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第参拾肆話 食事

 12月8日 18:50 横須賀鎮守府 楠ヶ浦住宅地 七条宅 リビング


「じゃ、買って来るから何かくつろいで待っててよ」


「「「「「分かりました」」」」」


「行こ、彩華」


「うん!」


 6日に渡る模型の組み立て作業の報酬として、橘花が料理を振舞う事となった。

 この作業に従事した10名らはそれを待っている。


「…なぁ、お前ら」


「「「「何だ?」」」」


 この6日間の地獄の様な労働を耐え抜いた10名は最早階級を気にしない仲にまで成長していた。

 少将だろうが二等兵だろうが、皆対等になったのだ。


「…やっぱ、良い匂いするよな、この家」


「「「「おん」」」」


「家も広いしなぁ…」


「十和田さんだって一軒家じゃないか」


「狭いし、平屋だし」


 十和田少将の家も一軒家である。

 しかし、この家の様に2階建てではなく、簡素な平屋であった。


「俺ら団地住みだぜ?一軒家に住んで文句か、羨ましいねぇ」


 宮野上等兵が文句をつける。

 一軒家は兵卒からしてみれば夢のまた夢だ。


「こっちにはこっちの悩みがあるの!羨ましかったら将官になるんだな」


「クソが…」


「まぁまぁ2人共落ち着け…な?」


「「うっす」」


 興津上等兵曹が2人を諫める。

 他の人々はテレビをぼーっと眺めていた。


「にしてもよ」


 テレビを見ていた月本二等兵曹が口を開いた。

 皆、彼の発言に注目する。


「横須賀の女って、全員イイ身体してるよなぁ…?」


「「「「あぁ…そうだな」」」」


「第一艦隊の宵月姉妹、ウチの司令と副官に―――」


「後は、一機の不知火大佐だとか、陸上勤務の磯波中佐とか…」


「「「あー、居る居る」」」


「宵月姉妹見た時、司令と少将を思い出したわ」


「あー、あるある」「俺も思った」「何か親近感湧いた」


 突然、十和田少将が何か思いついた様な顔をする。

 そして、その顔は徐々に悪人顔へと変って行った。


「十和田さん…?」


「皆、司令と少将の部屋、見たくないか」


「「「「!!!!」」」」」


 その時、彼らに衝撃が走る。

 "その手があったか"と…。


「し、しかし…プライベートと言う物が…」


 興津上等兵曹が止めようとする。

 しかし、彼以外に十和田少将の暴挙を止める者は居なかった。


「…行くか」


「「「おう!」」」


「えぇ…」


 9vs1、勝てるはずも無く、彼の意見は封殺された。

 10人の男はゾロゾロと2階へ上がって行ったのだ…。


「えーっと…部屋が…4つある」


 初めて上がる他人の家、それも案内人無し。

 迷うのも当然である。

 しかも、目指すのは他人のプライベートの権化である"自室"。

 その上、相手は上官だ。

 彼らは6日間の"刑務作業"のお陰でおかしくなってしまったのだ。


「さーて、どの部屋から見てく?」


 十和田少将の目は血走ってはいない物の、その目の中には確かに"狂気"が存在した。

 残りの9名は十和田少将の暴挙を止める事は出来ず、ただついていくのみ…。


「え、あ、あぁ…端からで、良いと思いますよ?」


「おーし!分かったじゃ!右端から見てこうか!」


 階段を上がって右に曲がり、端っこの部屋に入る。

 十和田少将を先頭に、ゾロゾロと男共が部屋に入って行く。


「ここは…あ、ダブルベッド、寝室か?」


「寝室にしては物が少ない様な…」


「ん…?」


 上川二等兵曹が何かを見つけた様だ。

 ソレは所謂、"玩具"と呼ばれる物であった。


「あっ…」


「どうした上かw―――あっ…」


 皆察した。

 "そう言う部屋"なのだと。

 それに気づいた彼らはそそくさと退散、別の部屋の探索に赴くのであった。


「次の部屋は~」


 右端の扉とは反対側の扉。

 その部屋は彩華の部屋であった。


「これは…高山少将の部屋?」


「多分そうだろうな、司令の写真が沢山ある」


「「「「確定」」」」


 部屋のあちらこちらに橘花の写真が貼ってあった。

 小さい頃から今に至るまで…中には盗撮と思われる写真も貼られている。


「そんな気はしてたけどやっぱりそうか…」


 興津上等兵曹がそう言い放つ。

 それに続くように、皆首を上下に振る。


「女の子の部屋って感じするなぁ…」


「そりゃ、女なんだからするだろ」


「あそっか…」


 あらかた見回った彼らは次の部屋へと歩を進める。

 次の部屋は橘花の部屋であった。


「ここは…」


「司令の部屋だな」


「司令はいたって普通だな」


「所々に模型が置いてある以外は」


 月本二等兵曹がガチガチのPCに気づく。

 モニター6枚、スピーカー4台。

 そして無数のUSBポート。


「す、すげぇ…なぁ…」


「こりゃガチ勢だ…何やってんだろ…?」


「本体は光らなさそうだ」


 全員がPCに注目する中、興津上等兵曹が口を開いた。


「なぁ」


「「「「何だ??」」」」


「典型的なヤンデレが相手にしそうな事って何だろうな」


