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第2話 能力血筋差別 南蛮武 葬兵

 ある、戦争経験世代の大統領経験者の政治家が言った。


『あの戦争に従事し、勝利を勝ち取った者達の苦労は、こんなモノではないぞ!!』


 第45代大統領 南蛮武 葬兵なんばんぶ そうへいの言葉より―――



 地球は極東の、とある小さな島国ながら豊かな国があった。

 その幸福絶好調の国は、第二次世界大戦でも勝利陣営にて大活躍を果たし、国民のバイタリティと、ある意味職人気質のお国柄か、終戦から数十年を経て、戦勝国の中でも世界有数の豊かな国へと登り詰めた。


 元々、モノづくりの得意な国民性と、大多数が右を向けば、残りも右を向く協調性。

 一丸となり易い国民性は、ある意味、約束された結果でもあった。

 躍進と結果が更なる活力を呼び、皆が一丸となって繁栄に向けて突っ走った。


 かつての戦争で、国民皆総攻撃を掲げていただけに、団結にかけては世界一と言っても良い。

 しかも、モノ作りに対する徹底品質管理と、異常なまでの高品質で画期的な製品を次々と作り出し、元々強かった分野はさらに強く、それ以外の駄菓子からエンターテインメントまでも高品質で世界を席巻した。


 だが、この豊かさが頂点に達し、物や食べ物は溢れ、夢や希望はどこにでも転がっており、誰もが己の才能を探し、研鑽し、努力と競争の国へと変貌した。


 これがまた国民性と上手にマッチし、戦後は、平等や人権を謳った憲法が作られ、異常な成長を際限なく続け――見事にパンクした。


 まさに泡の如く、仕事や生活の仕組みが破裂破綻し、犯罪が増え始め暗黒時代が幕開けた。


『キレる若者』

『転売ヤー』

『ハラスメント』

『振り込め詐欺』

『ネグレクト』

『やりがい搾取』

『サービス残業』


 今まで聞いた事のない言葉と共に、世間がひび割れ始めた。

 何か得体の知れない、不安とそれを煽る世間。

 その原因として馬鹿な事が報じられる。


『犯人はゲームや漫画を多数所持していた』

『昼間からカーテンを閉めていた』


 などと『だから何だ』という低俗な偏向報道が蔓延り始め、さらなる不安が立ち上る。


 とどめは、とある国際大会。

 この大会は史上稀にも程がある、酷いを通り越して、ある意味、悪事の集大成となった大会。

 なんなら、余りの酷さに逆に国民は興味が勝った。


『パクリ、談合、中抜き、失言、無駄設備、賄賂、杜撰な計画! 逆に、まだやってない悪い事は何が残ってるんだよ!?』


 などと、僅かにあった良い事 (選手村の料理など)を数えた方が早い位に酷い大会となった。


 だがそれにも関わらず、高品質なモノは溢れているのに、手に届かない時代。


 この国がいつ間違ったか?

 様々な議論がある。


 戦争に勝ってしまった事と言う者。

 不況への対策と言う者。

 異常な拘りとやりがいを搾取する経営者と言う者。


 などと、様々言われるが、元々の勤勉で品質を追求する国民性で、諸外国に比べ高識字率、学問の質など、どの分野も世界のトップ10ランクインする。

 それなのに、貧富の差だけが拡充しランクが下がり続ける有様。


 発展すればする程、国民から活力が失われる。

 活力が失われれば、脱落者が出てくるのは当然の流れ。

 脱落者が多数出てくれば、脱落者同士でも更なる脱落者が生まれ、犯罪が激増するのは必然。


 そして貧困層が犯罪に走るのはある意味当然の現象。


 お陰で、各地に刑務所や少年院の建設ラッシュが始まって、皮肉な好景気が一時的に発生したが、この有様に『政治の失敗』と断言する者は、自国内には一人も居なかった。

 外国人の学者がこの国の失敗を『政治』と断言しても、誰も耳を傾けなかった。


 果たして政治の失敗が原因なのか?


 その一面があるのは間違いないが、真の原因は国民の『疲れ』が原因と突き止めた政治家はいなかった。


 何もかも追求し、徹底的に拘り、他人他社他国を上回るのに、国民が疲れ始めたのだ。

 いや、疲れたと言うより、付いて行けなくなった、追いつけなくなったが、と表現する方が正しいか?

