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第弐拾捌話 いざ、北へ

 11月18日 10:02 東京駅 はやぶさ15号 9号車


「快適~」


「ねっ」


 グリーン車はやはり快適。

 もう11月であり、気温も低く、身体も冷える。


「暖かいね、彩華」


「うん!暖かい!」


 ホーム上で冷えた身体が暖まる。

 車内は暖房をガンガンに効かせて待ってくれていた。


〈お待たせしました。10時3分発、全車指定のはやぶさ・こまち15号、新青森と秋田行です。間もなくの発車です、ご乗車になりましてお待ちください〉


 外に目をやると、見送りの人や次の便に乗る人、急いでこの列車に乗る人等でごった返していた。

 そして、人の移動が落ち着くと、列車が動き出した。


「青森って何時に着くんだっけ?」


「何時だったかな、放送聞こっか」


「うん」


〈本日も日本国鉄鉄道をご利用下さいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線はやぶさ号、新青森行と、こまち号、秋田行です〉


 東北新幹線に乗るなんて久しぶり。

 そもそも、青森に行く事すら数年ぶりだ。


「あれ、放送無いなぁ…」


 おかしいなぁ、このタイミングで流れる物じゃないのか。

 もしかして、上野まですぐだから流れないのかもしれない。



 10:09 上野発車後


〈―――お待たせいたしました。全車指定席のはやぶさ・こまち15号、新青森と秋田行です。これから先、止まります駅と到着時刻をご案内いたします〉


 車内設備に関する案内を長々と機械音声で流してから、やっと停車駅の案内。

 これは車掌さんの声。


「やっと分かる」


「切符見れば良かったんじゃ…?」


「…あっ」


 そうだ、切符に書いてあったんだった。

 すっかり忘れてた…。


〈次は大宮に停まります。10時28分の到着、仙台11時39分、盛岡12時20分、盛岡からはやぶさ号とこまち号別れまして、こまち号―――〉


 青森では無く秋田の方へ向かう列車の案内が始まった。

 関係無いので、はやぶさ号の案内を待ちながら聞き流す。


〈―――はやぶさ号盛岡を出ますと、二戸12時44分、八戸12時55分、七戸十和田13時08分、終点新青森13時24分、終点の新青森には13時24分の到着です〉


 13時24分。

 大体3時間の旅か。

 お弁当買ってて良かった。


「ねぇ、紫雲ちゃん」


「ん~?」


「今日の旅館、どんなお部屋なの?」


「えーっとね、お部屋に露天風呂が付いてるの」


「露天風呂!?」


「そう、お部屋に付いてるの」


 今日抑えた部屋は"陸奥渚亭"という部屋。

 角部屋で、2方向の景色を楽しむことが出来る。


「写真見たいな~」


「駄目~、現地着いてからのお楽しみ」


「そっか~」


「私もあんまり見てないんだから」


 出来るだけ、部屋の画像は見ない様に予約した。

 これでワクワクが増える!

 同時に期待はずれだった時の残念感も増える、諸刃の剣だ。


「ご飯も美味しいらしいし、楽しみだね」


「うん!」




 13:22


〈間もなく、終点新青森です。奥羽本線はお乗り換えです。お忘れ物の無い様、お仕度ください。本日も、日本国有鉄道をご利用下さいましてありがとうございました〉


 東京より約3時間。

 終点の新青森に到着する。


「お荷物お荷物…」


 放送を聞き流しながら降りる準備をする。

 網棚に上げていた荷物を降ろして、座席の前に出す。

 景色は東京のビル群から低層ビル群に変わっていた。


〈―――新青森からのお乗り換え列車のご案内を致します〉


 あ、これは聞いとかないと駄目な奴だ。

 私は放送に耳を傾ける。


〈北海道方面ご利用のお客様、スーパー白鳥11号、函館行は13時30分、1番線からの発車、奥羽本線、川辺、弘前方面、普通列車は13時43分、2番線からの発車、青森行は1番線から13時43分の発車です〉


 私達が乗るべきは13時43分発の普通列車。

 特急に乗ってもいいけど急いでる訳でも無いし、ゆったり行こう。

 …どうせ、終点は次の駅だし。


「降りよっか」


「うん」


 13:27 青森駅 在来線ホーム


「うぅ…さっぶ」


 雪 が 降 っ て い る !

 少 し 寒 い !


