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第参拾弐話 鎮守府襲撃サル

 11月21日 09:21 横須賀鎮守府 泊町住宅地 


「お、あれじゃね?」


「あ、あれだね!」


 目の前に現れたのは海上保安庁の新型巡視船。

 総トン数3万2000トンの超大型巡視船"むさし"。


「ホントに就役するなんてなぁ…」


 でけぇなぁ…中国海警でも1万トンだぞ?

 こんなデカいの建造する理由あんのかよ。


「伊820よりおっきいね」


「あぁ、あっちの方が大きい」


 原潜よりデカい巡視船って何だ?

 海保は建造して何をする気なんだ一体…。


「…よーし、行ったな」


 むさしは横浜方面に消えて行った。

 あれがもう1隻あるってのか…凄いな。


「お家戻ろ」


「おう」



 09:45 楠ヶ浦住宅地 七条宅 寝室


〈―――先日発生した羽田空港爆弾テロの犯人は未だ判明していません〉


「ったく、警察は無能か?」


「無能…じゃないとは、思うよ?」


「ホントか?」


 …ま、1日2日で見つかる様な奴じゃないか。

 あんな大量の爆弾仕掛けられる奴何て、只者じゃない。


「声明とかって、もう出てるのかな」


「さぁな、隠してるだけかもしれん」


 単なる無差別殺人か、それとも何か意味のあっての事か…。

 …ま、俺らが知ったこっちゃ無いが。


「彩華」


「ん?」


「何処の国だと思う」


「うーん…何処だろう、イスラム圏かな…?」


「やっぱ、最初に思いつくのはイスラム圏か」


「うん」


 彩華は俺の膝に座ってポヨポヨしている。

 平和な日常、久々に戻って来た幸福な日常。


「彩華」


「ん?どうしt――」


 港の方から爆発音がした。

 それも、連続した爆発音。


 彩華を抱きかかえて、港側の窓に向かう。

 何だ、警務隊の弾薬庫でも吹っ飛んだか?


「…オイオイ、艦が燃えてるぜ…!」


 停泊中の艦艇が多数炎上している。

 あぁ、そうだ。俺の艦は、伊820はどうなってる!?


「クソっ、こっからは見えねぇか…」


 潜水艦第一桟橋はここから見えない。

 それが仇となったか…。


「彩華、行くぞ」


「うん!」


 その時、銃声が響いた。

 これは自動小銃だ。

 しかも1つじゃない、複数。

 警務隊か?


