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第5話 『デート@ショッピングモール』

 その日の放課後……。


「わぁ、お店がいっぱいだねー!」


 ミサキが言う。

 そう、僕たちは大型ショッピングモールに来ていた。

 様々な店が立ち並ぶモール内を、ミサキは目を輝かせて見詰めている。


 こんなに喜んでくれるなんて、ここに来て正解だったな。

 もちろん、僕が誘ったわけじゃないんだけど……。


「どう? なかなか凄いでしょ」

「ここは、この辺で一番大きいとこなんだぜ!」


 そう言うのはマキとレイジ。

 2人に誘われて、僕たちは学校が終わった後に、バスでここまで来たのだ。


 もともとマキは、ミサキを連れてここに来る予定だったらしい。

 だけど、レイジが

『最近、マキが構ってくれない』

 と、ねてて……。

 そこで、急遽きゅうきょ、僕とレイジも一緒に行くことになったのだった。


 キラキラとした瞳で、様々なお店を見ているミサキ。

 ワンピースが好きなのかな。

 手にしたワンピースを胸に当て、鏡に映してマキと笑いあったりしている。


 ああ、やっぱりミサキって可愛いなぁ……。


「ここって、可愛い服がいっぱいあるね」

「だろ? こっちに住んだら、ここは押さえておかないとなんだぜ!」


 にこにこ笑顔に、軽やかなステップ。

 ミサキに答えるレイジは、やたらテンションが高い。


 そう言えば、ダブルデートがしたいなんてことも言ってたっけ……。


 ……って、あれ?

 あまり何も考えていなかったけど……。

 こ、こ、こ、これ、これ、これってダブルデートなのか!


 僕はこっそりスマホを開き、震える手で『デート』という言葉を検索する。


『デート【date】

 親しい・・・男女が日時を決めて会うこと。

 その約束』


「親しいだって!?」


 そ、そうか……。

 僕はもう、ミサキと親しい関係なのか!


 高まっていく鼓動を感じつつ、検索を続ける。


『デートの最中において、交際をしたい旨を正式に申し込む。

 初めてのキスをする。

 プロポーズをするなどがある』


「無理だっ!」


 僕は叫んだ。


 こんなの無理に決まってる!

 告白!?

 キス!?

 プロポーズ!?

 何を言ってるんだ、まだ恋愛免許証だって持ってないんだぞ!


 僕は頭をかきむしる。


 ま、まぁ、持ってたとしても、する勇気なんてないけどさ……。


 そして、ため息をついた。


「お前は、さっきから何やってるんだ……」


 はっ!?

 背後からの冷たいレイジの声に、僕は我に返った。


「一人コントもいいけど、今くらい4人で楽しもうぜ!」

「コ、コントとか言うなよ!」


 見れば、呆れた顔をしているマキ。

 その背中に隠れるようにして、笑いをこらえているミサキがいる。


 うぅ……恥ずかしすぎる……。


 口を押さえ、小刻みに肩を震わせているミサキの姿に、僕は顔が熱くなっていくのを感じていた。

 そんな僕に、レイジは耳打ちする。


「ミサキが可愛いからって、興奮しすぎちゃダメだぜ?」

「ば……ち、違うって!」

「だろー? まぁ、お前の気持ちもわかるけどな」


 例によって、レイジは人の話を聞かない。


 でも、確かにミサキは可愛いと思う。

 すれ違う人が、みんなミサキのことを見ている気がする。


 ちょっとアホだけど、イケメンと呼ばれる部類のレイジ。

 背が高く、モデルみたいなマキ。

 そして、ダントツの可愛さを誇るミサキ。

 そのグループの中で、これといってのない僕。


 う……。

 自分で思ってて悲しくなってくる……。


 思わずうつむいた僕の視界に、小さめの靴が映った。

 あわてて顔を上げる。


「どうしたの? 梨川くん」


 それはミサキだった。


「もしかして、無理やり付きあわせちゃった?」

「ち、ち、ち、違うよ!」


 その悲しげな表情に、僕は両手を突き出して激しく振った。


「た、ただ、ここは久しぶりだなーとか、母さんと来ると駐車場でいつも迷子になるんだよな……とか、妹が通路を走る汽車の乗り物に乗るのが好きだったな……とか思ってただけで……」

「梨川くん、妹さんいるんだ?」

「え? あ、うん、3歳違いの妹がいるよ」


 僕とミサキは、並んで歩きだす。


「いいなぁ……私、一人っ子だから兄弟とかって憧れてるんだ」

「そ、そんないいものじゃないよ! うるさいし、すぐ僕に甘えてくるし……」

「そうなんだ。でも、それはきっと……」


 そこまで言うと、ミサキは僕に向き直った。


「きっと、梨川くんが優しいからだよ」


 え……。


 小首を少しだけ傾げて微笑むミサキ。

 その姿は、僕の胸の一番深いところに突き刺さった気がした。


「ミサキー、これ見てー!」

「あ、マキちゃん、それ可愛いねー!」


 マキに呼ばれ、ミサキは雑貨屋へと歩き出す。

 僕は、その後ろ姿を、ただ見詰めることしかできなかった……。



 雑貨屋の後、僕たちはゲームセンターへと足を進めた。

 レイジが、プリントシールを撮りたいと駄々だだをこねたからだ。


 プリントシール、自分の顔や姿をカメラで撮影してシールに印刷してくれるアレのことだ。

 撮影後、楽しそうに落書きをしている人たちを横目で眺めていたことはあったけど……。


 おおお……。

 まさか、僕がそれを体験できる日が来るなんて!


