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番外編 誕生日

 横須賀鎮守府 楠ヶ浦住宅地 七条宅 5月16日 09:33

 今日は休暇の最終日。

 明日からまた出港し、伊820で指揮を執る。


「そういや…誕生日だったな、俺」


 忘れていた。

 俺は今日誕生日だ。

 まぁ、誕生日だからと言って特別な事は無い。

 普通の日だ。


「よーし、組み立て終わった」


 葛城のプラモデルがようやく組み上がった。

 新車やら保険やらで忙しかったからな。


「塗装されてるのは楽でいいな~」


 この家は台地の上に建っており、周りには自然しかない。

 お陰で虫やら何やらが良く入って来る。

 その度に激しい戦闘が繰り広げられるのだ。

 だが、景色は良い。


「後は並べるだけだ…」


 海を模した板の上に葛城を並べる。

 これで完成だ!


「ヨシヨシ…次は何買うか…」


 次は何を買おう。

 戦車を買うのも良いな。


「紫風ちゃーん」


「ん、どうした?」


 彩華が黒い箱を持ってきた。

 一体何だろうか。


「紫風ちゃん、今日誕生日だよね?」


「あぁ、そうだな」


 正確な事を言えば、この身体の誕生日。

 まぁ、アイツ紫雲の誕生日だ。


「はいっ、これ!」


「ほー、何だ何だ~?」


 彩華が渡して来た黒い箱を開ける。

 中にはチョーカーが入っていた。


「ほー!」


「えへへ、似合うかなーって」


「良いな~、コレ」


 黒色であり、アクセサリには…何だこれ?

 何が下がってんだ?


「コレ何が下がってんだ…?」


 何か見た事ある形だ。

 ん?何か書いてあるぞ。


「伊820…」


 伊820、そう書いてあった。

 何処かで見た頃があると思ったら、これは伊820だ。

 チョーカー本体と同じく、黒色で文字は白地であった。


「すげぇ…特注か?コレ」


「うん、橘花ちゃんの為に作ったんだ~」


 彩華が俺の事を橘花と言うのは、俺とアイツ紫雲を両方指す時。

 そして、俺かアイツ紫雲か判別できない時。

 それと、式典だとか、本名で呼ばなければならない時。


「彩華っ」


「気に入った?」


「勿論!」


 彩華がくれたチョーカーを付けて、抱き着く。

 彩華はこうして毎年プレゼントをくれる。

 彩華が居てくれるだけで最高のプレゼントなのに。


 服務規程によれば、目立たないアクセサリーは許可されている。

 第一種、第二種共に首元はえりによって、殆ど隠れるから目立たない、と言うより見えない。

 付けてても許されるだろう。


「彩華」


「ひゃっ!?」


「大好き」


 抱きしめながら、彩華の耳元で囁く。

 それと同時に右耳を舐める。


ふぃもふぃいふぁ?気持ちいいか?


「う、うん、気持ちいいよ…」


 彩華の顔が一瞬でとろけた。

 彩華の腕の力が、段々抜けて行っているのが分かる。


「んはっ…可愛いなぁ、ホント」


 俺に何かされるとすーぐ蕩ける。

 でも、それが可愛い。


「…なぁ」


「うへへ…なぁに…?」


「コスプレ…してくれねぇか?」


「うぇ?」



 数分後 リビング


「ど、どうかな?」


「可愛いっ!」


 ソファーに座って、彩華のメイド服姿を見る。

 これぞ眼福、少し恥ずかしがっているのも最高。


「抱っこしてくれ~」


「は~い」


 メイド服の彩華が抱きしめてくれた。

 あ~っ、もう…可愛い…可愛すぎる!

 匂いも抱き心地も最高!


「紫風ちゃん」


「何だ~?」


「大好き!」


「俺も大好きだっ」


 と彩華が出会ってもう何年だ?

 ………もう7年か…いや、まだ7年か。

 紫雲アイツと彩華はもう23年。

 年齢=出会ってからの年齢状態だ。

 まぁ、ファーストキスは俺が貰ったがな!


