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第三十捌話 別荘 in 軽井沢

 12月31日 08:25 上野駅15番線


[15番線ご注意くださぁーい。8時34分発のL特急あさま3号、長野行が到着しまぁーす。危険ですから、黄色い線の内側に下がってお待ちくださぁーい]


 現在、俺と彩華は正月の帰省として軽井沢の別荘に向かっている。

 え?京都の実家はどうしたって?

 あぁ、あそこは今改装中だ。

 だから、今回は軽井沢にある別荘に集まる事になった。


 にしても、妙に伸ばす駅員だな。

 ま、俺にはどうでもいい話だが。


[指定席は後ろ寄り1号車から5号車とー、6号車B室、A室はグリーン車ァ、自由席ィ前寄り7号車からァ~11号車となっておりまぁーす。あさま3号の乗車位置でお待ち願いまぁーす]


 6号車A室…6号車A室…。

 あ、これか?


 "特別急行乗車位置案内"

 "あさま3号 08:34 長野行"

 "6号車 B室指定席・A室グリーン車"


 どうやら乗る扉は同じらしい。

 車内で別れるのか。


「紫風ちゃん」


「何だ?」


「この前の室蘭って、経費で落ちたの?」


「おう、落とした」


「ど、どうやって…?」


「お母さん使ったら一瞬だぞ」


「あ、そっか…昔っから逆らえないもんね~」


「な~」


 列に並んで談笑していると列車が入って来た。

 軽井沢まで約2時間の旅路。

 2時間程度だから、飲み物を買うだけで良い。

 飯は着いたらたらふく食えるからな。


 列車は"キィィィィ"と音を上げて停車。

 扉はすぐに開いた。

 人の流れに身を任せながら車内へと入る。


「ほとんど指定席なんだな」


「やっぱり皆安く行きたいんだよ」


 並んでいた人の8割は指定席のB室に入って行った。

 グリーン車のA室に入るのは俺達と2人、合計4人だけ。


「2A2B…あ、ココか」


 当然、彩華を窓側のA席に座らせて俺は通路側のB席に座った。

 鞄を上の荷物棚に置いて、座る。

 後ろの人はまだ居ないから、何も考えずリクライニングさせる事が出来た。


[ご乗車ありがとうございます。この列車は8時34分発、特別急行のあさま3号長野行です。8時51分発のあさま85号ではございません。お手持ちの特急券を再度お確かめ願います]


 車掌の案内に従い切符を確認。

 確かにあさま3号の2B2Cと書かれてる。

 良かった乗る列車は間違っていなかった。


[また、本日多数のお客様にご利用頂いております。自由席ご利用のお客様、指定席のデッキも合わせてご利用下さい。また、指定席は本日満席でございます。指定席、本日満席でございます。指定席券の販売はありませんから、ご注意願います]


 まぁ、年末年始だからな。

 俺がこの列車を取った時も指定席は満席だった。

 でもグリーン車はすっげー空いてた。

 何でだろうなぁ…?


「今日、誰が来るのかな?」


「ん~…知らん。着いてからのお楽しみ」


「去年と同じだね~」


 そうこうしていると、7号車の方から大量の人が流れて来た。

 指定席のデッキに向かう自由席客の群れだな。

 自由席の様子はチラっとしか見て無いが、かなりの客が並んでいた。

 …全部指定席にすりゃいいのに。


[お待たせを致しました。長野行特別急行、あさま3号、発車を致します。扉付近お立ちのお客様、扉にご注意ください。扉を閉めます]


 1分のラグの後、列車は動き出した。

 まだまだホームには人が溜まっている。

 殆どの人は大きい荷物を抱えていた。

 後続の特急を待っているのだろう。


[本日も、日本国有鉄道をご利用下さいましてありがとうございます。この列車は、特急あさま3号、長野行です。途中、大宮、高崎、横川、軽井沢、小諸、上田、戸倉に停車致します―――]