「そりゃ、盗撮だろ?後、盗聴器だとか隠しカメr……カメラ!?」


 十和田少将が途端に焦り出す。

 因みに、彼らの予想は的中しており、この部屋にも、彩華の部屋にも隠しカメラが存在する。


「「やべぇよやべぇよ」」「俺ら終わりだよ」「でも司令ならワンチャン…」

「「「ワンチャン無ぇって!!」」」


「落ち着けぇ!」


 十和田少将が慌てふためく部下達を制止した。

 尚、一番慌てているのは彼である。


「カメラは、今は、疑惑に、過ぎない!」


「「「「は、はぁ…」」」」


「た、多分、そんな…ね、ウン、無いと…思うよ?うん、多b―――」


「あ、あった」


 興津上等兵曹が隠しカメラを発見した。

 十和田少将の顔がどんどん青ざめていく。


「…………うわぁぁぁぁぁ!」


「「「「十和田さぁぁぁん!?」」」」


 十和田少将は重度の混乱に陥った。

 そんな彼が下した決断は"リビングに戻る"。

 今の探索が記録されていない事を願い、バレるまで知らない振りを貫く事とした。

 部下達もそれに同意したのだった……。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~




 19:38 七条宅 キッチン

 この家は何故か知らないがキッチンとダイニングが分離している。

 何ならレストランみたいな設備だ。

 まぁ、実家と同じだから安心感はある。


「重かった~!」


「12人分だからね、重いに決まってる」


 急いで近所のスーパーで12人分の食材を購入して来た。

 今回作る料理はビーフステーキ、ビフテキ。

 だいぶ前に買った鉄板が有効活用される時が来た。


「よーし、焼くぞー!」


 フライパンに油を引き、コンロで熱する。

 良い感じに温まったら肉を投下。


「良い音」


 肉は"ジュ~"と食欲がそそられる音を立てる。

 あ、待って、肉の焼き加減聞いて無かった。


「彩華、肉の焼き加減聞いて来て」


「はーい!」


 取りあえずこれは私の肉にしよう。

 私はミディアム。

 彩華はミディアムレア。


「鉄板~…ヨーシ」


 良い感じに鉄板が温まった。

 後は肉を載せるだけ。


「OK」


 温めた鉄板の上に肉を載せる。

 後これを11回やればいい。


「聞いて来たよ~」


「はいはーい」


「レア1人、ミディアムレア2人、ウェル1人、それ以外は何でも良いって」


「了解!」


 何でもいいって言う人間が居たんだ。

 まぁ、その人達にはミディアムを提供しよう。


 そう言えば付け合わせを忘れていた。

 このままだと肉と米だけを提供することになってしまう。


「彩華~」


「OK~」


 これで付け合わせは問題無し。

 彩華が作ってくれる。


「後…11枚か」


 まさか11枚もステーキ肉を焼くことになるとは思っても見なかった。

 こういうのは実家からシェフを呼ぶ物と思っていた。

 今回は要求されているのが"私の手料理"であるから、私が作らなければならない。


「鉄板があるから保温は…何とかなるかな?」



 20:26 ダイニング


「流石に12分はキツいね」


「お疲れ様です、司令」


 何とか全員分完成した。

 艦での慣習通り、私が食べ始めるまで食べ始めない。

 きっちりしてるなぁ。


「…!美味い…美味いよ…」


 そんなに美味しいのか。

 別に、そんなに美味しいとは思わないけれど。


「それは良かった」


 付け合わせは簡単な物。

 人参とコーン。

 シンプル イズ ベスト。


「…片付け、大変だね?」


「…うん…そうだね…」


 あぁ、片付けが大変だ。

 まぁ、1人じゃないだけマシか。



 21:31 キッチン


「いやー、ありがとうね、手伝ってくれて」


「いえいえ、ご馳走させたんですから」


「これ、一応あの作業の報酬何だけどなぁ」


「私達が要求してるのはご飯を食べるまでですからね」


 皆、手伝ってくれた。

 12人で皿洗い。

 これですぐ終わる。


 キッチンが広くて良かった。

 12人入っても余裕だ。

 シンクは2つあるし。


「ってか、こんなので良かったの?」


「いえいえ、司令の手料理を食べる機会なんて、滅多にありませんから!」


 興津上等兵曹が元気よく答える。

 興津君はムードメーカーの1人。

 因みに、品川先任とかなり仲が良い。

 仲が良い理由は私には分からない。


「良し、これで最後っ」


 最後のお皿を収納して終わり。

 食器乾燥機って便利だな~。


「皆ありがとね~」


「「「いえいえ」」」


 この家に10人も人を呼ぶ。

 正直10人もキャパがあるなんて思っていなかった。


「では、我々はこれで失礼しますね」


「うん、ありがとね~」


 10人は荷物をまとめてそそくさと家を出ていく。

 何か、逃げる様に出て行ったな。

 ま、良っか!


 ……その後、私は彩華の部屋に仕掛けた隠しカメラの映像から、十和田少将らが逃げる様に出て行った理由を察する事となった……。

 入ったなら入ったって言ってよ…。

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