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第14話 誕生日

 誕生日の朝は嬉しいから始まった。

 スカイさんが僕のために朝食を作ってくれたなんてすごいニュースだ。


「おや、怜はご機嫌だねぇ」


 パタパタと尻尾を振りながらまあごさんが言い、ぴょん、と食卓の椅子に乗る。

 まあごさんも一緒に朝食を食べるんだけど、ちょっと高めの猫缶だ。ドライフードは好きじゃないらしい。

 まあごさん用のお皿に盛られたごはんを見て、まあごさんは目を輝かせている。


「うん、だって今日の朝食はスカイさんが作ってくれたから嬉しくて」


「あぁ、珍しく早起きしたかと思ったら。よく焦がさないで作れたじゃないか」


 感心した様な声音で言い、まあごさんはご飯をはむっと食べた。


「どんな失敗、するわけないじゃないか」


 笑いながら答えて、スカイさんはご飯とみそ汁をよそい、エプロンを脱いだ。


「ほら、食べようか、怜君」


「はい、いただきます」


 そして僕は手を合わせた。

 人に作ってもらったごはんは格段においしくて、嬉しかった。

 今日の夜は小さいけれどバースデーケーキを食べるんだ。

 夕食は近所の洋食屋さんに食べに行って。その前に何かするかは決めていないけれど、スカイさんと一日一緒に過ごすことになっている。

 それが本当に嬉しかった。


「外に出かけてもいいけど、怜君は今日、何をしたいんだい?」


「えーと、いっしょにゲームしたいです!」


 僕の主張に、スカイさんは目を丸くした。

 スカイさんと一緒にできること、いろいろ考えたけどどれもピンとこなくて、思いついたのがゲームだったんだけど。

 僕は知っているんだ。スカイさんがいろいろなボードゲームを集めている事を。


「人生ゲームやリバーシとかいろいろとスカイさん、持ってますよね。前からやって見たかったんです」


 笑顔で僕が言うと、スカイさんは嬉しいような、恥ずかしいような顔になる。


「確かにそれは僕の趣味だけど、知っていたのかい?」


「そりゃあ、リビングで嬉しそうにアマ○ンの箱開けていたらわかりますよ」


 他にもご機嫌で買い物から帰宅した時は、そういうボードゲームを買って来た時だからわかりやすいはわかりやすいんだよね。


「コレクションはたくさんあるから色々とやろうか? ブロッ○スにウ○ンゴ、ちょっと古いけど『モンスター○ーカー』とかもあるけど何がいいかなぁ。テーブルトークもいいねぇ。僕がマスターでできるし」


 テンション高めにスカイさんは僕が知らない単語を並べていく。

 スカイさんが楽しいのならきっと僕も楽しいだろう。


「じゃあ、一緒にみて決めましょう」


 そう僕が提案するとスカイさんは嬉しそうに頷いた。




 午前中はスカイさんおすすめのボードゲームをして過ごし、午後はテレビゲームをして過ごした。

 ボードゲームの多くは複数でやるものが多くて、ふたりでできるものは少なかったけど、リバーシやダイヤモンドゲームから初めて見るボードゲームまで色々とやることができて楽しかった。

 午後、テレビゲームをしてお茶とお菓子を食べつつ人安いしているとき、僕はスカイさんに向かって声を弾ませて言った。


「あんなに色んなボードゲームやカードゲームがあるんですね。知らなかった」


「トランプやウノはやるだろうけど、それ以外はなかなかやらないからね。今度、誰か誘って三人からできるゲームをやってみようか?」


 そう、スカイさんが提案してくれて、僕は勢いよく頷いた。


「そうですね! でも誰かいますか?」


「そうだねえ。君もあったことある人だと、雑誌記者の霧島さんとか。嫌だけど蓼科たてしなを誘ってやってもいいかもね。嫌だけど」


 ふたりとも、何度かあったことのある人だ。

 霧島さんは女性で、蓼科さんは男性。ふたりとも二十代半ばから後半くらいだったともう。

 蓼科さんのこと、スカイさんは嫌いみたいで、すごい態度悪かった記憶がある。


「蓼科さんて、何者なんですか?」


 ここに来たときはスーツ姿でなんだか警察とかそういう感じがしたけど。


「あぁ、あいつはいわゆる官僚だよ」


 官僚。つまり政府機関の職員。僕のお父さんと同じだ。

 スカイさんの言葉に、僕の心臓が跳ね上がる。


「官僚って、どこの……」


 僕のお父さんのこと、知っているのかな。

 お父さんは大蔵省の官僚だったはずだ。政府の役人なら、なんでお父さんが殺されたのか、何か知っているかな……

 そんな浅はかな考えが頭をよぎる。

 スカイさんの目がすっと、細くなった気がした。でもすぐに普通になって、微笑み首を振る。


「大蔵省じゃなくって、内閣府の役人だよ。正確には内閣官房直属の、特務機関だけど」


 あぁ、そうなんだ。じゃあお父さんのこと、知らないかな……あの人、若そうだったからお父さんと公官庁にいる期間が被ってないかもしれないけど。

 ……って、あれ?

 僕は、スカイさんが耳慣れない言葉を発したことに気が付く。

 公官庁や内閣の仕組みは小中学生の時に習ってる。

 総務省とか大蔵省、厚生省。内閣官房直属の特務機関って何?

 習った記憶が全然ないんだけど?


「あの、特務機関って何ですか?」


 特務機関といったら某アニメに出てくるやつしか出てこない。古いアニメで、サブスクで見た。わけわかんなかったけど。

 スカイさんは何事でもないように言った。


「国の特務機関スサノオ。ヤタガラスが裏切ったことで新しく作られた暗殺集団だよ」


 だからなんで国がそんなもの持っているんですか?

 そう言いたいけれど僕は言葉を飲み込む。


「つまりそれって……」


「まあスパイみたいなものだねぇ」


 と、事もなげにいう。

 スパイなのにそんな公に言っていいんですか。

 スカイさんの言う事って、不思議だしついていけないことが多い。

 スパイって本当にいるのが驚きだし、そんな人がうちに出入りしていることも驚きだ。


「な、なんでそのスパイがうちに出入りされているんですか?」


 おそるおそる尋ねると、スカイさんはにこっととてもいい笑顔で僕を見て、押し黙ってしまった。

 あ、これは何も言うつもりがないやつだ。それなら仕方ない。


「まああれのことは大丈夫だよ。僕らに危害を加えることはないはずだから。そもそも僕に大きな貸しがあるからねえ」


「あ、そうなんですね。じゃあ、蓼科さんとは古い付き合いなんですね」


 でもスカイさんって二十六だよね、たしか。いったい何歳から蓼科さんのことを知っているんだろう。


「まあそうだね。いやだけど」


 と、本当に嫌そうに言うので、僕は苦笑いした。

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