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第参拾参話 大人買いの極み

 12月2日 06:32 秋葉原 参議模型店

 今日はお休み。

 休みであるから、行きつけの参議模型店に模型を買いに来た。


 今日買うのは帝国海軍の艦載機。

 それも1機ではなく数百機。

 この店の在庫が尽きるまで買う。

 と言っても、事前に電話で注文したのだが。


「おっ、いらっしゃい!」


 この店の店主をしている参議 圀彦さんぎ くにひこさん。

 私が東京の海軍大学校に入学してから世話になっている。


「買いに来たよ」


「待ってたよ~、やっと倉庫に空きが出来る~」


「ごめんね、こんなヤバい注文して」


「良いよ良いよ、絶対受け取ってくれるもん」


「そりゃそうよ。あんな大量注文キャンセルなんて出来ないよ」


「キャンセルしたらどうしよかと思ってたよ~。じゃ、持って来るから待っててね」


「はーい」


 今回は九七艦攻以降の艦載機、各型式を200機づつ買った。

 零戦、烈風、九九艦爆、彗星、九七艦攻、天山、流星、九七艦偵、彩雲の9機種。

 取りあえず各機種、全ての型式を購入した。


「いやー、運ぶのは当然大変だったけどさ、あれよ?買うのも大変だったよ」


「だろうね、1/144スケールなんて流通量少ないし」


「橘花ちゃんじゃなかったら断ってたよ」


 今回は受注生産。

 受注先は曙模型製作所。

 有名な模型メーカーだ。

 …ココもお父様の友人が経営している。

 だから、お父様経由で作ってくれとお願いした。

 コネって素晴らしいね。


「ありがとうね、参議さん」


「いいよいいよ、わざわざウチを経由して買ってくれるなんてね…曙から直接買えばいいのに」


「いやいや、いつもお世話になってるんだから、これ位はね」


 購入した機数は合計8400機!

 今回は相場約1000円の所を500円に統一してくれた。

 お陰で手数料合わせて520万円で済んだ。

 感謝しかない、これからも沢山買おう。


「あ、どうやって持って帰るの?郵送じゃなくて良かった?」


「大丈夫、職権乱用したから」


「サラッとヤバい事言わないでくれる?」


「嘘嘘!普通に頼んだの」


「だよね~!」


 模型店前の道路が大通りで良かった。

 トラックを目の前で待機させる事が出来る。

 運転手は彩華。

 彩華は第二種大型自動車免許を持っているから、運転を頼める。


「紫雲ちゃーん!」


「あ、今から持って来るよ」


「OK~」


 零戦の箱を沢山積んだ台車がやって来る。

 後これを何回続ければ良いのやら。


「あっ、彩華ちゃん大型免許持ってたんだ!」


「うん!持ってる!」


 可愛い。

 今回動員したトラックは貰い物。

 お父様から鎮守府前にある車庫と一緒に貰った。

 何でお父様が10tトラックを持ってるのかは分からないけど…。


「僕、裏からここまで持って来るから2人でトラックに入れといて」


「「はーい」」


 私がトラックに積み込み、彩華が店の中から台車を転がす。

 自然と身体がそう動く。

 そして、約2時間が経過した―――。



 08:57 国道452号線


「「終わったー!!」」


「お疲れさん」


 10tトラックは少し過剰すぎたかもしれない。

 けど、折角貰ったんだから使うしかないよね。


「あ、決済」


「あ!俺も忘れる所だったわ」


 そうだ、決済をまだしていない。

 参議さんにお金を払わないと。


 店の中に入り、ブラックカードを決済機に入れた。

 100万単位の買い物にはブラックカードは重宝する。


「はい、ありがとね!また頼むよ」


「うん、またお世話になるよ」


「はい、じゃーねー!」


 参議さんは笑顔で店の裏に消えて行った。

 私は店を出て、トラックの助手席に乗り込む。


「シートベルト付けて」


「OK」


 シートベルトを着用した事を確認すると、彩華はエンジンを起動してトラックを走らせる。

 彩華が大型免許取ってたのは知ってたけれど、こうして運転している所を見るのは初めてだ。


「何か音楽掛けてよ」


「うん、つけるね」


 カーナビを操作して音楽を付ける。

 さて、何が流れてくるのやら。


「「………」」


 まず1番に流れて来たのは軍艦行進曲。

 今は気に食わないので次の曲にする。

 海ゆかばだった。

 日本海海戦、君が代、戦艦大和の歌、月月火水木金金。

 …何だこの車は?