 抱きしめながら彩華の銀髪を撫でまわす。

 彩華は恥ずかしがりながらも、嬉しそうな表情を浮かべる。


「…ねぇ、紫風ちゃん」


「何だ?」


「こんな服、何で沢山あるの?」


「そりゃ、コスプレする以外にあるか?」


「あれ、着てる所あんまり見たこと無いけど…」


「時間が無ぇからなぁ…潜水艦ってのは」


「原潜だもんね~」


「あぁ、原潜だからな!」


 俺のほっぺを彩華のほっぺに擦り付ける。

 やはり彩華は嬉しそうだ。


「次は、チャイナドレス着て貰おうかな!」



 数分後


「な、何だかスースーする」


 青いチャイナドレスを着て貰った。

 メイド服に続き、とても可愛い。


「彩華は何着ても映えるな~」


「えへへ…」


 メイド服に続き、スマホで彩華の姿を撮る。

 いつでも着てくれるとは思うが、時間が無い。


「顔隠すから、上げたいんだけど」


「え?う、うん、良いよ」


「ヤッター」


 早速スマホで顔隠す加工を施した後、SNSにアップする。

 さて、1時間もすればいいねの嵐だろう。


「次はセーラー服かな!」



 数分後


「懐かしいね、まだ入るよ」


「俺も入るかな…」


 高校生時代のセーラー服を着て貰った。

 懐かしい、そして可愛い。

 まだ入るって事は、高校の時から大して体格は変わってないって事だ。


「俺も着るか…!」


 ウォークインクローゼットで、俺が着てたセーラー服に着替える。

 彩華と同じく、俺も体格はそんなに変わって無いらしく、すんなり着れた。

 …胸デカくなってるなぁ、こりゃ。


「昔を思い出すな」


「うん、」


 つい5年前まではこの服を着ていた。

 この服を着て高校に行っていた。


「…深山学園、どうなってんだろーな」


「ね~、共学化とかしてるかな?」


「あそこ共学にしたら不味い気もするけどなぁ」


 俺達が通っていたのは京都の深山学園。

 幼小中高大一貫、日本ではかなり珍しいタイプだ。

 しかも、全て女子高である。


「ほとんど深山大行ったよな」


 同級生のほとんどは深山大学に行った。

 俺達みたいに深山大に行かない奴はほとんど居ない。

 140人中…4人位だったか?


「深山大…行ったらどうなってたのかな?」


「いや~、親父は許してくれねぇよ、ウチは代々海軍軍人なんだから」


 俺は物心ついたころから海軍軍人を目指していた。

 きっと親父が、俺が腹に居る頃から海軍軍人になれって言ってたんだろうな。

 ま、今は幸せだからそれで良かったと思ってる。


「ねぇ、紫風ちゃんもメイド服着てよ」


「お、俺もか?」


「うん!紫風ちゃんのメイド服姿も見たーい!」


「しゃ~ね~な~」



 数分後

 彩華の要望通り、メイド服を着る。

 彩華もメイド服に着替えていた。


「ほらっ、写真撮ろうよ!」


「おう、こんな機会滅多に無いからな」


 彩華がスマホで1枚、2枚、3枚と撮って行く。

 一体何枚取るつもりなのか。


「あっ、これ一番良く撮れた~」


 銀と紺の髪の対比もあって、最高の1枚になっている。


「これ、上げるのか?」


「え、うん、勿論」


「顔は隠せよな」


「当たり前じゃん、ってか紫風ちゃんはもう顔出てるけど」


「まぁそうだけどさ…」


 艦隊司令官の顔は必ず各艦隊公式HPで晒される。

 それは俺も例外じゃない。

 アイツ紫雲が考えた薄っぺらい文章を載せている。

 国防の使命だとか、海軍軍人としての責任だとか、上辺だけの文章が並んでいる。


「上げたよ~」


「おう、そうか」


 さて、どれ位いいねが付くか。

 ちょっと楽しみだな。



 2時間後… 橘花寝室

 2時間ほど彩華とメイド服姿で愉しんだ後、さっき上げた写真の反応を確認する。


「さーて、どれ程付いているかな」


 これまで上げた2つの投稿を確認する。

 さてさて、100いいね付いてるかな!


「紫風ちゃん!凄いよ!5万!5万だよ!」


「マジか!うぉー!マジで付いてんじゃん!」


 驚くべき事に、どちらの投稿も5万いいねを突破していた。

 俺と彩華は初めての5万いいねに抱き合って喜ぶ。


「彩華」


「ん?」


「大好き」


「私も!」


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