12月31日 08:25 上野駅15番線
[15番線ご注意くださぁーい。8時34分発のL特急あさま3号、長野行が到着しまぁーす。危険ですから、黄色い線の内側に下がってお待ちくださぁーい]
現在、俺と彩華は正月の帰省として軽井沢の別荘に向かっている。
え?京都の実家はどうしたって?
あぁ、あそこは今改装中だ。
だから、今回は軽井沢にある別荘に集まる事になった。
にしても、妙に伸ばす駅員だな。
ま、俺にはどうでもいい話だが。
[指定席は後ろ寄り1号車から5号車とー、6号車B室、A室はグリーン車ァ、自由席ィ前寄り7号車からァ~11号車となっておりまぁーす。あさま3号の乗車位置でお待ち願いまぁーす]
6号車A室…6号車A室…。
あ、これか?
"特別急行乗車位置案内"
"あさま3号 08:34 長野行"
"6号車 B室指定席・A室グリーン車"
どうやら乗る扉は同じらしい。
車内で別れるのか。
「紫風ちゃん」
「何だ?」
「この前の室蘭って、経費で落ちたの?」
「おう、落とした」
「ど、どうやって…?」
「お母さん使ったら一瞬だぞ」
「あ、そっか…昔っから逆らえないもんね~」
「な~」
列に並んで談笑していると列車が入って来た。
軽井沢まで約2時間の旅路。
2時間程度だから、飲み物を買うだけで良い。
飯は着いたらたらふく食えるからな。
列車は"キィィィィ"と音を上げて停車。
扉はすぐに開いた。
人の流れに身を任せながら車内へと入る。
「ほとんど指定席なんだな」
「やっぱり皆安く行きたいんだよ」
並んでいた人の8割は指定席のB室に入って行った。
グリーン車のA室に入るのは俺達と2人、合計4人だけ。
「2A2B…あ、ココか」
当然、彩華を窓側のA席に座らせて俺は通路側のB席に座った。
鞄を上の荷物棚に置いて、座る。
後ろの人はまだ居ないから、何も考えずリクライニングさせる事が出来た。
[ご乗車ありがとうございます。この列車は8時34分発、特別急行のあさま3号長野行です。8時51分発のあさま85号ではございません。お手持ちの特急券を再度お確かめ願います]
車掌の案内に従い切符を確認。
確かにあさま3号の2B2Cと書かれてる。
良かった乗る列車は間違っていなかった。
[また、本日多数のお客様にご利用頂いております。自由席ご利用のお客様、指定席のデッキも合わせてご利用下さい。また、指定席は本日満席でございます。指定席、本日満席でございます。指定席券の販売はありませんから、ご注意願います]
まぁ、年末年始だからな。
俺がこの列車を取った時も指定席は満席だった。
でもグリーン車はすっげー空いてた。
何でだろうなぁ…?
「今日、誰が来るのかな?」
「ん~…知らん。着いてからのお楽しみ」
「去年と同じだね~」
そうこうしていると、7号車の方から大量の人が流れて来た。
指定席のデッキに向かう自由席客の群れだな。
自由席の様子はチラっとしか見て無いが、かなりの客が並んでいた。
…全部指定席にすりゃいいのに。
[お待たせを致しました。長野行特別急行、あさま3号、発車を致します。扉付近お立ちのお客様、扉にご注意ください。扉を閉めます]
1分のラグの後、列車は動き出した。
まだまだホームには人が溜まっている。
殆どの人は大きい荷物を抱えていた。
後続の特急を待っているのだろう。
[本日も、日本国有鉄道をご利用下さいましてありがとうございます。この列車は、特急あさま3号、長野行です。途中、大宮、高崎、横川、軽井沢、小諸、上田、戸倉に停車致します―――]
降りるのは4駅目。
駅からはタクシーかバスを使う。
レンタカーもあるが、酒飲みたいから今回は使わない。
「紫風ちゃん」
「何だ~?」
「別荘って、前いつ行ったっけ?」
「ん~…高校の時以来じゃないか?」
「そっか~高校か~」
俺の記憶の中にある内、一番新しい別荘に関する記憶は高校生の時。
何年生の時かは覚えていない。
だが高校生であった事は覚えている。
10:29 軽井沢駅 1,2番線
定刻通り列車は軽井沢駅に到着。
