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第弐拾玖話 下北屋(前編)

 11月18日 19:20 大湊駅前


「や、やっと着いた…」


「長かったね…」


 長かった。

 野辺地駅の接続も1時間位待たされたし。


「ば、晩御飯…過ぎてる…」


「こ、高級旅館だし、何とかしてくれる…と、思うよ?多分?」


「そ、そうだよね…」


「あ、送迎バスは…?」


「駄目みたい…」


「うーん…」


 電話した時に駄目って言われた。

 残念、タクシー乗るしかないね。


「タクシー乗ろうか」


「うん」


 駅前ロータリーに停車していたタクシーに乗り込む。

 1台だけしか停車していなかった。

 そんなに需要無いのかな。


「何処まで?」


「下北屋まで」


「はい、了解しました」


 乗り込んだのは白色の個人タクシー。

 下北屋までは1時間以上かかる。

 着くのは2000位かな。




 20:12 下北屋前


「はい、到着で~す」


「「ありがとうございま~す」」


 料金メーターには16,150と表示されている。

 1万6150円か、まだ許容範囲内かな。


 クレカで決済が出来る用なので、クレカで決済を済ませる。

 最近は何処でもクレカが使える様になって便利。


「ありがとうございました、お気をつけて」


「「は~い」」


 タクシーを降りると、女将さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


 遅れたのはこちらなのに、わざわざ出迎えてくれた。

 女将さんに連れられて館内へ。

 エントランスにはのんびりしている宿泊客がちらほら目に入った。


「お部屋は320号室となっております」


 320号室か。

 3が8だったら良かった…いや、特に何かある訳では無いけど。


「お食事はいつ頃に致しましょう?」


「何時にする?」


「ん~…2100フタヒトマルマルかな」


「21時でお願いします」


「承知いたしました。お部屋までお荷物をお持ち致します」


「あ、ありがとうございます」



 20:16 下北屋 3階 320号室


「それでは、21時にお食事をお持ち致します」


「はい、お願いします」


「失礼します」


 女将さんが去った後、部屋の中に入る。

 玄関で靴を脱ぎ、前室へ。


「あ、ベッドもあるんだ」


「うん、そうね」


 ベッドもある。

 きっと布団もあるだろう。

 どっちで寝ようかな。


「何だか、紫雲ちゃんの家みたい」


「そうね」


 確かに、私の実家みたいだ。

 違う点と言えば広さと温泉位かな。


「お風呂は何処にあるのかな?」


「何処だろうか…な!」


 前室の方を覗いて見ると、洗面台が玄関の隣にあった。

 きっと、あそこの奥にお風呂があるのだろう。


「あっちの奥にあると思うよ」


「そっか~」


「取りあえず、着替えちゃおっか」


「うん!」


 部屋に用意されていた浴衣に着替える。

 サイズは問題無し、彩華の方も問題無い様だ。

 うん、綺麗だ。


「えへへ~、似合ってる?」


「めっっっっっっちゃ似合っとるよ」


 彩華は何を着ても映えるなぁ、ホント。

 こーんな可愛い子が存在して良いのかな。


「紫雲ちゃんも似合ってるよ!」


「ふふっ、ありがとっ」


 衝動で彩華に抱き着く。

 彩華は満足そうだ、可愛い。


「紫雲ちゃん…暖かい」


「彩華も暖かいよ」


 彩華の頭をゆっくり撫でる。

 彩華は更に強く私を抱きしめた。

 凄く幸せ。



 21:00

 食事が運ばれて来た。

 真鱈マダラの釜めしに多数の小物……真鱈の釜めしだと!?

 真鱈が旬だと聞いていたが、まさか釜めしになって出てくるとは。


「「いただきます」」


 釜めしから頂く。

 うん、美味しい。

 それ以外に言葉が出ない。

 あまりの美味しさに語彙力が低下している。


「美味しい…美味しいよ…」


「うん、美味しいね!」


 流石は下北屋。

 料理の質も高い。


「1泊だけ?」


「ううん、2泊」


「そっか~」


 元々は1泊だったけど、操作ミスで2泊になった。

 まぁ、長く泊って困る事は無い。



 22:32 露天風呂


「「ほわぁ~」」


 ご飯を食べて、お風呂に入っている。

 陸奥湾の出入口を見渡せるヒノキのお風呂。

 景色は抜群!

