目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
番外編 違和感

 11月20日 12:20 横須賀鎮守府 食堂


「なぁ」


「ん?」


「第一潜水艦隊司令の副官ってよ」


「あぁ」


「階級高くね?」


「分かる」


 食事中の他愛もない会話である。

 自らが疑問に思った事を同僚に話す。

 いつもの日常である。


「何でだろうな?」


「室蘭じゃね?」


「えー?室蘭卒だからって副官のくせして少将なる事あるか?」


 本来、副官と言うのは佐官が務めるべき物である。

 しかし、その例に反して彼女は少将だ。


「でも実際少将だぜ?」


「まぁ…そうだな」


「おかしいよなぁ?」


 最初に疑問を投げかけたのは実際に赤城中将の副官である大月少佐。

 受け手は警務隊の宮城少佐である。


「そんな君達に最適な回答をあげよう」


「「あ、貴方は!」」


 2人の目の前に現れたのは…。

 十和田 一征、第一潜水艦隊首席参謀であった。


「「十和田少将!!」」


「そんな君達にはこの資料を見てもらおう」


「「??」」


 食事を載せたトレーと共に2枚の紙を置く。

 十和田少将は大月少佐側の椅子に座った。


「この資料は何ですか?」


「これはね、これまで室蘭学校を卒業した人の階級と赴任先だ」


 これまでの卒業者は73名。

 創立以来卒業者は100名にすら達していない。


「それがどうかしたんですか?」


「気づかないか、大月少佐。彼らは皆、役職に関係なく少将以上だ」


「…た、確かに!」


 名簿に記載されている者は皆、最初の赴任地から少将以上である。

 当然、あの2人も例に漏れず、最初の赴任地である第一潜水艦隊から少将・中将であった。


「室蘭は優秀な人材を将官する為の学校、だから将官以外にするのは方針に反する訳で…」


「いや、だったら役職…」


「そういうモノなんだよ」


「そ、そう言うモノ…」


 副官が少将であると言う前例はこれまで2例存在する。

 1994年卒と2018年卒の2つだ。


「まぁ、後はコネかな!コネ!」


「「コ、コネ…」」


 結局は慣習とコネである。

 七条家の海軍内での発言力は高い。

 これが今回の謎配置を生み出した理由の1つである。


「でもね、この前例の2人、5年以内に必ず階級相応の所に異動してるんだ」


「「ホントだ」」


「多分~、今の少将の役職も繋ぎ何じゃないかな~」


「あ~…繋ぎ…」


「あくまで推測だけどね」


 十和田少将は話に集中するあまり、食事が冷めた事に気づいた様で、"やってしまった"という顔をした。


「それで、高山少将が就くとしたら、どんな役職だと思いますか?」


「……首席参謀?」


「首席参謀は…今の十和田少将のポストじゃないですか」


「そうなんだよ、多分ねー、俺第二潜水艦隊に行く事になると思うんだわ」


 友部 京人少将を司令として設立される予定である第二潜水艦隊。

 その幹部職に抜擢されるだろうとの予測だ。


「「あぁ…」」


 大月も宮城も納得している様だ。


「第二でね、首席参謀続ける事になると思うわ」


「つまり…呉?」


「そう、横須賀を離れる事になる。いやぁ、寂しいね」


 冗談っぽく言う。

 しかし、この推測が当たっている可能性もある。


「ま、大人しく辞令を待つしかないね!」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?