくれたのだ。

 ならば生きて真実を聞かなくてはならない。


 そう思ったら、先の加藤の言葉は自分の怒りで曇った眼を覚ますには丁度良かった。

 怒りのままだったり、意気消沈していては、フライ返しの武器化など思いつかない。

 別に刃物の切れ味じゃなくても良いのだ。

 少しでも皮膚を切り裂き、痛みを与えられるならなまくらでも構わない。

 少なくとも、怪我をしない様に配慮されたフライ返しでは、到底勝ち目など無い。

 日本刀に勝つにはそれなりの工夫が必要なのだ。


(あと、もう一つ! 出来れば二つ! アレさえ……!)


 山下はフライ返しを研ぎながら、次の狙いと行動を決めた。

 だが、それには加藤に動いてもらわねばならない。

 その期を待つ山下であった。



【加藤誹露史】


(しまった!)


 自分が試し切りしている間に、山下は既に動いていた。

 北南崎が気が付いた様に、加藤も山下の異変に気が付いた。

 普段なら気が付かなかっただろうが、こうして生死を賭けた闘いに身を投じている以上、違和感には敏感になる。

 嫌でもなってしまう。

 山下が必死にガリガリと壁を削る様な音が、この期に及んで勝負に関係ない行為のはずが無い。

 必ず勝つ為の何かなのだ。


 では何なのか――


 そう考え、山下の武器が調理用フライ返しである事を思い出した。

 精々、ビンタ程度の攻撃しか出来ない調理用フライ返し。

 当たればそりゃ痛いだろうが、どう工夫しても致命傷の一撃は繰り出せない。

 この決闘においては勝てばOKなのだ。


 当然、判定など無い――


 時間無制限の一本勝負で判定は無いが、引き分けはあり得る。

 即ち相討ちは困るが、山下側のルーレットラインナップを見る限り、仮にフライ返し以外の武器が当たったとしても相討ちはあり得ない。


 金砕棒だけは危険だが、50㎏の鉄の塊など一回振り下ろせれば上出来の武器。

 仮に金砕棒が相手なら、相手が疲れるまで逃げれば良いだけだ。

 故にどんな武器でも相討ちはあり得ないと思っていた。


 結局フライ返しに決まった訳だが、日本刀の一撃を仮に防御に使えば、両断は出来ずとも、最低でもし曲げる事は可能だろう。

 そうすれば、フライ返しなど只の鉄クズだ。

 武器を失った山下は、己に惨殺される運命が確定する。


(勝った!)


 ――などとルーレットの結果を見て安堵していたら、急に凶器が出現したのだから驚く他は無い。


 正直、自分が立会人なら感心してしまう機転の良さだ。

 武器の改造など、自分だったら思いつかないだろう。

 しかも、この決闘は歴史に残る第一回目。

 いきなり、そんな事を思い付くなど冷静沈着にも程がある。

 自分が反対の立場だったら、玉砕するしかないと思っていた。

 唯一気を付けねばならないと思っていた、玉砕戦法を選ばなかった山下に、感心するやら憎いやら腹立たしいやら――


 とにかく、絶対に避けねばならない、相討ちの可能性が生まれてしまい加藤は面食らう。

 10%の可能性が、こんなにも重く圧し掛かるとは予想外だった。

 それが11%以上の勝率になろうとしている。

 即ち、自分の勝率は90%切った事になる。


(これが命のやりとりなのか!? あの研ぎでどれ程の殺傷力が得られるか分からない! でも仮に動脈を狙われてウッカリ切れたらどうなる?)


 加藤は厚手のツナギを着込み、滑り止め付き軍手と、登山シューズを履いている。

 今日の決戦の為に選んだ戦闘服だ。

 本当ならヘルメットも欲しかったが、明らかな防護服は認められていない。

 ヘルメットの他に安全靴、特殊防刃防弾服の類は認められない。(これらはハンデ次第で許可される場合もあるが、今回は無し)


 そうなると、手持ちのファッション重視の服では心許ない。

 機動性と、柔軟性と、防御性を2月考え抜いて選んだ服がこのツナギと登山シューズだ。

 ホームセンターに売っているのを見かけた時は、雷に打たれたが如く、運命の出会いと感じた。

 足から胴体、腕から手首まで保護されている。

 フライ返しでビンタされても、痛いだけで済む。


 だが今、フライ返しは明らかな凶器へと変貌した。


(そうなると首の動脈はどうなる? あのフライ返しで切り裂かれる可能性はあるのか?)


 無いとは断言できない。

 包丁やナイフ程の切れ味は無いだろうが『絶対に無い』とも言えない。

 万が一にも負けられない勝負で、万一の可能性を考慮しない訳にはいかないのだ。


(コイツ! 間違いなく勝つつもりだ! 自分の犯罪が思い違いの勘違いと分かってなお、この冷徹な判断! サイコパスにも程がある! 奴にとって俺は獲物なのだ! 自分の殺人衝動を満たす最後の機会を逃すハズがない!)