 …まぁ、夜だけど。


「お部屋にお風呂があるって良いね」


「うん、良いよね」


 私と彩華だけの空間。

 家では簡単に創り出せるが、外ではそうはいかない。

 ほとんどは大浴場に行かせられる。

 でも、彩華は私以外に全裸を見せたくない。

 だから、シャワーだけで済ませる事も多い。


「さーいかっ」


「はい、コレ」


「ありがとっ」


 彩華に双眼鏡を取ってもらった。

 何故ならば、陸奥湾に航行中の船舶が見えるからだ。


「何だろうなぁ…あれ」


 見た目は…あ、あれ軍艦かな?

 暗くてよく見えないや。


「ナイトビジョンっ」


 この双眼鏡はナイトビジョン機能を搭載している。

 普段の任務でも使用している物だ。


「あ、早潮だ」


 大湊を母港とする第五艦隊の駆逐艦早潮。

 一体、何処へ行くのだろうか。


「何処行くのかな?アレ」


「分かんないや」


 彩華の良い匂いが漂ってくる。

 凄く興奮する。


「彩華」


「ん〜?」


「大好き」


「んふふ、私も!」


 彩華のお肌スベスベ。

 すっごいエロい。


「あ」


「ん〜?」


「彩華、お酒飲む?」


「飲む〜!」


 普段、お酒は私も彩華も飲まない。

 お酒を飲む機会となれば、こう言う時しか無い。

 ベロベロの彩華も可愛い。



 23:41

 熱燗を2本頼んだ。

 広緑に設置されている机と椅子でゆっくり飲む。


「何か、こう言うの良いね」


「うん、雰囲気最高」


 深夜、ゆったり和室で熱燗を飲む。

 言葉にならない乙な物がある。

 まるでドラマの1場面の様な。


「あ、第五艦隊」


 さっき通った早潮は前衛…?

 前衛にしては早過ぎるような。

 別任務かな。


「紫雲ちゃん、アレ一機じゃない?」


「え?そうなの?」


 やはり、暗くて良く見えない。

 彩華から双眼鏡を渡してもらい、じっくり見る。


「…あ、一機だ」


 旗艦の大鳳が見える。

 早潮は全くの別任務だったのだろう。


「大湊に居たんだね」


「ねっ」


 横須賀に居ないと思ったら、こんな所に。

 これから横須賀に帰るのかな。


「…なんか、強く見えるね」


「うん。強く見える」


 戦前と比べて、勇ましくなった様に思う。

 戦争で戦った事により、実績が出来た。

 戦後はその実績を糧としながら国を守る。


「ホントに戦ったんだね、紫雲ちゃん」


「うん、戦った」


 今でも実感が湧かない。

 確かに私達は戦った。

 ウラジオストックの艦艇を9割撃沈したし、モスクワにミサイルも撃ち込んだ。

 でも、実感が無い。


「何だか変な気分」


「うん」


 まだ彩華はあまり酔っていない様だ。

 まだまだ舌が回っている。

 さて、後どれ程で酔うか。


「彩華」


「にゃーに…?」


 あ、酔ってる。

 顔がほんのり赤くなってる。

 想像以上に早い。


 私は彩華の隣の椅子に座る。

 彩華はすぐにもたれかかって来た。


「んふふ、暖かい!」


「ヨシヨシ、良い子良い子」


 優しく彩華を撫でる。

 すると、"もっと撫でろ"と言わんばかりに頭を押し付けて来た。

 その要望に従い、もっと素早く撫でる。


「えへへ~」


「ヨシヨシ」


 可愛いなぁ、彩華は。

 匂いもいつもより強いから、いつもより興奮する。


「彩華」


「んふ~?」


「寝よっか」


「うん……」


 いつの間にか敷かれていたお布団に転がり込む。

 勢いよく転がり込んだお陰で私も彩華も浴衣がはだけてしまった。

 …ん?この状況、何だかデジャブ…?


「………」


「えへへ〜」


 いつの間にか敷かれていたお布団に転がり込む。

 勢いよく転がり込んだお陰で私も彩華も浴衣がはだけてしまった。

 …ん?この状況、何だかデジャブ…?


「………」


「えへへ〜」


 彩華がはだけている私の浴衣の隙間から手を突っ込んできた。

 あ、思い出した!

 新潟だ!

 あの時はベッドだったけど…。


「彩華、可愛いね」


「んふふ〜」


 さぁ、そろそろ寝落ちしちゃうぞ。

 5、4、3、2、1……今!


「……すぅ………すぅ………んにゃにゃ……」


 やっぱり寝ちゃった。

 新潟はこのまま寝たけど、今日は違う。

 寝たまま彩華を襲っちゃうもんね!


「彩華…彩華がこんな格好で寝るのが駄目なんだから…!」


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