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第拾捌話 攻撃

 7月7日 13:01 遠別町沖35km 伊820司令官室

 第二機動艦隊を追って、遠別町沖に達した。

 米軍の偵察によると、ロシア軍はまだ幌延町辺りらしい。

 陸軍が設置した障害物に道を阻まれている様だ。


「ねぇねぇ」


「んー?」


「このまま押し返せそうだね」


「あぁ、そうだな」


 順調にいけば大した損害を被る事無く大陸に押し戻せそうだ。

 それ所か北方四島の奪還も叶うかもしれない。


「でも良いのかな、こんな簡単に押し返せて」


「へぇ?」


「何か裏がある気がする!」


 そんな元気な声で言われてもなぁ…。

 まぁ、俺もそんな気がしてたけど。


「調べてみるか?」


「うん!調べる!」


 とても軍人とは思えない返し。

 本当に少将なのか疑いたくなる。

 しかし、肩章を見てみれば本当に少将である事が分かる。


「じゃ、情報室行くか」



 13:07 情報室

 司令官室を一歩出れば彩華は軍人の顔になる。

 と言っても、俺への態度はあまり変わらないのだが。


「今日は何をお調べに?」


 情報室では疾歌が迎えてくれた。

 上川情報長は何かを調べている様で、手が離せないらしい。


「何か、ロシア軍の移動に関する機密書類とか手に入れらんねぇか?」


「ふむ…移動ですか」


「あぁ、移動だ」


 西から東に移動する軍団があるはずだ。

 元から居た戦力だけで攻め込んで来るはずが無い。

 後ろに必ず、膨大な増援が居る。


「了解しました、直ちに取り組ませます」


 疾歌は機械を操作している兵達に指示する。

 兵達は頷いて作業を開始した。


「どれ位で終わるのかな?」


「さぁな、1週間位かかるかもな」


「ね〜」


 さて、この少ない戦力で日本に攻め込んだ理由は何なんだろうな。

 彩華が言う通り、何か裏があるはず。


「いつ終わる?」


「さぁ…?少なくとも、3日はかかるかと」


「そうか、分かった」


 出来るだけ早く手に入れて欲しいとは思うが、無理な物は無理だ。

 じっくり待つしかない。


「じゃ、頼んだぞ」


「はい、情報参謀の名に懸けて必ず機密情報を得て見せます!」


「おっ、心強いな」


 安心安心。

 これなら、2週間もあればそれなりの情報を得てくるだろう。

 …ま、その前に北海道に居るロシア軍を撃退するのが先か。


 二機は確か…1830ヒトハチサンマルに爆撃を開始すると言っていたな。

 本艦も航空攻撃に乗じて、トマホークで対地攻撃を実施しよう。


「さーて、ミサイルの整備でもさせるかぁ」



 18:20 伊820発令所


「第二機動艦隊の攻撃開始、10分前です」


 現在、本艦は遠軽沖35kmに留まっている。

 二機は少し北上し、航空機を発艦させた。


 本艦は二機の航空攻撃に合わせて1825にトマホークを発射する。

 ミサイルで混乱している最中、二機の艦載機による攻撃――と言う、単純な作戦。

 偵察の結果、巡行ミサイルを迎撃出来る装備を持ち合わせていない事が判明した。

 このミサイルは効くだろうなぁ。


「トマホークの用意は良いか」


「準備完了、いつでも発射できます」


「良し、完璧だ」


 後5分したら、トマホークを幌延に叩き込む。

 ロシア軍は相変わらず足止めを喰らっている。

 主に補給が厳しい様だ。

 元々は空輸による補給を想定していたらしく、多数の輸送機が向かってきていたが、空軍の戦闘機か空母の艦載機に墜とされたかの2択。

 海上からの補給も、潜水艦に沈められてしまった。


「奴らは補給を断たれている、今が好機だ」


「ここでロシア軍を殲滅して、戦争を終わらせましょう」


 これは…どっちだ?

 洛人か京人、姿も声も階級も同じ、あーもう分かんねぇよ。


「戦争って言うより、事件だな」


 ん~、北海道事件って所か…?

