倒れた少女がそのまま寝てしまったことに、本当に戦闘向きじゃないなあと思った。敵陣で、無理矢理唇を奪った男の前で無防備すぎないか? と思ったが、桜夜は嘆息をつき、適当な部屋から毛布をもってきてサイカにかけると、暖房の温度をあげた。
「さて、と」
だんだんと強い“力”が2つ、屋敷に近づいて来ていた。その力は明らかな敵意に満ちていた。迎え打つために、防寒用のマントを羽織ると、腰に桜吹雪を差し、表に出た。すると炎の固まりがいきなり彼に突進してきた。
「サイカを、返せ!」
炎の固まりの中にはサイカをボーイッシュにして、髪と瞳を赤にし、さらに筋肉質にしたような少女がいた。少女は炎を纏った桜夜に殴りかかった。
「っ」
なかなかの俊敏さに驚異を感じながらも桜吹雪を鞘ごと引き抜き、拳を受け止める。しばらくつばぜり合いを続けていたが、炎の少女の後ろから静かな、しかし強い声が響いた。
「離れなさいホムラ」
その声に炎の少女は桜吹雪の鞘を蹴って空に飛び上がった。そのあと桜夜に向かってきたのは屋敷を飲み込まんばかりの津波だった。
「ちっ」
サイカを助けに来たのに彼女のいるかもしれない屋敷を流す気かと内心で毒づきながら、桜吹雪を鞘から抜く。桜吹雪で津波に切りかかると、津波はモーセの海割りの如く半分に切り裂かれ、力を失って消滅した。
「なんだよ、その剣!」
「剣じゃなくて刀だよ」
炎の少女、ホムラが投げつけてくるファイアボールを切り裂きながら、桜夜はのんきに突っ込みを入れた。すると今度は正面から鉄砲水のような水が勢いよく向かってきて、仕方なく彼は桜吹雪の刃で水を受け止めるが、その放水はなかなか終わらず防戦一方だった。
「とりあえずてめえは死ね」
ホムラが先ほどとは比べものにならない大きさのファイアボールをかかげて空中で笑っていた。
(あれを投げつけられたやばいかもなあ)
なんて思いながら、桜夜の目付きが変わった。ホムラという少女がファイアボールを投げ、無防備になった瞬間、彼女を殺そうと決めたからだ。殺るか殺られるかの瞬間、悲鳴のような声が戦場に響いた。
「やめなさい! ホムラ! リオ! この人は味方よ!」
「……ねえちゃん?」
「サイカちゃん?」
ファイアボールと鉄砲水が消え、サイカとよく似た二人の少女が、屋敷から飛び出したサイカを見た。
to be continued