 彩華を抱きかかえて寝室に戻る。

 …こりゃ、アレを出す必要がありそうだ。


「彩華」


「何?」


「久しぶりの銃撃戦だ」


「…え?」


 寝室に戻り、PC机から右横の壁を叩く。

 壁が回り、壁に掛けられたAKMとSCAR-H出現、それと同時にそれぞれに対応した大量の弾薬箱が出てくる。


「50秒で着替えるぞ」


「待って!待って!」


「何だ?」


「何であるの!?」


「小銃くらいあるだろ、一応軍事基地内だぜ?」


「そうじゃなくて!!」


 何を疑う事があるんだ。

 駐屯地には小銃がある。

 航空基地にも小銃がある。

 鎮守府に小銃があってもおかしくないだろ。


「何で!家に!小銃と弾薬があるの!!」


「武器庫が使えなくなったらどうする?」


「え?」


「家に敵が攻め込んで来たらどうする!」


「う、うーん」


「警務隊が壊滅したらどうs―――」


「うん!分かったよ!もう大丈夫!戦おっか!」


「おう!」


 急いでいつもの軍服に着替える。

 だが、いつもと違う所はベルトに7.62mmのマガジンを据えている事と、防弾チョッキを着ている事。


「ちょっと雑だが…」


 この際、格好なんてどうでもいい。

 少し不格好だが、これで戦える。


「行くぞ、警務隊だけじゃ心配だ」


「警務隊、信用してないの?」


「いや、そう言う訳じゃ…」


「数、だよね?」


「あぁ、数で圧倒されないか心配だ」


 警務隊は少ない。

 精々、1小隊程度。

 数で押されればすぐにでも壊滅する。


「ねぇ」


「何だ?」


「中将と少将が前線で戦うって…良いのかな?」


「誰でも家ん中入ってきたら、応戦するだろ?」


「多分…ほとんど逃げると思うよ?」


「…そうか」


 弾薬箱を沢山車に積み込む。

 俺が使うのは7.62×51mm弾、彩華は同じ7.62mmでも39mm弾。

 弾薬箱の色が違うから間違うことは無いだろう。


「良し、出すぞ」


「うん」


 住宅地のカーブをドリフトしながら抜け、大通りに出る。

 銃撃戦はまだ先で起きているのか。


「あ、あれじゃない?」


「あぁ、そうだな」


 前線に達したから、車を降りて戦闘に参加する。

 さぁ、久しぶりの銃撃戦だ。


「状況は?」


「押されています。数が多くて…」


「そうか」


 やっぱり数で押されるか。

 敵は一体、何中隊規模なんだ?


「彩華」


「はーい」


 遮蔽物に身を隠しながら射撃する。

 親父や室蘭で習った技術を使う時!


「全員顔隠してやがるな…」


「何処の国の部隊かな?」


「さぁな…顔見てみない事には分かんねぇな」


 正確に、出来るだけ少ない弾数で殺していく。

 そこらの警務隊より俺と彩華の方が銃の腕前は上だ。


「す、すげぇ…」


「驚くのは後、さっさと敵を殺しなさい」


「は、はい」


 ひんやり彩華。

 この冷たさが丁度いい。

 甘々な彩華も良いが、冷たい彩華も最高だ。


「紫風ちゃん、アレで最後だよ」


「おう!」


 最後は彩華のヘッドショットで終わり。

 敵はまだ居るのだろうか。


「!」


 鎮守府庁舎の方から銃声が2回がした。

 彩華の手を引いて鎮守府庁舎へ向かう。


「いったい何人居るってんだ…!」


 彩華の胸が激しく揺れている。

 あ、マガジン補給すんの忘れてた。


 反転して車へ戻る。

 車からマガジンを取り出してベルトに補給する。


「良し、OK」


 今度こそ鎮守府庁舎に向かう。

 さっきまで戦っていた警務隊も後ろから追って来る。


「…1階には居ない?」


 敵の姿は見えなかった。

 銃声はさっきの2発以降、1発も聞こえていない。

 もしかしたら司令室で赤城が人質になってるかもな。

 アイツを脅して何になるってんだ?


「ねぇ、司令室行こうよ」


「おう」


 急いで3階の鎮守府司令長官室に向かう。

 一方、後から追って来た警務隊は1階の確認に向かった。


「ん?」


 扉の前に武器を持った人が溜まっている。

 鎮守府敷地内のあちこちに置かれている武器を手に取って集まったのだろう。

 通りで人が居ない訳だ。


「あ、中将!」


 コイツは…少佐か。

 あ、コイツ赤城の副官だ!


「どうした、突撃しないのか?」


「どうやら、ドアの前にバリケードが構築されている様で…」


「ほーん!」


 成程、やっぱ人質になってんだな。

 にしても、何処から入ったんだか。


「中の様子は分かるか?」


「いいえ、全く…」


 こりゃ困ったなぁ。

 外…外から突入するか。


「彩華、屋根登るぞ!」


「どうやって登ろっか?」


「登る事には疑問感じないんすね…」


 そうだ、窓からよじ登ろう。

 紐、紐は無いか。


「何か紐無ぇか?」


「あ、あります!ありますよ!」


 二等兵が急いで何処かへ走って行った。

 2人分の紐があるのか、何処にあるのかは知らないが有難い。


 数分の後、二等兵が戻って来た。

 ヘリボーン用のロープを携えて。


「これです!」


「おー、いいじゃねぇか!」


 まさかヘリボーン用のロープを持って来るとはな。

 しっかりカラビナもある……何であるんだ?