 そうして『過労死』と言う、信じ難い現象が起き始める。


 科学も含め、あらゆる分野が未発達の時は良かった。

 やればやるだけ効果が表れ、便利になった。

 だが、その発展が頭打ちになった時、目に見えた発展が打ち出しにくくなり、しかし企業や国からは叱咤しか飛んでこない。


 激励などと甘ったれたモノは無い。

 故に、戦争経験世代の老人政治家が言った。


『あの戦争に従事し勝利を勝ち取った者達の苦労は、こんなモノではないぞ!!』


 この言葉は致命傷だった。

 疲労も発展も成長も頭打ちになった社会に更なる追い打ちがかかり、その結果、極端に人が選ばれる時代となった。

 勿論、今までも人材を確保する時は適性を十分に確認していたが、その確認基準が跳ね上がり、就職氷河という絶望の時代が訪れた。


 もう、一定のラインに達していない者は、ハナから相手にされない。

 就職段階でそのラインが引かれれば、後は雪崩となり下っていく。

 では、どこに下るのか?


 当然、教育の現場である。


 ある水準の大学に入れない者。

 ある水準の高校に入れない者。

 ある水準の中学校に入れない者。

 ある水準の小学校に入れない者。

 ある水準の保育園、幼稚園に入れない者。


 段々と、人間の振い落しは激しくなるが、これで終わりでは無かった。


 今度は、親がある水準の大学を出ていない者、高校を、中学を、小学校を、保育園幼稚園を―――。


 生れた瞬間はおろか、先祖に遡ってまでの人材確保が始まる有様となった。

 拘り気質のお国柄が作りだす、狂気的な学歴血筋社会がここに出現した。

 何事も極端な方向性を進むお国柄である。

 人種差別ならぬ能力血筋差別である。


 選ぶ側の眼力は極限まで厳しくなり、途端に行き場の無い人が溢れ出した。

 当たり前の様に、名のある大企業、強豪スポーツ、覇権芸能事務所など人材が極端に偏っていく。

 一方の落ちこぼれは、落ちこぼれが作った会社で働くしかなくなった。


 こんな有様では、格差の拡大も歪んだ社会になるのも当然だ。

 しかし選ばれし超エリートが社会の基幹を、その卓越した頭脳で支えているので、国の発展度合いは世界トップレベル。


 だが、脱落したまま、そのまま人として終わってしまう者も数多くいた。

 特に元エリートはその傾向が謙虚で、エリートが集まれば、その中でも格差が生まれ、プライド故に低いランクの仕事を受け入れられず、最初から非エリート階層の者よりも転落具合は酷かった。

 この究極格差社会が、問題となるのは当然の流れであった。


 この頃から国民が自虐的に『上級国民』『下級国民』と区別し始め、超スピードで定着してしまった。


 世間の格差が激しくなれば、当然、犯罪も更に激増し始める。

 当然の結果が生み出す皮肉で、刑務所、少年院建設ラッシュの局地的好景気が訪れた。

 勿論犯罪者とは、学歴水準に満たなかった者、水準に満たない親から生まれた子が犯罪の半分を占め、残りの半分は脱落した元エリートだ。


 政府も犯罪率の増加には頭を抱えており、エリートも含めた一部国民も、この国の方針を何とかしたいと思っていた。

 今はエリートでも、明日は我が身、そして、老いも我が身である。

 蹴落とされずに定年を迎えられる人間など、ほんの一握りなのだ。


 この問題に対し、どの大統領も効果的な策を打てない中、ついに国民も気が狂ってしまったのか、とある過激なパフォーマンスでカルトな人気を博した大統領候補者が、うっかり当選してしまう事態となった。

 だが選挙結果は絶対だ。


 当選してしまったからには職務の妨害など出来ない。

 だが、このパフォーマンス大統領が、意外な事に実力を発揮し、全国の犯罪を抑え込む可能性のある法を作り出した。


 その法律こそ『被害者ニヨル加害者ヲ裁ク権利』通称『仇討ち法』である。


 普通は裁判官によって量刑が決められる。

 量刑に被害者、加害者が納得できなければ最高裁判所まで争われるが、それでも納得できない場合、この法が適用される。


 ただし、この法はまだ試験運用も兼ねており、適用は故意、事故問わず、人を殺した場合で死刑宣告に限られる。

 ただし、この仇討ち法には幾つかリスクがある。


 もし、加害者側が勝利した場合、罪一等を減じる勝利ボーナスが与えられる。

 そうなると、仮に死刑判決が出たならば、待てば、いずれ国が処刑してくれるのに、被害者側が不服を申し立てれば、己の手で殺したい願いが叶えられるが、リスクとして、負ければ加害者の罪が減免されるのだ――

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