10月17日 10:55 横須賀鎮守府 楠ヶ浦住宅地 七条宅 リビング
「こちらがご注文の指輪です!」
「「おぉ~!」」
名寄さんが指輪を届けてくれた。
終戦した事により、部外者立ち入り制限が解除され、平時に戻ったから名寄さんも入れるようになったのだ。
「こちらが橘花様で、こちらが彩華様の物になります」
取り敢えず嵌めてみる。
測ったけど、指のサイズが合うかが少し心配だ。
「あ、大丈夫だ」
大丈夫だ。
良かった良かった。
「凄い…キラキラしてる!」
彩華は目を輝かせている。
宝石も眩しいが、彩華の笑顔の方が眩しい。
「お気に召された様で何よりです」
ともかく、無事に指輪を薬指に嵌める事が出来た。
俺と彩華の関係は更に強化されたのだ。
「指輪…橘花ちゃんとお揃い…!」
「指輪も買った事ですし、どうですか、結婚式!」
「「結婚式?」」
「今は同性で結婚式を挙げるカップルも少なく無いんですよ!」
結婚式かぁ。
今更挙げる必要あるか?
「挙式もドレスもタキシードも、全て摂津屋にお任せ下さい」
式場も用意してくれるのか。
どうすっかなぁ…結婚式。
「うーん…」
ま、彩華の決断次第か。
彩華がやるって言えばやるし、やらないって言えばやらない。
それが全て。
「どうする?」
「うーん、別に今はいいかな」
「そうか」
「分かりました。気分になったらいつでもお申し付け下さい!」
「はーい」
「あ、それと…」
名寄さんが何か取り出そうとしたその瞬間、11時を迎え、ラジオが起動した。
ラジオの音声は名寄さんの声を遮る。
〈11時のNHKニュースをお伝えします〉
「あっ、ラジオですか」
〈陸海空軍各省を統合し、国防省とする計画が発表されました〉
へぇ、統合されるのか。
まぁ、そっちの方が良いよな、別れてるより連携取りやすいだろうし。
〈この統合により、各省は庁に格下げとなり、大臣は長官となる見通しです〉
ほーん、格下げか。
国防大臣は誰になるんだろうな?
〈国防大臣には七条 雪海軍大将、機動艦隊司令官が就任する見込みです〉
「はっ?」
お母さん!?
いつの間にそんな根回ししてたんだ!?
俺知らねぇぞ!?
「雪さんが国防大臣ですか〜偉くなりましたね〜」
「俺何も知らねぇんだけど!?」
「あれ?知らされてないんですね」
「わ、私も知らなかった…」
彩華も知らなかった様だ。
お母さんが大臣か…すげぇなぁ、親父超すぞ。
「これで後ろ盾が更に強くなりますね」
「あ、あぁ」
言われてみればそうか…。
上位の司令官2人から1人の大臣と上位の司令官1人に変わる。
大臣を味方に付けれたのは強い。
「あ、名寄さん」
「はい」
「何持ってきたの?」
「あ!こちらです!」
名寄さんが取り出したのは生の牛肉だった。
美味そうな肉だ。
「定番の松坂牛のヒレでございます」
「ほぉう」
ヒレ肉か。
何グラムあるんだ?
「本日は300gお持ちしましたので、お二人それぞれ150gづつお召し上がりになれます」
「凄いね〜、いくらするの?コレ?」
「2万3000円ですね」
「2万3000円か」
2万か、妥当だな。
今日の晩飯はこれにするか。
「お支払いは結構です。お二人の記念…と言う事で」
「良いのか?」
「勿論です!毎度お世話になっているお礼ですよ」
「ありがとう、名寄さん」
「いえいえ、こちらこそ毎度ありがとうございます」
長く関係を続けていると、こう言うのがある。
今回は肉を貰えた。
この前は…何だったかな。
「折角戦争も終わりましたし、息抜きに海外に行かれては?」
「海外ねぇ」
「ヨーロッパは如何ですか?スイスとか、ドイツとか」
海外旅行かぁ。
青森も行くしなぁ。
「どうすっか」
「行きたーい!」
「行くか」
即決。
彩華が行きたいなら行く。
ただそれだけの事。
「では、旅行会社を手配しましょう」
「そんな所までやってくれるのか」
「我々にお任せ下さい!」
名寄さんは自信満々に言った。
旅行会社まで手配してくれるとか最高かよ。
摂津屋ってすげぇなぁ。
「横浜店にはNTBの支店がありますからね」
そう言えばそんなのあったな。
チラっと見た事がある。
「場所はどちらに?」
「何処が良い?」
「スイス!」
「じゃ、スイスで」
「分かりました。スイスですね」
「おう、それで頼む」
スイス連邦と言えば……やっぱ山か。
登山電車から眺める景色は絶景だと聞く。
「では、NTBに相談して参りますので、本日はこれで失礼します」
「うん、ありがとう!」
「いえいえ、務めですから」
名寄さんを玄関まで見送った。
流石に鎮守府の正面門までは厳しい。
「…名寄さんって、すげぇよなぁ」
「うん!流石プロって感じがするよね」
「おう」