あれから3日が過ぎた。
先輩は即死だったらしい。
詳細は教えてもらえなかったけど、世間では事故死ということになっていた。
事故。
普通に考えればそうなのかもしれない。
だけど、美人で成績も優秀だった先輩。
有名大学への推薦入学も決まってたとも聞いてる。
そんな人が授業中に屋上から転落なんてするわけがない。
本当は自殺なんじゃ……。
でも、気になるのは先輩の最期のときの視線。
私と目が合ったということ。
なんでこっちを見てたの?
あの落ちくぼんだ目は今でも脳裏に焼き付いていて、時々夢にまで見る。
そのせいか、最近少し耳鳴りを感じる……。
「アイナ、チヒロ~!」
隣のクラスの
この子は私の中学からの同級生。
人懐っこい彼女はチヒロともすぐに仲良くなって、休み時間になるとたまに私たちの所に遊びに来る。
今日はキャンディを口の中でコロコロさせてる。
結構な自由人だ。
「ねぇ、二人とも先輩のウワサ聞いた?」
「ウワサ? なにそれ?」
首を傾げる私。
モモコは私たちだけに聞こえる声で言う。
「先輩さ、呪われてたんだって」
「え、呪い?」
「うん。あの転落もそのせいだってさ」
「まさか~」
私とモモコの会話を、チヒロは黙って聞いている。
気のせいかな?
その顔が青ざめてるようにも見える。
「そうそう、3組に
「アユミ? 誰だっけ?」
「ほら、チヒロと同じ中学の子」
あ~……。
そういえば、チヒロがときどき廊下で話してるのを見たことがある。
「あの子、最近学校に来てないんだって」
「ふぅん、そうなんだ?」
「それでさ、私は思ったわけよ。もしかして、あの子が来ないのも呪いのせいなんじゃないかって」
自分の体を両腕で抱き締めるようにしてワザとらしく怖がるモモコ。
それまで黙っていたチヒロの口が、不意に小さく動いた。
「やめてよ……」
「んー? どうしたのさ、チヒロ。今日はノリが悪いよ? ……あ、さてはチヒロも呪われてるなー?」
「やめてって言ってるでしょ!!」
チヒロは叫んで椅子から立ち上がる。
その勢いに私たちは驚きを隠せなかった。
チヒロがこんな声を出すなんて、私の記憶にはない。
教室中の視線が私たちに集まっている。
「なんで、そんなムキになってるわけ? ただの冗談じゃん」
モモコの言葉にチヒロはうつむく。
手を握り締め、唇を噛む親友。
様子がおかしい。
「チヒロ、大丈夫?」
「……ごめんね、アイナ」
呟くようにそう言うと、彼女は教室を飛び出していった。
涙目だった。
私だけに謝ったチヒロ。
なんだろう、胸の中がモヤッとする。
息が詰まるような感じがして、私は彼女の背中を追いかけることができなかった。
その日、チヒロは教室に帰ってくることはなかった。
そして、学校にも来なくなった。