 ゲームセンターの入り口にある、妹が好きだった電動の汽車の発着場をすり抜け……。

 中に入ってすぐのところに並べられた、カードでキャラをコーディネートできるゲームの脇をすり抜け……。

 クレーンゲームに目を引かれながらも、僕たちはプリントシール機のコーナーへとたどり着いた。


 「えっ、こんなに種類があるの!?」


 沢山の機種が立ち並ぶ姿に気圧されていると、マキが1つの台の前に立った。


「この機種が、一番綺麗に撮ってくれるのよ」


 そう言ってマキは笑うと、綺麗なモデルさんの写真が印刷されたビニールカーテンの中に入っていく。

 もちろん僕たちに異論はなく、マキにならってカーテンをくぐった。


 白く眩しい空間。

 それが僕の第一印象。

 丸い照明に軽く驚きつつ、お金を投入。

 その瞬間、背後に現れた緑色のカーテンに驚いたら、マキにうるさいと怒られた。

 ちょっと反省。


 撮影コースとか、仕上がりイメージとかを選ぶといよいよ撮影開始。

 6回撮影してくれるみたいだ。

 前に僕とミサキ、後ろにレイジとマキが並ぶ。


 うう、緊張するな……。

 普段、あまり写真なんて撮らないし、撮った写真は目をつぶってることが多いし……

 そして、何より隣はミサキだし……。


 ちらりと隣を見る。

 その瞬間、ミサキと目があった。


「緊張するね」


 そう言って微笑むミサキ。

 その笑顔に、僕の心臓は激しく脈を打つ。

 後ろで、レイジとマキが何かヒソヒソ話をしているけど、今の僕にはそんなことを気にする余裕はなかった。


『撮影を始めるよ♪ ポーズを決めてね♪』


 機械に指示されるがまま、ポーズをとって撮影をしていく。

 仲良しポーズだったり、クールに決めたり、可愛くおねだりしたり……。


 撮られる瞬間、僕は目に力を入れて大きく見開く。

 不自然かもしれないけど、目をつぶちゃうよりはマシでしょ。 


 5枚目が撮り終わったところで、レイジが口を開いた。


「最後の1枚は、普通に撮ろうぜ」


 その言葉に従って、僕たちは立つ。

 隣で、ミサキが指をVの字にしている。


 可愛いな……。


『それじゃ、撮影するよー♪ 3……』


 っと、カウントダウンが始まった。

 最後は、ちょっとキリッと撮りたいところ。

 だ、だって、ミサキとの写真なんだから……。


『2……1……』


 そのとき——


「マキ!」

「うん!」


 不意に後ろの2人の声が聞こえたかと思うと、撮影画面からその姿が消える。


 えっ!?


 と思った瞬間、響くシャッター音。


『撮影終了〜♪ 外に出て、落書きをしてね』

「ちょ、ちょっとレイジ!」


 僕は、しゃがんで撮影から逃れたレイジに詰め寄った。


「なんでカメラから逃げたんだよ!」

「ん〜?」


 レイジは僕の首に腕を回すと、ぐいっと引き寄せた。


「な、何を!?」

「感謝しろよ」


 驚く僕の言葉を遮り、レイジは小声で言う。


「ミサキと2人だけで撮らせてやったんだぜ?」

「え……」


 その言葉に、思わずミサキに目を向けた。

 ミサキは「ちょっと〜」って言いながら、マキとじゃれ合っている。


「さぁ、外に出て落書きしようぜ!」


 僕を解放したレイジは、そう言ってカーテンの外に出ていく。

 その後にマキが続き、そして、ミサキもカーテンに手をかける。

 が、そこで動きを止めて、僕に振り返った。

 心臓が、一瞬、強く脈を打つ。


「まったく……あの2人はイタズラ好きで困っちゃうよね」


 そう言って微笑むミサキ。

 その表情は……。

 僕には、嫌がっているようには見えなかったんだ……。


「ミサキー、早くおいでよー!」

「あ、うん、今いくー!」


 ミサキは外のマキに答えると、「行こっ、梨川くん」と言って外に出ていく。

 少し呆けていた僕だったけど、その言葉に我に返って後に続く。

 胸は……。

 まだ強く脈打っていた。

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