 ま、そんな事はどうでも良いや。

 学者共が勝手に決める。


「しかし、こんなすぐに追い出せて良いのでしょうか…?」


「俺もそう思うぞ、だが十和田さんよぉ、奴らを追い出さない事には何も始まらねぇとも思うんだ」


「…それもそうですね」


「1825、2分前」


「発射管、全管開放!」


「発射管、全管開放」


 いよいよ実戦初のミサイル発射。

 これまで訓練して来た通りに撃てば当たる。

 いや、当たらなくても近くに墜ちるだけでもいい。

 本命は二機の航空攻撃、これは前段だ。


「1825、1分前」


 乗組員全員に緊張が走る。

 発令所は妙な雰囲気に包まれていた。


「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、今!」


「トマホーク、全管発射始め!」


 艦長が命令を下す。

 俺はただ見守るだけ。


「バーズアウェイ」


 推進音が発令所にも響く。

 トマホークは発射されたのだ。


「トマホーク、全て正常に作動中」


「急速潜航、発射管閉め!管内の海水排出!」


 艦は予定通り深度50まで潜航する。

 トマホークを放つ為に深度20まで上がっていた。


「後は運次第だな…」


 さて、トマホークはどれ程の効果を及ぼすのか。

 ディスプレイに全乗組員の注目が注がれる。


「トマホーク、間もなく着弾」


 今の所正常な軌道を取っている。

 後は着弾地点…!


「10秒前…5、4、3、2、1、弾着、今!」


 トマホークは命中したと思われる。

 ディスプレイ上では命中扱い。

 後は艦載機による攻撃と弾着観測。


「さ、俺達は見守るだけだ」



 18:33 発令所


『こちら情報室、大鷲より入電、トマホーク全弾効果アリ、航空攻撃ノ必要無シ』


 大鷲、二機から飛び立った攻撃機隊の符号だ。

 どうやらトマホークだけで全部消し飛んだらしい。

 大鷲は爆弾やミサイルを抱えたまま空母に帰投した様だ。


「想像以上に上手く行ったな」


「うん、これで音威子府の陸軍が前進出来るね!」


「あぁ、後は稚内に籠ってる奴らと、浜頓別の方から来てる奴を消すだけだ」


 ロシア軍は2つに分かれて侵攻していた。

 1つはさっき殲滅した奴、もう1つは浜頓別の方を回っている奴。

 天塩や遠軽を経由する奴も現れると思っていたが、幌延で消し飛ばした奴らに含まれていた様だ。


 南下する中央のロシア軍を排除した事で、陸軍は動きやすくなっただろう。

 ただ、浜頓別から回って来る奴らが迫っている。

 まだ音威子府からは動けないだろう。


「浜頓別は遠いですから、稚内の方から始末しましょう」


「そうだな」


 十和田さんの進言に従い、稚内の方から始末する。

 浜頓別の奴らは陸空軍にお任せ。


「ねぇ、紫風ちゃん」


「何だ?」


「稚内ってさ、一般人とか捕虜、居るんじゃないの?」


「んあぁ…それもそうか」


 言われてみればそうだ。

 他の場所は一般人の避難は完了した。

 しかし稚内だけは別だ。

 あそこは一般人と捕虜が居る。


「簡単にトマホークを叩き込める場所じゃないな…」


「二機に偵察を要請しましょう」


「そうだな」


 北上して、もう少し近い所から攻撃するか。

 道道254号線沿いが良いだろう。


「両舷前進、第一戦速、進路そのまま」


「両舷前進、第一戦速、進路そのまま、ヨーソロー」


 そう言えば親父から何も来てねぇなぁ。

 今までの行動は全て俺の独断行動、処罰が心配だ。

 …ま、全部親父が何とかしてくれるか。


「そういや、北方四島攻撃の準備はどうなんだ?」


「今の所予定通りです、潜水艦の攻撃がありましたが、全て撃沈、損害はありません」


「ほーん」


 ま、北方四島はついでだ。

 本命…って言うより、目下の任務は北海道からのロシア軍駆逐。

 四島攻撃が失敗しても問題は無い。

 北海道からロシア軍を駆逐すれば何も問題は無い。

 前の状態に戻るだけだ。


「0415までには着けるか?」


「はい、余裕です」


「了解」


 部屋で休もう。

 頭の整理もやろう。


「じゃ、部屋戻るから何かあったら呼べよ」


「「「はっ」」」


 さて、本当に北海道からロシア軍を駆逐するだけで終わるのだろうか。

 これだけで終わらない気がしてならない。

 何か、何かが起きる。

 このロシア軍の攻撃は、その事象の前段階にすぎない。


「何だ…何が起きるって言うんだ…?」


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