 ま、そんな事はどうでも良いか。


「よーし、行くぞ~彩華」


「うん」


「待って下さい!何で中将や少将が行くんですか、危ないですよ!」


「じゃ、聞くがな?お前らの中に突入訓練を受けたやつは居るか?」


「「「「…」」」」


「居ないだろ?そう言う事だ」


 この中に室蘭上がりは居なかったか。

 まぁ、良い。久しぶりに暴れられるからな。


「じゃ、行って来る」


 話している間に、ロープの準備が整った。

 これで上に上がり、窓から司令室に突入する。

 まぁ、窓が突入できる状態か知らないけど。


「お気をつけて」「気を付けて」「死なないで下さいね」


 皆口々に励ましの言葉を口にする。

 そんな言葉、俺には要らない。

 必要なのは確実な情報と戦力だけだ。


「行こう、彩華」


「うん!」


 窓から外に出て、ロープを登って屋上に出る。

 あぁ、鉄帽も持ってこさせるべきだったな。


「良し、一先ひとまず屋上には上がれたな」


「問題は、窓を破って入れるかどうか…」


 ロープを外し、回収して屋根を司令室の方へ歩く。

 端まで来たら、少し覗いて窓の様子を確認する。


「ん~、やっぱブラインドされてるよなぁ」


「予想通りだね」


「そうだな」


 果たしてこのまま破って入れるのか。

 別に窓は防弾じゃないけれど、窓側にもバリケードあったら厄介だなぁ。

 多分、敵は機密資料漁ってんだろうなぁ。


「紫風ちゃん、石あるよ!」


「おっ、投げ込んでみるか」


 赤城に当たったらごめんだけど、これで中に入れるかが分かるだろう。

 俺は司令室の窓に向かって力強く石を投げ入れた。


 窓は割れ、ブラインドを伝って床に落ちた…はず、多分。

 ま、バリケードあってもぶち破ればいいや。


「よーし、行くぞー」


 ロープを良い感じの出っ張りに引っ掛けて、降下した。

 窓を数回蹴って勢いを付け、突入する。

 突入すると同時にSCAR-Hを撃ち込む。


「死ねぇぇぇぇ!」


 敵は4名。

 しかし、突然の突入に混乱してか反撃はまばら。

 10秒も経たずして司令室は制圧された。


「「クリア!」」


 赤城も突然の事態に混乱している様だ。

 混乱する赤城を横目にバリケードを破壊する。

 扉が開くようになると、扉前で待機していた人々が一斉に流れ込んできた。


「「中将!」」「司令!」「「「中将閣下!」」」


 流れ込んできた人々は赤城の拘束を解き始める。

 赤城は少し落ち着いて来た様で、徐々にいつもの態度に戻って行った。


「い、いやぁ、ありがとう、ありがとう」


 俺は赤城を無視して伊820へ向かう。

 元々は伊820の状況を見に行く事だ。

 赤城の救出はついでだ。



 11:14 潜水艦第一桟橋


「どうなってるぅ!俺の艦はぁ!」


 鎮守府庁舎から走って伊820へ向かった。

 結構疲れた。

 流石に庁舎から潜水艦第一桟橋までは遠いなぁ。


「はぁ…はぁ…紫風ちゃん…遠いね…」


「そりゃな、いつもはバスだからな」


 息切れ彩華。

 彩華が吐いた息を集めて缶詰の中に入れて保存したい。

 …ってこんな事はどうでも良いんだよ。

 伊820だよ、伊820!


「外観は無事…か」


 外観は問題無い。

 問題は中だな…。


 銃を構えながらゆっくり艦内に入る。

 物理的に襲われても良いように。


「!誰か!」


 曲がり角で誰かとぶつかった。

 敵か!?


「し、司令!少将!ご無事でしたか!」


 あ、十和田さん。

 良かった良かった。


「おう、何とかな。艦は無事か?」


「はい!敵が2人侵入してきましたが、今屈強な兵達がボコしていますよ」


「え?現在進行形?」


「はい。ご覧になりますか?」


「おう!」


 へぇ、捕虜か。

 戦争が終わったってのに捕虜を捕らえるなんてなぁ。



 11:21 士官室

 士官室では十和田さんが説明した通りの光景が広がっていた。

 マスクを剥がされた2人の捕虜を16人の兵達がボコしている。


「おっ、すっげ」


「リンチって初めて見た」


「俺も」


 これがリンチって奴かぁ。

 怖えなぁ~。


「ま、無事で良かった」


「侵入者は無事じゃないけどね…?」


「そうだな」


 ま、正当防衛正当防衛。

 何はともあれ、艦が無事で良かった。

 銃声も今の所聞こえないし、帰るか。


「彩華、家戻ろう」


「うん!」

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