「ふぅぅぅッ! クソッ!!」


 加藤は己の甘さと驕りを認め、猛然と走り出した。

 ただし、中央は焼けた家が瓦礫となって立ち塞がっている。

 ここに入り込んでは素早い動きが出来ない上に、足を取られてスキを見せる可能性が高い。


『瓦礫に足を取られて転倒し、それが原因で負けた』


 そんな事になったら、全国のお茶の間に大失態を届けてしまう。

 加藤家末代までの恥となる。

 そうならない様に、加藤は壁沿いを走る。


 加藤の現在地は北西の角。

 山下の現在地は南東の角。


 加藤はまず北東に向かい、次に南東に向かって駆け出した。

 この動きを南に設置したカメラは捉えており、加藤はカメラ視点でに走り、次はに走った事になる。


(これ以上、フライ返しの凶器化を許してはダメだ! 相手は殺人をクリアしているんだぞ!?)


 相手はサイコパス。

 最早、殺人のプロだ。

 弱者たる子供を、しかも無抵抗だった子供を殺したとは言え、殺人経験の有無は絶対の壁がある。


 武道では『人を殺して一人前』と言われる事もある。

 どんなに美辞麗句、綺麗事を並べても、武道は極めれば殺人技術。

 その最後の関門は殺人である。

 本当に殺せるかが重要なのだ。


 とは言え、そんな事が許されたのは、が天下統一するまでの戦国時代までだけだ。

 信長によって法治国家となって以来、罪人であっても殺すのは国家の仕事であり、殺人技術の完成を目指しての殺人は出来なくなって久しい。

 余談だが、格闘技者同士が技術を極める為に、『死して悔いなし』と書状を取り交わし、死闘を繰り広げた記録は残っている。


 だから、殺人犯はそう言う意味でも強い。

 正に『一線を越える』とはこの事で、加藤の唯一の懸念が殺人経験の有無だった。

 相手は一線を越えているのに、こちらは越えていないのは、どんなに武器が有利でも分厚い壁だ。


 故に時間を掛ければそれだけ消耗するのはコチラ。

 相手は虎視眈々とこちらの消耗を狙うはず。

 息子の無念を晴らす為に、痛めつけた上で殺すなど愚かにも程がある。

 殺るなら一刀両断のつもりで、一撃で決めなければ負ける。


 加藤は山下の居る場所へ駆けるのであった。



【山下頌痔】


(来たッ!)


 山下は加藤の動きを見て、再度対角線上になる様に一目散に逃げだした。

 南のカメラ視点では、西へ逃げ、に再度逃げた形となる。


 相手の武器が武器だけに、逃げるのは理解できる行動。

 だが山下は、ただ逃げを打った訳では無かった。

 フライ返しを壁に当て、ガリガリと1/2周分の距離でフライ返しを再度研いだ。

 だが、それだけでは無かった。


(幸運! ココこそ俺が来たかった場所!!)


 北西に辿り着き、研ぎを終えると瓦礫に飛び込み、目当ての物を探して左手に持った。

 山下の言う『ココ』とは台所――の焼け跡。

 ココに目当てのモノが焼け残っていれば、あるはずなのだ。


(ッ!! 何て僥倖だ! 鍋蓋はともかく、服が焼け残っていたとは! 泰痔が『勝って!』と応援しているに違いない!)


 山下はガラス製の鍋蓋を、左手の人差し指と中指で挟み、焼け残っていた衣類を素早く左腕に巻き付けた。


(ようし! 包丁でも残っていれば儲けモノだったが、いつまでも探している暇はない!)


 鍋蓋と衣類は防御の為の道具である。

 奇跡的に原型を留めていた鍋蓋に、消火と数日間の雨で濡れたまま燃え残った衣類。

 防御兵装としては最低ランクの品々だが、この命懸けの戦いで、防具の有りと無しとでは全然違う。


 何せ山下の服装は、捕まった時のままだ。

 上下トレーナーに普通の運動靴。

 加藤の格好を見て、相手が準備万端でこの場に臨むのに対し、こちらは今日戦う事を知ったばかり。

 準備期間の有無もアドバンテージに計算されていると気が付いたからには、このままでは死ぬと気が付いたが故の行動だ。


(左手一本はくれてやる! その代わりオレが勝つ!)