 コート着て来てよかった。

 やっぱり、青森は寒いね。


「めっちゃ雪積もってるよ紫雲ちゃん!」


「流石青森だ」


 めっちゃ積もっている雪に彩華は大興奮。

 普段は海…と言うより、水中に居るから、雪なんて見る事が無い。

 見るのは計器類とディスプレイばかり。


「待合室…いっぱいだね」


「皆、暖かさを求めてるんだよ」


「私も求めてるよ~…」


 そう言いながら、彩華は私のコートの中に入って来る。

 可愛い、暖かい、幸せ。


「彩華~暖かい~」


「紫雲ちゃんも暖かいよ~」


「「えへへ~」」


 これで普通列車が来るまで暖かく過ごせる。

 彩華の良い匂いと暖かさを感じながら、待つ事としよう。



 13:42 


〈間もなく、1番線に普通列車青森行が参ります。危ないですから黄色い線まで下がってお待ちください〉


 来た来た。

 2両編成のちっさい可愛い列車。



「やっと来た…!」


「1駅だけだけど、暖まるよ」


「うん!」


〈ご乗車ありがとうございました。新青森です―――〉


 降車客がドバッと降りて来た。

 ほとんどはスーツケースを持っており、新幹線に乗り継ぐ客だろう。


 降車客が止むのを見計らい、車内に入る。

 車内は暖房がガンガンに効いており、とても暖かい。

 東京駅でも味わったあの感覚が蘇ってくる。


〈普通、青森行です。発車まで1分程お待ちください〉


 進行方向に対し横向きになっている座席の端の2席を占領する。

 椅子の下から吹き出る暖かい風が心地良い。

 こんな設備があるなんてなぁ、流石寒冷地。


〈発車します。扉にご注意ください〉


 軽快な音と共に扉が閉まった。

 新幹線とは違い、激しい音を立てながら列車は動き出す。


〈ご乗車ありがとうございます。普通列車の青森行です。次は終点、青森です〉


 たった1駅。

 たった1駅で乗り換えねばならない。

 すぐ次の列車に乗れるといいんだけど。




 13:49 青森駅


「次の列車はー…」


 時刻表で次の列車を確認する。

 …14時37分!?

 1時間待ちかぁ。


「待合室…開いてるかな」


 電光掲示板に表示されている2番線へ向かう。

 待合室は空いてるかな。


「あ、もう列車居る」


 列車はもう停車していた。

 さっきの同じ形式の列車だ。


 良かった、寒さに凍えなくて済む。

 車内の人はまばらで、ある程度座席は選べた。

 今回も端っこに座る。

 確か、野辺地駅で乗り換えだったかな。

 放送聞いておこう。



 14:37


〈ご乗車ありがとうございます。浅虫温泉、野辺地、三沢方面、普通列車八戸行です。間もなく発車します、車内でお待ち下さい〉


 放送が掛かると、列車はすぐに扉を閉めて発車した。

 車内が暖かいからウトウトして来た。


〈ご乗車ありがとうございます。普通列車の八戸行です。この先、筒井、東青森、小柳、八田前、野内の順に終点の八戸まで各駅に停まって参ります〉


 ヤバい、ホントに眠くなってきた。

 横須賀線なら久里浜からすぐ戻れるけど、今回は八戸だから寝過ごしたら本格的にヤバい。


〈主な駅の到着時刻をご案内致します。浅虫温泉14時57分、野辺地15時21分、終点八戸には16時8分の到着です〉


 往復2時間のロス…!

 2時間はちょっとキツイ…かな。


「彩華」


「………ん〜?」


 あっ、彩華も眠そう。

 こりゃ不味いぞ。


「…ううん、何でもない」


「………うん………」


 彩華はかわええなぁ、ホンマ。

 …頑張って私が起きるしか無いかな、こりゃ。


〈間もなく、筒井、筒井です。お出口は左側です〉



 野辺地到着は15時21分…頑張って1時間起きるか…!



 16:07


〈―――ご乗車ありがとうございました。間もなく、終点の八戸です。お出口左側、3番線に着きます〉


 寝過ごした…!

 あーもう、何か知ってた、どうせこうなるって!


〈乗換のご案内を致します。東北新幹線、はやぶさ34号東京行は16時16分、はやぶさ24号新函館北斗行は16時28分、在来線普通列車、三戸行、16時30分、八戸線普通、鮫行は16時22分の連絡です〉


 乗換放送を聞き流す。

 青森方面の在来線の案内は無いの…?


「さ、彩華…?」


「……んにゃ〜?」


「可愛い」


「ん〜?」


 やっべ、めっちゃ可愛いんだが。

 私に引っ付いてる。


〈八戸、八戸、終点です〉


「…寝過ごしちゃった?」


「うん、寝過ごしちゃった」


 また、寝過ごしてしまった。

 2時間のタイムロス…!

 私とした事がやってしまった…。


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