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第3話 大統領謁見 北南崎桜太郎

【某所/死刑囚収容所】


「どうも。大統領の北南崎きたみなみざき桜太郎さくらたろうです」


「……どうも。大統領閣下が、こんな猟奇殺人犯に何の御用で?」


 収容所の面会室。

 部屋の端から端まである簡素な机に、強化アクリル板で仕切られた質素な部屋で、山下はともかく、大統領の北南崎までパイプ椅子に座って対面している。

 本来なら受刑者側には見張りが付くが、今回は見張りをも席を外した正真正銘の2人きりで、誰かに聞かれたら困る話をするので、盗聴器の検査も済ませた念入りな面会場である。


「それは勿論、様子見ですよ。今回、初めて私が施行した法が適用されたのです。最後まで見守るのが義務と言うものです」


「フッ。そりゃそうですね」


 山下は首をすぼめて不敵に笑う。

 まるで外国人のリアクションだが、不思議とそれが自然に感じる仕草だった。


「どうですか、この法は? 加害者の貴方には拒否権が無い。決戦の日には病気だろうと何だろうと戦いを強いられ、遺族の恨みを一身に受け殺される可能性が高い。死に方を選べない。絞殺、銃殺、薬殺等、楽に死ぬ事は出来ないでしょう。……理不尽だと思いますか?」


「何故、そんな事を聞くのです?」


 余りにも大統領が無邪気に尋ねるので、山下は不信感を持った。


「無論、将来の法改正の為ですよ。この法に事前シミュレーションは出来ませンからねぇ。いや、出来なくは無いのですが、人が命を懸けて戦う場で、シミュレーション通りの結果など出るとも思っていませンよ」


「シミュレーション通りかも知れませんよ?」


「それならそれで構わない。それも一つの結果です」


 大統領の言葉に山下は口角を上げて笑った。


「フフフ。先程、理不尽かどうか尋ねられましたね? 遺族は己が手で制裁を加えたい。その気持ちは理解できますよ。私だって被害者だったら同じ立場を選びます。私だって自分の子供が殺されたら八つ裂きにしてやりたい。だから理不尽なんてとんでもない。私は罪を犯したのですから当然の報い。何なら感謝すらしておりますよ」


 山下は不敵に笑いながら答えた。


「狙い通り、と言う事ですか。フフフ……!」


「何が可笑しいのです?」


 大統領の返答が予想外だったのが意外で、理由を尋ねる山下。

 今回の『仇討ち法』は、基本的に遺族の強い恨みを自ら晴らさせる法。

 だが、もう一つ別の狙いが大統領にはあった。

 山下の答えに、一定の結果が得られそうな気配を感じ笑ったのだ。


「その答え、私にとっても狙い通り! 期待していますよ? 決して収容所で自殺だけはしないで下さいね?」


「本当に期待しておられるのですね?」


「当然です。決戦はまだ先ですが、貴方にも勝ち目があるラインを狙ったペナルティにするつもりです。決して楽とは言いませンが、最低10%ぐらいは勝機があると思って下さい」


「死刑宣告受けた者に10%も勝ち目がある……。十分です。感謝します。大統領閣下」


 山下は席を立つと部屋を出た。

 扉外に待機していた職員が山下の後ろに付き、拘留場所へ移動させる。


「感謝とはね。……さて、次は加藤家ですか」


 大統領は立ち上がると、拘置所を出て、テロ対策大統領特別仕様の車に乗り込み加藤家に向かうのであった。

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