ふと、列車の後ろの方を見てみると、機関車が2両繋がっていた。
「すげー、ゴツいのが2つも繋がってやがる」
あれが後ろから押して来たのか。
あ、離れてく。
切り離しを見終えたら、人の集団を追って階段を上がる。
改札を出て、バス停へ向かう。
バス停には多数の人々が並んでいた。
取りあえず時刻表を確認する。
「次のバスは…1150!?」
「すっごい少ないね」
「あ、あぁ…そうだな」
別荘の最寄りまで行くバスは1150まで無いらしい。
もっと手前までしか行かない奴なら沢山あるんだけどなぁ…。
あー、待ちたくねぇしなぁ~……タクシー使うかぁ。
バス乗り場の後方にあるタクシー乗り場へ向かう。
タクシーは4台停車していた。
先頭の1台に乗り込む。
さて……どう伝えようか。
ウチの別荘はかなり奥まった所にある。
…あ、スマホ。
「お客さん、何処まで?」
「えーと……」
スマホで地図アプリを開き、別荘を探す。
あったあった、ココだ。
ピンを刺して、画面を運転手に見せる。
「…はい、分かりました~」
扉が閉まるとタクシーが走り出す。
多数のバスを横目にロータリーを出る。
線路と並行している18号線を西へ西へと進む。
「誰かもう来てるのかな?」
「さぁな。ま、夜には来るだろ」
さてさて、誰が1番乗りかな~。
あ、別荘の鍵!
俺持ってねーじゃん!
「……鍵……持ってる…?」
「持ってると思う?」
「だよなぁ~……」
まぁ……最悪ドアぶち破ればいいか。
それか親父を霞ヶ関から呼びつけるか。
ま、どうにでもなるだろ。
11:03 別荘前
「ありがとうございました~、5400円でーす」
いつも通りカードで決済を済ませた。
決済を済ませたら、タクシーから降車する。
「さて…開いてるかなぁ?」
周りは鬱蒼とした森林。
マイナスイオン摂取し放題。
取りあえずインターホンを押してみる。
誰か出たら良いんだけども。
〈はーい?〉
あ、お母さんだ。
良かった良かった。
これでドアを壊さずに済む。
「あ、お母さん!」
〈あ、橘花ね〉
「おう」
〈鍵開けるから入っておいで〉
「はーい」
ドアから"ガチャッ"と言う音する。
鍵が開いた様だ。
「入ろうか」
「うん!」
ドアを開けると、高校の時に見た時と同じ景色が広がっていた。
靴を脱いで、スリッパを履いて上がる。
取りあえず廊下を進んでリビングへ。
リビングではお母さんがソファーでゴロゴロしていた。
「久しぶり~」
「あぁ、久しぶり」
「久しぶり~!」
「他の奴は?」
「まだ来てない。2人が二番手」
ほーん。
皆、午後に来るのか。
「早く荷物、2階に置いてきなよ」
「あぁ、分かった」
再度廊下を通り、階段を上がり2階へ。
一番いいベランダ付きの部屋にしよう。
部屋は毎年早い者勝ち。
でも、皆部屋に執着してないから遅めに来る。
ま、言うて俺も部屋とかどうでもいいんだけどな。
「お~ダブルベッド!」
そうだそうだ、この部屋はダブルベッドだった。
枕は東向き。
ベランダは北方向、部屋の横幅一杯。
窓を開けずとも自然を味わえる。
「窓広いねっ」
「広すぎて逆に困るよな」
鞄を机の上に置いて、ベッドに飛び込む。
ベッドは当然フカフカ!
あ"~最高。
「紫風~ちゃんっ!」
「うおっ!?」
ベッドで軽くゴロゴロしていると彩華が飛び込んできた。
彩華は俺をガッチリ掴んで、自分の顔を胸に押し当てて来た。
彩華の良い匂いが漂って来る。
「彩華~」
「ん~?」
「好き~」
「えへへ、私も~」
抱き着いて来た彩華の頭を優しく撫でる。
サラサラした髪の手触りが心地よい。
めっちゃ幸せ。
「ねぇねぇ紫風ちゃん」
「ん~?」
「2030年も終わりなんだね」
「あぁ、終わるな」
明日からは2031年。
新しい年を迎える。
「何だか濃かったね」
「そりゃ戦争があったからな」
戦争があって薄い1年はありえない。
それで薄い1年は年中内戦が起きてる所だろう。
「来年はどんな年になるかな?」
「ん~…俺らの仕事が少ない年になったら良いな」
「…うん!そうだね!」