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第参拾伍話 こんな日に(前編)

 12月24日 07:54 横須賀駅 2,3番線

 今日はクリスマス・イブ。

 だから、彩華とデート……と言う訳では無い。

 何ならプライベートではない。


 これから私と彩華は海軍室蘭学校に向かう。

 室蘭学校は私と彩華の母校だ。

 今回、派遣された理由は講演会だ。

 まぁ…聞き手は1人しか居ないんだけどね?


「はぁ~…行くのは良いんだけどさぁ…」


「こんな大雪じゃね~…」


 現在、関東から北海道南部にかけて雪が降っている。

 しかも、ただの雪ではない超大雪。

 飛行機は飛ばないし、電車も遅れてる。

 こんな中でも上は"行け"と言う。


 流石の室蘭卒でも厳しいよ?

 ってか室蘭卒関係ないよね?


 因みに、任務だから当然軍服。

 ズボンじゃなくてスカートの方。

 まぁ、冬のスカートは慣れてるから問題無い。


 ホーム上は人で溢れかえっていた。

 列車が遅れているお陰で、ホーム上に人が溜まっている。


[間もなく、3番線に総武本線直通、快速千葉行が参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください]


[大変お待たせを致しました、間もなく3番線に遅れております、5時17分発の快速千葉行が入って参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまで下がってお待ちください。3番線列車が入って参ります]


 警笛を鳴らしながら青色の列車がいつもより早い速度で入って来る。

 列車の屋根や前面には雪が積もっていた。


[ご乗車ありがとうございましたー、横須賀、横須賀でーす]


 車内は意外にも空いており、グリーン車も空きがある。

 私達はここぞとばかりにグリーン車に乗り込み、何とか座席を確保した。


「座れて良かったね~彩華」


「うん!良かった」


 前や後ろから次々人が入って来る。

 この調子じゃ、すぐに埋まりそうだ。


 ふと、外を眺めてみると、案外残っている人は少なかった。

 この列車のキャパの大きさが伺える。

 しかし、改札口からどんどん人が流れてきた。

 あぁ、また溜まるんだ。


[扉を閉めます。手荷物をお引き下さい!]


 車掌さんの声が一段と強い。

 こんな日だ、当然だ。


「ねぇ、紫雲ちゃん」


「ん?」


「飛行機、飛ばなくなっちゃったね…」


「でも、新幹線は動いてる」


 飛行機は飛ばない。

 だが、新幹線はまだ動いている。

 動いてる内に、北へ進まなければ。


「新幹線、取れるかな…」



 09:43 東京駅 地下3番線


[東京、東京です。ご乗車ありがとうございました]


 東京駅に到着した。

 予約サイトはアクセス出来なかったから、券売機で買わないと。


 人の流れに身を任せ、彩華とはぐれない様に、抱き寄せながら上へ上へと上がる。

 エスカレータを何回か乗り継ぎ、混乱する東京駅を東北新幹線改札口へ向けて進む。


「あ、あれかな」


 "東北新幹線南乗り換え口"


