東北自動車道を走る車の助手席から、青年、
「しかし東北でのゴタゴタに、関東の僕がなんで駆け付けなければならんのかね」
桜夜はため息をつく。運転手が苦笑いを浮かべながら答えた。
「相談役は日本中のトラブルに対応する仕事ですよ」
桜夜はもう一度ため息をつく。「四方院家特別相談役」、それが彼の役職だった。特別相談役は四方院家宗主直属の役職で、宗主クラスでなければ対応できない荒事に対応したり、時に四方院家を守るためなら宗主に背くことも許された地位である。といえば聞こえはいいが、ようはただの雑用である。青年はもう一度ため息をつく。
親もなく、幼い頃に宗主の妹に才能を見いだされただけの野良犬にはお似合いの仕事だなと思ったからだ。そうして桜夜は目蓋を閉じた。
◆◆◆
桜夜が青森にある四方院家の分家、赤木家の屋敷についたのは深夜1時も回ったところだった。屋敷には明かりもなく、多くの人間が倒れていた。青年が確認したところ、どうやら息はあるようだ。運転手に救急車の手配を任せると、青年は刀――桜吹雪――を手に赤木当主の姿を探した。そして屋敷の奥に当主はいた。苦しそうに身体を横たえる当主の前には、バチバチとイカズチをまとった少女がいた。黄色い髪は首にかかるかかからないか程度だ。
「おーい、お嬢ちゃん。そのおっさん返してくれる?」
桜夜はのんきに少女に声をかけた。少女は青年を振り替える。黄色い瞳は悲しそうだった。
「……四方院の、秘密を教えて。そうしたら帰る」
「秘密、ねえ? 宗主があまりにチビだから未だに嫁が来ない話でいいか?」
桜夜のふざけた態度に、少女は左手の掌を青年に向けると、イカズチを放った。
「おっと」
桜夜は鞘に入ったままの桜吹雪でイカズチを受け止める。すると桜吹雪の持つ「守りの結界」が発動し、イカズチが少女に跳ね返った。
「きゃっ……」
イカズチが跳ね返されたことに少女が驚いた一瞬の隙に桜夜は桜吹雪を鞘から抜くと、少女の首筋に刃を当てた。
「君のイカズチと僕の刀、どっちが早いか試してみる?」
桜夜は笑いながら尋ねた。対して少女は震え、目から涙をこぼした。
「……たすけて」
「別にここから出てって二度と来ないなら殺さないよ。面倒だし」
「……ちがう。わたし、こんなことしたくないの。たがら、たすけて……」
嘘かとも思ったが女の涙に騙されてやるのが男だという兄貴分の言葉を思いだし、刃を少女の首から外した。
「僕は桜夜。君、名前は?」
「わたしは……」
その少女の名前を聞いたとき、今回のミッションがやっかいごとになることを桜夜は悟った。
to be continued