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第2話 スカイさん

 次の日。

 学校から帰って紅茶を用意して、スカイさんの部屋に行くと窓は綺麗に修復されていた。

 すごい壊れ方をしていたのに、こんな綺麗に直るものなんだろうか?

 窓屋さん? っていうのかな。すごいなあ。

 僕は感心しながら、黒いノートパソコンに向かうスカイさんに歩み寄る。

 スカイさんはパソコンに向かうときだけ紅い縁の眼鏡をかける。

 スカイさんは優しい笑みを浮かべ、眼鏡を取りながらパソコンの画面から目を離しつつ僕を見る。

「やあ、ありがとう、怜君」

「窓、もう直ったんですね」

 そう問いかけると、スカイさんは頷いて足を組む。

「うん、そうだよ。『家鳴り』たちが頑張ってくれたよ!」

 家鳴り、と言う言葉を聞いて、僕はすべてを察する。

 家鳴りというのは家に住む妖怪だ。

 家を軋ませて音を立てたりする、小さな鬼の姿をした悪戯好きの妖怪なんだけど、その家鳴りに修理させたってことなのかな?

「そ、そうなんですか」

「家鳴りの紹介で、修理を生業とする妖怪を紹介してもらって。それで、その人に頼んだんだよねー。雨が降ったらどうしようかって、冷や冷やだったよ」

 あ、なんだ、家鳴りに直させたんじゃないのか。

 まあ、悪戯大好きな妖怪にそんなことさせたら何しでかすかわからないしな。

「お礼に名前を聞き出したから、これでいつでも呼び出せるよ」

 言いながら、スカイさんは机の上においてある、紺色の表紙の手帳に手を置いた。

 お礼に名前を聞き出した……それってお礼ではないような?

 スカイさんは名前を聞き出した妖怪や悪魔を召喚することができる。

 紙に召喚したい悪魔や妖怪の名前を書くことで呼び出せるらしい。

 だからスカイさんはいつも手の届く所に手帳を置いている。

 本人曰く、手帳がないとただの人だそうだ。

 僕からしたら、スカイさんは充分ただの人ではないんだけど。

「それって、お礼とは言わないような……」

 内心呆れつつ僕が言うと、スカイさんはカップを手にしたまま、ばっと、顔を上げて僕を見た。

 その表情に、驚きの色が色濃く映る。

「僕に使役されれば、いつでも美味しいご飯とお菓子が食べられるんだよ?」

「悪魔とか妖怪って、ご飯やお菓子食べるんですか?」

「まあごさんは食べるじゃないか」

 言われてみれば確かに。

「まあ、まあごさんは妖怪とは少し違うけれど。そうそう、怜君」

「なんですか?」

 スカイさんはカップをソーサーの上に置くと、肘おきに手を置いて、僕を見上げる。

「まあごさんは、あれでも神様の端くれだからね」

 まあごさんが神様。

 え、スカイさん、神様と住んでるって事?

 混乱していると、スカイさんは目をすっと細めて言った。

「君は、僕を恨むだろうか?」

 いったい何を言いだすんだろう?

 僕は首を横に振り、それを否定する。

「そんな、恨むわけないじゃないですか! どうしたんですか、急にそんなこと言いだすなんて」

「いや……君と暮らすようになって、一年になるのかと思うと感慨深くてね」

「はい……おかげで僕は充実した毎日を送れています。本当に、感謝しかないです」

 スカイさんと出会ってなかったら僕は、どうなっていただろう?

 孤児院の生活は悪いものではなかったけれどでも、いいものでもない。

 十二歳の時、お父さんが何者かに殺されて、親戚がな、孤児院に入ることになった。

 お母さんは小さい頃に死んで、ずっと、お父さんとふたりきりだった。

 そういえば、お父さんやお母さんの親戚と会ったことないな。

 だから、スカイさんとふたりの生活っていうのは、お父さんと暮らしていた時みたいでなんだか懐かしい気持ちだった。

「ご存じだと思いますけど、ほら、僕、ずっとお父さんとふたりで暮らしてきたから。スカイさんと過ごしてると、お父さんと暮らしてた時みたいで楽しいです」

 僕が言うと、スカイさんは一瞬目を大きく見開いたあと、すっと目を細めて笑った。

「そうか……そんな風に思っていたのか。一年近く一緒にいるのに、僕は君の事、まだよくわかっていないらしい」

 自嘲気味に言うスカイさんに、僕は首を振って見せた。

「僕もまだ、スカイさんの事、知らないことだらけだけど。それでも僕がスカイさんに感謝していることにかわりはないですから」

「ありがとう、怜君。誕生日はちゃんと、お祝いしようね」

 スカイさんの様子がなんだかおかしい。

 そう思ったものの、僕はその違和感について問うことはできなかった。

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