「良し、ラジオ聞こっか」


「うん、ラジオ聞こう」


 音楽を止めてラジオをつける。

 定番のNHKから聞いてみる。


〈――9時のNHKのニュースをお伝えします〉


 ん?秋葉原駅の方が騒がしい。

 機動隊に消防車…あら、煙。


〈秋葉原駅で火災が発生しました。原因はまだ判明していません〉


 成程、火事があったのか。

 最近は色々物騒だね。


「この前のさ、襲撃あったじゃん?」


「うん、あったね」


「あれで捕らえた捕虜、何も話さないんだって」


「へぇ~そうなんだ」


「多分、あの調子じゃ裁判行っても死刑か無期懲役かな」


「送り返そうにも国が分かんないからね~」


 そもそも送り返す事自体違う様な気がするけれども…まぁ、どうでもいいや。

 私が気にすべきなのは艦隊の様子だ。


「まぁ、情状酌量なんて一切無さそうだけど」


「あ、艦達はどうなったの?」


「えーっとね、結構損傷してたね…横須賀工廠は大忙しだ」


「ウチの潜水艦はどうなってたっけ?」


「伊738の1隻だけかな、820と821は仕掛ける前に捕まえてボコしたし」


 ボコした捕虜が例の口を割らない捕虜である。

 因みに、しっかり正当防衛が認められた。


「最近は物騒だね~」


「ね~」



 10:01 横須賀鎮守府 楠ヶ浦住宅地

 雑談をしつつ、トラックを無事に横須賀鎮守府の敷地内まで送り届けた。

 事前に申請書を出していた物の、入口で積み荷の検査を受けた。

 警務隊の人、めっちゃ引いてた。


「流石に家の前まで持ってけないから、ここから台車で運びまーす」


「…また2人」


「…と、思うでしょう?」


「…助っ人…!」


「正解!」


 今回呼び寄せたのは模型好きの部下達10名。

 その中には十和田少将も含まれている。


「まずは、この模型を運んで貰いまーす」


「台車必須ってそう言う事だったんですね…」


「そうだよ少将」


「ち、因みに、いくつ…?」


「「8400箱」」


 皆の目が丸くなる。

 そりゃそうだ。


「で、でも、塗装済みだから大丈夫だよ!」


「「「「だ、大丈夫じゃない…」」」」


「そ、そうだよね…大丈夫じゃないよね…」


 うんうん。

 多分、私も呼ばれたら同じ反応すると思う。


「8400箱って聞くと膨大だけど、12人居るからね」


「それでも700箱…」


「…そうだね、大月少佐」


 ちょっと絶望的な雰囲気が漂う中、荷物の搬出を開始した。

 今回は車道ではなく、丘へ直行する歩道を使う。

 歩道は全部坂だから、台車でスムーズに行ける。


「意見具申!」


「どうしたの?」


 高槻少佐が突然叫ぶ。

 一体何だろう?


「司令の家ではなく、鎮守府の会議室で組み立てては如何でしょう?」


「あー…!」


「もしかしたら…手伝ってくれる人も居るかも?」


 成程。

 それはいい考えだ。


「良いと思うよ、紫雲ちゃん!」


 会議室なら、エレベーター経由で台車リレーすれば良いだけだし。

 使用許可は…まぁ、何とかなるでしょ。

 赤城中将の所行ってこよ。



 鎮守府庁舎3階 鎮守府司令長官室


「―――と、言う訳で、第一会議室を借りたいのですが」


「分かった、許可しよう」


「ありがとうございまーす」


「それにしても8400箱か…いくらしたんだ?」


「520万円です」


「520万円か…520万円!?個人で払ったの!?」


「はい、全部私が支払いました」


「流石七条家…京都市内の土地2割持ってるだけあるわ…」


 私は曲がりなりにも地主である。

 お父様から一気に受け継いだ。

 …まぁ、管理は実家に居る誰かがやってる。

 名前だけ貸して、お金貰ってるって感じ?


「では、失礼します」


「あ、あぁ。8400箱、頑張って」


「はーい」



 10:30 第一会議室

 机の設営と10tトラックの返却回送が終わった。

 さて、地獄の始まりだ!


「設営終了!さ、頑張って組み立てよう」


「「「「うーっす」」」」」


 横一列に並び、一斉に艦載機を組み立てる。

 まるで戦時下の工場の様だ。

 さて、どれ程かかるか……。









 12月8日 18:31 第一会議室

 かれこれ6日が経過した。

 増援も受けつつ、8400機を組み立てながら家に運びつつ…。

 組み立てが終わったら私と彩華で並べる作業が待っている。


「…終わったぁぁぁ!」


 十和田少将が雄叫びと共に最後の1機を組み立て終えた。

 後はこれを運ぶだけだ!




 18:49 楠ヶ浦住宅地 七条宅 模型用倉庫

 最後の艦載機が到着した。

 こんなので1週間費やしてしまった。

 あぁ、組み立ても委託するんだった…。


「はーい、お疲れ様~」


「「「「うーっす」」」」


 報酬は…あ、どうしよう。

 何も考えてないや。

 6日間の労働の対価…どうすべきか。


「…報酬、何がいい?」


「「「「…………」」」」


 少しの沈黙の後、相談し始めた。

 一体、どんな対価を支払わなければならないのだろう。


「彩華」


「ん?」


「私何しないといけないかな…?」


「う~ん…やっぱりお金かな?」


「やっぱりお金か~」


 まぁお金かぁ。

 時給1200円24時間労働として…6日だから…。

 1人17万2800円で…。

 それを10人だから172万8000円か。

 うん、全然払える。


「あ、決まったっぽいよ」


「さてと、口座からお金を引き出す準備を――」


「「「「手料理を要求する!」」」」


 全員一斉に叫ぶ。

 特に十和田少将の声が大きかった。


「て、手料理?」


「そうですよ、司令の手料理ですよ」


 私の手料理?

 そんなので良いの?

 ほら、もっと何かあるでしょう。


「紫雲ちゃんの手料理だって~」


「そ、そんなので良いの?」


「はい。こんな機会、逃すわけにはいきませんよ」


 皆頷いている。

 あぁ…そっか、うん、そっか。

 手料理が良いんだ。


「わ、分かったよ。な、何がいい?」


 あ、また相談し始めた。

 うーん、そんなに私の手料理が良いのか。


「彩華」


「ん~?」


「私の手料理そんな良いの?」


「良いと思うよ?」


「そ、そっか」


「紫雲ちゃんのご飯、皆食べて見たいって言ってたよ」


「え、私それ知らないんだけど」


「そりゃ、紫雲ちゃんの居ない所で言うもん」


「別に言ってくれたら作るのに…」


「敷居高いもん。司令官だし、女の子だし」


「そ、そっか…」


 食材買ってこないとね。

 10人分のご飯なんて、初めて作るなぁ。

 気合入れないと。

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