 降りるのは4駅目。

 駅からはタクシーかバスを使う。

 レンタカーもあるが、酒飲みたいから今回は使わない。


「紫風ちゃん」


「何だ~?」


「別荘って、前いつ行ったっけ?」


「ん~…高校の時以来じゃないか?」


「そっか~高校か~」


 俺の記憶の中にある内、一番新しい別荘に関する記憶は高校生の時。

 何年生の時かは覚えていない。

 だが高校生であった事は覚えている。




 10:29 軽井沢駅 1,2番線

 定刻通り列車は軽井沢駅に到着。

 ふと、列車の後ろの方を見てみると、機関車が2両繋がっていた。


「すげー、ゴツいのが2つも繋がってやがる」


 あれが後ろから押して来たのか。

 あ、離れてく。


 切り離しを見終えたら、人の集団を追って階段を上がる。

 改札を出て、バス停へ向かう。


 バス停には多数の人々が並んでいた。

 取りあえず時刻表を確認する。


「次のバスは…1150!?」


「すっごい少ないね」


「あ、あぁ…そうだな」


 別荘の最寄りまで行くバスは1150まで無いらしい。

 もっと手前までしか行かない奴なら沢山あるんだけどなぁ…。

 あー、待ちたくねぇしなぁ~……タクシー使うかぁ。


 バス乗り場の後方にあるタクシー乗り場へ向かう。

 タクシーは4台停車していた。

 先頭の1台に乗り込む。


 さて……どう伝えようか。

 ウチの別荘はかなり奥まった所にある。

 …あ、スマホ。


「お客さん、何処まで?」


「えーと……」


 スマホで地図アプリを開き、別荘を探す。

 あったあった、ココだ。

 ピンを刺して、画面を運転手に見せる。


「…はい、分かりました~」


 扉が閉まるとタクシーが走り出す。

 多数のバスを横目にロータリーを出る。

 線路と並行している18号線を西へ西へと進む。


「誰かもう来てるのかな?」


「さぁな。ま、夜には来るだろ」


 さてさて、誰が1番乗りかな~。

 あ、別荘の鍵!

 俺持ってねーじゃん!


「……鍵……持ってる…?」


「持ってると思う?」


「だよなぁ~……」


 まぁ……最悪ドアぶち破ればいいか。

 それか親父を霞ヶ関から呼びつけるか。

 ま、どうにでもなるだろ。



 11:03 別荘前


「ありがとうございました~、5400円でーす」


 いつも通りカードで決済を済ませた。

 決済を済ませたら、タクシーから降車する。


「さて…開いてるかなぁ?」


 周りは鬱蒼とした森林。

 マイナスイオン摂取し放題。


 取りあえずインターホンを押してみる。

 誰か出たら良いんだけども。


〈はーい?〉


 あ、お母さんだ。

 良かった良かった。

 これでドアを壊さずに済む。


「あ、お母さん!」


〈あ、橘花ね〉


「おう」


〈鍵開けるから入っておいで〉


「はーい」


 ドアから"ガチャッ"と言う音する。

 鍵が開いた様だ。


「入ろうか」


「うん!」


 ドアを開けると、高校の時に見た時と同じ景色が広がっていた。

 靴を脱いで、スリッパを履いて上がる。


 取りあえず廊下を進んでリビングへ。

 リビングではお母さんがソファーでゴロゴロしていた。


「久しぶり~」


「あぁ、久しぶり」


「久しぶり~!」


「他の奴は?」


「まだ来てない。2人が二番手」


 ほーん。

 皆、午後に来るのか。


「早く荷物、2階に置いてきなよ」


「あぁ、分かった」


 再度廊下を通り、階段を上がり2階へ。

 一番いいベランダ付きの部屋にしよう。

 部屋は毎年早い者勝ち。

 でも、皆部屋に執着してないから遅めに来る。

 ま、言うて俺も部屋とかどうでもいいんだけどな。


「お~ダブルベッド!」


 そうだそうだ、この部屋はダブルベッドだった。

 枕は東向き。

 ベランダは北方向、部屋の横幅一杯。

 窓を開けずとも自然を味わえる。


「窓広いねっ」


「広すぎて逆に困るよな」


 鞄を机の上に置いて、ベッドに飛び込む。

 ベッドは当然フカフカ!

 あ"~最高。


「紫風~ちゃんっ!」


「うおっ!?」


 ベッドで軽くゴロゴロしていると彩華が飛び込んできた。

 彩華は俺をガッチリ掴んで、自分の顔を胸に押し当てて来た。

 彩華の良い匂いが漂って来る。


「彩華~」


「ん~?」


「好き~」


「えへへ、私も~」


 抱き着いて来た彩華の頭を優しく撫でる。

 サラサラした髪の手触りが心地よい。

 めっちゃ幸せ。


「ねぇねぇ紫風ちゃん」


「ん~?」


「2030年も終わりなんだね」


「あぁ、終わるな」


 明日からは2031年。

 新しい年を迎える。


「何だか濃かったね」


「そりゃ戦争があったからな」


 戦争があって薄い1年はありえない。

 それで薄い1年は年中内戦が起きてる所だろう。


「来年はどんな年になるかな?」


「ん~…俺らの仕事が少ない年になったら良いな」


「…うん!そうだね!」

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