 山下は左手の鍋蓋をバックラーの様に構え、右手のフライ返しの柄を顔付近の高さで構える。


 なお、バックラーとは西洋の盾の一種であるが、その構えは利き手と反対の手で持ち、突き出して構える。

 これで相手を牽制し、攻撃を受け止め、流し、右手の武器で攻撃しても良いし、シールドバッシュとして盾を鈍器として扱っても良い。


 空手でも、ボクシングの試合でも、左手を突き出して構える選手がいる。

 これが結構厄介で、相手のスペースに入り難いのでやり辛いのだ。

 無論、手段が無い訳では無いが、不幸にも加藤は格闘技未経験。

 きっと、効果はあるだろう。


 なお、山下も格闘技の経験は無いのだが、殺人の経験と、絶体絶命の危機が、この戦法を本能的に選ばせた。

 何の訓練もせずに辿り着いたこの境地は、時代が時代なら、山下は高名な武道家になっていたかもしれない。


(加藤は……! よし!)


 山下は瓦礫の跡から最初に加藤の居た北西の角に戻り、南西の真南に位置する加藤に正対して構えると裂帛の声で叫んだ。


「来いッ!!」


 そんな山下の戦略を見ていた北南崎は素直に感心していた。


(これは……20%ぐらいは勝ち目が出てきましたかねぇ? 流石、拷問による一方的な殺害とは言え、人1人殺した経験値は、殺した経験の無い者とは天地の差がありますねぇ)


 北南崎は山下の冷静で、この絶体絶命の中にあって機転を利かせた行動を内心で褒めた。


(私でもそうしますねぇ。ここは自宅なのだから、焼け跡のお宝を活用しない手はない。さて加藤さン、どうしますか?)


 北南崎は、驚愕と失態で顔を歪ませている加藤を見て、心中で声援を送った。



【加藤誹露史】


 加藤は山下の逃げを、呆気に取られて見てしまった。

 逃げるのはともかく、焼け跡に入り込む理由が皆目見当がつかない。

 足場の悪い場所に逃げ込んで何の有利があるのかと思ったのだ。

 山下を追いかけ、壁沿いを3/4周した頃には、己の大失態に気が付くも後の祭り。


 まさか防御の為の道具を最初から狙っていたとは思わなかったのだ。

 自分の日本刀から逃げるだけかと侮った、と言う程に侮った訳でもないが、心のどこかで『一方的な有利は変わらない』と思っていたのも事実。


 それが覆されそうになっている。

 一方的な殺害を目指していたのに、これは困る。

 今や加藤の目算でも勝率は80%ぐらいだ。

 これはマズイ。


「だ、大統領! これは反則では!?」


 加藤は山下に対し視線を切らさないまま北南崎に確認を取った。


「あー。気持ちは理解できますが、武器を与えて戦う場所を制限した以外、なにもルールを定めていませン。地形や残骸を利用しようとそれは自由。それも踏まえて貴方には90%の勝ちを得られるアドバンテージを与えたつもりです」


「ッ!!」


 半ば分かっていた答えが返ってきたが、やはり明言されるとショックは大きい。

 ルールの確認など開始前に聞くべきであった。


「加藤! 真剣勝負の場で一体何を聞いている!?」


「ッ!?」


「貴様の愚かさを棚に上げて大統領に泣きついてどうする!? お茶の間にお笑いを届けたいのか? なら笑ってやるぞ! ハッハッハ!!」


 山下の明らかな挑発が飛んでくる。

 だが実際その通りで、真剣勝負に卑怯もクソも無い。

 卑怯だと感じる手段があるなら、容赦なく選択すべきなのが真剣勝負。

 しかも、この場は加藤が死刑判決を覆して設営された場。

 何なら山下は、留置場外には出られなかったし、武器も大幅に有利不利が定められた場で、事前準備も出来なかったのに、そして、死刑囚なのに今更卑怯だ何だと言われた所で痛くも痒くも無い。


 やはり殺人の経験と、犯罪の経験の差は大きい様であった。

 そこに被せられた山下の挑発。


 その言葉に、加藤は全国のお茶の間の失望と、嘲笑の声を聞いた気がした。

 全国生中継の公開決闘の場なのに、覚悟の足りなさを指摘されては、被害者として恥の上塗りだ。


「クソッ! そこを動くな山下ァッ!!」


 加藤は山下の挑発に掛かってしまった。

 怒髪天の形相で山下に向かって走り、右手に刀を持ち担いで走り出した。



【山下頌痔】


(来た! 掛かった! ここ一番でいい。左手を失っても胴体を切られてもいい!! 泰痔! 父さんに力を貸してくれ!!)


 山下は猛然と駆け寄る加藤に対し一歩も動かず壁際で突っ立っていた。


(4m――3m――2m――ッ!!)


「ウオォォォッ!!」


 加藤が走った勢いのまま刀を振り下ろす。


 山下は限界ギリギリまでその刃を引き付けた。

 早くては見抜かれる――遅ければ死ぬ――相手が引き返せないギリギリを狙って――山下は鍋蓋で頭部を守り――地面に伏せた――


 ギャガギンッ!!


 音響機器としてカメラとは別に音声マイクが用意されているが、その音はエコーでも掛かっているかの様な音を拾った――

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