 あ、あれだ。

 窓口にも、券売機にも長蛇の列が出来ていた。

 駅員さんが列の整理を絶えずやっている。


「取りあえず、並ぼっか」


「うん」


 券売機の方に並ぶ。

 いつも混んでいる券売機。

 今日は更に混んでいる。



 11:45

 2時間が経過した。

 券売機まであと少し、後2人。


「お腹空いた…」


「うん、私も…」


 お腹が空いた。

 何か食べたい。

 しかし、この列を抜け出せる状況ではない。

 抜けたら更に2時間、いや3,4時間は待つかも…。

 空腹を我慢しながら、自分の番を待つ。


「あ、行ったよ!」


 前の2人が同時に券売機に行った。

 次は私達の番だ。


「ご飯…ご飯…」


「何食べよっか…?」


「…回転寿司!」


「か、回転寿司?」


 回転寿司。

 ほんのり記憶がある。

 何か、お寿司が…ベルトコンベアの上に載ってて…そこから、取る。


「あれ、回転寿司行った事無かったっけ」


「うん、無い」


「そっか」


「ちょっと気になってる」


「行こうよ、折角だし」


「そうね…近くにお店があるかしら」


 マップで近くの店舗を調べる。

 すると、東京駅の中に店舗があった。

 しかも改札内。

 こりゃ丁度いい。


「…ココ、行こっか」


「うん!」


 大間水産、東京駅店。

 楽しみだな。


「あ、開いたよ」


「やっとだ」


 やっと券売機が開いた。

 右から2つ目の券売機だ。


「さて…空いてる列車は―と…」


 とにかく早い列車。

 座席は指定席以上なら何でもいい。

 いや、最悪自由席でもいい。


「1428発…はやぶさ29号…」


「14時…!?」


「ぜーんぶ埋まっちゃってるよ」


 はやぶさ29号も空いてるのはグランクラスだけ。

 いや、グランクラスだけでも空いているのは奇跡か。


 すかさず座席を確保する。

 10号車2C2Bの2席。


「よーっし、これでOK」


「紫雲ちゃん、最近ブラックカードばっか使ってるね」


「他のカード解約しちゃった」


「最初っからブラックカード1枚だけで良い気もするけど…?」


「何か、解約するの面倒でそのまま持ってたんだよ」


 適当に使い分けていたのだ。

 新潟の時は普通のカードを使っていた。


「良し、切符確保」


 切符を確保して、券売機から離れる。

 さっき見つけた回転寿司へと向かう。


 お店は丁度後方にあるレストラン街の中にある。

 混んでるだろうなぁ…お店。


 お店の前には券売機では無い物の、列が出来ていた。

 まぁ、列車は14時発だから、並んでも多分問題無い。


 名前を書いて列に並ぶ。

 待っているのは5人。

 券売機とはえらい違い。



 12:16 大間水産東京駅店


「案外すぐ入れたね~」


 案外すぐに入れた。

 私達はテーブル席に案内された。


「良かった良かった」


 列車は約2時間後。

 まぁ、新幹線も遅延しているから、時間通りにはいかないだろう。


「回ってる…」


 レーン上をお寿司を回っている。

 右から、左に、様々なお寿司が色々なお皿に載せられて回っている。


 回っているレーンの上に、謎のレール…?の様な物がある。

 これは何だろう。

 ――と、その瞬間、上のレーン上を高速でお寿司が駆け抜けていった。


「な、何…コレ…」


「あ、ソレはね」


 彩華がテーブルの上に設置されていたタッチパネルを私に渡して来た。


「このタッチパネルで頼んだら、上のレーンから運ばれてくるんだよ」


「へぇ~、わざわざ回って来るのを待たなくて良いんだね」


 こりゃ便利。

 ……あれ、回転レーンの存在意義が疑わしくなって来た。


「あ、ビントロ~」


 彩華がレーンの上からビントロを取った。

 1皿2貫が基本で、たまに1貫の皿が流れてくる。

 何を食べようか?


「あれ、紫雲ちゃん食べないの?」


「悩んでるだけ。いっぱいあるもんだから、何食べたらいいか分かんなくって」


「そっか~」


 ビントロを頬張りながら答える彩華。

 めっちゃ可愛い。


「ん~…」


 取りあえず、適当に流れて来た〆鯖を取ってみる。

 醤油皿…あれ、醤油皿は?


「醤油皿…」


「無いよ」


「無いの!?」


「普通のお皿を代わりにするか、直接垂らす」


「そ、そっか」


 〆鯖に直接醤油を垂ら……垂れない!?

 何だこの醤油差しは!?


「あ、それは上の膨らんでる所押すんだよ」


「え?うん」


 彩華に言われた通り、膨らんでいる部分を押しながら傾ける。

 すると、醤油が垂れて来た。


「成程」


 ある程度垂らしたら、お箸で掴んで食べる。

 うん、美味しい。


 彩華は回転レーンから次々お寿司を取って食べる。

 どうしよっかな…マグロが流れてこない…あ、タッチパネル。


「マグロマグロ…」


 めばちマグロに漬けマグロ、赤身もある。

 取りあえず、この本マグロ三味にしよっかな。


 タッチパネルを操作して注文する。

 取りあえず1皿。


「美味しい~」


 私がタッチパネルで朱蒙している間にも彩華は回転レーンからお寿司を取って食べる。

 笑顔で食べ続ける彩華、思わず注文する手を止めてしまう程に可愛い。


「…ん?どしたの?」


「可愛い」


「…えへへ」


 顔を赤らめる彩華。

 可愛い以外に感情が湧き出てこない。

 幸せだなぁ、私って。

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